若者よ君に未来はある

Advanced IT School
学長 川俣 晶
2001/06/16

世界は行き詰まっているか?

 筆者は「モデルグラフィクス」という模型雑誌(大日本絵画社刊行)を毎月買っている。普段からモニター画面の平面に描かれた世界ばかり見ている筆者としては、立体物を見るのはよいリハビリになるためだ。また、プラスチック・モデルを自分の手で組み立てると、コンピュータが何でも支援してくれる最近のプログラム開発とは違った、手作りの味というものが感じられる。

 そのモデルグラフィクスの2001年7月号に、横縞みゆきさんという人が作成した機動戦士ガンダムに登場するロボットの「ザク」の作例が掲載された。量産兵器なら量産するために作りやすい形状になっているはずだ、という信念によりプラスチック・モデルの悪役ロボットらしい形状を、量産される工業機械のようなラインに作り替えてしまったのである。その結果、いかにも実在しそうなリアル感溢れる模型に仕上がっている。それを見て、筆者はいたく感動したのである。筆者がロボットの模型に感動することなど、ほとんど皆無に等しいから、これは大珍事と言ってよい。しかも、ガンダムといえば、今のプラスチック・モデル・ブームの主流をなすジャンルで、すでに20年間、山ほどの作例が作られてきたのである。何度も商品はリニューアルされ、現在はただ組むだけで格好よくできると言われているぐらいの成熟ジャンルである。にもかかわらず、未だに鮮烈な衝撃を与えてくれるような作品が作れると言うのはどういうことなのか?

 筆者はこう考える。行き詰まった成熟ジャンルこそ、突破のチャンスに満ち満ちているのではないか? 誰もができない、やる価値がないと思っている場所にこそ、真のチャンスは眠っているのではないか?

若者よプログラムを書け!

 1990年代に入ってから、ソフトウェア業界は行き詰まりを見せていると言われている。どのジャンルも有力ブランドの独占状態が続き、新規参入でシェアを奪うのは難しいという。そのうえ、現在の有力ブランドの多くはアメリカの本拠地を置く企業ばかりで、日本発でそれと張り合おうなどというのは無謀そのもの、と言われている。

 それに追い打ちを掛けるように、インターネットはサービスの時代に入ったとも言われる。つまり、プログラムを売る時代は終わり、これからはサービスを売る時代になったというわけである。これにより、従来はソフトウェア・ビジネスの主役であったプログラムが、サービスを補佐する脇役の地位に追いやられた感がある。

 では、もうプログラムを書くことなど無意味なのだろうか?

 そんなことはない。現在でも、プログラムに対するニーズは旺盛である。むしろニーズは拡大していると言えるだろう。ただ、すでにある有益なソフトと同じものへのニーズは減少している。例えば、Microsoft Wordで満足しているユーザーが、他のワープロソフトを望むことはない。1985年ぐらいなら、技術レベルが不完全であったため、自分が使うソフトに誰もが何らかの不満を持っていたので、新しいワープロソフトの提案は意味があった。だが、今は、そんな時代ではない。しかし、自分が使っているワープロと同じ機能を持ったソフトをいまさらほしがっていない、という事実を、そのまま新しいプログラムへのニーズがなくなったと思うのは早計だろう。

 ワープロの例なら、文書作成のニーズは多様である。けして、Microsoft Wordがすべてのニーズを満たしているわけではない。例えばDTDに沿ってXML文書を書く、というような用途にはあまり手助けにはならない。これからXMLが世の中に幅広く普及していくことを考えれば、XML文書作成ツールを開発して一山当てる、と言うこともけして夢ではないだろう。

 つまり、すでにあるプログラムと同種のものを作って儲けよう、という発想は無理があるが、別のプログラムへのニーズもなくなったと言うわけではないのである。

若者よウェブをデザインせよ!

 最近行き詰まっていると言えば、Webデザイナの世界がそれに該当するように見える。Webデザイナーを名乗るのは簡単である。ちょっとHTMLの入門書をかじれば、あなたも明日からプロフェッショナルなWebデザイナだ。もちろん、こんな安易な方法でWebデザイナを名乗ったところでよい仕事ができるはずがない。だが、発注側もよいウェブページと悪いウェブページの違いが分かっていないので、何となくそれで通ってしまうことも多い。そのため、真面目にレベルの高いWebデザイナを目指すことが馬鹿馬鹿しく思えることもあるだろう。きちんとしたデータ構造を設計したり、W3C標準に合致させたり、身障者のアクセスに配慮するよりも、見た目が派手な画像データを1個作る方が仕事を取れる確率が高いのでは、見かけ倒しに走りたくなるのも無理はない。

 ところが、いざウェブ・デザインを発注する側の立場に立ってみると、見た目が派手というのは、とりあえず最初の取っ掛かりにはなるのだが、だんだんと欲求がエスカレートしてくる。システムが高度になってくると、ウェブ・システムは、通常のソフトウェア開発に近い領域に入っていく。つまり、大量のスクリプトサーブレット・プログラミング、データベース連携、さらにはXMLなどが必須要件となる。また、品質の問題も重要になってきて、とりあえず担当者のパソコンできれいに見えればよい、というレベルでは許されなくなり、主要なWebブラウザのどれを使っても正しく表示できることが要求される。そうなってくると、逆に、本当に必要な仕事をしてくれるWebデザイナが必要とされるのだが、今の状況だと、単に見かけが派手なだけのWebデザイナと技術のあるWebデザイナの区別が付きにくく、困ってしまうのである。

 つまり、見かけ上、いい加減なWebデザイナばかりに見えても、本物の技術力と見識を備えたWebデザイナに対するニーズは間違いなく存在する。問題は、そういうデザイナと、彼らに仕事を発注したい者達の間に接点がないことだろう。だが、足りないのは接点であってニーズではない。もちろん、発注側の目はこれから肥えてくるだろうから、いい加減なWebデザイナへのニーズが減ることはあっても、本物のWebデザイナへのニーズが減るとは考えにくい。発注側の立場から言えば、本物のWebデザイナが増えていい加減なWebデザイナが淘汰されることは、歓迎すべきことだ。Webデザイナが過当競争の今だからこそ、本物のWebデザイナになるためのチャレンジのときではないだろうか?

若者よ君に未来はある

 ここで取り上げた以外のジャンルでも、ほんの少し視点をずらせば、まだまだ可能性が見つかるかもしれない。あきらめるのはまだ早い。若者よ君に未来はある! 成功の保証はできないが、チャンスはきっとある。

 要は成功者の背中を追わないで、自分の道を切り開くことである。チャンスは他人が成功した後ろにはない。むしろ、他人が失敗している領域の物陰にこそ転がっているものではないだろうか?

 なお、今回は「若者よ」と書いているが、その理由は「何となく語感がよい から」でしかない。どんな年齢の人でも、自分に向けられたメッセージだと思っていただいて問題ない。心が若ければ、チャレンジに年齢は関係ない。 End of Article


川俣 晶(かわまた あきら)
 株式会社ピーデー代表取締役、株式会社サンブリッジテックユー取締役 Advanced IT School学長、日本XMLユーザー・グループ代表、日本規格協会 次世代コンテンツの標準化に関する調査研究委員会 委員、日本規格協会XML関連標準化調査研究委員会 委員。1964年東京生まれ。東京農工大化学工学科卒。学生時代はENIXと契約して、ドラゴンクエスト2のMSXへの移植などの仕事を行う。卒業後はマイクロソフト株式会社に入社、Microsoft Windows 2.1〜3.0の日本語化に従事。退職後に株式会社ピーデーの代表取締役に就任し、ソフトウェア開発業を始めるとともに、パソコン雑誌などに技術解説などを執筆。Windows NT、Linux、FreeBSD、Java、XML、C#などの先進性をいち早く見抜き、率先して取り組んできている。代表的な著書は『パソコンにおける日本語処理/文字コードハンドブック』(技術評論社)。最近の代表作ソフトは、携帯用ゲーム機WonderSwanの一般向け開発キットであるWonderWitch用のプログラム言語『ワンべぇ』(小型BASICインタプリタ)。

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