パソコン減税より有利な税制とは?知らなきゃ損する税制講座(2)

» 2000年11月25日 12時00分 公開
[杉山靖彦(フューチャーアーキテクト),@IT]

今回のおもな内容

▼中小企業投資促進税制の中身は?

▼特別償却と税額控除のどちらを選ぶか?

▼具選択する際の注意点


 市場の拡大を求め、BtoCの米国のネット企業が次々と日本に上陸しています。米国でそれなりの成功を収めつつあるアマゾン・ドット・コムや、イートイズなどは、日本に足場を固めての挑戦です。書籍や玩具といった、従来は典型的な小規模の小売業ですら、いよいよIT化による国際競争へと巻き込まれようとしているのでしょうか。

 そのような中、森首相の「いいジャパン(e-Japan)」構想によるIT関連の公共投資、助成に重きをおいた補正予算の成立が本国会で可決されようとしています。途中、加藤紘一元幹事長や山崎拓元政調会長らによって、野党から提出された内閣不信任案が可決されるかという一幕もありましたが、なんとか乗り切ったようです。

 内閣支持率が10%台という状況を考えれば、いつ不信任案が可決されてもおかしくないのですが、景気対策も含めて補正予算の協議が前に進み、残念に思いながらも、全体的にはホッとしています。

 さて本題に話を移し、知らなきゃ損する税制講座の第2回は、前回予告した通り、「中小企業投資促進税制」という制度について解説をしていきたいと思います。

 ただし、この税制は、2001年の5月31日までという期限の差し迫った制度なので、この点には十分注意を払っていただきたいと思います。

 なお、この制度はIT投資をする企業にとっては非常にありがたい制度なので、できれば適用期間の延長を望みたいところです。

中小企業投資促進税制の中身は?

 今年度も昨年度に引き続き、IT関連の投資をした場合、その投資した金額が100万円未満であれば、取得年度において即時償却することができます。つまり、購入した年度にすべて経費化できるというものですが、すなわちこれが有名な「パソコン減税」です。

 一方、100万円以上のIT投資などを対象としたのが、今回の「中小企業投資促進税制」です。

  この制度を税制的に見てみると、

対象者

青色申告書を提出する中小企業

  • 従業員の数が1,000人以下の個人事業主
  • 資本金が3,000万円以下の法人

適用期間

平成10年6月1日から平成13年5月31日

措置内容

  • 対象物の取得価額について30%の特別償却、または対象物の取得価額について7%の所得税または法人税の税額控除
  • リースの場合は、特別償却はなし、税額控除については費用総額の60%の7%にあたる4.2%
  • ただし、法人税の税額控除を選択した場合、税額の20%相当額を超える場合には、その20%相当額が控除限度額となる。

対象物

  1. 1設備の取得価額が230万円以上のすべての機械設備 (リースの場合は費用総額300万円以上)
  2. 1設備または同一種類複数設備の合計額が100万円以上となる特定の器具備品※ (リースの場合は費用総額が140万円以上)

特定の器具備品

対象設備名 設備の概要
電子計算機 計数型の電子計算機 (主記憶装置にプログラムを任意に設定できる機構を有するものに限る) のうち、処理語長が16ビット以上で、かつ、設置時における記憶容量 (検査用ビットを除く) が16メガバイト以上の主記憶装置を有するものに限るものとし、これと同時に設置する附属の入出力装置 (入力用キーボード、ディジタイザー、タブレット、光学式読取装置、音声入力装置、表示装置、プリンター又はプロッターに限る) 、補助記憶装置、通信制御装置、伝送用装置又は電源装置を含む
デジタル複写機 専用電子計算機 (専ら器具及び備品の動作の制御又はデータ処理を行う電子計算機で、物理的変換を行わない限り他の用途に使用できないものをいう。以下この表中において同じ) により発信される制御指令信号に基づき画像情報をデジタル信号に変換し、色の濃度補正、縦横独立変倍又は画像記憶を行う機構を有するもの及び当該専用電子計算機を同時に設置する場合のこれらのものに限るものとし、これらと同時に設置する専用の自動原稿送り装置、排紙分類装置、給紙装置、プリンター又はファクシミリを含む
ファクシミリ 送受信データを蓄積する機構及び普通紙に受信データを印刷する機構を有するものに限るものとし、これと同時に設置する専用の変復調装置、回線制御装置又は回線接続装置を含む
デジタル構内交換設備 これと同時に設置する専用の変復調装置、宅内回線終端装置、局内回線終端装置又は符号化装置を含む
デジタルボタン電話設備 専用電子計算機により発信される制御指令信号に基づき専用電話機のボタン操作に従ってデジタル信号を自動的に交換する機構を有するもの及び当該専用電子計算機を同時に設置する場合のこれらのものに限るものとし、これらと同時に設置する専用の変復調装置、宅内回線終端装置、局内回線終端装置又は符号化装置を含む
電子ファイリング設備 画像又は文字情報の符号化並びに符号化された当該画像又は文字情報の加工、登録、蓄積及び検索を行うもので、これと同時に設置する専用の入出力装置、補助記憶装置、伝送用装置又は電源装置を含む
マイクロファイル設備 画像又は文字情報のマイクロフィルムへの記録並びに当該マイクロフィルムの整理、保存及び検索を行うもので、これと同時に設置する専用の入出力装置、補助記憶装置、伝送用装置又は電源装置を含む
ICカード利用設備 ICカードとの間における情報の交換並びに当該情報の蓄積及び加工を行うもので、これと同時に設置する専用のICカードリーダライタ、入力用キーボード、タブレット、表示装置、プリンター又はプロッターを含む
冷房用または暖房用機器 ユニット型エアコンディショナー、温風暖房機 (冷房ユニットを付加したものを含む) 又は遠赤外線放射暖房装置に限るものとし、これらと同時に設置する専用の換気装置又は空気清浄装置を含む

 ということなのですが、もう少し分かりやすく説明すると、個人事業主または中小企業者がやや大きめの投資 (機械設備は230万円、特定の器具備品は100万円)、またはリース (機械設備は300万円、特定の器具備品は140万円) を組むと、通常の減価償却に加えて取得価額の30%を費用化、または取得価額の7% (リースの場合は総費用額の4.2%) の税額控除を受けることができますよ、という制度です。

 ここで見て分かるように、「パソコン減税」と「中小企業投資促進税制」は、100万円以上、未満という違いだけでなく、購入ではないリースの場合であっても利用できるという点がポイントとして挙げられます。

特別償却と税額控除のどちらを選ぶか?

 さて、特別償却と税額控除のいずれかを選択できるこの制度、その両方を同時に適用することはできないので、比較検討して、有利な方を選択する必要があります。

 税法で2つの以上の選択肢がある制度というのは珍しくはありませんが、選択のポイントは状況によって異なる場合が多いため、選択する際には十分に検討しなければなりません。

 「中小企業投資促進税制」の場合、選択肢は30%の特別償却と7%の税額控除ということになりますが、ここで、特別償却と税額控除の違いを確認しておきましょう。

 特別償却というのは、減価償却の特別版で、通常の減価償却に加えて、特定の割合で減価償却を行ってもいいという制度です。節税効果としては、特別償却を行った年分の税額は減少しますが、その同額が翌年分以降の税額で増加するため、トータル的には納税総額に差はなく、課税の繰り延べにしかならないため、具体的な効果としては金利相当分のみということになります。

特別償却

通常の減価償却に加えて、さらに特別に償却を行ってもいいという制度。節税効果は特別償却額に対する金利相当分程度と、効果はそれほど高くありません


 一方の税額控除というのは、名前の通り、特定の割合で納付する税金を控除してくれるという制度です。効果としては、控除金額そのものが節税効果の金額であり、一般的には前者の特別控除よりも節税効果は高いものとなります。

税額控除

特定の割合で納付する税金を控除してくれるという制度。納付税額自体を控除してくれるため、控除金額そのものが節税額となります


選択する際の注意点

 従って、一般的には7%の税額控除を選択する方が得なのですが、実は赤字会社の場合はそうではありません。税額控除は、あくまで支払う税額が発生して初めて税金が控除されることとなりますので、支払う税額が発生しない赤字会社の場合は、たとえ税額控除を選択したとしても、控除金額は0円となり節税効果はまったくないことになります。

 ではどうすべきかというと、将来の課税の繰り延べ効果を期待するという視点に立ち、特別償却を選択する方が適切ということになります。

「中小企業投資促進税制」では、

赤字会社は …> 特別償却を選択する

黒字会社は …> 税額控除を選択する


 なお、赤字会社がリースを組んだ場合は、特別償却という制度が利用できないため、残念ながら「中小企業投資促進税制」の恩恵は受けることができないということになります。

 ということで、この制度の適用期間中(2001年の5月31日まで)に、節税効果まで考えた有利なIT投資を行っていただきたいと思います。

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