「IT投資促進税制」活用ガイドBusiness Computing特別企画

» 2003年01月18日 12時00分 公開
[山口 邦夫,@IT]

IT投資促進税制が生まれたわけ

 世の中、デフレ不況一色といっても過言ではありません。小泉政権も「聖域なき構造改革」だけというわけにはいかず、景気テコ入れを迫られています。大企業とともに日本経済を支えてきた中小企業が元気を出さなければ、日本の景気は立ち直りません。中でも設備投資が低迷しており、企業が設備投資を行った場合の税負担を軽くしようという狙いから、政府は税制面からの景気テコ入れに力を入れていますが、IT投資促進税制はその一環として創設されたわけです。

 IT投資促進税制は総務省からの要望を受けたもので、昨年9月末に塩川財務相が要望の内容を丸のみしたことを明言しました。財相自身、各省庁に研究開発や設備投資関連の減税要望を聞いても具体的なものが出てこず業を煮やしたいきさつがあったからです。そこで、IT投資促進税制は小泉改革による先行減税の目玉の1つともなったわけです。

IT投資促進税制とは何か

 従来のIT投資減税が大幅に拡充され、IT投資促進税制が創設されました。正式名称は「ITネットワーク化投資促進税制」。企業のITネットワーク投資の促進を目的に、ハード・ソフトの両面から支援するために創設されたものです。

 IT投資促進税制は、1999〜2000年度に導入されたパソコン減税のいわば拡大版で、その適用範囲をソフトウェアやルータといったネットワーク機器などにも広げています。パソコン減税は100万円未満のパソコンが対象で、取得価額のすべてを損金に計上できました。2000年度末にパソコンの駆け込み需要が発生したのは記憶に新しいところですが、経済効果の大きさではIT投資促進税制は比べものになりません。

 ハードとソフトの両面の投資を促すことで、政府はIT投資促進税制で6000億円規模の減税効果を見込んでいます。目先の投資意欲を刺激するだけでなく、IT投資による企業の経営革新を促進しようという戦略的な狙いも背景にあります。

 電子計算機の耐用年数は、2001年4月以降従来の6年から4年へと短縮されています。ドイツやイギリスは4年、アメリカは5年となっており、先進諸国とほぼ同等の条件が整いました。経理や販売管理、在庫管理などのソフトも対象となったことで、企業のIT投資がより活発化してくるのは間違いなさそうです。

 IT投資促進税制の対象は「すべての青色申告事業者」で、中小企業から大企業までをカバーします。もちろん、個人事業者も含みます。従来のIT投資減税では中小企業のハード投資のみ7%の税額控除が認められましたが、これと比べると大きく踏み込んだ措置が取られたわけです。

 中小企業の経営環境は、資金繰りをはじめ厳しい状況が続いています。こうした中小企業のIT投資はリースが中心に行われていることから、資本金3億円以下の企業に対しては、税額控除の対象にリースも含められました。

 2003年1月1日から2006年3月31日までの間に、一定のIT関連設備などを取得し、これを「国内で行う事業」に利用した場合は、取得価額の10%相当額の税額控除、または50%相当額の「特別償却」を選択できます。これらの特例は、2003年4月1日以降に終了する事業年度から適用されます。

 「特別償却」とは、取得価額の50%を通常の減価償却費に加えて経費として計上できるものです。また、「法人税額控除」は法人税額から取得価額の10%相当額の税額が控除され、その分だけ法人税の負担を少なくすることができます。取得・リースの両方について特例が認められ、当期の法人税額の20%を限度とし、控除限度を超過した額については1年間の繰り越しが認められます。

 ここでIT投資促進税制のポイントをまとめておきましょう。

  1. 中小企業から大企業まで、すべての企業・業種を対象とする
  2. ソフトウェアが対象とされ、ハードの対象機器も拡大された
  3. 従来の投資減税と比べ、内容が大幅に拡充された
  4. 資本金3億円以下の企業は、リースも税額控除の対象とされた
  5. 税額控除、特別償却を企業が自由に選択できることとされた
従来の投資減税に対し、企業の規模、資産、措置の内容などの点で対象が拡大(出典:経済産業省)

特例を受けるための条件

 特例を受けるには、購入した場合、リースした場合でそれぞれ以下のような条件を満たす必要があります。

【取得の場合】

 設備の取得価額要件は、資本金の規模とハード・ソフトの別によって分けられます。

資本金3億円超 ハード、ソフトともに600万円以上
資本金3億円以下 ハード140万円以上、ソフト70万円以上

 ※取得価額が200万円の場合は、次のような計算になります。

   税額控除 200万円×10%=20万円

   特別償却 200万円×50%=100万円

【リースの場合】

 リース契約期間4年以上、かつリース資産の耐用年数を超えないことが条件です。

ハードウェア リース費用総額200万円以上
ソフトウェア リース費用総額100万円以上

 ※リース費用総額の60%相当額に対する10%の税額控除を適用

 税務上の留意点として、事業年度末までに購入またはリース契約の実行をしただけでは認められません。あくまで「稼働」することが要件となるため、事業年度内に「稼働」した事実を証明するための証拠をそろえておきましょう。

IT投資促進税制の対象設備

具体的な対象設備は次の9種類で、内容も詳しく定められています。

電子計算機

計数型の電子計算機(主記憶装置にプログラムを任意に設定できる機構を有するものに限る。)のうち、処理語長が32ビット以上で、かつ、設置時における記憶容量(検査用ビットを除く。)が256メガバイト(サーバー用のものにあっては、128メガバイト)以上の主記憶装置を有するものに限るものとし、これと同時に設置する附属の入出力装置(入力用キーボード、ディジタイザー、タブレット、光学式読取装置、音声入力装置、表示装置、プリンター又はプロッターに限る。)、補助記憶装置、伝送用装置(無線用のものを含む。)、変復調装置又は電源装置を含む。

デジタル複写機

専用電気計算機(専ら器具及び備品の動作の制御又はデータ処理を行う電子計算機で、物理的変換を行わない限り他の用途に使用できないものをいう。)により発信される制御指令信号に基づき画像情報をデジタル信号に変換し、色の濃度補正、縦横独立変倍又は画像記憶を行う機構を有するもの及び当該専用電子計算機を同時に設置する場合のこれらのものに限るものとし、これらと同時に設置する専用の自動原稿送り装置、排紙分類装置、給紙装置、プリンターまたはファクシミリを含む。

ファクシミリ

送受信データを蓄積する機構及び普通紙に受信データを印刷する機構を有するもののうち、最大伝送速度が毎秒28.8キロビット以上のものに限るとし、これと同時に設置する専用の変復調装置、回線制御装置又は回線接続装置を含む。

ICカード利用設備

ICカードとの間における情報の交換並びに当該情報の蓄積及び加工を行うもので、これと同時に設置する専用のICカードリーダライタ、入力用キーボード、タブレット、表示装置、プリンター又はプロッターを含む。

デジタル放送受信設備

デジタル信号により送信される放送を受信してその信号を処理することが可能なもので、電気通信回線に接続し電気通信信号を発信する機能、瞬間的影映像に併せデータの処理を行う機能及び高精細度な画像の処理を行う機能を有するものに限る。

インターネット電話設備

専ら音声信号の変換又は交換を行う電気通信設備のうちインターネットプロトコルに対応するためのもの及びこれらの呼制御を行う制御装置に限るものとし、これらと同時に設置する専用の端末装置又は変復調装置を含む。

ルーター・スイッチ

インターネットを構成するルーター(通信プロトコルに基づき、電気通信信号を伝送し、その経路を制御する機能を有する専用の電気通信設備をいう。)又はスイッチ(通信プロトコルに基づき、電気通信信号を伝送し、その経路を選択する機能を有する専用の電気通信設備をいう。)のうち、毎秒45メガビット以上の伝送速度に対応するものに限るとし、これらと同時に設置する集線装置を含む。

デジタル回線接続装置

光伝送の方式における電気信号と光信号との変換の機能を有する装置、デジタル加入者回線伝送方式における音響と符号とを周波数により分離する機能を有する装置、統合デジタル通信網に端末装置を接続する加入者回線終端装置及び統合デジタル通信網にアナログ端末を接続する機能を有する信号変換装置に限る。

ソフトウェア

電子計算機に対する指令であって一の結果を得ることができるように組み合わされたもの及びこれに関連するシステム仕様書その他の書類に限るものとし、複写して販売するための原本及び開発研究(新たな製品の製造若しくは新たな技術の発明又は現に企業化されている技術の著しい改善を目的として特別に行われる試験研究をいう。)の用に供されるものを除く。

ITネットワーク化投資促進税制の適用対象となるIT関連設備等の表より



 ※ソフトウェアは、税務上自社利用ソフトウェアとして無形固定資産に計上するものすべてを対象とし、受託開発・パッケージソフト・自社開発などが該当します。ただし、複写して販売する原本や開発研究用は対象外とされます。

 対象となるハード・ソフトは、あくまで自社が業務に使用するものに限定されます。そのため、レンタル業者が賃貸用に購入したケース、卸売業者が販売用に仕入れたケース、メーカーが販売用に製造したケースなどは対象になりません。また、対象とされるのは「新品」のみで、取得または製作の後に事業の用に供されたことのないものに限定されます。

税額控除と特別償却のどちらが有利か

 IT投資促進税制では、特例を受ける企業が税額控除、特別償却のいずれかを選ぶことになります。

 それぞれの節税効果を比べると、税額控除の方が文句なく有利です。税額控除は法人税の納税額が投資額の10%分減るのに対し、特別償却は償却を行った年度の税額は減ってもそれと同じ額が翌年度以降の税額で増えるためです。単純に見ると、課税を繰り延べしたことによる金利相当分のメリットしかありません。

 しかし、現状は赤字決算企業が半分以上だけに、いささか話は違ってきます。支払うべき税金がなければ、税額控除を選んでも節税効果はまったくないからです。このケースでは、特別償却を選択することで課税の繰り延べ効果を期待するのが適切といえます。

 つまり、黒字会社は税額控除、赤字会社は特別償却を選択するのが基本となるでしょう。

参考リンク

平成15年度税制改正の大綱(財務省)

  IT投資促進税制(財務省)

平成15年度税制改正の概要(総務省)

  ITネットワーク化投資促進税制の創設(総務省)

平成15年度税制改正について(経済産業省)

  IT投資促進税制の概要(経済産業省)

  IT促進税制の創設(経済産業省)




Profile

山口邦夫(やまぐち くにお)

1959年佐賀県伊万里市出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、新聞社、出版社勤務を経て、1999年経済ジャーナリストとして独立。企業・金融関連を中心に、幅広いジャンルの原稿を執筆。


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