Windows Azure Platform速習シリーズ:SQL Azure(前編)

SQL Azureの機能と制約を理解する

Windows Azure Community 山本 昭宏 (監修 市川 龍太)
2010/01/12
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SQL Azure Databaseに今後追加される機能の予定

 多くは、昨年11月に米国で開催されたPDC 09で発表されたもので、今後大きく内容が変わる可能性があることを留意してほしい。

機能の区分 機能 備考
T-SQL機能 SQL CLR T-SQLの関数としてCLRオブジェクトのメソッドの使用することや、CLRの型のユーザー定義型として使用することが可能になる
分散トランザクション 複数のデータベースをまたいだトランザクションが利用可能になる
分散クエリ 複数のデータ・ソースをまたいだクエリが利用可能になる
バックアップ機能 Database Cloning(データベース・クローニング) データベースのバックアップを任意に作成可能になる。
2010年前半に提供予定
Continuous Backup(継続的バックアップ) このバックアップ機能により、任意の時刻の時点への復元が可能になる。
また、バックアップの保持期間と間隔を構成可能である。
2010年後半に提供の予定
運用モデル SaaSプロバイダ向けサポート ・ISV(独立系ソフトウェア・ベンダ)用プロビジョニングAPIの提供
・テンプレート・データベース
・請求シナリオの追加
などが提供される
データ同期機能 オンプレミスのSQL Serverとの、双方向のデータ同期が可能になる
配置の単一化 テーブルやビュー、ユーザーやログインといったデータベース情報に加え、管理ポリシーや配置要件に関する情報を、Data-tier Application Component(DAC)というパッケージにまとめて一括して配置可能になる
SKU(製品構成単位)間でのアップグレードとダウングレード SQL Azure DatabaseでのSKUはエディションを表し、エディションのアップグレードとダウングレードが可能になる
読み取り専用データベース 読み取り専用データベースを作成可能になる
スケールアウト機能 動的なデータベース分割 自動パーティショニングにより、レコード数の多いテーブルのデータを複数のデータベースに分散して格納することが可能になる
データベースのマージ 動的なデータベース分割とは逆に、複数のデータベースのテーブルに分散して格納していたデータを1つのデータベースのテーブルにマージすることが可能になる
データベース・グループ内でのスキーマ管理 複数のデータベース間でスキーマを統合的に管理することにより、動的なデータベース分割やデータベースのマージを行う際に必要となる、スキーマを一致させるための管理が行いやすくなる
スケールアップ機能 データベース・サイズ・オプションの追加 具体的なサイズの発表はされていないが、マイクロソフト関係者の話では10GBytesを超えるサイズが提供されることが明言されている。これにより、大容量データを扱うエンタープライズ用途にも使えることが期待される
暗号化機能 Vidalia(コード名) ポリシーに従ったSQL Azure Databaseのデータの暗号化の制御が可能になり、特定の顧客にのみSQL Azure Databaseのデータを公開するといったことが可能になる
SQL Azure Databaseに今後追加される予定の機能

 この表から分かるとおり、SQL Azure Databaseの制約で解説したサイズの制約や、任意のバックアップが行えないという制約は今後解消されそうだ。さらに、分散クエリ、分散トランザクションやスケールアウト機能の組み合わせにより、クラウドの特性を生かした大規模スケールの分散データベースの構築が可能になることが期待される。

 また、本稿の範囲からは外れるが、「運用モデル−配置の単一化」に記載している、Data-tier Application Component(DAC)というパッケージによる一括配置機能は、SQL Serverの次期バージョンとなるSQL Server 2008 R2にも存在する。ほかにも、上位エディションでは自動的な高可用性の実現や、大規模並列処理機能によるプライベート・クラウドの実現など、SQL Azure Databaseとの多くの類似点が見受けられる。

 マイクロソフト関係者の話によると、SQL Azure DatabaseとSQL Server 2008 R2は同じコード・ベースを使用し、開発も同じチームが担当しているとのことで、SQL Azure DatabaseとSQL Server 2008 R2の連携も視野に入れていることをうかがわせる。SQL Server 2008 R2に関しての詳細は「SQL Server 2008 R2 製品概要」を参考されたい。

 なお、冒頭でも触れているが、SQL Azureを含めたWindows Azure Platform全体の新機能、追加予定の機能が「クラウドの本命となるか? 進化するWindows Azure」で解説されているので、こちらも参考にしてほしい。

SQL Azure Databaseの料金体系とSLA

SQL Azure Databaseの料金体系

 最後に、SQL Azure Databaseの料金体系を説明する。

 先に述べたとおり、SQL Azureはサービスとして提供される。そのため、その料金体系は、従来のSQL Serverのようなサーバ・ライセンスやクライアント・アクセス・ライセンスといったライセンス単位ではなく、データの容量や通信量に従って発生する従量課金である。

 現在、SQL Azureのデータベース機能であるSQL Azure Databaseは、データベースの最大容量に応じて、Web EditionとBusiness Editionの2つに分けられており、エディションによって料金が異なる。なお、現状ではエディションの違いによる処理能力の違いといったものはないようである。

 そしてエディションごとの料金に加え、データの転送量に応じた課金が発生する。従量課金の対象となるのはSQL Azure Databaseがホストされるデータセンターの外部との通信のみで、通信先が同一のデータセンターである場合は、課金が発生しない。

 また、データセンターが存在する地域によってもその金額は異なり、北米・ヨーロッパ地域よりもアジア太平洋地域の方が高くなっている。そのため、実際にSQL Azure Databaseを配置する際は、料金や通信速度の要求に応じて、配置先の地域を選択することを考慮に入れておくとよいだろう。

 SQL Azure Databaseのエディションごとの料金と、通信量に応じた課金体系は以下の表のとおりである。

エディション 最大容量 料金(ドル/月) 料金(円/月)
Web Edition 1GBytes 9.99ドル 979.02円
Business Edition 10GBytes 99.99ドル 9799.02円
地域 転送方向 料金(ドル/GBytes) 料金(円/GBytes)
北米・ヨーロッパ 受信 0.10ドル 9.8円
送信 0.15ドル 14.7円
アジア太平洋 受信 0.30ドル 29.4円
送信 0.45ドル 44.1円
SQL Azure Databaseの料金体系とデータ通信量
レートは1ドル98円。この値は本稿執筆時(2010年1月12日)のものであり、今後の為替レートの変動により改定される可能性がある。
転送方向はそれぞれ、「データセンター側がデータを受信する場合」、「データセンター側がデータを送信する場合」を表す。

 価格に関する正式な情報は、「SQL Azure Databaseの価格体系(英語)」で説明されている。今後変更される可能性があるので、実際の価格は必ずそのリンク先で確認してほしい。また、各種の割引サービスも用意されており、「Windows Azure の割引サービス(英語)」で説明されている。

 さらに、MSDNサブスクライバーに対しては無料でデータベースが使用可能で、一定の転送量まで無料になるといった特典が用意されており、「MSDNサブスクライバーの特典(英語)」で説明されている。

 実際にSQL Azure Databaseを利用した場合のトータルコスト(TOC)と投資対効果(ROI)の計算ツールが「こちら(英語)」から使用できるので見積もりの際に参考にしてみるとよいだろう。

SQL Azure Databaseのサービス・レベル契約

 次にSQL Azure Databaseのサービス・レベル契約(Service Level Agreement。以下SLA)を説明する。

 SQL Azure DatabaseのSLAは月単位の稼働率に対して適用される。規定された稼働率は99.9%で、この稼働率を満たさなかった場合のサービス・クレジット(=月額料金に対する返金率)は以下の表のとおりである。

稼働率 非稼働時間(月間) 非稼働時間(年間) サービス・クレジット
99.9% 未満 0.74時間 8.76時間 10%
99.0% 未満 7.44時間 87.60時間 25%
規定の稼働率を満たさない場合の料金のサービス・クレジット
非稼働時間の算出はそれぞれ、月間(31日×24時間)、年間(365日×24時間)で稼働することを想定している。なお、実際にはSLAは月単位で適用されるので年間の非稼働時間は参考値である。
この非稼働時間には、年間で10時間未満のメンテナンス用ダウンタイムは含まれない。

 SQL Azure DatabaseのSLAに関するドキュメントは、「SQL Azure DatabaseのSLA(英語)」からダウンロードできる。稼働率の定義に用いられる計算式は複雑なので必ずドキュメントを参照してほしい。

 SQL Azureの課金体系やSLA、サポートに関しては、より詳細に解説されている、「安い? 高い? Windows Azure Platformの料金体系」を参照してほしい。

 後編では、SQL Azure Databaseの活用方法を紹介する。End of Article


 INDEX
  Windows Azure Platform速習シリーズ:SQL Azure(前編) 
  SQL Azureの機能と制約を理解する
    1.SQL Azureの概要と特徴/SQL Azure Databaseの制約
  2.SQL Azure Databaseに今後追加される機能の予定/料金体系とSLA
 
  Windows Azure Platform速習シリーズ:SQL Azure(後編)
  SQL Azureを実際に活用する
    1.SQL Azureの契約とSQL Azure Databaseの準備
    2.SQL Server Management StudioによるSQL Azure Databaseの操作
    3.SQL Azure Databaseの開発手法

インデックス・ページヘ  「Windows Azure Platform速習シリーズ」
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