〜ECサイトのパーソナライズ化とサービスレベルの向上で   One-to-Oneマーケティングを実現!〜【特集】One-to-Oneマーケティングツール(1/5 ページ)

» 2000年12月19日 12時00分 公開
[吉田育代,@IT]

 近ごろ、「One-to-Oneマーケティング」という言葉がよく聞かれる。だれにでも同じマーケティングを展開する従来のマス・マーケティングに対し、顧客個人の嗜好性や行動特性といった情報をもとに、個々人に対して適切なマーケティング活動を展開することだ。Business Weekの調査によると、新規訪問客が商品をオーダーするのは全体の2%で、その顧客がリピーターになるのは20%であるという。その計算に従えば、1000人訪れても本当の意味で顧客になるのは4人しかいないことになる。ただ漠然とサイトを立ち上げてマス・マーケティングを展開するだけでは、到底立ち行かないのだ。本記事では、これらリピーターに対してサイトの適切なマーケティング活動を支援する「One-to-Oneマーケティング」ツールの仕組みや最新事情についてレポートしていこう。

1. いかにして売り上げを伸ばすか?〜その手法

■古今東西、模索されてきた「売る」手法古今東西、模索されてきた「売る」手法

 「どうしたら売れるのか?」「どうしたらもっと売れるのか?」

 これはセールスビジネスに携わる人間にとって根源的な問いである。古今東西、彼らはこの問いに答えを見いだそうとさまざまなやり方でチャレンジしてきた。富山の薬種問屋は置き薬というビジネスモデルを編み出し、マクドナルドは「ご一緒にポテトはいかがですか?」という名ゼリフを創造した。

 システムによるデータ収集が可能になってからは、膨大な売り上げ情報の中から商品同士に、あるいは消費者と商品の間に何らかの関係性を探り出すという試みも始まった。いわゆるデータマイニングである。最も有名なのはスーパーマーケットの「おむつとビール」だろう。いわく、おむつを買う人は一緒にビールを買う可能性が非常に高いから、ビールはおむつのそばに置くとよく売れる。そしてクレジットカード会社でも、カードの不正使用を早期に発見するために、効果の高いDMを打つために、データ分析は不可欠だった。

 このデータマイニングという文脈においては、これは専門家の領分だった。少数の専門家が習熟を要する専門ツールを使い、時間をかけて仮説と検証を繰り返し、見いだした法則をセールスの現場に渡していた。しかし、インターネットというサイバースペースの登場は、これまでの習慣を大きく変えようとしている。

■競争が激しいECサイトで生き残るには?競争が激しいECサイトで生き残るには?

物理的な店舗を持たないインターネット上のエレクトロニック・コマース(以下、EC)だからといって、セールスのやり方がまったく異なるわけではない。追求するのはやはり「どうしたらもっと売れるのか?」だ。違うのは、以前よりはるかにスピードが要求されるようになったということと、市場が飛躍的に広がる中で専門家がなかなか確保できないということだ。なにせマウスをちょっと動かせばライバル店へたどり着いてしまう世界である。

 日々のオペレーションの中で、顧客を特定し、「一緒にポテトはいかがですか?」と問い掛け、「おむつとビール」の法則を探し出さねば、生き残ることは難しい。Business Weekによると、新規訪問客が商品をオーダーするのは全体の2%で、その顧客がリピーターになるのは20%であるという。その計算に従えば、1000人訪れても本当の意味で顧客になってくれるのは4人しかいないことになる。ただ漠然とサイトを立ち上げて、だれもに同じサービスを提供するマス・マーケティングでは到底立ち行かない。いま、話題の One-To-Oneマーケティングとは、いちはやくECサイトを立ち上げた米国のフロンティアたちがたどり着いた、「売れる店」づくりのためのソリューションである。

■パーソナライゼーションというマーケティング手法

 あたかも顧客の顔が見えているかのようなセールスをするから、One-To-One。それは別名パーソナライゼーション(Personalization)とも呼ばれている。現在、インターネット上でこれを実現する手法としては大きく3つあるとされている。

●パーソナライゼーションその1〜「アンケート方式」

【参考】One-to-Oneマーケティング

「One-to-Oneマーケティング」について興味がある、勉強してみたいという方にぜひお勧めしたいのが、『ONEtoONEマーケティング』(ダイヤモンド社刊、ISBN 4-478-50119-X、税別2136円)という本だ。1995年初版刊行という、インターネット時代においては歴史あるもので、One-to-Oneマーケティングの教科書的存在として親しまれている(著者は、「One-to-Oneマーケティング」の概念を提唱者であるD.ペパーズ氏とM.ロジャーズ氏)。


 1つは、アンケート方式だ。マイホームページやサイトの会員登録などの際に、性別や年齢、職業、趣味などを入力してもらい、その“申告”に従って顧客向けにアレンジされたページを提供するというものである。これはパーソナライゼーションとしては最もベーシックな手法で、実現も比較的容易だ。

 しかし、これで効果的なサイト運営をするのは難しい。というのも、アクセスしてすぐに詳細情報を記入することを顧客はプライバシーの侵害と取って入力自体を止めてしまうことがあるからだ。では最初は簡単にしておいてあとから情報をプラスしてもらえばいいかというと、これもまたうまくいかない。顧客は情報をメンテナンスしたり、アップデートしたりしないのだ。時を経て嗜好が変わっても属性情報は古いままに留めおかれ、結果としてユーザーにマッチしていない“マイページ”が送信されてしまうというわけだ。

●パーソナライゼーションその2〜「ビジネスルールベース」

 これより高度なOne-To-Oneマーケティングを実現する手法として登場したのが、ビジネスルールベースによるパーソナライゼーションである。これは簡単にいえば「おむつとビール」だ。おむつを買う顧客は高い確率でビールを買うというルールを設定して、おむつを買った顧客には併せてビールの情報を提供するといった具合だ。

 ビジネスルールベースによるパーソナライゼーションは、運営するECサイトがすでに検証されたルールを豊富に有していれば有効なマーケティング手法だ。顧客はできれば“ワンストップ”でショッピングをしたいと思っている。だから、相関関係の高い商品をうまく示すことができれば、1回の買い物における購買単価を上げることができる。

 ただし、1回設定したルールが永遠に有効という保証はないから、こまめにチェックして、ルールをアップデートする必要がある。前述のおむつとビールも、実はこの2つの相関性が高いのは、量的な要因から、たまたま購買頻度が同じだったからだという話がある。おむつがなくなったころにちょうどビールもなくなるという具合だ。しかし、小売製品はパッケージや容量の改定が頻繁にある。いったんどちらかの製品の容量が変わってしまったら、2つの間の相関関係は切れてしまう。ビジネスルールベースによるパーソナライゼーションは、ビジネスルールが持つそのような危うさを頭に入れつつ、運用しなければならない。

●パーソナライゼーションその3〜「協調フィルタリング」

 先日、アマゾン・ドット・コム(米国の方)で、ケビン・オークインというメイクアップ・アーティストの本を買った。それ自体はどうということでもないが、ケビン・オークインの本を選択すると、画面の下側に“この本を買った顧客は、一緒に以下のような本も購入しています”といって、数冊のメイクアップ関係の本が紹介されていた。その中の1冊に“アイブロー(眉毛)”という本があって、日ごろから眉毛の扱いに困っていた私は思わずショッピングカートに入れてしまった。これこそが購買単価向上のためのパーソナライゼーション手法である。「協調フィルタリング」と呼ばれている。

 Aという顧客がαという商品を買うとする。するとWebサイトは過去にαという商品を買った顧客を洗い出し、その顧客がαという商品以外に買った商品をピックアップして、Aという顧客に紹介する。またあるときにはβという商品を買おうとしている顧客に、βと同じカテゴリに入る商品も一緒に提示して比較検討してもらう。協調フィルタリングというアルゴリズムで行っているのは、顧客や商品の相関関係を利用したパーソナライゼーションである。すでに蓄えられたデータベースをもとに実行可能であるため、ビジネスルールを事前登録する必要はなく、メンテナンスを省力化できるのが最大の特長だ。

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