情報システム部門、成功と失敗の法則BizCompスペシャル(1/2 ページ)

» 2003年09月04日 12時00分 公開
[大上 建(株式会社プライド), アットマーク・アイティ編集局,@IT]

■Part.1
情報システム部門がはらむ問題

今日、企業の情報システム部門は、非常に困難な状況に置かれているように思われる。情報システム部門の多くは、広がり続け、波高まる一方のIT適用領域の海に向かって、十分な装備も、満足な航海技術も持たず、木の葉のように漂う状況に見える。まずは、最近の情報システム部門がはらむ問題を考えてみる


情報システム部門のミッション

 情報システム部門の問題を考えてみる前に、企業における情報化の目的──すなわち情報システム部門のミッションについて考えてみよう。情報システム部門のミッションは、情報の流れ(発生〜蓄積〜提供)を通じて、自社の業務パフォーマンスの向上につながる“仕組み化”を行うことである。この「パフォーマンスの向上」という点がミソとなる。

 行き交うものが情報ではなくマテリアルであれば、他部門(生産設備部門や物流部門)のミッションに重なるが、これらの部門は環境が変化する中での“相対的なパフォーマンス”向上を求められる。

 環境の変化とは、マテリアルの量の変化、マテリアルの種類の変化、調達先や納入先のやり方の変化、サービス範囲の変化、品質保証や環境配慮やトレーサビリティといった要求の高度化などさまざまである。これらの変化に対して、ただ手をこまぬいているだけでは、パフォーマンスが下降線の一途をたどることは明白であろう。

業務パフォーマンス向上が環境変化によって生じる要求の高度化についていけなければ、パフォーマンスは相対的に低下することになる

 外部から見ても変化が推測できる業界において、ある企業の業績が維持できているとするならば、その陰で生産設備部門や物流部門は、懸命にその仕組みの最適化を行っていると考えられる。

 情報システム部門にとっても環境の変化は当然ある。ビジネスのサイクルタイムの短期化、業務方法の変更、あるいは「品質保証」「環境配慮」「トレーサビリティ」などの要求の高度化といった変化が次々に起こる。さらに新しいシステム・アーキテクチャやOSの登場といった技術基盤の変化、そしてそれらを提供するIT業界の変化(M&Aや新規ベンダの乱立など)といった要因もある。

 こうしたさまざまな環境変化に対応し、仕組みを最適化し続け、パフォーマンスを向上させていくことが情報システム部門のミッションとなる。

情報システム部門の典型的な課題

資源配分のアンバランス

 情報システム部門は、どんな環境変化の中にあってもそれに対応し、業務のパフォーマンスを最低でも維持し、できれば向上させていかなければならない。

 これを有限な資源(特に人材)で、最大のリターンを得るように資源配分しなければならないのだが、戦略性を感じない資源配分のケースが多く見られる。例えば、3年後、5年後にもミッションを果たし続けられるような体質強化の視点が完全に抜け落ちている──といったものである。

 基幹システム再構築のプロジェクトのある事例では、SCMの基本コンセプトを集中検討しているフェイズに情報システム部門の要員がほとんど参画していなかった。ビジネスの構想は外部SEに任せきりの状態で、情報システム部門の担当者は現行システムの保守やPCのセットアップ作業に追われているありさまであった。

 情報システム部門担当者は、現行システム保守を理由にビジネスの構想から逃げたがっていた節すらあり、情報システム部門マネージャもこれを容認していた。現行システム保守で問題を起こせばこっぴどくしかられるが、再構築の構想に参画できていないことは容認されるのである。

──“戦略は資源配分に表れる”。逆にいえば、資源配分こそが戦略なのだ。お題目だけで魂が入っていない部門戦略には意味がない。事例の情報システム部門担当者もお題目ではなく、資源配分に沿った戦略に忠実な1人だったわけだ。

見失われた人材ビジョン

 “組織は2:6:2に分かれる”とよくいわれる。2割がリーダーであり、6割がそのリーダーについていき、残り2割はついてもいけない──という比率だそうである。この説が正しければ、成り行き任せにした場合、情報システム部門でも同じ構成比になるということになる。

 しかしITプロジェクトを推進する場合、情報システム部門要員のほか利用部門や外部パートナーも加わるが、そのプロジェクトチームも2:6:2の比になるとしたら、情報システム部門要員こそがプロジェクトのリーダーである“2割”に入っているべきであろう。

 とはいえ、情報システム部門内部でリーダー比率が10:0:0となることはあり得ない(そのような比率では逆に困ることがある)が、それでも“成り行き”を大きく超える比でリーダー人材を育成する必要がある。

 弊社では、方法論教育や分析技法の教育だけでなく、プロジェクト・マネージャ育成の教育も行っているが、事前打ち合わせにおいて顧客の持つ人材ビジョンについて打ち合わせを行うようにしている。経験的には、人材ビジョンが明確であるほど同じ教育を実施してもその効果が大きくなるからである。

 リーダーとして機能しなければならない人材には、備えるべき技術のポートフォリオもおのずと決まってくる。

 技術は“要素技術”と“管理技術”に大別されるが、残念ながらITにかかわる人たちの中では要素技術偏重の傾向がいまだに強い。

企画力の不足

 情報システム部門の資源は有限であると先に述べたが、不変ではない。IT投資も企業の中では投資全体の一部である。投資回収率(ROI)だけが投資案件選択の唯一の基準とはなり得ないが、ROIが大きなポイントであることは間違いない。

 情報システム部門に限らず、組織資源がある閾(いき)値を下回った場合、本来のミッションを果たすこと自体が困難となる。企画力の不足は仕組み化の案件を減少させ、現行システムの保守といったなくすことのできない業務の比重を上げ、リーダー育成の場を失わせることになる。

 企画に行き詰まるのは、利用部門を超える視点を持っていないからだ。

 情報システム部門担当者は日常的に利用部門と接点を持っている。本来であれば、担当業務に埋没しがちな利用部門担当者とは異なり、背後の“仕組み”を見抜くシステム屋の感性でビジネスを見ているものである。

 それが最近では機能していない例を頻繁に目にする。目前の問題に対して短絡的な解決策を充てようとするのである。問題の本質の直列方向に“なぜ”と問い、途中派生的に浮かび上がった問題からも本質を探る問いを発しなければならない。

 “なぜ?”と考えること、“何のために?”と考えること、こういった思考法やコミュニケーションに関する訓練が行われることが非常に少なくなってきた。情報システム化プランは、情報システム部門が魂を込めて作り上げるべきものである。にもかかわらず、予算時期に鉛筆をなめながら体裁を整えるに終始する企画しか行っていない例が多く見られる。

 本来、企画立案には方法論も存在する。また企画の核をなすアイデアを生み出すための知見拡充の活動も必要である。

ユーザー・コントロールの不在

 プロジェクトの現場においては、構想段階では“仕事が忙しい”といって検討にほとんど参加せず、ようやく取り付けた了解に基づいて開発を行うと、できたものに対して好き放題のリクエストを追加されるといったことが起こりがちである。

 同様に複数部門にまたがる情報システムを検討する際、利害関係が一致せず進まないといったことも起こりがちである。検討が進まず遅れるだけならばまだしも、役に立たないものになってしまうことすらある。

 情報システム部門も含めてIT関係者には、自分がユーザー・コントロールできないことを棚に上げて“ユーザーが悪い”と思っている人が多いのも問題だ。

 本来的に利用部門のユーザーというのは、十分に協力的なものである。そのユーザーから何をいつ聞き出すか、ユーザーが自分の意見に凝り固まらないようにどのように意見を分解して冷静に比較評価させるか、ユーザー同士の意見をどのように前向きに聞くか、これらはすべてコーディネーションの技術だ。

 強引にユーザーの意見を抑え込んだり、誘導したりするのではなく、ユーザー同士のディスカッションをうまくコーディネートして合意形成できた場合、ユーザーからの信頼を勝ち取ることができる。これは情報システム部門にとって大きな財産である。

調達コントロールの喪失

 企業によって差はあるものの、一般に企業のITコストは売上の1%程度といわれる。しかし、不況下において、経営者から見たとき、内訳の妥当性とその効果がはっきりとは分からないITコストは、用度品・広告宣伝費と並んでコスト・リダクションのターゲットの最右翼となってしまう。

 われわれが見る中にも、驚くほどのコスト・リダクションを進めている事例もあれば、正直にいって明らかに社内のスケープゴートにされている事例もある。両者の本質的な違いは何かを考えてみたとき、その根本的な違いは、調達を設計しているか否かだと思われる。

 先進的企業では、調達のプロセスが設計され、かつ徹底されている。調達する対象物の松竹梅によってどのようなプロセスを適用するかは決められており、それが情報システム部門全体に理解されている。

 また、システム・アーキテクチャ戦略を確立し、使用するハードウェアやソフトウェアなどを統一することで、調達する対象物の種類がむやみに増えることがないようにし、一度調達したものの適用範囲が狭まり、毎回フルセットで調達しなければならないといった愚を犯さないようにしている。そして何より、やみくもに提案を求めるのでなく、しっかりとしたRFP(提案要望書)を作成し、それに基づいてサプライヤの提案書を評価できている。

 このように調達革新の“技”はいくらでもある。

 それに対して成り行き任せの調達しか行っていない企業では、A社のカンバンに安心感を覚え、B社から指摘されたセキュリティのリスクにオタオタし、C社の価格の安さに心が動き、果ては何を調達しようとしていたのか分からなくなる、といったことが冗談でなく起きている。

 弊社が“システムCM”と名付け実施しているサービスでは、このRFPプロセスの実施を支援しているが、最近このサービスの需要が急増している。「情報システム部門に対して方法論を導入・定着させること」を本来の存在意義としているわれわれの立場から考えると、“自らやれようになる”ことよりも“手っ取り早く代わりにやってもらう”ことを支援しているようで、戸惑いを感じている。


 こうした情報システム部は、残念ながら少なくない。ではこうならないためにはどのような方法があるのだろうか。IT先進企業各社の“成功の法則”を見ていこう。

筆者プロフィール

大上 建(だいじょう たける)

株式会社プライド 取締役 チーフ・システム・コンサルタント

前職で上流工程を担当する中、顧客の利用部門は必ずしも「開発すること」を望んでおらず、それを前提としないスタンスの方が良いコミュニケーションを得られることに気付き、「情報の経営への最適化」を模索することのできる場を求めてプライドに入社。株式会社プライドは、1975年に米国より社名と同名のシステム開発方法論の日本企業への導入を開始して以来、これまで140社余りの企業への導入支援を通じて、情報システム部門の独立自尊の努力を間近に見てきた。


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