第2回 関数の話をしよう

山下 伸夫
株式会社タイムインターメディア

2008/11/28

関数型言語に分類されるHaskell。C言語などの手続き型言語とまったく異なるプログラミングの世界に踏み出してみよう(編集部)

 Haskellは関数プログラミングのための言語だというのだから、関数が出てこなくては話にならない。今回は、関数の話をしよう。

 

 

 

 

 

 

関数抽象と関数適用

 前回、話した標準体重値を計算するパターンは、

(〈身長値〉 ^ 2 )*〈標準BMI〉

である。〈標準BMI〉は固定された値(22.0)だから、標準体重値は〈身長値〉が変わればそれに応じて変化する。標準体重値の計算は、

(〈?〉 ^ 2 )*〈標準BMI〉

の〈?〉の部分を具体的な身長の値で「置き換え」てやればいいということになる。〈?〉を一種の穴のようなものだと考えれば、そこへ値をはめ込めばよいわけである。

 この計算パターンを、

λ〈穴を表す変数〉→(〈穴を表す変数〉^ 2 )*〈標準BMI〉

のように書くことがある。もう少し一般化すると、

λ〈変数〉→〈計算式本体〉

となる。

 このような表現のことを関数抽象あるいはλ抽象という。λの隣にある穴を表す変数のことを束縛変数あるいは仮引数という。また、矢印の右側の式のことを関数抽象の本体という。Haskellでは関数抽象は以下のように表す。

\ h -> (h ^ 2) * stdBMI

 実際の標準体重値は、上のλ抽象の仮引数を実際の身長値に束縛したうえで本体の式を評価することで得られる。このような操作のことを関数適用と呼ぶ。関数適用は次のように、λ抽象式の右側に実際の身長値を表す式を書く。

*BMI> (\ h -> (h ^ 2) * stdBMI) 1.75
67.375

 \はλを表し、->は→を表している。関数抽象を具体的な値(を表す式)に適用するときには、括弧を用いてどこまでが、関数抽象であるかを示す必要がある。Haskellでは関数抽象も式であり、それ自身が値である。関数抽象を実引数に適用した結果の値を表示するとき、ghciは以下のような計算を行っている。

  1. 関数抽象の束縛変数を実引数の値(を表す式)に束縛する
  2. 前項の束縛を追加した環境で関数抽象の本体を評価する
  3. 関数適用を前項の評価結果で置き換える

 上の例では、

  1. (\ h -> (h ^ 2) * stdBMI) 1.75
  2. (1.75 ^ 2) * stdBMI
  3. 3.0625 * stdBMI
  4. 3.0625 * 22.0
  5. 67.375

という具合に計算が進む。さらに詳しく説明すると以下のようになる。

1. h = 1.75という束縛を作る。

2. 本体(h ^ 2) * stdBMIを評価する。

 2.1 〈式〉*〈式〉の値は*の左右両式の値を求めてから乗算を行う。
 2.2 演算子*の左側の式はh ^ 2である。

  2.2.1〈式〉^〈式〉の値も同様に^の左右両式の値を求めてからべき乗算を行う。
  2.2.2 hは1.75なので、h ^ 2のhを1.75に置き換えて1.75 ^ 2とする。
  2.2.3 式1.75 ^ 2の値は3.0625なので、これを3.0625で置き換える。

 2.3 演算子*の右側の式はstdBMIである。
 2.4 変数stdBMIは値22.0に束縛されており(BMI.hsの6行目)、
    式stdBMIの値は22.0であるので、これを22.0に置き換える。
 2.5 本体(h ^ 2) * stdBMIは3.0625 * 22.0であることを得る。
 2.6 式3.0625 * 22.0の値は67.375であるから、結局、hを1.75で束縛した
   環境での本体の値は67.375となる。

3. 関数適用(\ h -> (h ^ 2) * stdBMI) 1.75を67.375で置き換える。

 スクリプトは以下のように書く。

$ cat -n BMI.hs
    1  module BMI where
    2
    3  type BMI =    Double
    4
    5  stdBMI :: BMI
    6  stdBMI =  22.0
    7
    8  type Height = Double
    9  type Weight = Double
   10
   11  stdWeight' :: Height -> Weight
   12  stdWeight' = \ h -> (h ^ 2) * stdBMI
    ...

 11、12行目は別の形式で定義してもよい。

$ cat -n BMI.hs
    ...
   14  stdWeight :: Height -> Weight
   15  stdWeight    h      =  (h ^ 2) * stdBMI
   16
    ...

 この形式は関数束縛という。左辺が関数適用の形になっていて、右辺は関数抽象の本体と同じ形になっている。通常この関数束縛という形式で定義するのが分かりやすい。型シグネチャに現れる->は関数を表している。Height -> Weight は「Height 型の値からWeight型の値への関数」の型を表す。

 実際に使って、身長180センチメートルの人の標準体重を求める。関数stdWeightは、

*BMI> stdWeight 1.80
71.28

となる。

 関数適用は2つ並んだ式で表し、1つ目の式が関数の値を持ち、2つ目の式が引数の値である。180センチメートルだった身長が5センチメートル伸びた人の標準体重の計算なら、以下のように書くこともできる。

*BMI> stdWeight (1.80 + 0.05)
75.295

 (1.80 + 0.05)の括弧は、これが1つの式であることを示している。この括弧を省くと意味が変わってしまうので注意すること。

*BMI> stdWeight 1.80 + 0.05
71.33

 stdWeight 1.80 + 0.05という式は、Haskellの処理系では、(stdWeight 1.80) + 0.05と解釈される。これは関数適用の際の関数と引数の結合力が+演算子よりも強いからである。Haskellでは関数適用はいかなる中置演算子よりも結合力が強いのである。

ペア(2つ組)

 その人の身長と体重から、BMI(Body Mass Index)の値を計算してその人の肥満度の目安にすることがある。〈BMI〉の計算は、

〈体重の値〉÷(〈身長の値〉^ 2)

である。ここで〈体重の値〉はキログラム単位、〈身長の値〉はメートル単位での値である。BMI値は2つのパラメータ〈体重の値〉と〈身長の値〉に依存する。2つのパラメータを1つにまとめるには、タプルを使う。

$ cat -n BMI.hs
    ...
   17  bmi :: (Height, Weight) -> BMI
   18  bmi    (h,w)            =  w / (h ^ 2)
   19
    ...

 型シグネチャは、(Height,Weight)型の値から、BMI型の値への関数と読む。(Height, Weight)はHeight型の値とWeight型の値を1つにまとめた型である。この2つの型を1つにまとめた型をペア型あるいは2つ組型という。ペア型は2つの型を,で区切り、丸括弧でくくって表す。またペア型の値も同様に、2つの値を,で区切り、丸括弧でくくって表す。

 以下は実際の計算例である。

*BMI> bmi (1.71,79.5)
27.18785267261722
*BMI> bmi (1.59,73.0)
28.875440053795337

 
1/2

Index
関数の話をしよう
Page1
関数抽象と関数適用
ペア(2つ組)
  Page2
カリー化
関数の型シグネチャ

のんびりHaskell

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