特集:クラウド体験記(後編)

体験してみて分かった“雲”の違い

シグマコンサルティング 橋本 圭一
2009/04/14
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3. まとめ(体験してみて分かったこと)

 以上、4つのクラウド・サービスについて、アカウントの取得から、アプリケーションの実装、配置までを実際に行ってみた。この体験を通じて分かったこと、感じたことを以下にまとめる。

「クラウドの波はすでに押し寄せている」

 Salesforce CRMのシステム構築の容易さは衝撃的だった。簡易な業務システムであれば、もはやプログラマーは不要となる。エンド・ユーザーが求めているものは、ソフトウェア自体ではなく、ソフトウェアによって実現されるサービスである。従って、そのサービスを利用するに当たり、構築期間が少なく、初期コストが少ないというのは、何よりのメリットになるだろう。また、Google Appsはコラボレーション・ツールとして、メールやドキュメント、社内のナレッジ管理に非常に優れている。Google Appsのデータを扱うAPIも提供されているので、Google App EngineでGoogle AppsのAPIからデータを取得し、自作のグループウェアを作ることも可能だ。

 このようなSaaS型クラウド・サービスは、導入プロセスが低コストで済み、自社でサーバを管理する必要もない(SaaSについては前編を参照)。これにユーザー・メリットを見出した企業は、すでに次々とSaaSの採用を始めており、徐々に皆さんの回りでも話を聞く機会が増えていくと思う。エンド・ユーザーはメリットに従うため、低コストで利用できる汎用的なシステムへの流れは止めることができない。

 業界や機能にもよると思うが、ユーザー企業においては、システムを自社開発する機会がが減り、インターネット上にある既存のサービスを活用・導入するような機会が増えてくるだろう。こういったパラダイムシフトに対し、これまでエンド・ユーザーの要求するシステムを作り上げてきたエンジニアは、クラウド・コンピューティングという新しい環境を自らの視点で評価して、今後、ソフトウェア開発業界にどういった変化が生まれるのかについて、いま、考えるのもよいのではないだろうか。

「クラウド事業者の得手不得手が分かれ、すみ分けが行われる」

 今回の一連の体験から、それぞれのサービスの用途を考えてみると、Google App EngineやForce.comは非常に用途が絞られていることが分かった。Amazon EC2は用途に特化していないので、自由度が高く、使えるOSや開発技術の選択肢も広い。しかしながら、今後クラウドへのニーズや要求が多角化した場合、Amazon EC2ではそれに対応する機能(例えばデータ連携など)を自前で用意する必要性に迫られることになる。一方、Windows Azureは、エンタープライズ機能(例えばディレクトリ・サービスやID管理との統合など)も積極的に投入しようとしているので、特にエンタープライズ・システム系の用途には有利となるはずだ。

 このように、クラウドはその利用が1社に集中するのではなく、ユーザー・メリット(用途)に応じて使い分ける形になると思われる。そうなると、社内システムとクラウドの連携はもちろん、クラウド間のデータ連携が1つのポイントになりそうだ。こういった意味合いでGoogle AppsとSalesforce CRMが提携しているのは、大きな意味がありそうだ。今回紹介していないクラウド事業者も含めて、どのような勢力図が生まれるのか、今後の展開に注目したい。

「使ってみて分かる不便 ― 雲は万能ではない」

 グーグルのサービスというと、検索エンジンと同じように、Google App Engineのパフォーマンスも良さそうだというイメージがあるが、実際にGoogle App Engineを(日本から)利用した場合、思ったようなパフォーマンスが出ないことがあった。特に、画像などのファイルのダウンロードが遅くなる場合がある。同様にAmazonでもファイルのダウンロードが遅い場合がある。

 やはりクラウドといえども、そのデータ・センターがどこにあるのか(つまり日本・アジアにあるかどうか)は、把握しておく必要がありそうである。また、作成したアプリケーションのセキュリティやSLA(サービス・レベル契約)に関しても、どの部分はクラウド事業者に、どの部分はサービス作成者側に責任があるのかといった点で注意が必要になるだろう。

「エンジニアにとっての金鉱なのか?」

 セールスフォースでは、パートナーシップを結べばAppExchangeというサービスで自作のアプリケーションを公開および販売できるようなので、便利な業務アプリケーションを作り販売してひと稼ぎというのも夢ではないだろう。クラウド・プラットフォーム上に公開したアプリケーションの課金モデル提供に関しては、ほかのクラウド事業者でも、ぜひ検討してもらいたいものだ。

 現状では、クラウド上で利益を得られるのは、SaaS型のサービスを多くのユーザーに提供できる企業というイメージがあるが、例えばWindows Azureでクラウド・アプリケーションを作る際に、その構築を容易にするようなサービスを作ったり、もしくはクラウド間のデータ連携など、クラウドの使い勝手を高め、住みよい場所になるように貢献したりする企業も、その利益を得ることができるのではないかと思っている。

 また、SIerに関しても、ユーザーからの要求を待つのではなく、例えば特定の業界でデータを共有できるようなシステムをクラウド上に構築して、ユーザー企業のコスト削減を行う提案をするなど、提案型のソリューションに対するニーズもあるかもしれない。

「エンジニアの協力で住みよい“雲”ができる」

 クラウド・コンピューティングが単なるバズワードなのか、結局のところ廃れていく運命にあるのかは、われわれエンジニアにとってあまり関係がないと筆者は思っている。というのも、コスト面でメリットがあるというのはすでに明らかであり、メリットを感じた企業はすでに取り組み始めているからだ。

 また、現状はクラウド黎明(れいめい)期ということもあり、今後クラウド基盤提供者が思ったような展開を見せない場合があると思われる。というのも、実際のところクラウド基盤提供者が初期時点で提供してくるサービスは、エンジニアやエンド・ユーザーにとって、いまひとつ分かりにくく、いまひとつ不便なところが多いためだ。こういった点をハックし、使い勝手を高め、スタンダードな使い方を決めていく役割がエンジニアに期待される。

 クラウドが、単なる安いインターネット・ホスティングで終わらないためにも、エンジニアと協力のうえ、“雲”に付加価値を作ってほしい。Windows AzureでもGoogle App Engineでも、使い勝手を向上するような部品やAPIは、実際に利用して不便を感じたエンジニアから生まれるはずだし、そういった改善を行える、もしくは問題提起ができるエンジニアのコミュニティを作ることが、クラウド事業者としての成功要因の1つになるだろう。

 こういった点からも、“雲”の発展にエンジニアの協力は欠かせないはずだ。今回取り上げたようなクラウド基盤提供者には、ぜひともエンジニアに優しいクラウドを目指してもらいたい。また、エンジニアの皆さんには、事業者が思い付いていないような使い方をぜひ見出だしていただきたい。

 ちなみに弊社(シグマコンサルティング)では、クラウド・コンピューティングの勉強会を随時開催しており、ぜひ機会があればクラウド・コンピューティングに興味のある方々と意見を交わしたいと考えている。この不況で、企業のコスト削減など、情報部門の本質的な存在意義が強く求められるようになってきている。そういった意味でも、本当に企業に貢献できるようなエコシステムを見出し提案し、システム業界への投資を活発化させましょう。End of Article

 

 INDEX
  特集:クラウド体験記(前編)
  エンジニア視点で比較する“雲”の違い
    1.2009年はクラウド元年/あなたは、どのクラウド?
    2.実際に使ってみよう 「Google App Engine」
    3.実際に使ってみよう 「Force.com」
 
  特集:クラウド体験記(後編)
  体験してみて分かった“雲”の違い
    1.実際に使ってみよう 「Amazon EC2」
    2.実際に使ってみよう 「Windows Azure」
  3.まとめ(体験してみて分かったこと)


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