アーキテクチャ・ジャーナル

混迷する時代のアーキテクチャ

Mike Walker
2010/04/21
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重要な4つのアーキテクチャ要件

 この不確実な時代にアーキテクトが念頭に置いておくべき要件を図6に示します。

図6:主要なアーキテクチャ要件

 これら4つはきわめて重要な要件です。

  • 連携: ビジネスの要請に直接作用するポイントを見つける。
  • 最適化: 既存資産で最大の成果を実現する。
  • 外部化: 価値を創出しないIT資産をIT運用環境から除外する。
  • 統合: 不要な冗長性を削減する。

連携

 多種多様な要因によって、今後は、ITと企業目標の整合性をより高めることが必要になります。現在企業は、こうした整合性の実現に今までにも増して真剣に取り組んでいます。アーキテクトは、アーキテクチャの意思決定強化に投資し、ビジネスにもたらす付加価値を確実に高めていくことが必要になります。これはつかみどころがなく、確証を得ることも困難な投資です。

 重要なのは、注目すべき領域を知ることです。次に、アーキテクチャに関する意思決定の定量化に着手できる主要領域を示します。すべての領域を網羅しているわけではありませんが、このリストを出発点に、アーキテクトは必要な情報ポイントを収集することができます。

  • 主要指標: アーキテクト(特にエンタープライズ アーキテクトなどの上級アーキテクト)は、自身の業務を定量化するという課題に立ち向かわなくてはなりません。アーキテクチャ部門も、IT固有の指標を定義するばかりではなく、よりビジネス的に運営されるようになるでしょう。そうすることで、部門の効果を示すと共に、その効果を定量化することができます。

  • 評価: ソリューションの業務適合性を評価する、再利用可能かつ一貫性のある評価方法が不可欠です。この評価に従って意思決定を行います。また、こうした評価によって、アーキテクチャに関してどのようなトレードオフが存在するかを特定することができます。評価には、アーキテクチャの実現可能性に関する評価、アーキテクチャのトレードオフ分析、アーキテクチャに関する意思決定の資料、標準RFP評価などがあります。

  • 要求管理: アーキテクトが要求を考慮すべき理由は、簡単に言えば、要求は機能だけでなくアーキテクチャそのものの決定要因であるからです。機能要求や非機能要求を再利用可能なかたちで記録すれば、アーキテクチャと業務の整合性をすばやく簡単に高めることができます。

  • アーキテクチャの管理: 次に問題となるのが、既に構築済みの領域について、既存および新たなビジネス要件との整合性がどのようになっているかを検討することです。アーキテクチャの管理は、アプリケーション ポートフォリオ管理やPMOプロセスなどの標準プロセスに直接関係してきます。

最適化

 IT予算が縮小して、“ビックバン”プロジェクトが鳴りを潜める中、既存ソリューションの最適化に目が向けられています。企業の既存資産からさらに高い価値を導き出すことがきわめて重要になります。アーキテクトは、現行ソリューションを見直し、その利用方法、実行が最適化されているかどうか、冗長性や、業務で想定される用途に適合しているかどうかを検証する必要があります。

 これらの問いに対して答えを出すことは容易ではありません。そのためには、膨大な量の情報が必要になりますが、そのすべてを捕捉できるかどうかは確実ではありません。さらに、プロセスに対する強い依存性も考慮しなければなりません。ソフトウェア開発やアーキテクチャのプロセスの統制が十分ではない場合、情報そのものの品質が失われてしまうことになります。

 アーキテクトがこうした情報を取得するのに役立つ主な活動を以下に示します。

  • ポートフォリオ管理: アプリケーション ポートフォリオを見直すことで、アーキテクトは、既存システムの一覧表を作成したり、記録されたシステムについて再検討することができます。ビジネスの最適化を行う場合、ポートフォリオ管理が非常に重要になってきます。ソリューションの主な特徴がすべて明らかになり、以下を認識できるようになります。
    • ソリューションの業務および(一部の場合に)ビジネス プロセスまたは業務機能に対する影響。
    • その他のソリューション全体に対するスコア。
    • ソリューションの総費用。
    • ソリューションのサポート状況。
  • アプリケーション ライフサイクル管理(ALM): ポートフォリオ管理では企業全体を見渡すのに対して、ALMでは焦点を絞ります。ALMによって、プロセスの最適化による業務の合理化、最新ツールによるアプリケーション開発の自動化・高速化、情報収集ポイントの確立によるアーキテクチャ関連業務の支援とビジネス価値の定量化など、さまざまな改善が実現されます。

  • アーキテクチャと開発ツールの見直し: 開発やアーキテクチャ設計の現場で使用するツールを最適化することは、企業にとってきわめて重要です。ツールの再編成によって、プロジェクト業務が忙しくない時期を有効活用できます。

  • ソリューションの最適化: プロセスの改善だけでなく、ポートフォリオ管理で評価・分類したソリューションについても、今後何らかの最適化が必要になります。アーキテクトは、このソリューションの最適化にあたって創造力を発揮できます。ソーシャル コンピューティング、コンテクスト認識アーキテクチャ、クラウドベース アーキテクチャ、SaaSなどの新たなイノベーションを利用すれば、さまざまな方法でリスクやコストを削減し、企業を支援することが可能です。

外部化

 ポートフォリオ管理やALM等の手法を用いてソリューションの分類を行うことで、企業は戦略的価値につながるアプリケーションを識別できるようになり、これらのソリューションに関する意思決定を迅速化できます。企業には複数の選択肢が提供されますが、アーキテクトの役目は、ITリーダーやビジネス リーダーが最善の行動を決定できるようサポートすることです。

 ITの黎明期以来のトレンドとして、IT資産の外部化があります。これは、アウトソーシング、アプリケーション サービス プロバイダー(ASP)、マネージド サービス プロバイダー(MSP)と続いています。

 図7に示すように、サービス、アプリケーション、またはビジネス プロセス全体を外部化するという考え方自体は新しいものではありません。ただ、その形態は進化しています。

図7:外部化されたサービスの進化

 各ソリューションには、それぞれはっきりとした長所と欠点があります。ASPモデルなど、一部のソリューションは既に陳腐化していますが、メインフレームなどの主な問題領域では依然としてアウトソーシングが推進されています。確かに言えることは、こうしたテクノロジやメソッドは進化し続けているということです。

 ITサービスの外部化について検討するならば、今がその絶好の機会です。独立系ソフトウェア ベンダー(ISV)や、Microsoft(Live Services や Azure Cloud Servicesなどを提供)などのプラットフォーム プロバイダーが、従来の技術的な問題を解決するさまざまなソリューションを提供しています。

 あらゆるテクノロジ ソリューションがそうであるように、適切に導入された SaaSあるいはクラウドベース ソリューションは、計りしれないメリットを企業にもたらします。それらのメリットについて以下に説明します。

  • テクノロジの普及を促進: 新しいテクノロジの導入に対する参入障壁は低く、必要な作業はサブスクリプションだけです。つまり、革新的なテクノロジを基盤とするプロトタイプ ソリューションへの投資を比較的小規模に抑えることができます。これまでは、ソフトウェアのライセンス、調達、展開や、サポート スタッフのトレーニング、その他さまざまな作業が必要でした。

  • 複雑性: 特にSaaSでは、従来行われていた、ソリューションの構築または購入に伴う複雑性が緩和されます。インターネット、セキュリティ、XML 関連の強力な標準を、SaaSベンダーのソリューションに関する専門知識と組み合わせることで、かつて問題とされていた技術的な複雑性の大部分を回避することができます。

  • 総所有コスト(TCO)の削減: スタッフの数、物理サーバーの購入台数、ソフトウェア ライセンスの数、全体的な運用コスト、ソリューションやITサービス全体のTCOの削減が可能になります。

  • 俊敏性: 最新テクノロジに基づくソリューションの提供時間を短縮し、基幹業務(LOB)アプリケーション統合の複雑性を緩和し、業務を格段に高速化できます。

統合

 あらゆる側面からの圧力により、アーキテクトには少ない投資で最大の成果を上げることが求められています。それが実現できれば、社内の複雑性と冗長性を削減できます。ポートフォリオ管理、ALM、ツールの刷新を通じて企業を最適化する中で、アーキテクトは、アプリケーションの最適化と統合する方法を検討することになります。

 統合が行われる主な領域は次のとおりです。

  • ITインフラストラクチャ: 通常、統合では、企業の基幹ハードウェアに最初に着手しますが、進化を続けている主な仮想化ソリューションを用いることで統合作業がきわめて容易になります。仮想化は容易ですが、サーバー スプロールと同様の問題が生じる可能性もあり、慎重な計画が必要です。

  • ITサービス: コラボレーション、VoIP、電子メール、ビジネス インテリジェンス、ポータル、システムの監視、プロジェクト管理システム、その他多くの IT サービスはすべて、標準の確立、複数ベンダーの統合、ベンダーのサービス プロバイダーへの外部化などによって合理化することができます。

  • ソリューション アーキテクチャ: 複数の基幹業務や機能分野をまたがることで、複数のソリューション間に冗長性が生まれることは珍しくありません。コストや社内の複雑性を緩和するには、ソリューションの統合が不可欠です。

  • プロセス: プロセス管理は軽視されがちですが、連係していないプロセスや、冗長なプロセスがあれば、統合する価値があります。こうした統合を行うことで、再利用性や予測可能性の高い指標を確立し、アーキテクチャ関連の業務を合理化することができます。

 現在の経済状況を乗り切るためには、これら 4 つのアーキテクチャ要件に対応することが必要になります。この取り組みは、アーキテクトにも莫大な恩恵をもたらします。アーキテクトが、ビジネス運営と緊密に連携できるだけでなく、IT 領域の真のビジネス パートナーとしての地位を確保し、TCO の削減に大きく貢献できるようになります。

まとめ

 現在(執筆当時)の厳しい経済状況下では、企業は革新テクノロジと最適化を駆使することで差別化を実現することができます。このような市場の状況をチャンスに変え、合理化、統合、IT 資産の購入や企業買収を進めることで、経済危機が収束に向かった後も、企業を維持し続けられるようになるでしょう。

 この記事の狙いは、IT ビジネスに対して働く主な力、付加価値を高める方法、ビジネス バリューの回復に役立つ重要なテクノロジ領域などについてアーキテクトが理解を深められるような情報を提供することです。End of Article

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執筆者について

 Mike Walker(Mike@MikeTheArchitect.com)は、マイクロソフトの主任アーキテクトで、エンタープライズ アーキテクチャに関するマイクロソフトの見解を管理、発表、伝達するための戦略を策定しています。Enterprise 2.0 やエンタープライズ アーキテクチャといったマイクロソフトの世界的な戦略を、主要な各業界において促進することが彼の責務です。

 Mike は 2006 年上旬にマイクロソフトに入社しました。過去に、金融サービスのエンタープライズ アーキテクトおよびストラテジストを務めた実績があり、テクノロジに基づく業務改革、戦略的なインフラストラクチャ計画、テクノロジ プロジェクトのポートフォリオ管理、ソリューション アーキテクチャを専門としています。オピニオン リーダーとして Mike が注力している戦略実行には、こうした過去の経験すべてが活かされています。

 Mike Walker のブログは、こちらで読むことができます。


 

 INDEX
  [アーキテクチャ・ジャーナル]
  混迷する時代のアーキテクチャ
    1.アーキテクトに対する要求の変化
    2.アーキテクトが付加価値を高めるには
  3.重要な4つのアーキテクチャ要件

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