特集
女性エンジニアが本音を語る座談会

ソフトウェア業界で働く女性の実情とは?

座談会参加者:eパウダ〜
(聞き手、文責:デジタルアドバンテージ 一色 政彦)
2007/08/07

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女性エンジニアならではの苦悩

結婚してからの家庭と仕事の両立

―― では、ここらでまた話題を変えて、女性エンジニアならではの苦労話を聞いてみたいと思います。もちろんエンジニアという仕事に限らない話ですが、女性にとってプログラマーという職業は、結婚したときに家庭(=家事)と仕事を両立しやすいのでしょうか?

藤城 女性エンジニアの場合、意外と職場結婚されている方が多いのですが、そのように夫が同業者であれば、仕事に対して理解があるので、「こんな仕事をしているから家事も分担している」という人は多いです。

―― 逆にいえば、相手の理解がないと、女性でエンジニアというのは、結婚生活に際して難しい職業選択になるということでしょうか?

なおこ それは男の人にとっても同じだと思いますよ。男の人も毎晩徹夜したり、休日出勤したりしていると、パートナーが理解していなければ、「何でなんだろう?」と不信感を抱かれてしまうんじゃないかと思います。

山田 「浮気しているんじゃないか」と思われたり。

村岡 そういえば、きたみりゅうじさんの『Tech総研:SEが死ぬほど忙しいのは彼女もわかってくれるよね?』という漫画の記事で同じようなのがありましたよ。「浮気しているんじゃないか」と疑われ、一方的に別れを切り出されたって(笑)。

山田 だから「休日もスーツを着て行かなければいけない」っていう人がいたんですよ、わたしの周りに(笑)。

一同 (笑)

藤城 いたー、わたしの友達にも。

なおこ 奥さんがノイローゼになっちゃった人とかもいましたよ。

村岡 でもそれはプログラマーだけに限っての話ではないよね〜。

一同 う〜ん。

なおこ ただ忙しい業界には変わりはないですよね。納期直前はやっぱりそういう事態が起こりやすい。まぁ、納期直前にそうなるプロジェクトもどうかと思うんですけど。

一同 (笑)

藤城 何年か前に見た『anan』に「将来性がある男はどんな男か」というような特集があり、そこに「SEの男性」が挙げられていたのですが、その理由が「基本給は安いが残業代がけっこう良くて、家にはほとんど帰ってこないし、それでいて甘い物とかをよく食べるので中性脂肪がたまり、早死にする。早く未亡人になりたい人にお勧め!」とありました(笑)。

一同 あはは(爆笑)。それはひどい……。

山田 すごい偏見ですね。

未婚の女性エンジニアでもこんな苦労が……

―― あと、未婚の人でも、エンジニアという仕事は働く時間帯などで困ることも多いんじゃないでしょうか?

山田 仕事で何があるか分からないので、先の予定が立てにくいですね。例えば、2カ月後ぐらいに旅行に行こうと計画を立てても、直前にトラブルが発生したりして(笑)、行けなかったり。わたしの実体験だと、夏ごろに親を連れて北海道に行く予定を立てたんですが、旅行1週間前になって単体テストでバグがぽろぽろ出てきて「それじゃ、いっそ作り直しましょうか?」という話になってしまった。でもどうしても旅行に行きたかったので、かなり以前から上司に「行きたいんで、ここだけは空けさせてください」とお願いして、行く前日の夜中3時まで作業して「取りあえずここまでやったので帰ります」と告げて、タクシーで帰宅してお風呂に入って着替えて支度してそのまま寝ずに飛行機に乗りました(苦笑)。

村岡 あー、ありがち〜。

なおこ わたしは新婚旅行でそれをしたことがある。

一同 え〜!(爆笑)。

なおこ バグを放置して行ったんだけど、「誰か直してくれないかな」って……。

山田 ちょっと気に掛かっちゃうんですよね……。

なおこ でも帰ってきたら、そのままバグは健在で誰も手を付けていませんでした(笑)。

山田 わたしの場合、旅行先でやっぱり1回電話が来て、上司は本当に腰が低くて「本当に申し訳ないんだけど、ここだけ教えて」と。そこでちゃんと質問に答えたのですが、それでもわたしとしてはやっぱり気掛かりだったので、そのとき「何かあったら電話ください」とお願いしておいたんです。でも、本当に上司は旅行に気を使ってくれていたので、それ以降は全然電話がなくて、おみやげ買って会社に戻ったらちょっとすごいことになっていた(笑)。

一同 (笑)

村岡 戻ってすごいことになっているよりは、戻る前に心の準備ができていた方がいいよね。

山田 やっぱり事前にある程度の情報は欲しかったなと思います。

 心配で自分から電話をかけたこともありますね。きれいに片づいて旅行に行けると、それは気分がいいんですけど、何か引きずった状態で行くと気に掛かります。「すみません、この日は休むので」と言い残して行ってしまった場合、何か心の中にわだかまりが残る感じがしますね。

なおこ わたしの場合は新婚旅行だから、周りのみんなは(連絡が取れないと)あきらめていたみたいで……。一生に一度だし。

―― でもそれだけプロジェクトに深くかかわれるのは「やりがい」という楽しさもありますよね。

なおこ んー。きれいにまとめましたね。

一同 (笑)

子どもが生まれてからの育児と仕事の両立

―― ほかに、いま直面している「女性ならではの困っていること」ってありますか?

藤城 育児休暇や生理休暇など女性ならではの休暇を整備していない会社も多いので、「そういう休暇を取りたくても取れない、申請すらできない」ということはよく聞きます。

村岡 子どもが小さくて休職したり退職したりすると、ある程度子どもが育ってから復職しようとしても、仕事のレベルに付いていけないんじゃないかという心配はありますね。例えば子どもがまだ小さいと、「急に熱を出したから、保育園に迎えに来てほしい」ということがあるので、夫の協力が得られないと、自分ばかり負担がかかることになり、結果的に仕事も続けられなくなるので。

―― ということは、ソフトウェア業界は復職が難しい業界なんでしょうか?

藤城 逆にわたし戻りやすいのかなと思っていたんですけど、ほかの方はどうです?

 うちの会社は育児休職は取れるんですが、でも実際に戻ってきて働いている方は1人。皆さん戻るつもりで休職されるんですが、戻っても数カ月で辞めてしまう……。やっぱり家庭と仕事を両立できないみたいで。

藤城 そっか。大変すぎるんだ。

M うちの会社は事例がないんですよ。グラフィック・デザイナーさんらは育児休暇などあるようですが、女性のプログラマー自体が少ないので。

山田 本社で1人だけいます。育児休暇を取って復職し、そのまま役員になったという成功されたケースです。でもそれは、その会社で「初の『育児休暇からの復職』」らしいです。

―― ソフトウェア業界ならターミナル・サービスやリモート・デスクトップで自宅から会社のパソコンを操作して仕事をすることが可能だと思うのですが、そういう事例というのはまだまだあまりないんでしょうか?

藤城村岡 わたしはやっています。

山田 セキュリティと個人情報の関係で、逆に厳しくなりました。

藤城 それまではテレ・ワーキング(=在宅ワーキング)は増えてきていたんですが、セキュリティや個人情報が問題視されるようになって減少傾向にあります。特に大きな企業は持ち帰りは絶対に許さないように厳しさを増しています。

村岡 わたしの場合は、会社からリモートで接続するためのノートPCが支給されています。そのノートPCには一切データが入っていません。リモート・デスクトップで会社のPC画面につないで作業するので、データの持ち出しはあり得ないという形です。そういう形態で、在宅で仕事をすると、(結婚している女性にとっては)働きやすくなるんじゃないかな。

―― なるほど。

女性エンジニアに対する男性たちのこんな勘違い

お茶くみ担当は女性?!

―― ところで、先ほど話題に上がった内容で、「女性はこれまでの人生経験の積み重ねによってコミュニケーションには慣れていることが多い」というのがありましたが、逆にそれが手伝って「女性の方はお茶くみなどの雑用を頼まれやすいのかな」という気がするのですが、そのあたりはどうでしょうか?

村岡 お茶くみは断固拒否します。

一同 (笑)

山田 うちは女子社員が少なくて、事務の女性も少ないので、みんなで1週間交代のローテーションでお茶くみを担当しています。

藤城 そのローテンションには男の人も含まれるの?

山田 女の人だけですね。だけど、男の人もやってくれる人はやってくれる。そうじゃない人もいますが……。

藤城 人によるよね。

山田 ちょっと男性と女性で区別されているのかなっていうのは感じます。

―― どうしてそうなると思いますか?

藤城 わたしが実際に経験したわけではないけど、お茶くみなどを率先してやることで女性らしさをアピールする女性もいて、「その女性はやっているのに、自分だけやらないなんておかしい」という雰囲気になってしまう、という話はときどき聞きます。……まぁ、女性の一番の敵は女性ですからね(笑)。

一同 ははは(笑)。

藤城 自分のことは自分でやるのが一番いいんじゃないかなと思います。

M うちの会社の場合は、自分の飲み物は自分で用意します。女性がお茶くみなんてしていたら、部署にいる100人みんなに配らなければならなくなるし……。

―― むしろそっちの方が男性社員もやりやすいんじゃないでしょうかね。

藤城 中には「人にやってもらうと気を使うから自分でしたい」という男性もいますよね。逆に、男性上司に「しょせんは男の人が多い業界、つまり男性社会だから、そういうことが起こるのは当たり前だ」と説得されたという女性がいました。それでやっぱりお茶くみをお願いされ、そこではあきらめてやっていたということがあります。

山田 習慣ですよね。前から女性がお茶くみをしているという習慣があるだけ。ベンチャー企業などの新しい会社違うところが多いけど、歴史のある古い会社ではそういう習慣があるところが多いんじゃないかと思います。

なおこ わたしが以前勤めていたところでは、女性は総務にしかいなかったから、総務の人がおやつの時間になると、リンゴをむいて持ってきたりとか(笑)。

村岡 総務はそういう仕事をするポジションと定められているのであれば、しょうがないかなぁ……。

M ケーキの場合、女の子が切って、女の子だけで食べちゃう(笑)。

一同 あはは(笑)。それはある。

男性が勘違いしている女性エンジニアの気持ち

―― ほかにソフトウェア業界は男性社会だなと感じることはありますか?

村岡 わたしは開発だけでなく運用も携わっているのでサーバのメンテナンスを行うんですけど、そういう運用系ではマシンを扱う際に力仕事が発生することがあって、そういうときに「そんな力仕事は女性だからしなくていいよ」といわれたりします。ですが、そういうことがちゃんとできるから運用系に来ているので、そういう気遣いはしなくていい……。

藤城 その人の意思を無視して「女性だから」と決めつけだけで判断されることが、不満になっていることがありますよね。女性には不向きと思われる仕事でも「どう? やれそう?」と事前に相談してほしいです。「女性はできないから、やるよ!」と決めつけていわれるのは嫌だなと思います。「女性だから早く帰って」とか。

一同 いわれたー。

山田 それでけんかしましたもん。

―― 男性としてはレディ・ファーストでちょっとかっこつけたいところなんですが……(汗)。

藤城 「どうですか?」って聞かれるならいいんですけど……。

―― 基本的なところで意思疎通できていないってことですね。

村岡 よかれと思ってやってるんだけど、「でも君の方が腰を痛めてるでしょ」みたいな(笑)。

藤城 残業をせずに早く帰るといこうとは、仕事にかけられる時間が短くなるということ。だから、ものすごく頑張って人よりも早く仕事を終わらせないと、人並みに仕事ができなくなったりとか、結局そういうところにしわ寄せが行っちゃうんですよ。

―― ああ(汗)。

藤城 家が近かったり、駅から遠くなかったり、家族に迎えに来てもらえたりして、別に危なくはない女性もいるわけですよ。なのに20時以降はダメといわれて帰されたりとかします。

 という話を、先ほど出た「Women in Technology」で話したら、「ああ、わたしもそうです!」という人はいましたよ。そしたらそこには男の人もいたので、その人は「やべぇ。おれ、いっちゃったことある(汗)。これからは気を付けます」っていっていました(笑)。

一同 (笑)

―― 男性の心理として「ちょっと心配」というのも分からなくはないですけど。

藤城 そうですね。実際に、女性の中には毎日夜12時まで残業させられて、その人は暗い道を歩いて帰らなくちゃいけなかったから、「すごくそれが嫌だ」といっていた女性もいました。

―― やはり決めつけじゃなくて、「帰宅したいか」「もう少し遅くまで頑張りたいか」というようなことを聞くなりしてコミュニケーションをきちんと取ることが大事ですよね。だけど、どうやってコミュニケーションを取ればいいんでしょうか?

村岡 グループウェアでアピールしたり。

藤城 チームで仕事をするんだったら、上司が部下の状況を把握するというのは絶対に必要なことなので、そのためのコミュニケーションを取る時間というのはきっとあると思います。そのときに、上司がひと言いってあげたり、聞いてあげたりすればよいと思います。例えば、「若い独身男性」と「小さな子どものいる既婚男性」では、まったく「帰りたい度/残業したい度」が違うだろうし。男性/女性にかかわらず、上司が降りてきていってあげなくちゃいけないんじゃないかなと思います。

山田 きっかけを与えてほしいですね。チーム・ミーティングは、ただ単に作業報告と作業指示にとどまっていますが、それ以外の現在の状況なども考慮してほしいなと思います。もちろん、あまりプライベートに踏み込むのはよくないと思うのですが、「残業しても大丈夫?」などを上司が声を掛けた方が、部下も意思を発言しやすいんじゃないでしょうか。

藤城 それは女の人だけじゃなく、男の人に対しても行ってほしい。平等にやってもらう方が「女性ばかりひいきしている」といわれなくて気が楽。女性だけ呼んで聞かれると同僚男性に対して遠慮しなくちゃいけなくなるし。

―― 部下が女性の場合、男性の上司は女性の部下にどう接してコミュニケーションを取るべきなのかという不安があると思うのです。そういうとき、どのように接してもらいたいのでしょうか?

藤城 「女性として扱われたい人」と「男性と同等に扱ってほしい人」がいるので、まずはその人の個性を見極めることが一番のポイントのように感じます。

―― 難しいですね(笑)。

村岡 まんべんなくいろんな人とコミュニケーションを取ってもらって、その人の考えなりを把握しようとすることは大切だと思います。「そんな時間ないよ」という人もいると思うんですが、でもそれが一番の近道になると思います。

女性がエンジニアになるメリット

―― それでは時間もなくなりましたので、締めくくりとして、エンジニアを目指している女性に向けて、エンジニアになるメリットを聞かせてもらえますか?

村岡 ほかの仕事と違い、「自分で頑張ってスキルを上げていけば、いくらでも上がる」ところですね。もちろん個人個人のセンスもありますが。わたしのようにプログラミングに対するセンスがなくても、運用をやったり、ネットワーク管理をやったり、SQLデータベースの構築をやったりと、道がどんどん広がっていきます。やっただけのことが、必ず何らかの形で評価される世界だと思います。あきらめないで続けることで、いろんなことができる職業であると思います。

藤城 一般的に、女性は結婚・出産をすると二度と会社に戻ってこないケースが多いので、基本的に会社で女性は出世できないじゃないですか。だけどソフトウェア業界は、1回結婚・出産した後で「また働きたい」という方に対して比較的門戸が広い業界だと思います。また山田さんの話にあったように、休職する前に復職する意思を示しておけば、復職後に出世して役員になったりする道が開けてくる可能性もあると思います。そういう結婚した後も働きたいという女性にはお勧めの職業だと思っています。

―― いろいろと勉強になりました。今日はどうもありがとうございました。

 ソフトウェア業界は今後もまだまだ発展していくと思われるが、そこには優秀な人材は不可欠であり、そのようなエンジニアに男性/女性という区別はないだろう。つまり、女性エンジニアはますます増えていくはずだ。

 また今後は、Windows Vistaの登場などによってグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)が3次元化して美しくなるなど、ソフトウェア世界の中でもデザイン性の追求がより高まっていく可能性が高い。実際にそうなると、ソフトウェア開発においても、「デザイナー」と呼ばれる女性が多い職種の人たちとのコミュニケーションもおのずと増えてくるはずだ。

 そのような流れの中で、女性は「エンジニアという仕事をしながら人生を生きていく」ということについて、男性は「女性とうまくコミュニケーションを取りながらソフトウェア開発をしていく」ということについて、この記事をきっかけにまじめに考えてみてはいかがだろうか。ソフトウェア業界が女性にとって就きたい職業の上位に挙げられるようになればいいなと筆者は願っている。End of Article

 

 INDEX
  [特集]女性エンジニアが本音を語る座談会
  ソフトウェア業界で働く女性の実情とは?
    1.女性にとってのソフトウェア開発という仕事
    2.開発で生かされる女性の感性/盛り上がる女性エンジニア支援
  3.女性エンジニアの苦悩/男性たちのこんな勘違い


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