Development Style

第5回 読者調査結果

〜 開発者のUMLモデリング・ツール選択条件は? 〜

小柴豊
アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2003/10/17


 ソフトウェア開発の分析/設計にUML(Unified Modeling Language)を用いる効用は、すでに多くのメディアが伝えるところとなった。またこの1年を振り返ると、ラショナルソフトウェアがIBMに、トゥゲザーソフトがボーランドにそれぞれ買収されるなど、UMLツール業界の再編が大きな話題となった。果たして開発現場でUMLはどの程度普及し、また今後どのようなツールが求められているのだろうか? Development Styleコーナーが実施した第5回読者調査から、その状況を報告しよう。

UMLの利用状況は?

 まずシステム開発業務にかかわる読者に、現在どの程度UMLを利用しているのか尋ねた結果が図1だ。「ほぼすべての案件でUMLを利用している」(5%)、「案件によってUMLやほかの手法を使い分けている」(20%)、「最近UMLを使い始めたところ」(23%)を合計した総利用率は、全体の48%となった。

 “システム開発者の約半数がUMLを利用している”と聞くと、UMLの普及も相当に進んだ感じがする。が、実は1年前の2002年7月にも同様の調査を実施しており、その時点での総利用率は46%であった。つまりこの1年間を見る限り、読者のUML利用状況はほとんど変化していないのだ。国内のUML普及段階は、ひとつの“踊り場”を迎えているのかもしれない。

図1 UMLの利用状況(N=337)

UML導入のきっかけは?

 では今後UMLの普及を促すブレイクスルーは、どこにあるのだろうか? そのヒントを探るために、UML導入の“きっかけ”を尋ねたところ、現在は「開発現場からの要望によるボトムアップ導入」が最も多いことが分かった(図2)。反対に、「経営層の指示によるトップダウン」での導入は12%にとどまっていることから、UML導入に積極的に関与するマネジメント層は、現在あまり多くない様子だ。

 読者からは“役職の高い人間にUMLの知識が不足しており、円滑なコミュニケーションを取れるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ”といったコメントも寄せられており、UML導入に関して現場とマネジメント層の間に温度差がある様子がうかがえる。しかし本来UMLが共通言語としての真価を発揮するためには、プロジェクト関係者全員の意識を統一するような、強力なリーダーシップが必要となるはずだ。UML普及が現在以上に進むかどうかは、マネージャ層の意識改革が鍵となりそうだ。

図2 UML導入のきっかけ(UML利用者 n=164)

UMLの導入効果とは?

 ところで、マネジメント層の意識を変えていくためには、“UMLを導入することにより、どんな効果が期待できるのか”を明らかにする必要があるだろう。そこで現在のUML利用者に、UML導入に際して「事前に期待した効果」および、その中で「実際に達成できた効果」を尋ねた結果が図3だ。現在のところ、期待効果/達成効果ともに上位に挙げられたのは、「システム概要/構造や問題点の効率的な整理・把握」ならびに「エンジニア間の円滑なコミュニケーション」の2点だった。現在のUML導入はボトムアップで進められる傾向が強いだけに、その導入効果もエンジニアの身近な範囲に限定されることが多いようだ。

図3 UMLの導入効果(UML利用者 n=164 複数回答)

 しかし今後UMLをより広く導入していくためには、「分析−設計−実装各工程間のシームレスな連携」「モデルからのコード自動生成による開発効率の向上」といった観点から、UML導入前と比べた費用対効果を実証することが重要となるだろう。この点においては、UML作成〜実装を支援する“モデリング・ツール”の活用が有効と思われるが、その利用状況はどうなっているだろうか?

UMLモデリング・ツールの利用状況は?

 続いて、代表的なUMLモデリング・ツールに関する読者の利用状況および利用予定を尋ねたところ、現在は「紙/ホワイトボードとペン」および「Microsoft Visio」の利用率が上位に挙げられた(図4)。これらはモデリング専用のツールではないが、気軽にダイアグラムが作成できる点において、現在の主目的(システム構造の整理やエンジニア間のコミュニケーション)にはかなっているといえる。

図4 UMLモデリング・ツールの利用状況(複数回答)

 一方モデリング専用ツールとしては、この分野の嚆矢(こうし)である「Rational Rose」が業界をリードしてきたが、今回Roseを上回る利用率/検討率を示したのが、「EclipseUMLプラグイン」だ。EclipseがオープンソースのJava統合開発環境として急速にシェアを拡大していることを背景に、Eclipse上でUMLモデリングを行うためのプラグインにも、期待が集まっているもようだ。EclipseUMLプラグインはフリーウェアであり、日本語対応や機能/サポート面で商用製品に劣る点はあるが、手書きやドローツールから本格的なモデリング・ツールに移行するための第一歩として、今後の利用動向が注目される。

UMLモデリング・ツール選択のポイントは?

 では、UMLモデリング・ツールを選択するに当たって、開発者は今後どのような点を重視するのだろうか。複数回答で尋ねた結果、UML利用意向者の約7割が「使用時の操作性やパフォーマンス」を挙げており、“使いやすさ”のプライオリティが高いことが分かった(図5)。モデリング・ツールを利用するだいご味は、次に挙げられた「モデル図とソースコードを相互に自動生成/出力できること」にあるが、こうしたラウンドトリップ・エンジニアリングを現実的に活用するためにも、思考の流れを妨げないパフォーマンスが求められるだろう。Development Styleでは、UMLツールの使いやすさに焦点を当てた製品レビュー記事を掲載しているので、興味のある方は下記関連記事を参照されたい。

図5 UMLモデリング・ツール選択時の重視点
(UML利用意向者 n=277 複数回答)

調査概要

    ・調査方法:Development Styleコーナーからリンクした Webアンケート
    ・調査期間:2003年7月23日〜8月15日
    ・有効回答数:337件

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