特集:.NET開発者中心&Tech Fieldersコラボ企画

mvcConf @:Japan 〜 ASP.NET MVCブートキャンプ 〜 開催レポート

日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト 井上 章(ブログ
2011/06/30

はじめに

 去る2011年6月11日(土)に、マイクロソフト品川オフィスにてASP.NET MVCを中心としたイベント「mvcConf @:Japan 〜 ASP.NET MVC ブートキャンプ 〜」を開催した。

写真 午前中から満席となったmvcConf @:Japan会場の様子

 以前、「マイクロソフト技術による標準化志向Web開発ことはじめ」と題して、4回にわたってASP.NET MVCフレームワークを中心としたマイクロソフトWeb開発の動向を解説する連載記事を担当させていただいた。そこで述べたとおり、ここ最近、ASP.NETをベースとしたWeb開発のスタイルが大きく変化している。特にASP.NET MVCの登場を境に、マイクロソフトWebプラットフォームにおけるアプリケーション開発が新次元に入ったといっても過言ではない状況にある。

 現在、米国をはじめとする英語圏では、そんなASP.NET MVCに関する技術情報や書籍などが非常に豊富だ。加えて、「mvcConf」と呼ばれるASP.NET MVCに関する技術セッションを取りそろえたバーチャル・イベントもすでに2回ほど開催されるなど、さまざまな形でASP.NET MVCの技術コンテンツがそろってきている。

 一方、日本国内に目を向けると、ASP.NET MVCに対する注目度は上がっているものの、開発者が望む技術情報がオンライン、オフライン共に少ないのが現状だ。もちろん、マイクロソフトとしてもASP.NETデベロッパー・センターを中心に、ASP.NETに関する技術コンテンツの整備を進めてはいるが、まだまだ満足いくものではないだろう。

 このような状況の中、最新バージョンとなる「ASP.NET MVC 3 Tools Update」がリリースされ、Entity Framework 4.1で提供されるコード・ファーストとスキャフォールディング機能の搭載やHTML5/CSS3への対応が強化されたことで、ASP.NET MVC 3が目指す開発フレームワークとしての姿が1つの完成形を迎えたといえる。

 そこで、今後日本でも一段と採用が進むであろうASP.NET MVCについて、ある意味節目としての“まとめ”をいまこのタイミングで行なっておきたいという思いから、今回のイベント“mvcConf @:Japan”を企画し、実施することにした。なお、イベント名の“mvcConf”はアメリカで開催されたイベントと同じだが、その内容は大きく異なっていることに注目していただきたい。本家mvcConfの良いところはそのまま参考にしつつ、日本独自の“色”を随所に出したイベントとなっている。

mvcConf @:Japanの特徴

(1)オフライン・イベントとオンライン・イベントの融合

 まず、1つ目の特徴として、単なるオフライン・セミナーとして開催するだけでなく、全セッションのビデオ収録を行い、それをオンライン・コンテンツとしてマイクロソフトの技術系動画サイト「Channel 9」へ公開することで、いつでもセッション・ビデオをご覧いただけるようにした。加えて、Channel 9へ公開されるビデオは基本的にさまざまなファイル形式でダウンロードできるようになっているため、スマートフォンなどにダウンロードして外出先などでも簡単に楽しめるといった特徴もある。

(2)より実践経験、現場経験を多く積んでいる外部スピーカーの起用

 2つ目の特徴として、わたしをはじめとするマイクロソフト社員は裏方にまわり、ASP.NETを中心とした各種執筆作業やブログ投稿、そして豊富な開発経験を持った5名の社外エンジニアの方に主要セッションの担当をお願いしたことだ。これにより、より実践レベルでのセッション・コンテンツをそろえることができたうえ、ここ最近では日本全国で毎週のように開催されているコミュニティ主導の技術勉強会に似た雰囲気の下でイベントを開催できたため、どなたでも比較的参加しやすいイベントとなったのではないだろうか。

(3)@IT .NET開発者中心とマイクロソフトTech Fieldersによるイベント・コラボレーション

 3つ目の特徴は、幅広い読者を持つ@IT .NET開発者中心との共催イベントとして開催したことだ。このレポート記事のようにマイクロソフト以外のWebサイトで記事を公開することができ、より多くの開発者の方にASP.NET MVCを知ってもらうきっかけを作ることができたと思う。

セッション紹介とスピーカー・コメント

 それでは、ここからは5つの技術セッションと1つのパネル・ディスカッションで構成した本イベントのセッション・レポートを、各セッション・スピーカーのコメント文を中心に紹介したい。なお、今回の「mvcConf @:Japan 〜 ASP.NET MVC ブートキャンプ 〜」のビデオは下記のChannel 9イベント・ページで公開しているので、こちらもぜひご参照いただきたい。

オープニング:「mvcConf @:Japan 開催に当たって」日本マイクロソフト株式会社 井上 章

 はじめに20分ほどお時間をいただき、わたしから本イベントの内容を紹介させていただいた。この中では、株式会社デジタルアドバンテージ代表取締役で@IT Insider.NET フォーラム運営者でもある小川 誉久氏にもご登壇いただき、開催に当たってのお言葉をいただいた。加えて、マイクロソフト米国本社副社長スコット・ガスリーと、Webプラットフォーム・ツールのプログラム・マネージャーのスコット・ハンセルマンからの、日本の開発者へのメッセージをビデオで放映している。

写真 株式会社デジタルアドバンテージ代表取締役 小川 誉久氏

セッション1:「最初に全体を押さえよう ASP.NET MVC オーバービュー」 株式会社シーエスアイ 長田 直樹

 技術セッションでは、最初に長田直樹氏よりASP.NET MVCの全体像を分かりやすく解説していただいた。長田氏は、さまざまなメディアでの執筆経験が豊富で、自らも「CLR/H」というコミュニティを運営するなど、ASP.NET分野で広く活躍されている。

写真 セッション1:長田 直樹氏

◇長田氏のコメント

  第1セッションを担当した長田です。わたしのセッションでは、ASP.NET自体の歴史とASP.NET MVC登場の背景、そしてASP.NET MVCが影響を受けたRuby on Railsのカルチャと特徴を、ASP.NET MVCではどのように実現しているのかをご紹介しました。セッションで、この辺りについてある程度は紹介できているはずです。

 ASP.NET MVCやASP.NETが未経験で、それらに興味がある方はビデオを参照してください。逆にいうと、すでにASP.NET MVCに触れている方にとっては、わたしのセッションは復習にしかならないので、セッション2以降をご覧になることで実際に開発を行う際のノウハウやヒントを習得できるかと思います。

 さて、セッションやパネル・ディスカッションで伝えられなかったことが1つだけあります(終わった後で気付きました……)。それは「URLルーティング」の重要な意味です。URLルーティングを使用することで、URLのリクエストを開発者が自由に制御できるようになります。これにより、ユーザー・フレンドリ/SEOフレンドリなURLを定義できるようになります。ASP.NET 4からWebフォームでも利用可能になった技術です。ぜひURLルーティングを有効活用してください!

 最後になりますが、わたし自身は札幌で仕事をしている人間です。札幌ではCLR/Hというコミュニティを運営しています。ASP.NETに限らず.NET全般やIT Pro向けの内容、そして.NET以外のテクノロジについても取り扱う勉強会を、ほぼ毎月実施しております。札幌というとかなり限定されているように感じるかもしれませんが、北海道外からの参加者も集まりやすい勉強会であることも特徴の1つです。ぜひ北海道観光を兼ねてCLR/Hにも遊びに来ていただければ幸いです。


セッション2:「ASP.NET MVC 3とNuGetで始める高速Webアプリ開発」 芝村 達郎(ブログ

 続いて、ASP.NET MVC 3で追加されたRazorビュー・エンジンの新機能やWebヘルパー、そしてNuGetについて、芝村達郎氏に解説していただいた。

 芝村氏は、ASP.NET MVCベースで「みにもば」という携帯端末向けのTwitterクライアント・サービスや、WPFを使って「MiniTwitter(みについ)」と呼ばれるTwitterクライアントを開発されている。加えて、ブログ連載記事「ASP.NET MVC 3 開発入門」はとても定評がある。

写真 セッション2:芝村 達郎氏

◇芝村氏のコメント

  今回、RazorとNuGetを紹介しました。Razor構文に関しては(感覚的なものなので言葉では説明しにくいですが)「書きやすい」という特徴を持っています。実際に書いてみて、その生産性の高さを実感していただければと思います。まだ登場したばかりの技術のため、一部で不満などあるかと思いますが、余計なコードを書く必要がないので、楽しくコーディングできるはずです。

 NuGetはASP.NET MVC専用ではありませんので、WPFやSilverlight開発者の方にもぜひともパッケージを公開していただきたいです。パッケージの公開は無償で行えますので安心してください。先日、バージョン1.4が公開されて、さらに高機能になりました。

 それと以前、ブログで「ASP.NET MVC 3 開発入門」というものを24回に渡って書きました。今回、mvcConf @:Japanで担当したRazorビュー・エンジンに関しても12回目で説明を行っていますので、こちらも開発の際には参考にしていただければ幸いです。


セッション3:「お気に入りのWeb Stack - MVC, jQuery, HTML5」 竹原 貴司(ブログ

 ランチ休憩を挟んで、午後最初のセッションでは、MVC、jQuery、HTML5などのさまざまな技術を使ったWebアプリケーションの設計および実装方法について、竹原貴司氏に解説していただいた。

 竹原氏が作成するデモ・アプリケーションは毎回非常に完成度が高く、これを楽しみにしている参加者も多い。今回のセッションでも「mvcPhotos」という写真共有Webアプリケーションを披露してくれた。

写真 セッション3:竹原 貴司氏

◇竹原氏のコメント

  日ごろから、仕事で開発をする場合は特に、「楽しく」を重視するのが、生産性と品質を高める良い方法だと思っています。

 「何を使うか、どう使うか」だけではなく、「何を作るか」を意識する。

 目的から適用するべきテクノロジを探し、採用していくと、開発作業自体がとても楽しく進められると感じています。

 テクノロジ・スタックやレイヤ設計の話について、もっと解説できればとも思いましたが、そのような書籍などからでも学習できる内容よりも、開発者ならではの手法として、動くものを見て、コードを読むことが、一番速く理解できるという自身の思いをそのまま反映する内容とさせていただきました。

 「まぁ、いっか」の裏に込められたたくさんの思い、届けられるようになりたい。

 また機会があれば、今度はライブ・コーディングで、動作がどのように変化するのかも見つつ、異なる実装方法やリファクタリングなど、より実践的なことを共有していける内容にしてみたいと思います。


セッション4:「MVC の M」 あおい情報システム株式会社 小野 修司(ブログ

 続いて、小野修司氏より、MVCの「M」、つまり「Model」の部分を中心に、ASP.NET MVCにおけるデータの扱い方について解説していただいた。

 ASP.NET MVC 3 Tools Updateから標準で使用できるようになったADO.NET Entity Framework 4.1 Code First(コード・ファースト)の機能からODataまで、ASP.NET MVCにおけるデータ・アクセスに関して分かりやすく紹介していただいた。小野氏は、ASP.NETを用いたシステムの開発/運用/コンサルティングからセミナー講師など多くの分野で活躍されている。

写真 セッション4:小野 修司氏

◇小野氏のコメント

 今回はEntity Framework 4.1で提供が始まったCode Firstに特に重点を置いて、ASP.NET MVCでのModel部分をどう使っていくか、というお話をさせていただきました。

 何しろ、まだ登場したばかりの技術で、なかなかまとまった資料もありません。何とか自分なりにまとめるのが精いっぱいというところでしたが、それだけにASP.NET MVCでCode Firstを利用するための日本語の資料としては、それなりに有用な情報を提供できたのではないかと考えています。

 Code Firstでの自己追跡について聞きたかった、というコメントをいただきましたが、Web(ASP.NET MVC)では自己追跡は使いませんのでお話ししておりません。その辺りはASP.NET MVCに特化したセッション、ということでご了承いただきたいと思います。

 なぜWebで自己追跡を使わないか、については……、宿題にしておきましょうか。まぁ、Webの特性を考えていただければすぐ理解できるかと。

 なお、45分というセッションではサンプル・コードの内容を含め、お話しできずに終わってしまった部分がありましたので、振り返りということで自分のBlogの方でセッションの内容を再構成しました。

 こちらを参照していただくと、より理解を深めていただけるかと思います。


セッション5:「クラウドと HTML5 で作成するスケーラブルな WEB アプリ開発術 〜Windows Azure + ASP.NET MVC 編〜」株式会社野村総合研究所 勇 大地

 技術セッションとしては最後となる勇大地氏のセッションでは、Windows Azureを活用したスマートフォンなどに対応したマルチデバイス向けのWebアプリケーションの開発手法について、jQueryやHTML5といった最新技術の話題も取り入れながら解説していただいた。勇氏も、Windows Azureを中心としたさまざまな技術解説記事の執筆やセミナー講師などで幅広く活躍されており、HTML5などのWeb標準技術動向にも詳しい。

写真 セッション5:勇 大地氏

◇勇氏のコメント

 今回は、Windows Azureをデプロイ先としてASP.NET MVCアプリケーションを作成しました。今後はこうしたクラウド+HTML5を利用したアプリケーション開発が増えていくと考えられます。mvcConf @:Japanでは、ASP.NET MVCアプリケーションに焦点を当て、Ajaxが一般化した後のWebアプリケーション開発に着目しました。ASP.NET MVCもバージョン3になり、いよいよ本格導入に向けての形式が整ったことが、今回のイベントでご理解いただけたと思います。

 今後のWebアプリケーション開発は、対応デバイスが増え、ユーザビリティを考慮するケースが多くなると思います。こうした場合、jQueryを代表としたJavaScriptライブラリを利用することで開発効率を向上できます。ASP.NET MVCは、既存のJavaScriptライブラリとの連携が容易であり、Razorビュー・エンジンといった画面開発を容易にする機構を多々導入しています。ぜひ、ASP.NET MVCを利用したアプリケーション開発を体験してみてください。

 アプリケーションの作成後は、ぜひWindows Azure Platformを利用して一般向けに公開してみてください。アプリケーションを作成するだけでなく、エンド・ユーザーからの反応は開発を続けるモチベーションになると思います。以下のようなASP.NETを利用して構築されたサイトもWindows Azure Platform上に公開されています。ぜひ参考にしてください。


パネル・ディスカッション:「ASP.NET MVC を現実の業務アプリ開発に採用する方法」デジタルアドバンテージ 一色 政彦

 最後に、@IT .NET開発者中心とMicrosoft Tech Fieldersのコラボレーション企画として、デジタルアドバンテージ 一色 政彦氏のモデレータの下で、各セッション・スピーカーの5名にパネリストとして登壇していただき、75分間ASP.NET MVCに関するパネル・ディスカッションを実施した。この内容は別途、詳細なレポート記事が公開されているので、そちらをご参照いただきたい。

写真 パネル・ディスカッションの様子

おわりに

 mvcConf @:Japanはその名前のとおり、ASP.NET MVCをメイン・テーマとしている。しかしながら、このサーバサイド・フレームワークだけではもはやWeb開発は成り立たず、クライアントサイドにおけるHTML5、CSS3、jQueryなどの技術やWindows Azureといったクラウド技術まで、さまざまな技術要素を組み合わせてこそ魅力的で一歩進んだWeb開発を行える。本イベントのセッション・コンテンツを通して、ASP.NET MVCだけではなく、昨今のWeb開発に必要な多くの技術要素の概要から、その活用方法までを学んでいただけると幸いである。

 最後に、今回が初の試みとなったmvcConf @:Japanはいかがだったろうか。今後もさらなる機能強化が予定されているASP.NET MVCを中心とした技術イベントを、この「mvcConf @:Japan」という名前の下で継続して開催できるようにすることが、わたしの次なる目標である。ご期待いただきたい。end of article



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