PSAはITサービス調達の形を変えるか?BizComp Topics

» 2003年02月08日 12時00分 公開
[井藤 汽水,@IT]

 システム開発の分野においてもスピード化・高付加価値化が求められる昨今では、社内外、個人法人を問わず高度な専門技術を持ったプロフェッショナルと積極的に連携していくことが当たり前という状況になってきた。しかしそうした企業間コラボレーションあるいはアウトソーシング、下請けといった外部のリソースを利用する機会が増えたにもかかわらず、現状それらの調達・管理が最適に行われているとはいい難い。

 そこでそうした問題に対するソリューションとして登場してきたのが、PSA(Professional Service Automation)という考え方だ。このたび、日本ユニシスが本格的なPSAサービスを日本に導入・展開しようとしているが、米国の手法をそのまま直輸入するのではなく、日本の商習慣やプロジェクト管理の手法に合わせてさまざまな工夫を凝らしているようだ。

サービスの質に注目したリソースマネジメントの新手法

 PSAは、もともとサービス提供会社がアウトソーシング先の会社や個人、コストなどを管理したいというニーズから生まれてきたソリューションだ。

 システム開発などのプロフェッショナルな知識・経験・スキルなどが必要とされる分野において、そのプロジェクトに最適な人材を供給し、かつ発注者と受注者(サービス提供者)間をスムーズに連携させてプロジェクトの成果を高めることを目的としている。

 現在のシステム開発は、1つのプロジェクトにさまざまな分野の外部スタッフが参加していたり、また下請け、孫請けといったように階層化・複雑化しており、プロジェクトの管理担当者からは全体が最適化されているかどうか把握しにくくなっている。そこでPSAでは製造業で定着したSCM(サプライチェーン・マネジメント)の考え方を応用し、プロジェクトの発足から構築・開発・成果といった上流から下流までの各段階において最適なサービス提供が行われているかをチェックすることで、効率的なプロジェクトマネジメントを行う。このためPSAは「サービスのサプライチェーン化」とも表現されている。

IT調達に関する問題点とソリューション(出所:日本ユニシス) [クリックで図版拡大]

 こうした手法が受け入れられて、米国ではここ数年PSAを導入する企業が急増しており、その市場規模は年間160兆円以上といわれている。またPSAを行うためのツールも多数開発されており、領域的に重なる部分の多いプロジェクト管理ツールや人材派遣ツールと併用されることも多いそうだ。

日本ユニシスが目指す日本型PSA

asaban.com事業部 市場開発課長 塚田勝之氏(上)、同 担当部長 平松敦郎氏(下)

 そして昨年9月、日本ユニシスが同社のASP(Application Service Provider)事業を行うasaban.com事業部において、本格的なPSAサービスを日本で展開することを発表した。同社ではPSAによるソリューションに実績がある米国コベンディス・テクノロジーズ社と、同社の「サービスe-procurementソリューション」の国内独占販売権を結び、現在最終的な調整を進めている。

 日本ユニシス asaban.com事業部 市場開発課長 塚田勝之氏によると、米国と日本ではプロジェクト管理やリソース配分の手法が異なるため、米国のPSAをそのまま持ってくることはできないという。中でも最も大きな違いは発注者側の実務に対する理解だ。例えば米国では、1つの開発プロジェクトに関して、それがどういうプロジェクトで、どんな技術がどれくらい必要で、そのためにはどんな能力を持ったプロに頼めばいいのかを発注者が比較的理解しているのに対し、日本ではそれらに対する理解ができていないため、極めて非効率的になっているという。また米国では、下請け・孫請けといった階層構造もあまりないそうだ。

 そのため同社ではPSAの概念とツールを利用して、さらにこれを日本型にアレンジし、全体を大きく3つのフェイズに分けて、順次導入・展開していく計画だ。


日本型PSAの第1フェイズ

 その第1フェイズとして最初にスタートさせるのが次の3つの事業だ。

 PSA導入による主なメリットとしては、1.サービス調達の最適化、2.プロジェクトおよびリソース管理の最適化、そしてその結果としての3.ビジネスパフォーマンス(成果率と言い換えてもよい)の向上という3つが挙げられるが、この第1フェイズではまず“サービス調達の最適化を実現すること”に重点を置いている。

A.「asaban.comによるサービス調達市場の運営」

 日本ユニシスが展開するASP事業「asaban.com」で、Web上に「サービス調達市場」というマーケットプレイスを開設する。ここに、調達側の企業(バイヤー)とシステムインテグレータや個人の技術者などのサービス提供者(サプライヤ)がそれぞれ“登録”を行い、まずバイヤー側がRFP(提案募集)の登録を通じて発注、サプライヤの応札、選定、発注、評価・検収といった一連の流れを行う。

 気になるのが登録されるサプライヤの質だが、登録の段階でユニシスによる審査はあるが、その後はマーケットプレイス上の市場性に任せる形(日本ユニシス asaban.com事業部 担当部長 平松敦郎氏)になるという。マーケットプレイス上での仕組みとしては、サプライヤ自身の自己紹介文のほかに、過去にこのマーケットプレイスで調達を行った企業による評価を表示するという。

 マーケットである以上、調達企業側の“見る目”すなわちサプライヤを評価する能力が問われることになる。そこで調達企業がまずITコンサルタントを調達し、そのコンサルタントと相談しながらRFPを作成するといったことも可能になっている。

 なお、この「サービス調達市場」は、前述したコベンディス・テクノロジーズ社の「サービスe-procurementソリューション」がベースとなっている。

ITサービス調達市場の概要(出所:日本ユニシス) [クリック図版拡大]

B.「サービス調達ソリューションのASPサービス」

 バイヤー企業がプロフェッショナル・サービスを外部から調達するために必要な応札システムや信用調査、履歴評価などの各種機能をASPで提供するサービス。バイヤー企業のためのPSAアプリケーションである。

C.「専用サービス市場のアウトソースの請負」事業

 企業グループや特定業界向け専用にサービス調達市場を開設しようという企業・団体のためにシステムを提供し、その運営をアウトソーシングという形で請け負うサービス。

「サービス調達市場」の機能

 ここで「サービス調達市場」についてもう少し具体的に解説しよう。基本的な機能としては製造業におけるマーケットプレイスと同様、バイヤーとサプライヤとが相互に参加し、互いの条件に合った相手と取引を行う。

 ただしこれまでと違う点は、取引対象が具体的なモノではなく、サービスであるという点だ。つまり、サプライヤの能力と提供されるサービスの質が直結するということになる。バイヤーからの視点では、取引相手というよりも「プロジェクトチームの仲間」を探すというイメージが近いかもしれない。ということであれば、発注側としては当然有能なメンバーと組みたいはずだ。しかし、サービスという一見実体のないものの質をどう評価すればよいのだろうか。

 日本ユニシスではこの点に留意し、以下のような工夫を施している。

  1. 「サービス調達市場」を完全にオープンなものにはせず、バイヤー・サプライヤとも初期登録の段階で1度チェックを行う。
  2. スーパーネットソリューションやリスクモンスターといった信用調査機関と提携し、バイヤー・サプライヤ双方に対し、必要に応じて相手の与信情報を提供する。
  3. 「サービス調達市場」で発生したプロジェクトに対し、納品後バイヤー・サプライヤ双方が評価を登録し、その履歴データを全員が閲覧できるようにする。
  4. さらに上記のデータをもっても判断がつかない場合、前述したITコンサルタントに相談して評価や交渉を任せることも可能。

 このように、市場にはなるべく多くの情報を提供し、スムースな調達が行えるように工夫している。担当者によれば、市場での取引が進むにしたがって3.の実績評価が重視され、サプライヤーは規模の大小や有名無名ではなく真にサービスの質だけで判断されるため、サービス・人気・価格など、市場の健全性が自然に保たれるようになるという。

 また、この「サービス調達市場」では比較的小規模な開発案件に特化しており、バイヤーの中にはIT部門を持たない企業も多いため、全体を統括するITコンサルタント選びが重要になってくるだろう。このITコンサルタントもバイヤーやサプライヤと同様に実績によって評価されるため、そのうちカリスマ的な人気を持ったコンサルタントが誕生するかもしれない。

 従って市場参加者、例えばバイヤーは開発案件について、サプライヤやコーディネータは自分の能力・得意分野といったものについて的確にアピールすることが必要となる。そして同様に、相手を理解・評価することも大切になるだろう。

第2・第3フェイズへの展開

 そして第1フェイズのサービスが定着し、機能し始めるころから第2、第3フェイズへの展開が予定されている。

 そして第2フェイズでは、調達されたサービスが最適に提供されるように、「ビジネス管理」「リソース管理」「プロジェクト管理」「収益管理」「パートナー管理」という5つの観点からそれぞれのサービスのプロセスをチェック・管理できるシステムを提供する予定だ。

 例えばスケジュールの遅れが発覚した場合、その原因がプロジェクト管理の見落としにあったのか、あるいは下請けでの稼働率低下というリソース管理のトラブルなのかを即座に判断できるようにすることで、プロジェクトへの影響を最小限に抑えることが可能になる。もちろんこれらは発注者側だけでなく、元請け、下請けそして孫請けに至るすべての段階で行われ、まさしくサービスのSCM化を目指している。またこの第2フェイズからは、コベンディス・テクノロジーズ社以外にも提携相手を拡大し、さまざまなソリューションを提供していく予定だ。

 さらに第3フェイズでは、それらの各管理機能を統合し、またひと目で進行具合や問題点などを把握できるように視覚化した「Enterprise Executive Dashboard」と呼ばれるサービスを提供する予定だ。これはプロジェクト管理者や経営者が、プロジェクトのビジネスパフォーマンスから投資価値までも判断できるよう、1つの画面で統合的にレポーティングを行うポータルだ。

 第2フェイズまでは、あくまでプロジェクトを遂行するための最適化を行うものだが、この段階では複数のプロジェクトが同時進行しているなかで、1つ1つのプロジェクトに対し続行か撤退かというような経営者的視点からの最適化を可能にすることが目的だ。このことにより、途中でビジネスとしてのバリューが減少したプロジェクトに関しては中止・縮小し、速やかにその人的・時間的・経済的リソースをほかのプロジェクトに投資するという経営判断のスピード化を図ることができるようになる。

第3フェイズまで含むユニシスが考えるPSA(出所:日本ユニシス)

 日本ユニシスでは、現在第1フェイズでのサービスに関して動き出しており、asaban.comによるサービス調達市場は今年度中にオープンさせる予定だ。そして、第2フェイズは2003年夏から、第3フェイズのサービスは2004年春からのスタートを計画している。

米国では成長するPSA

 このようにPSAの導入によってさまざまな効果が期待されている。まず発注企業においては、効率化による調達コストの削減に加え、より適材適所なリソース配分が可能になる。さらにいままで見えにくかった企業連携によるITプロジェクトへの投資対効果(ROI)を分かりやすく提供することができるようになり、現場の効率化だけでなくプロジェクト自体の価値判断もリアルタイムで行えるため、経営のスピード化を図ることも期待できる。

 またサービス提供者にとっては、サービス調達市場へ参加することによる機会増大をはじめ、本当に自社の得意分野で活躍できるというスタッフの満足度向上やクライアントとの情報共有による稼働率アップなど、双方にメリットがあるという。

 事実、PSAが具体的な効果を上げ始めている米国では、IT分野だけでなく建築設計や会計法律分野へも導入が広がっており、バイヤー企業サイドでもバンク・オブ・アメリカやエリクソン、リーヴァイ・ストラウス&カンパニーなどが先のコベンティスのサービス調達ソリューションを導入して、大きなコスト削減を果たしているという。

 このマーケットには、Niku CorporationChangepoint Corporationなどの専業メーカーのほか、ピープルソフトシーベル・システムズなどのビジネスアプリケーションメーカーが製品を投入している。さらに、いよいよ米マイクロソフトもプロジェクト管理ソフト「Microsoft Project」と、同社のビジネスソフトウェア事業部門“Great Plains”の会計ソフトウェアを統合したPSA関連製品を発売すると発表、ベンダ間の競争が過熱化しそうな気配だ。

 日本においてもアウトソーシングや人材派遣などの外部のリソースを活用する機会が増大しており、プロフェッショナル・サービスの効率的な運用を実現する手法としてPSAへの期待が高まっているが、商習慣の異なる日本でどこまで定着するか注目される。


参考リンク

asaban.com(日本ユニシス)

日本ユニシスのプレスリリース



Profile

井藤 汽水(いとう きすい)

1970年三重県出身。フリー編集者・ライター。まんが編集者時代にインターネットと出会って以来「ITによるエンターテインメントとビジネスの融合」をテーマに取材を行っている。



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