Insider's Eye

Microsoft PDC 2005で発表された次世代テクノロジと新製品

デジタルアドバンテージ 一色 政彦
2005/09/28
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 2005年9月11日〜16日の6日間にわたり、米国ロサンゼルスにて「Microsoft Professional Developers Conference(PDC) 2005」が開催され、世界中から数多くのデベロッパーが参加した。

PDC会場であるConvention Center(左)と基調講演中のBill Gates氏(右)

 PDCは、少し先(だいたい2〜3年)のマイクロソフトのテクノロジや製品について、その技術仕様が確定する前の早い時期にデベロッパー向けに催されるテクニカル・カンファレンスである。そのため、発表すべき近未来の技術があまりなければ開催されない年もある。実際に最近では、.NETなどの発表があった2000年のPDCに続いて2001年、そこから飛んで2003年、そして今回のPDC 2005は前回から約2年ぶりに開かれたことになる。

 従来PDCといえば大風呂敷を広げるような壮大なITテクノロジの夢物語が語られることが多かったが、今回は違った。もっと現実的で地に足が付いた内容だったと筆者は感じた。

 例えばPDC 2000では、Win32プログラミング・モデルから.NETおよびXML Webサービスに基づく開発モデルへと大きく変革する根本的なパラダイム・シフトが語られた。また、その2年後のPDC 2003では、WinFX(詳細後述)などの新しい次世代テクノロジが紹介され、それにより実現できる(インターネットでつながった)高度なデジタル化社会への夢が熱く語られた。しかし今回PDC 2005では、これまで築き上げてきた夢のIT世界像を実現するために必要な、現実的なプラットフォーム・テクノロジがより具体的かつより深く語られたのだ。

 実際に13日の基調講演でBill Gates氏は、今回のPDCの内容が夢物語から実現段階へシフトしてきていることを踏まえて、「ソフトウェアによって人々の行動の仕方が大きく変りつつあるいまこそがソフトウェアを構築するための最高の機会だ」と強調した(これは余談が、それに続けて「だから優れたデベロッパーを獲得することは重要だ」と語り、Bill Gates氏主演の「デベロッパーのリクルートに関するビデオ」が放映された。これは恒例となっているジョーク・ビデオで、今回は2004年公開のコメディ映画「Napoleon Dynamite」が基になっており、非常に面白かった。映画の主人公のNapoleon Dynamiteさんもこのビデオに全面的に登場した。ビデオは著作権などの関係で残念ながら会場以外では見られないということだ。PDC恒例のジョーク・ビデオが見たい読者諸氏は、ぜひ次回のPDCには参加してほしい)。

 本稿では、今回のPDC 2005で発表された次世代テクノロジと新製品について、主に基調講演の内容に基づいて概観する。より開発者向けの具体的な情報については、別途レポートを提供する予定なので、それをお待ちいただきたい。

1. 豊かなユーザー・エクスペリエンスをもたらすWindows Vista時代のAPIセット「WinFX」

 PDCで発表された興味深いタイトルの解説に入る前に、その前提知識として、PDC 2003ですでに発表されている「WinFX」の内容について簡単に触れておこう。

 今回のPDCで取り上げられたテクノロジのほとんどが、次期WindowsクライアントOSである「Windows Vista」(PDC 2003では“Longhorn”クライアントと呼ばれていた)に搭載される新APIセット「WinFX」をベースにしている。

 WinFXは.NET Framework 2.0の延長線上にある基本クラス・ライブラリである。前回のPDC 2003では、Windows VistaでWin32 APIはWinFXへと完全に移行するかのようにいわれていたが、現在ではWindows Vistaの持つ新機能はWinFXとWin32 APIのどちらでも同じようにアクセスできることがマイクロソフトから明言されている。

 またWinFXは、Windows VistaやWindows Server“Longhorn”だけでなく、Windows XPやWindows Server 2003向けにも提供される予定である。従ってWinFXで構築したアプリケーションはかなり広範なOSで動作することが保証されているわけである。

 現在、前回のPDC 2003で発表されたWinFXの主要な機能はそれぞれ以下のように名称が決定されている。

  • “Avalon”(コード名)→ 正式名称「Windows Presentation Foundation」(WPF)
  • “Indigo”(コード名)→ 正式名称「Windows Communication Foundation」(WCF)

 さらに今回のPDC 2005では、以下に示す新たなメンバーがこれらに加えられた。

  • 「Windows Workflow Foundation」(WWF)

[参考]WinFXの詳細およびダウンロードについて

 次のサイトを参照してほしい。

 これらのうちIndigoのコード名で知られているWCFは、SOA(サービス指向アーキテクチャ)システム構築における、複数の通信プログラミング・モデルを統一した通信フレームワークである(参考:Insider's Eye:Webサービスの新実装「Indigo」)。

 現在、通信プログラミング・モデルとしては、例えばASMX(ASP.NETベースのXML Webサービス)、.NETリモート処理、Enterprise Services(COM+)、WSE(Web Services Enhancements)、REST/POX(REpresentational State Transfer / Plain Old XML)やSystem.Messaging(MSMQ)などが利用可能であるが、WCFはこれらを統一したシンプルなプログラミング・モデルを提供する。WCFの詳細な解説は別の機会に譲るとして、今回は残るWPFと、新たに登場したWWFを中心に解説する。

2. 高度なプレゼンテーション能力を発揮する次世代プラットフォーム・テクノロジ

 今回のPDC 2005の中で最も強力に印象付けられたのが、エンドユーザーに対するプレゼンテーション(表現)能力の強化だ。

 話はそれるが、SFの世界では近未来のコンピューティング環境を語るうえで、3Dを用いたグラフィカルな映像・画像表現は欠かせない要素である。例えば近未来を描いたSF映画では、3Dのホログラムやバーチャル・リアリティなどが登場することがたびたびある。実際にこのような世界を実現していくには、コンピューティングのプラットフォーム・テクノロジとして、3Dを使った映像や画像の高度なプレゼンテーション能力が求められることになるだろう。

 次世代のマイクロソフト・テクノロジで、そのプレゼンテーション・テクノロジに該当するのが、Windows Presentation Foundation(WPF)である。

■Windows Presentation Foundation(WPF)

 WPFが提供するグラフィック・サブシステムは、これまでのWindowsの表現力とは一線を画すものだ。WPFでは、すべてのレンダリング処理がDirect3Dを経由するため(Windows VistaではDirectXバージョン9対応のGPUが必要)、急速に進化し続けているグラフィック・ハードウェアの機能を最大限に駆使できるようになる。

 これまでのWindowsクライアント・アプリケーションでは、グラフィック・ハードウェアの性能をほとんど利用できていなかったが、このWPFによりその状況が一変するわけである。

WPFを駆使した「The North Face In-Store Explorer」の実行画面:Bill Gates氏の基調講演から(提供:Microsoft)
正面中央に1つ、うしろに2つ、合計3つのビデオ映像が同時に表示されている。デモでは、正面中央のビデオ映像が円を描くようにうしろに移動して、うしろの映像の1つが正面中央に移動する様子などが示された。

 WPFを使えば、例えば「Insider's Eye:Windows XPで動作可能なAvalonプレビュー版を試す」で示されているような、まったく新しいユーザー・インターフェイスを簡単に作成できたり、3Dオブジェクトのスキン(=表面の画像)として動画を貼り付けたりするなど3D形式の自由自在な映像表現を行うことができる(上にある「The North Face In-Store Explorer」の実行画面では、球体のオブジェクトにムービーを貼り付けているので、その曲面に沿った形で映像が表示されている)。

 また「XAML」(Extensible Application Markup Language。「ザムル」と発音)という新しいマークアップ言語を使って、WPFによるコントロールやアニメーションなどのプレゼンテーション機能を用いたクライアント・アプリケーションを作成することも可能だ。

 先ほども述べたが、SF映画などで描かれる近未来の世界では3Dなどのリッチな表現力を持ったユーザー・インターフェイスがよく登場するように、豊かなプレゼンテーション能力に対する要求はこれからの未来ではますます高まっていくのかもしれない。だとすれば今後、WPFはスマート・クライアントを代表とするクライアント・アプリケーションで用いられるプレゼンテーション・テクノロジのメインストリームとなっていく可能性も高いだろう。

[参考]WPFを体験してみるには?

 マイクロソフトはWPFとWCFをうまく組み合わせたクールなサンプル・アプリケーション「Max」を提供している。Maxは次のサイトからダウンロードできる。

 続いてAtlasについて紹介しよう。

 

 INDEX
  Insider's Eye
  Microsoft PDC 2005で発表された次世代テクノロジと新製品
  1. 豊かなユーザー・エクスペリエンスをもたらすWindows Vista時代のAPIセット「WinFX」
    2. 高度なプレゼンテーション能力を発揮する次世代プラットフォーム・テクノロジ
    3. 次世代開発を支える新しいプログラミング・モデル、ツール、および言語拡張
 
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