チャプター・イレブンを連発する米IT企業 ITバブルの後始末も本番にIT Business フロントライン (55)

» 2001年10月12日 12時00分 公開
[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

 この秋、米IT業界には良くない知らせが相次いでいる。インターネットデータセンター大手のエクソダス、総合ポータルサイトサービスとブロードバンド接続サービスを提供していたエキサイト・アットホームが相次いでチャプター・イレブンを申請したニュースは、日本でも驚きをもって受け止められた。同時多発テロの勃発、それに対する報復の開始と、米国ではいま、明るい話題に乏しい。景気減速にも拍車が掛かり、株式市場も元気がない。IT系ベンチャーが株式公開による巨額の資金調達を実現し、赤字でも日々株価の高値更新が話題になった「ITバブル」は遠い過去だ。

経営再建を目指すチャプター・イレブン

 ただ、日本で一般に受け止められている連邦破産法11条、いわゆる「チャプター・イレブン」の申請が、イコール「破産」「倒産」という見方は正しくない。チャプター・イレブンとは、米国における会社経営再建のための法的手続きの1つで、現在の事業経営を継続することを前提としている。日本でいう「破産」「倒産」に相当する手続きは、米では連邦破産法第7条、いわゆるチャプター・セブンのほうである。

 チャプター・イレブンに沿った経営の建て直しはあくまで現経営陣が中心で、債務者からの合意が得られれば、その経営陣の再建案が実施される。債権回収や訴訟はすべて停止されるため、経営再建に専念できるというわけだ。現在の会社や事業の「息を吹き返させる」という大きな狙いのため、経営再建を短期間で主導的に推し進める経営戦略上の強力な選択肢の1つとして考えられている節もある。

再建といってもさまざま

 例えばエキサイト・アットホームのケースでは、利益を上げていたブロードバンド事業は3億700万ドルでAT&Tに売却することが決まった。債務は事業売却益などで清算し、エキサイト・アットホーム自体はAT&Tに吸収される方向だ。この場合、ポータルサイト事業は広告の激減などで黒字化が見込めないため、エキサイトの消滅とともにサービスが終了となる可能性が高い。これらの計画を決定したのは、現経営陣だ。

 興味深いケースもある。7月にチャプター・イレブンを申請したメトリコムは、高速無線インターネットサービスを提供していたが、加入者が伸びずに事業の再建計画を立てざるを得なくなった。ところが9月のテロの影響で既存インフラが寸断されてしまい、皮肉なことに利用者が急増しているのだという。これなどは、チャプター・イレブンによる事業継続の道を探るうちに「風向きが変わった」ケースといえるだろう。

 もっとも、多くの場合はオンライン・スーパーマーケットのウェブバンのように、チャプター・イレブンで資産を保全したものの、事業そのものは停止し、会社も消えてなくなってしまう。不採算事業というのはそういうものだ。

早期の撤退が早期の復活を生む

 また、チャプター・イレブンの適用には企業業績を悪化させた経営陣の責任を不問にしかねない、いわゆる「モラル・ハザード」のまん延につながる可能性もある。実際に、経営再建中にも経営陣がこれまでどおりの報酬を受け取っていたり、事業の売却で経営陣が明らかに会社に不利な判断をしてしまっても、債務者が文句をいえないケースがあった。経営を悪化させた張本人たちが経営のいすに座り、再建の旗を振ることに違和感を覚える日本人も多いと思う。

 ただ、米国では株主の権利が日本とは比べものにならないほど強く、株主からの経営に対する異議申し立ても自由だ(株主訴訟の多さはその証拠といえる)。株主が「チャプター・イレブンを申請するような経営陣は無能だ」と判断すれば、経営陣の退陣を求めることも可能なのである。

 考え方の違いはもう1つある。米国では起業家が倒産を経験したからといって、落後者のらく印を押したりはしない。むしろ、失敗は良い経験と受け止められるし、一度破産した経営者が次のチャンスにチャレンジしようとすれば、それは「バイタリティーがある」とすら受け止められる。チャプター・イレブンの申請ラッシュには、こうした社会の寛容さがあることも確かだ。「失敗を失敗と認め、速やかにやり直そう」という考え方は、米国社会には確かにフィットするのだと思う。

 しかし経済にも(もちろん経営にも)連続性があり、波及効果がある。ITバブルの崩壊から現在の景気後退に至ったのは、赤字企業が事業を縮小・中止したり、さらにはチャプター・イレブンを申請したりすることで、投資家の間に心理的な不安が連鎖的に広がった影響が少ないない。景気回復のためにはチャプター・イレブンによる経営再建や不採算事業の撤退・整理は欠かせないが、それだけで力強い成長が始まるわけではない。米国IT企業はまだまだ潜在的な力を秘めていると思う。もっと元気を取り戻してほしいものだ。

Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

毎日新聞社

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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