特集
NetDictionary
第1回 オフライン・ミーティング・レポート

2.イーストの辞書関連プロジェクト


デジタルアドバンテージ
2002/01/18


 NetDictionaryの協力企業としてプロジェクトに参加しているイースト(株)は、辞書を出版する出版各社との協業により、さまざまな辞書コンテンツのデジタル化を推進している(イーストのホームページ)。現時点では、その1つである三省堂のWebDictionaryについて、Webサービス・インターフェイスを開発し、公開している(三省堂のWebDictionaryのホームページイーストが公開しているWebサービス実験サイトのページ)。

イーストが試験運用している辞書検索サービス
イーストが開発したWebサービス・インターフェイスを使用して作成された辞書検索Webアプリケーション。

 開発の陣頭指揮をとっているイーストの下川取締役は、「まだお話しできる段階ではありませんが、今回の三省堂さんのケースを皮切りとして、さまざまな辞書やデータベースのWebサービス対応を推進しています。全体では70件くらいになります。ものによってはかなり開発も進んでいます。技術的な問題というよりは、ビジネスをどのように展開するかという点が問題です。これについては、版元の出版社とどのような展開が可能かを検討中です。現状の辞書検索用Webサービス・インターフェイスはとりあえず動かすことを念頭に置いた初期バージョンであり、今後は複数辞書の連携なども含め、辞書検索のためのインターフェイスをどんどん洗練させていきます」と語った。

パイロット版Business Travel System

 辞書検索Webサービスばかりではなく、イーストは、JTBトラベルソリューションズと協力して、企業の出張申請システムのWebサービス版をテスト的に実装し、インターネット上で公開している(Business Travel Systemのホームページ)。地味ながら、WebサービスのBtoBへの応用に関心を持つ企業からは非常に注目されており、かなりの問い合わせを受けているという。「これは、JTBさんが持っている出張申請システムから一部の機能を取り出してWebサービス化したものです。最初はVisual Studio .NETベータ1で開発しました(現在はベータ2に対応)。試しに作ってみたら、とりあえず動くものは簡単にできてしまったというのが本当のところです」(イースト 下川氏)。

 ただし、VS .NETベータ1からベータ2へのバージョンアップでは、クラス・ライブラリが大幅に改訂されたことから、対応作業はかなり大変だったようだ。とはいえ従来のOLEと比較すれば、仕様の詰めは段違いに確実との感触を得ているとのことだ。「VS .NETベータ1からベータ2へのバージョンアップおける変更点のドキュメントを入手したところ160ページもあって閉口してしまいました。このため対応はかなり面倒だったのですが、従来のOLEはもっと大変だった。弊社ではOLE関連の開発も手がけていたのですが、OLEは半年単位で仕様が頻繁に変わってしまって困り果てたものです(笑)。これと比較すれば.NET Frameworkは非常に真面目で、ベータ2からRCへのバージョンアップでは、大幅な変更はないようです」(イースト 下川氏)。

 「このサービスはインターネットで公開していますので、ぜひともどんどん試してみてほしいです。ただ残念なのは、あくまでパイロット・プロジェクトであり、検索できるデータも限定的なことです。もう少しいろいろなデータを取得できると面白いのですが……」(イースト 下川氏)。

PDC 2001の報告

 この座談会開催からさかのぼること約2週間、2001年10月22〜26日にわたり、米ロサンゼルスにて、Windowsプログラマ向けの恒例行事であるProfessional Developers Conference(PDC 2001)が開催された(カンファレンスの詳細は別稿「Microsoft PDC 2001レポート」を参照)。このPDC 2001では、.NET My Services(開発コード名:ヘイルストーム)の詳細が明らかにされ、参加者に開発キット(.NET My Services SDK Technical Preview)が配布された。座談会はこのPDC 2001の直後であり、カンファレンスに参加したメンバも多かったことから、PDC 2001および.NET My Servicesに関する報告がなされた。

 .NET My Servicesの初お披露目とあって、その盛り上がりを予想してPDC 2001に参加したメンバもいたようだが、実際には、Webアプリケーション開発用などとして、より身近な話題であるASP .NETなどのセッションの方が人気を得ていたようだ。「出かける前はMy Servicesが目玉だと思っていたんですが、いざ参加してみると、My Services関連のセッションを聞いている参加者は思ったほど多くはなく、むしろASP .NETなど、直近のソリューションに関するセッションでは立ち見がでるなど、予想外の展開でした。やはり忙しいプログラマにとっては、あくまで現業が最優先で、My Servicesはその先、という感じでしょうか」(デジタルアドバンテージ 遠藤)。

 このPDC 2001で配布されたMy ServicesのSDKには、My Servicesを使ったクライアント・アプリケーションを開発するためのキットばかりではなく、My Servicesサーバを構築するためのソフトウェアも同梱されている。これは、作成したMy Servicesクライアントのテストをローカル・ネットワークで可能にするためのものだ。「最終的にはインターネット上で各種のMy Servicesサービスを利用できるようになるのですが、これはまだ存在しませんから、クライアントを作成してもテストすることはできません。My Servicesサーバは、このテストを可能にするためのものです。ただしMy Services SDKを使用してアプリケーションを開発するには、英語版のVS .NET RC版が必要で、かつWindows 2000 ServerとSQL 2000 Serverの双方が必要になります」(マイクロソフト関係者)。

 なお、この.NET My Services SDK Technical Preview版は、2001年12月17日から開催された.NET Developers Conference 2001で参加者に配布された(詳細は別稿「Insider's Eye:.NET Developers Conference 2001が開催」を参照)。

 現実のサービスという意味では、まだ先が見えない.NET My Servicesだが、前出のイーストにて、現場でプログラム開発に携わっているイースト コミュニケーション事業部の渋谷誠氏によれば、Webサービスの扱い方さえ知っていれば、プログラミング自体はそれほど難しくはないらしい。「PDC会場の一角に、.NET My Servicesの開発環境をインストールしたPCが自由に使えるように開放されており、ちょっと触ったところでは、.NET My Servicesをプログラムから呼び出すこと自体は非常に簡単で、他のWebサービスを呼ぶ方法とあまり変わらないようです。SOAPヘッダに若干新しい情報が追加されているようですが、それらはクラスによってラップされており、プログラマがその違いを意識する必要はありません。実際にインターネット上でMy Servicesのサービスが開始されれば、プログラムがこれに対応するのは容易だと思います」(イースト 渋谷氏)。

 コンピュータ業界の人々にとって最も気になるのは、.NET My Servicesのように、ネットワークでサービスを提供するというビジネスモデルが本当に成立するのかということだろう。@ITを始め、少なくとも現状のWebベースの情報提供サービスは、ネットバブル崩壊の影響で収益の柱である広告収入が伸び悩み、かといって利用者に対する課金はままならないという状況である。.NET My Servicesのようなしくみは技術的に可能だとして、それはマイクロソフトのような大企業が基幹ビジネスとして運営するようなビジネスモデルを確立できるのだろうか? これに対しマイクロソフト デベロッパー・マーケティング本部 デベロッパー製品部長の安藤浩二氏は、まずはサービスを利用する企業側から課金することを検討中だと述べた。「最初はサービスを利用するエンド・ユーザーや、ソフトウェア開発者から利用料金を徴収するのではなく、My Servicesのサービスや情報を利用して各種のビジネスを行う企業側から料金を徴収していきます」(マイクロソフト 安藤氏)。この詳細については、12月に開催された「.NET Developers Conference 2001 / winter」で同氏より発表された(詳細は別稿「.NET Developers Conference 2001が開催」を参照)。

参加者のWebサービスへの取り組み

 今回が初めてということもあり、座談会の最後は、参加者による自己紹介と、各人とWebサービスとのかかわりや期待について簡単に述べていただいた。本稿の最後に、この際に発言されたWebサービスに対する意見について、いくつかを掲載しておこう。

  • 「現在はASPなどを使って業務システムを開発しているが、Webサービスが軌道に乗るなら、Webサービスでやっていこうと考えている」(ソフトウェア開発)
  • 「現在は.NETとは遠いところにいるが、大いに興味があり、勉強していきたい」(大手メーカー)
  • 「Webサービスの黎明期にプログラマの人たちがこれをどのように考えているのかを知りたいと思ってやってきた」(ソフトウェア開発)
  • 「これからのソフトウェア開発がどうなるのか興味があってやってきた。Webサービスのバージョン管理の問題には興味津々」(大学生 研究職)
  • 「Webサービスは面白いと思うが、実際に仕事に使えるのか心配。業務で使うには、『システムが落ちてしまいました』では済まされないので、特に信頼性に注目しています」(ソフトウェア開発)
  • 「Webサービスの意義は、異なる言語で記述されたプログラム同士が連携できるところだと考えています。しかし残念ながら、現時点では異なる環境での相互運用性は確保されておらず、うまく接続できないケースがほとんどです。この点が早く改善されるとよいと思います」(大手ソフトウェア・メーカー)End of Article
関連記事(Insider.NET内)
Microsoft PDC 2001レポート
.NET Developers Conference 2001が開催
 
関連リンク
Webサービス実験サイトのページ
WebDictionaryのホームページ
イースト/JTB
Business Travel Systemのホームページ
 
 

 INDEX
  NetDictionary 第1回 オフライン・ミーティング・レポート
    1.NetDictionaryの現状と今後
  2.イーストの辞書関連プロジェクト
 
 特集 :NetDictionaryプロジェクト


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