特集

.NET完全対応で生まれ変わったDelphi 8

泉 祐介
2004/06/26

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 Delphiは、主にWindowsアプリケーションの開発に利用されてきたRADツールで、ボーランド社の主力製品の1つだ。

 そのDelphiが.NETに完全対応して新しく生まれ変わった。本稿で紹介する「Delphi 8 for the Microsoft .NET Framework」(以下Delphi 8)である。

.NET完全対応のDelphi 8

 まずここで、簡単にDelphiの歴史を振り返っておこう。初代Delphiは、Win16アプリケーションを開発するためのRADツールとして1995年に登場した。その後すぐにWindows 95が登場したことに合わせて、次のDelphi 2では開発対象をWin16からWin32に移した。

 2001年には、DelphiをLinux環境に移植したKylixを発表し、それに合わせてDelphi 6からはLinux環境とのクロス・プラットフォーム開発も可能になった。

 そして今度のDelphi 8では、「for the Microsoft .NET Framework」という名前からも分かるように、.NET Frameworkに完全対応した。

 Delphi 8では、手続き型言語であるPascal言語にオブジェクト指向の機能を追加したDelphi言語*でプログラムを記述する。ボーランドのPascalコンパイラは、MS-DOS時代の製品であるTurboPascalのころからその驚異的なコンパイル速度で人気があり(しかもコンパイルされたコードの実行速度も速い)、その技術はDelphi 8においても生かされている。

* 当初はObject Pascalと呼ばれていたが、後にDelphi言語に改称された。

 また、VCL(Visual Component Library)と呼ばれるボーランド独自のライブラリの使いやすさにも以前から定評があった。後述するように、もちろんこのライブラリも.NETに対応したマネージ・コード版が提供されている。

 Delphi 8の製品ラインアップは、標準的な開発環境のProfessional版、企業向けのEnterprise版、アーキテクト向けのArchitect版の3種類となっている。Delphi 8でArchitect版が新たに追加された一方で、Delphi 7に存在した廉価版のPersonal版は姿を消した。

 Delphi 8 Architectでは、Delphi 8 Enterpriseと比べて、モデル駆動型の開発(MDA)を可能にするBorland ECO(Enterprise Core Objects)や、.NETアプリケーションにおけるパフォーマンス管理をサポートするBorland Optimizeit Profiler for the Microsoft .NET Frameworkなどの機能が追加されており、より大規模で信頼性の高いアプリケーションを迅速に構築できる。

 これらの各エディションの違いについての詳細は、次のWebサイトを参照していただきたい。

Borland - Delphi 8 for the Microsoft .NET Framework製品情報

 本稿では、ついに.NET対応言語の正式な仲間入りを果たしたDelphi 8の機能について、特にDelphiのメイン・ターゲットであったWindowsアプリケーション開発を中心に検証していく。

 まずは、Delphi 7からDelphi 8へのバージョン・アップによって変化したIDEのユーザー・インターフェイスから見ていこう。

変化したユーザー・インターフェイス

 Delphi 8を起動して最初に気が付く点は、IDEのユーザー・インターフェイスが大きく変更されていることである。次の画面がそのDelphi 8を起動したときの画面だ。

Delphi 8のIDE画面
ユーザー・インターフェイスが変更され、全体的にVisual Studio .NETと似たインターフェイスになった。また起動時には、[ホームページ]と呼ばれるVisual Studio .NETのスタート・ページのようなページが表示されるようになった。

 Delphi 8の画面を見て、Visual Studio .NET(以下VS.NET)のインターフェイスによく似ていると感じた読者も多いだろう。

 以前のバージョンまではフォームやコード・エディタ、オブジェクト・インスペクタ(プロパティなどを設定するウィンドウ)などのウィンドウはそれぞれ独立に表示されていたが、Delphi 8ではVS.NETと同じように、これらのウィンドウが1つにドッキングされて表示されるようになった。また、コンポーネント・パレットはツール・パレットに名前が変わり、その位置も画面右下に移動している。

 なお、ドッキングされたウィンドウの操作性はVS.NETと同じである。つまり、ウィンドウをドッキングさせる位置は自由に変更可能であるし、ドッキングを解除して独立したウィンドウにすることもできる。さらに、複数のウィンドウを同じ位置にドッキングさせれば、タブでウィンドウを切り替えられるようになる。

 このほか、起動時に[ホームページ]と呼ばれるページが画面中央のウィンドウに表示されるようになった。このホームページは、VS.NETのスタート・ページのようなもので、このページから最近参照したプロジェクトを開いたり、さまざまなドキュメントやリソースにアクセスしたりといったことが可能である。

 また、従来はリファレンスなどの各種ヘルプ・ファイルはWindows Help形式で提供されていたが、Delphi 8ではVS.NETのヘルプと同じHTML Help 2.0形式に変更された。

 ヘルプ・ファイルの内容を参照するには、マイクロソフト製のヘルプ・ビューアであるDocument Explorerを使用する(下図)。これはVS.NETなどに含まれるヘルプ・ビューアと同じものだ。

Delphi 8のヘルプ画面(Document Explorer)
Delphi 8のヘルプはVS.NETと同じHTML Help 2.0形式に変更された。

 コード・エディタには、新たにVS.NETのアウトライン機能と同等な機能が搭載されている。この機能により、手続きや関数、クラス宣言といった単位で、コードを折りたたんで隠すことができる。またDelphi 8では、Delphi言語に特有の単位である「インターフェイス部」、あるいは「実現部」といった単位で折りたたむこともできる*。さらに、「REGIONコンパイラ指令」を使えば、折りたたむ範囲を自分で設定することも可能だ。

* Delphi言語では、ほとんどのユニット(モジュール)がインターフェイス部と実現部から構成される(その後に初期化部と終了処理部と呼ばれる部分が続くこともある)。

 なお、キーボード操作に関しては従来とほぼ同じである。もっとも、キー割り当ては自由に変更可能であり、VS.NETライクなキー割り当てに変更するための設定もあらかじめ用意されている。

 それでは、Delphi 8で開発可能なアプリケーションについて見ていくことにしよう。

 

 INDEX
  [特集].NET完全対応で生まれ変わったDelphi 8
   1..NET完全対応のDelphi 8
     2.VCLフォーム・アプリケーションの開発
     3.VCLを.NET環境に移植した「VCL for .NET」
     4.Windowsフォーム・アプリケーションの開発
 


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