[特別インタビュー]


携帯Javaは情報家電への挑戦の布石

――携帯Javaへの取り組みとゼンテックの製品戦略
――


取材 宮下知起
2001/2/14


NTTドコモのiアプリ開発環境として大きな注目を集めているi-JADEは、シリコンバレーに端を発するベンチャー企業「ゼンテック・テクノロジー」が開発した。今回は同社テクニカル・マーケティング部の仲西隆策氏に、i-JADEのねらいと携帯Javaを取り巻く周辺事情、同社のデジタル情報家電への取り組みについて、同社テクニカル・マーケティング部 マネージャー 仲西隆策氏に語っていただいた。



[編集局]まず始めに、ゼンテック・テクノロジー・ジャパンをご紹介ください。

ゼンテック・テクノロジー・ジャパン テクニカル・マーケティング部 仲西隆策氏

[仲西氏]1997年にZenetek Technology Incとして米国シリコンバレーで会社を設立し、デ ジタルテレビなど、デジタル情報家電に搭載するアプリケーションプラットフォーム 等の開発を行っていました。2000年2月に日本法人のゼンテック・テクノロジー・ジャ パンが設立されました。現在は本社機構を日本に置きまして、米国は米国開発センター として活動をしています。

私自身はもともと家電メーカにおいてOSやアプリケーションの開発をしていました。 現在社員は30名ほどですが、当時の人脈で集まってきているメンバーが多いです。 中心となる事業ですが、色々なメーカーのもとでデジタルテレビやセットトップボッ クスのOSやアプリケーションの開発を行っています。

i-JADE誕生のきっかけ

[編集局]Javaに取り組んだきっかけは何でしょうか?

[仲西氏]Javaに取り組みはじめたのは3〜4年前のことです。シリコンバレーではサン・マイクロシステムズ社の人間との交流機会が多かったのも、Javaに早くから取り組んだ理由でした。その成果として、JADEというJavaの開発環境の開発を進めています。昨年の夏くらいから日本でのワイヤレスの勢いが非常に強くなってきまして、製品出荷のファーストターゲットとして日本を選んだというのがi-JADEを出すことになった経緯です。我々のコアはi-JADEではなく、実はJADEなのです。

[編集局]i-JADEはドコモの携帯電話に向けたJADEということですね。

[仲西氏]i-JADEの「i」は、実はiアプリ用ということで単純に「i」を付けただけなんです。JADEにはすでにMIDPバージョンもあります。まもなく違う名前で出てきますが、名称がどうなるかは私のセンス次第ですね(笑)。MIDPは国内よりも海外が先に立ち上がっていく予定です。具体的には第1四半期に海外で、第2四半期に国内での展開を予定しています。


i-JADEは機種間の差異を極力意識せず開発できる環境

i-JADE Liteのエミュレータ。画面はP503iの筐体イメージでエミュレートしたところ

[編集局]i-JADEは携帯エミュレータやIDEを持った開発環境として誤解されるケースが多いようですが、ドコモ仕様のクラスライブラリと携帯エミュレータを合わせた製品と考えれば良いのでしょうか?

[仲西氏]皆さんによく勘違いされるのですが、i-JADEはエミュレータだけだとか、クラスライブラリだけというものではありません。IDEでもないのです。ドコモのiアプリ仕様にのっとったクラスライブラリを持つ携帯エミュレータです。

JADEという製品が持つもともとのコンセプトなのですが、すでに慣れたIDEをお使いの方に新しいものを押し付けるつもりはありません。さまざまなIDEにプラグインして使っていただく製品なのです(編集局注:JBuilderなどのIDEにプラグインして利用できる)。

[編集局]開発はNTTドコモと歩調を合わせたのでしょうか?

[仲西氏]メーカー主導で開発を進めました。各メーカーさんに私どものJADEが目指す世界を理解していただいた上で、協力体制を築きました。設計の段階から仕様書をいただき開発を進めてきました。

[編集局]i-JADEはiアプリの開発環境としてどんな特徴を持っていますか?

[仲西氏]NTTドコモからはDoJaと呼ばれる開発環境が提供されていますが(編集局注:DoJaはNTTドコモの公式コンテンツプロバイダを中心に配布されており、一般には入手できない)、DoJaではできないことをカバーするのが私たちの製品です。DoJaで作ったものはメーカー毎で動きが全部異なります。i-JADEはその違いを吸収するクラスライブラリを提供します。

Dojaのエミュレータ画面(編集部が独自に入手したもの)

[編集局]ところで、公式コンテンツプロバイダの中にi-JADEを使っているところはあるのですか?

[仲西氏]公式コンテンツプロバイダが提供しているiアプリの中には、すでにi-JADEを使ったものが多くあります。100社くらいのCPに配布しています。さらにはメーカーがCPにOEMしているケースもありますので、数としてはかなりだと思います。

iモードJavaの独自性とメーカー主導の実装による混乱

[編集局]iモードJavaとMIDPの仕様はどれくらい違うものなのでしょうか?

[仲西氏]DoJaを開発したメンバーと話したことがありますが、かなり手を入れていると言っていました。iモードJavaの仕様はJavaの派生ではあります。CLDCにドコモ仕様を加えているわけですが、MIDPとは基底になるクラスから違っています。これまでMIDPをやっていた人は違いに手惑ってすぐには作れないでしょう。ドコモ仕様から入ったほうが、かえってわかりやすいのではと思います。

MIDPとドコモ仕様の違いですが、数字でいいますと40〜50%は違うでしょうね。あまりにもオリジナリティあふれる仕様です。重なる部分も少しはあるという感じでしょうか。 DoJaを入手できない方の多くはiアプリの登場に供えてMIDPで携帯アプリケーションを書いていらっしゃったわけです。しかし実際にiアプリのエミュレータで試してみると8割方動かず、その違いに大いに戸惑っていらっしゃるというのが現状です。

[編集局]ドコモ仕様で書いても実機で思い通りに動かないと聞きましたが。

[仲西氏]JavaVMのインプリメンテーションはメーカー毎にやっています。メーカーさんはオリジナリティを出したいということでかなり手を入れているようです。そのため、ドコモ仕様でアプリケーションを作っても、メーカー毎に動きが異なるという状況になっているわけです。その違いの度合いはというと、先行2社(編集注:富士通、松下電器)を並べただけでも違いますし、後発の3社(編集注:日本電気、三菱電機、ソニー)はもっと違います。画面のサイズが違うという初歩的なことのほかに、グラフィックを表示するときのインターフェイスさえ違います。実は先行2社は先に出さないといけないという使命がありましたから、違いはまだ小さいのです。後発の3社はメーカー拡張に非常に力を入れています。たとえばカラオケ機能のAPIを用意しているところもあるくらいです。

DoJaがあくまで標準になるわけですが、ドコモ仕様が規定しているのは携帯Javaに要求される仕様の8割くらいの部分です。残りはメーカーが自分で決めないといけないわけですが、メーカーもどこまで自分で決めたらよいかわからないわけです。それがメーカー拡張を拡大させる要因でもあります。

このように携帯電話が100%ドコモ仕様で実装されていないので、素人の方にiアプリを書けといってもおそらく無理だと思います。実際に、コンテンツプロバイダ(CP)さんのお話を聞きますとたいへん苦労をされているようです。公開されているドコモの仕様に従ってどこまでプログラムを書けるかというところがわからないのです。

[編集局]つまりメーカーがどう実装したかの仕様が必要なのですね。

[仲西氏]その通りです。ドコモ仕様は公開されましたが、メーカーの独自のインプリメンテーションで動きが異なる部分やメーカーの独自拡張の部分があるために、ドコモ仕様では開発をカバーしきれません。そこでi-JADEのニーズが出てきます。i-JADEのクラスライブラリを使えば、見栄えや動きの違いを意識せずとも透過的にプログラムを書くことができます。無償でサイトからダウンロードしていただけるi-JADE Liteは、ドコモ仕様のユーザーインターフェイスをメーカー間の違いを考えることなく透過的にコードを書ける環境を提供します。有償で提供するi-JADE Customはメーカー独自の拡張UIをサポートしています。

[編集局]仕様のほかに、携帯Javaのプログラミングを難しくしているものは何でしょう?

[仲西氏]まず、サイズを小さくするために変数の名前を短くするというような苦労が必要になります。20年くらい昔に8ビットの世界でやっていたような世界です。逆に、ポケットゲームのような携帯よりも小さな画面でゲームを作られていたような方には気にならないようです。携帯向けにテトリスを作ったところ、早すぎて大変だったとうケースもあるくらいです。

おそらく「モバイルJava」という書き方が出てくると思います。いまEコマースに対してMコマースという言い方がされていますが、Javaもそういう世界に突入していくのではないでしょうか。携帯用のJavaはこれまでのJavaとはかなり違うと思っています。携帯の世界でもJavaが使えるようになったという意味でとらえるよりも、携帯でアプリケーションが動くようになったという意味のほうが大きいと思います。

他のキャリアの携帯Javaをめぐる動向

[編集局]他のキャリアも携帯Javaを計画していますが。

[仲西氏]詳細はお話できませんが、KDDIやJ-フォンともお話をさせていただいております。KDDIは独自の仕様ですね。J-フォンもMIDPと公表されていますが、完全なMIDPではないようです。MIDPの仕様では機能が足りないので、プラスアルファがあります。やはりMIDPでは機能的に不足なんですよ。NTTドコモも、そういう部分でDoJaに力を注がれたのだと思います。

[編集局]今後の携帯Javaの仕様はどうなるでしょうか? たとえばクアルコムは「BREW」という独自のプラットフォームを打ち出してきました。KDDIはJava搭載の携帯電話を出荷したあと、BREW対応の携帯も出す予定だと聞いていますが。

ドコモ仕様は、いってみれば国内トップブランドであるNTTドコモだから実現できたものだと思います。他のキャリアも懸命に努力されています。オープン性という意味では後発のキャリアの方が真剣に取り組まれているような印象も受けますね。そういう意味でBREWは、特定のプラットフォームという枠組みを取り外したところにメリットを感じます。ただ、クアルコムもNTTドコモと同様の通信キャリアさんなので、当然Javaの存在を意識はされていると思います。

[編集局]BREWが市場に受け入られる可能性についてどうお考えですか?

[仲西氏]しかし、BREWについてはテクニカルマーケットという意味でインパクトを受けますが、国内マーケットを考えた場合はどうなんでしょうね。

BREWの概念であるBinary Runtimeという概念は、古くから存在していたものですが、大成功をおさめた会社はあまり印象にありません。当然、開発効率という意味ではCなりC++が先行していますのでアプリの提供はさらに楽になると思います。W-CDMAの普及がどの程度の速度で浸透するかで、BREWの魅力は変わると考えます。個人的にはCでの開発経験が長いので、Javaよりも何でもできてしまうという印象を受けます。

モバイルにJavaがもたらす可能性

[編集局]Java対応携帯電話の活躍の舞台はどうなるでしょう?

[仲西氏]まず最初にデータベースのフロントエンドとしての使い方が出てくると思います。すでに、ある金融関係の企業は外回りの営業マンに503iの端末を持たせてそれからいろいろな手続きができるシステムを開発しているようです。

携帯にJavaが載ると、ユーザーインターフェイスがリッチになって、1つの画面で見える情報が増えます。すでにiモードでよく利用されているオンラインバンキングなどもHTMLベースでは実現できないインタラクティブなものになるでしょう。携帯側でデータを編集できるのも大きな強みです。携帯側である程度データ処理ができるのでかなり通信費を削減できますし、データベースサーバへの負荷を小さくできます。また、いろいろなサイトでグローバルなシステムが組みやすくなると思います。

[編集局]iモードだとJavaアプリケーションから携帯電話内のメモリにアクセスできないという制限があります。これが応用範囲を制限しないでしょうか?たとえば共通したアドレス帳を使えないとか。

[仲西氏]ドコモの仕様ですとスクラッチパッドしかJavaアプリケーションからアクセスできないという制限がありますが、メーカーは独自に拡張を行って携帯電話内のメモリにアクセスできるようにしてくるでしょう。そうすると、ウィルスを作る人がたくさん出てきます。私たちはそれに対してワクチンソフトのようなものではなくて、根幹からのセキュリティを強化する技術を考えています。各メーカーさんも、セキュリティに関しては非常に考えられていますよ。

情報家電への取り組み

[編集局]御社のJavaへの取り組みは、情報家電にも広がっているわけですね。

[仲西氏]情報家電で使われる技術はJavaだけではありません。基本的には、すべての環境はある一定のインターフェイスの上でつながると考えています。そういった開発はもう進めています。TVの電波にもIPが載って、すべての接続がネットワークベースで実現するでしょう。そういったものをシームレスに繋げる世界をつくろうと思っています。

ある家電OSを開発している中で蓄積したノウハウを、皆さんのお役に立てるように考えています。たとえば弊社がすでにセットトップボックスの中で利用しているZAPI(Zentek ATSC Library Acquisition API)というAPIも、将来をにらんで歩みの結果生まれてきたものの1つです。

[編集局]この分野で競合になる企業はどこですか?

[仲西氏]情報家電といわれる部分では、米国では同じ方向を目指している企業が多いですね。10数社ありますが、競合というよりジョイントを組んで進めています。国内でもとくに競合は意識していません。アクセスさんなどがよく似た分野をやっていらっしゃいますけれども。

[編集局]情報家電のマーケットは米国よりも日本の方が広がりが早いとお考えですか?

[仲西氏]市場先行型という意味では日本のマーケットは動きが速いですね。BSデジタルの例などをみても、いまの流行をスタンダードにもっていく力は米国よりも日本のほうが大きいと感じています。米国には日本に先行した技術があります。米国のゼンテック・テクノロジーの技術を日本国内にもってくるのがゼンテック・テクノロジー・ジャパンの大きな役割の1つでもあります。

[編集局]ホームネットワークはどうでしょう?

[仲西氏]すでに多くのメーカーが家庭に入るゲートウェイサーバの研究開発を進めているようです。実際に製品が出てくるのはまだまだ先のことでしょう。コマーシャルバージョンはそのうち出てくるかもしれません。

日本は通信コストが非常に高いので、ホームネットワークの世界は米国のほうが立ち上がりが早いと思います。日本の場合、ちょうど電話のマイラインのように通信回線を自由に選べるような時代にならないと、普及は難しいのではないでしょうか。

JADEの今後の展開について

[編集局]JADEは今後どのように展開していきますか?

[仲西氏]繰り返しになりますが、i-JADEは我々の本筋ではありません。JADEが本筋です。今年は立て続けにいろいろなデバイスに合わせたJADEを出す予定です。

5月にはいよいよワイドバンド(編集局注:NTTドコモがW-CDMAのサービスを「FOMA」の名称で開始)が出てきますので、それに合わせてメーカーがいろんな機種を出してくるでしょう。それらすべてをカバーしようと思っています。非常に幅広い展開を考えています。

[編集局]i-JADEの今後の予定を教えてください。

[仲西氏]i-JADE Liteは503iシリーズのドコモUIをサポートした基本バージョンですが、たとえばカラオケコンテンツを作って配信をしたいという方には、各メーカーの拡張をサポートしたi-JADE Customを使っていただけます。これはまもなく出荷いたします。また、経験のない方や開発にパワーをかけたくない、ノウハウがないという方にはProをお薦めします。Proは503iシリーズの残りの全機種が出る手前くらいに出す予定です。

今後の計画としてあるのは、1つJavaのソースコードを書くと、特定の機種用のソースコードを自動出力してくれるようなシステムを考えています。さらにはバイトコードチェッカーですとか、プログラミングを支援するユーティリティも追加していく予定です。

[関連リンク]
株式会社ゼンテック・テクノロジー・ジャパン
i-JADE Liteダウンロードページ

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