エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本
第3回
今回のエキスパート:丸山龍一郎氏

遠竹智寿子
2001/7/28

 「最前線で必要なスキルとキャリアを知る!」でインタビューしたITエンジニアに、自分のスキルとキャリアを語るうえで欠かせない本を挙げてもらった。その本について熱く語るITエンジニアの姿から、ITエンジニアの仕事への情熱が本を通して垣間見えるはず。

 今回お聞きしたのは、ストーンソフト・ジャパン ネットワークセキュリティーマネージャーの丸山龍一郎氏。

 丸山氏のキャリアの前半ではUNIX開発者としてスキルを積み、後半ではインターネットセキュリティの世界に魅せられ、現在その分野のスペシャリストとして活躍する丸山氏。インタビュー時にも常に“エンジニア気質”を感じさせてくれた彼は、「本は、あくまでも参考書だと思っています。本の受け売りではなく、自分なりに理解して関連付けていかないと難しいですから」といいながら、これまで参考としてきた本を挙げてくれた。

  BSDの内部構造からUNIXの基本を学んだ1冊

The Design and Implementation of the 4.4BSD UNIX Operation System

Keith Bostic著
Addison Wesley Publishing Company
1996年
ISBN0-201-54979-4
59.95ドル

 AT&Tベル研究所で開発されたUNIXをカリフォルニア大学バークレー校の研究者が改良したものがBSD(Berkeley Software Distribution)だ。BSDは、Linux の設計(特にソケットやネットワーキング)にも多大な影響を与えたOSである。

 本書は、4.4BSDの内部構造と機能を実装するうえで採用された概念、データ構造、アルゴリズムについて解説している。UNIXやBSDについてある程度知識を持った中級〜上級者向けのバイブル本。なお、日本語版は、BSD 4.3ベースの(『UNIX 4.3BSDの設計と実装』)(出版社)が刊行されたことはあるが、現在は絶版のため入手できないようだ(注:写真は4.3のもの)。

丸山氏:
 丸山氏が読んだころは、BSD4.4ではなく、BSD4.3ベースだったという。「DEC(日本ディジタルイクイップメント)入社後、教育部の人に勧められた1冊です。当時は英語版しかなかったので、読むのに多少苦労しましたが、BSD系の基本については、とても参考になりました。同じ部署のエンジニアは、みんなこの本を読み、“悪魔本”と呼ぶほどの基本書でしたね

  TCP/IPの基本はこの1冊から

TCP/IPネットワーク管理 第2版

クレイグ・ハント著、村井純監訳
オライリー・ジャパン
1998年
ISBN4-900900-68-0
5800円

 UNIX全般のTCP/IP解説書として、ネットワーク管理者に定評のある1冊。UNIXサーバでTCP/IPネットワークを構築する際の基礎から応用まで、詳細かつ実用的な解説が掲載されている。基礎編ではネットワークサービスの概要を、応用編ではネットワーク計画、カーネル設定、ネットワークインターフェイス、それにハードウェア部分も含め、ていねいに説明されている。トラブルシューティングやネットワークセキュリティの話題も盛り込まれた、TCP/IPの基本の1冊。

丸山氏:
 「TCP/IPの基本的な概念から、ネームサービスのようなインターネットを構成するアプリケーション、さらにはセキュリティ、トラブルシューティングまで、広範囲をカバーしているので、TCP/IPの入門書としてお勧めできる本ですね。この本を熟読した後で、さらに高度な本を読むのがいいと思いますよ

  診断ツールを使った実際の動作からTCP/IPを学ぶ

詳解TCP/IP Vol.1 プロトコル

W.リチャード・スティーヴンス著、井上尚司監訳
ピアソン・エデュケーション
2000年
ISBN4-89471-320-9
6000円

 TCP/IPプロトコルを解説した書籍の決定版。日本語版は、以前ソフトバンクから出版されていたが、その改訂版が本書。原著の英語版の同シリーズには、Vol.1のほか、Vol.2とVol.3が刊行されている。同シリーズがユニークなのは、ほかのTCP/IP関連の書籍のような単なる解説書ではなく、診断ツールを使って実際のプロトコルの挙動を観察し、解説するという手法を用いている点である。さまざまな状況下での各プロトコルの動きを見ることで、その働きや設計意図への理解を深めることができる。

 なお、Vol.3はアジソン・ウェスレイ・パブリッシャ-ズ・ジャパン(発売元は星雲社)から『詳解TCP/IP Vol.3 トランザクションTCP、HTTP、NNTP、UNIXドメインプロトコル』(ISBN4−7952−9717−7)として発売されている。ソケットを詳細に解説したVol.2は、2002年にピアソン・エデュケーションから刊行される予定で、これでようやく同シリーズすべてが翻訳されることになる。

丸山氏:
 「基本を押さえるための1冊として、『TCP/IPネットワーク管理』を読んだ後、『TCP/IP Illustrated』でプログラミングの詳細を勉強しました。ぼくが読んだころは日本語訳が出ておらず、英語で分厚い2冊(当時はまだVol.3は出版されていなかった)を読みましたが、ネットワーク関連のエンジニアにはぜひVol.1とVol.2をセットで熟読していただきたいですね。プロトコルの実装化部分も比較的容易に理解することができると思います

  ベンダや製品に依存しないファイアウォールの基本書

ファイアウォール構築 インターネット・セキュリティ

D.ブレント・チャップマン、エリザベス・D.ツイッキー著、鈴木 克彦訳
オライリー・ジャパン
1996年
ISBN4-900900-03-6
5200円

 インターネットを利用する際にシステム管理者の重要な課題となるインターネットセキュリティ。本書は、現実的かつ効果的なセキュリティ手段とされるファイアウォールの概念から、その設計と構築までを解説している。なぜファイアウォールが必要とされるのかという基本的な説明から、パケット・フィルタリング、プロキシシステム、インターネットサービスの設定、維持管理やセキュリティ事件への対応まで、各サイトに適したセキュリティ構築実現に必要なノウハウがまとまっている。

丸山氏:
 「DEC時代にシステム管理の本を書いた知人がいて、彼にこの本の英語版を見せてもらい、後で日本語版を購入しました。いろいろとある“ファイアウォール本”の中でも、内容と分かりやすさの点でお勧めの本です。ファイアウォールは、製品に特化した内容の書籍が多いのですが、この本はそうではなく、製品に依存していない基本的なことを教えてくれます。特に参考となったのは、ファイアウォールのアーキテクチャで何がいいのかという部分とプロトコルについてですね

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