エクイティ・コンサルティング〜賢い利用法:IPOの試金石にいかが?〜ITビズ・キーワード(1)

» 2000年12月08日 12時00分 公開
[荒木直子,@IT]

今回の内容

  • 変貌するコンサルティング
  • 日本におけるコンサルティングの潮流の行方
  • エクイティ・コンサルはなぜ生まれたのか
  • エクイティ・コンサルを受けるということ
  • IPOできるかどうかの試金石

 ビジネス・モデルを進化させることのできる戦略志向の組織をつくり上げるというのは、利益を生み出す仕組みをつくること以上に難しい。いつ、どのようにして、何をすべきか……すべてを試行錯誤しながら進めたのでは、間違った判断と分かったときに後戻りせねばならず、スピード勝負のネット・ベンチャーにとっては、時間の浪費は資金の浪費とならんで、命取りになりかねない。

 そうした時間の浪費を未然に防ぐ意味で、経営のプロに指南を仰ぐこと、つまり経営コンサルティングを受けることが非常に有効な手段だとしたら?あなたがベンチャー企業の経営者だとしたら、すぐに依頼をするだろうか?

 本業以外に資金を投ずる余裕のないベンチャー企業にとっては、高額なコンサルティング報酬を支払うことは至難の業だろう。しかも、経験の浅い若き経営者にとっては、どんなに素晴らしい戦略の提案を受けたとしても、それを実行するだけの力量が不足していることも否めない。

 しかし、最近、そんなベンチャー企業にとって、経営コンサルティングを受けることがとても現実的なこととして知られるようになってきた。高額なコンサルティング報酬は株式によって支払いが可能、ビジネス・モデルの構築から戦略立案・実行、つまり、事業の立ち上げから株式公開(IPO)まで、一貫したバック・アップサービスが受けられるという「エクイティ・コンサルティング(以下エクイティ・コンサル)」がそれである。


変貌するコンサルティング

 欧米ではコンサルティングという第三者による客観的な経営アドバイスを受けることは当たり前のことであるが、日本ではまだその歴史は30年ほどにすぎない。いまだに「他人の手を借りる」ことに抵抗感を覚える経営者が多いのであろうか。一般的にコンサルティングから得られるものは異なる切り口や視点に基づく「Something Unique」なアドバイスというイメージが強いが、それも最近ではずいぶんと変わってきているらしい。

 企業が高額なコンサルティング報酬を払ってでも得たいもの、それは実際に経営を軌道にのせ、成果を出すための援助にほかならない。それを最近では「Make it happen」と表現するそうだ。単なる経営アドバイスに終わらず、事業創造の現場に出向き、ビジネス・モデルの策定に一緒に頭を悩ませ、共に汗をかいてくれる仲間、それが現在のコンサルティングに求められている姿なのだ。

 ローランド・ベルガー・アンド・パートナー・ジャパン代表取締役の遠藤功氏によれば、欧米ではすでにそうしたケースがかなり多くなってきており、同社でも、欧州においては、実際にエクイティ・コンサルの結果、IPOに成功したビジネス・モデルもあるということだ。

日本におけるコンサルティングの潮流の行方

 2000年11月には外資系大手コンサルティングのボストンコンサルティンググループが、このエクイティ・ペイメント方式によるコンサルティングを専門的に扱う組織「BCGi」を社内に発足させている。同社では、当初専任2名、兼任12名の体制でスタートさせたが、3年後をめどに200人体制にするとまで発表しているところをみると、こうした流れは日本でも確実に拡大するのではないだろうか。

 KPMGコンサルティングの代表取締役社長、ポール与那嶺氏は「当社では実際に日本国内でエクイティ・ペイメント方式によるコンサルティングの実績がある」と述べたうえで、同時に「今後もeビジネスのコンサルティングにおいて、シナジーの見込める企業に対しては、こうしたエクイティ・コンサルを積極的に展開していきたい」という意向も表している。

エクイティ・コンサルはなぜ生まれたのか

 最近、日本ではSIPS(Strategic Internet Professional Service)が話題になっているが、これは、単にWebデザインのコンサルティングやシステム構築にとどまらず、ビジネス・モデルの根底にまでかかわる経営コンサルティング的な要素を持ったサービスとして位置付けられているため、既存の経営コンサルティング会社にとっては新たな競争相手ともいえる。

 eビジネスにおけるコンサルティングで成功するか否かは、IT業界におけるWebサイトやそのシステムの構築ノウハウ、技術を持った企業をいかに抱え込むことができるかにかかってくる。SIPSにその役割を奪われまいとする彼らが目指すのは単なる経営コンサルティング会社からの“脱皮”なのではないだろうか。それはアンダーセン・コンサルティングの社名変更(同社は2001年1月1日付で「アクセンチュア」へと社名を変更する)に代表されるように、その意気込みが感じ取れる。

 コンサルティング会社が標ぼうするのは、これからの経済活動を牽引するであろうeビジネスの進化にかかせないパートナーとしての役割であろう。大資本を持つ企業が今後続々とeビジネスに進出することを見据え、戦略的な必然性のもとに生まれたのがエクイティ・ペイメント方式によるコンサルティング、この「エクイティ・コンサル」にほかならない。

エクイティ・コンサルを受けるということ

 ベンチャー企業にとって、エクイティ・コンサルを受けるということは具体的にどういうことなのだろうか。大きく分けてIPOまでの経営とIPO後の経営という視点で2つのポイントが挙げられる。

 立ち上げ時期からIPOまでの期間を考えると、「経営のパートナー」としての力強い味方を得られるということが最も大きなメリットであろう。戦略の策定はもちろんのこと、実際に顧客との折衝や組織づくりに対してのコミットメントが期待できる。また資金的な面では、報酬を株式で支払えばよいので、当面のキャッシュ・アウトを抑えることができる。

 IPO後にはどうかというと、その力強い味方は、その役割を終えると、すっと姿を消してしまう。ということは、社員を雇ったわけではないので、無駄な人件費(固定費)を省くことができる。必要なときにだけ必要な力を貸してくれる、願ってもない人材というわけだ。

 また、コンサルティング会社にしても、IPOさせることができなければ当然報酬は"ゼロ"となるので、IPOさせることへのモチベーションは相当に高いはずである。ここに、ベンチャー企業にとっても、コンサルティング会社にとってもwin-winな関係=IPOという図式が成り立ち、IPOへの最短距離となるのではないだろうか。

IPOできるかどうかの試金石

 コンサルティングをする側にとっては、エクイティ・コンサルには大きなリスクがつきまとう。それは、どうやってIPOのできるビジネス・モデルかどうかを見極めるか、ということである。あまたあるベンチャー企業がIPOできる確率は「せんみつ」(つまり1000あるうちの3つがうまくいけばいい方だ、という意味)といわれているが、現実はそれすらもどうか分からない。

 しかし、そこは経営のプロフェッショナルをうたうコンサルタントの集まりである。おそらくあらゆる角度から定量的・定性的な分析を行い、ビジネス・モデルの可能性を見極めるのであろう。そして、当然IPOできる企業体へ変貌させるだけの知恵と労力を惜しまず与える覚悟で、エクイティ・コンサルを引き受けるわけである。中途半端なサービスで終わるとは到底思えない。

 前出の遠藤氏がとても興味深いヒントを与えてくれた。「自社のビジネス・モデルがはたしてIPOできるものなのかどうか、コンサルティング企業にエクイティ・コンサルを受けたいと申告すれば、その返答次第で見極めがつくのでは」と。

 どのような基準でビジネス・モデルを評価するのかは企業秘密らしいが、コンサルタントにも、IPOできるビジネス・モデルか否かを見極める、ベンチャー・キャピタリスト的な視点が求められているのだから、利用してみるのもまんざら悪くはない。そろそろ「自前主義」の美学にとらわれることをやめて、このスピード競争を勝ち抜くためにも、まずは第三者の手を借りるべく、コンサルティング会社の門を叩くべきなのかもしれない。

 ただし、エクイティ・コンサルの申し出を断られたときには潔くそのビジネス・モデルをあきらめ、新たなビジネス・モデル創出にすぐに動き出すことを忘れないように……。

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