PMノウハウとは何か?──組織的ノウハウ共有の事例から有能プロジェクトマネージャ勉強会より(1)(2/2 ページ)

» 2005年11月03日 12時00分 公開
[生井俊,@IT]
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メソドロジとは

 一度、ここまでのまとめをします。メソドロジ(方法論)とは、ある目的や狙いを達成するために、それをうまくやるための「コンセプト(概念)」「メソッド(方法)」「プロセス(手順)」「ツール」の一連のシステム(関連する組み合わせ)、といえます。

 「コンセプト」とは、目的・狙いに寄与する根本的な考えのことです。メソドロジの価値は、このコンセプトが優れたものであるかどうかで決まります。

 「メソッド(方法)」とは、コンセプトを実現するための主要な技法や手法、技術などをいいます。

 「プロセス(手順)」とは、コンセプトおよび方法から展開された仕事の進め方で、業務フローなどで表現されます。

 「ツール」とは、手順の中で用いられる設備、運搬具、冶工具など現場で直接対象物を扱うものや、帳票、コンピュータ・システムなどの情報を扱うためのものです。

 さて、具体的な方法論の例として「方法論プライド」があります。これは、弊社で販売している情報システム向けの方法論です。「利用部門主導」「工程と成果物の標準化」「人材育成」「論理資源と物理資源の分離」「開発そのもののシステム化」という目的に対し、「情報誘導型設計」「データ管理」「プロジェクト管理」など6つのコンセプト、「モデル化技術」「構造化ルール」「レビュー」など6つのメソッドがあり、プロセスとして9つのフェイズ、45のアクティビティ、208のタスクへ展開しています。ツールとしては、標準フォームやチェックリストなどがあります。

ALT 方法論プライド(勉強会資料より)

 「方法論プライド」は、人とコンピュータの最適な融合体を目指したもので、すべてのシステムは普遍的構造を持つという原理に立っています。システム構造はほとんどが4階層です。物理的なものではなく、主要コンポーネントを指したものです。4階層ですから、設計はトップダウンで4つのフェイズ、開発・移行はボトムアップで組み上がりますから4つのフェイズがあり、それに監査のフェイズを加えると9つのフェイズから構成されています。

コンビニとコンサルに見る組織的ノウハウ管理

 組織的にノウハウ・マネジメントを行っている業界事例を紹介します。組織的に行っている業界としては、チェーン・オペレーションを行う流通業、コンサルティングファームなどが挙げられます。

 コンビニなどのチェーン・オペレーションを行う流通業では、「ノウハウ」を差別化の武器と位置付け、組織的な展開・拡充を行っています。まず、現場で工夫している店舗があれば、社内コンサルタントが行って調査します。それを本部に持ち帰り、店舗ノウハウとして体系化します。体系化したものを実験店舗で試行し、標準化します。そして、ほかの店舗へ展開していくという流れです。これがうまくいっている背景には、本部でノウハウを扱うスキルを持った人を育成し、この人たちが店の工夫を拾い上げ、展開することが日常的に繰り返されていることがあります。

 どのようなノウハウを展開・拡充しているかというと、例えばプライシング(値付け)ですが、“他店と比較して安い価格”ではなく、“お客さまがビックリするような価格”というコンセプトで実展開すると、意外な商品をお客さまが手に取ってくれることがある──といったノウハウです。こうしたノウハウは陳腐化が激しいので、常に新しいものが抽出・開発し続けられています。

 コンサルティングファームでは、コンセプト教育を行っています。コンセプト教育とは、仕事でまずかった点を具体的に指摘する前に、まずコンセプトを教える方法です。

Speaker

株式会社アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント

野間 彰(のま あきら)氏

製造業、情報サービス業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新にかかわるコンサルティングを行っている。最近はプロジェクトマネジメント、コンサルティング、研究開発、営業などの分野で、有能者のノウハウを組織的に共有・拡充する仕組み構築に携わっている。



 コンサルティングファームでは、上司や先輩が、コンサルタントにワンランク上の仕事をさせます。難解な問題に挑戦させ、失敗させ、そのうえでノウハウの価値を体感させるのが狙いです。例えば、若手のコンサルタントに、クライアントの経営目標を決定するように命じます。若手コンサルタントは、血気盛んで、やる気に満ちていますから、あらゆるツールや数式を使ってクライアントが目指すべき目標値を作り、目標をこれにすべきだといった論調で提案します。しかし、会議は「うちの会社のことを分かっていない」と紛糾したりするものです。マネージャは手助けすることなく、コンサルタントは冷や汗をかきます。

 その帰りの電車の中(私たちは「電車OJT」と呼んだりします)、上司は部下に「目標設定は意思決定行為だよ」とコンセプトを伝えます。コンサルタントが目標を決めるのではなく、顧客の意思決定者が、納得して目標を決定できるように支援するのが、コンサルタントの役割だという意味です。その後で、具体的な会議の進め方、提案の仕方を教えます。PMノウハウを移転する場合も、同様の指導が必要です。顧客の矢面に立たせ、自分の達成水準の甘さを認識させる「泣かせるOJT」を意図して行わなければなりません。(このほか当日は、PMノウハウを用いたシステム・インテグレーター3社の革新事例が紹介された)

質疑応答・感想から

──ノウハウをどう展開していけるか、どう教えるかを考えていますが、これは受け手の感性もあって、なかなか難しいように感じています。

大上氏 勘の良い人、そうでない人が確かにいます。飲み込みの早い、遅いはありますが、小さなことの積み重ねにより、ノウハウが回るサイクルが出来始めます。

野間氏 ノウハウを「論理」で分かっていると、「感性」やキャラクターが変えられることがあります。例えば研究所で、大学の先生と話ができる人とそうでない人とがいます。できる人が、そのような感性やキャラクターの持ち主かというと、必ずしもそうではありません。きちんと、大学の先生と自分の今後の関係を設計し、どんなことを話すべきか先に準備している人がいます。

──有能者が話すノウハウはそれぞれ言葉が違いますが、それをコンセプトにする手法を教えてください。

大上氏 ノウハウを抽出するために「ノウハウ拡充会議」を行うのですが、最初はファシリテーターを入れてやっていくといいでしょう。これを記録として残し、メソドロジ化します。「ノウハウ拡充会議」とノウハウをコンセプトにする手法は、次回のワークショップで詳しく扱いますのでご期待ください。

編集部より

 勉強会の感想として「できるPMのアウトラインがつかめた」「コンセプトの重要性が分かった」「コンセプトから、メソッド、プロセス、ツールに分けられ、そこからプロジェクトを行っていく手法が勉強になった」「ノウハウの組織的展開の話が分かりやすかった」といった意見が寄せられた。

 次回、11月15日(火)の第2回 有能プロジェクトマネージャ勉強会は、「PMノウハウの体系化・共有スキルの修得」をテーマに、ワークショップを中心に行う予定だ。

profile

生井 俊(いくい しゅん)

1975年生まれ、東京都出身。同志社大学留学、早稲田大学第一文学部卒業。株式会社リコー、都立高校教師を経て、現在、ライターとして活動中。著書に『インターネット・マーケティング・ハンドブック』(同友館、共著)『万有縁力』(プレジデント社、共著)。



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