一志達也のSE、魂の叫び [11]
加速する技術改革と進まぬ業務改革

一志 達也(ichishi@pochi.tis.co.jp)
TIS株式会社
2001/10/31

 IT技術の移り変わりは驚くほどに速く、われわれのような専門技術者でも理解のスピードが追い付かないほどだ。こうしたスピードの速さをドッグイヤーなどと呼ぶが、これに加えて技術の幅が広がることが、さらなる混乱と困惑を生み出している。

 などといったことはいまさら強調しなくても、本サイトの読者諸氏であれば十分に納得していただけるところだろう。今回は、次々に生み出される最新技術とそれを使ったシステム構築の本質。そして、システムの導入に欠かせないはずの業務改革に焦点を絞ってみようと思う。

システムを導入する理由と目的

 「なぜコンピュータ・システムを導入するか」と問われて一言で返すのは難しい。しかし、ほとんど例外なく「利益を拡大するため」という目的が存在することは間違いない。その手段はさまざまで、コストを削減する方向でシステムを導入することもあれば、売り上げを伸ばす方向でシステムを導入することもある。さまざまといっても、本質的にはこの2つしかないはずであり、結局のところ企業として当然の理由からシステムを導入するのである。

 ところが、時としてその根本を忘れ、目的が違ったところに行ってしまうシステムも存在する。それは、「みんながやってるからうちもやらなくては」といったトレンド追従型。または、「この技術を使ってみたいから」といった興味本位型に分類できる。

 筆者は、何が悪いとも、どうあるべきだともいうつもりはない。ただ、「技術は目的を達成するために存在する」ということと、「システムを導入しただけでは目的(利益の拡大)は果たされない」ということを指摘したい。

目的を効率よく達成するために技術はある

 CRMやSCM、SFAなど、続々と登場するソリューション。XMLやJava、SOAPなど、次々と登場する新技術。いずれにしても、すべては利益を増大させるためのシステム構築をより効率よく実現するために生み出されている。

 極端なことをいえば、MS-DOSやオフコン上で以前作られていたような、キャラクタベースのシステムであっても十分に目的を達成できることだってある。それなのに、GUIベースでなくてはシステムではないように扱われるようになり、いまではHTMLやJavaを使ったWebベースでなくてはシステムではないかのように扱われている。

 これこそ、まさに技術が先に立ち、目的の達成がおろそかにされている状況を表している。もちろん、最新の技術やソリューションにはそれだけのメリットがあるからこそ、必要とされて生み出される。しかし、それがすべての企業、すべての業務に適用されるわけではない。

 場合によっては、構築後の導入や運用が多少面倒でも、Webベースのシステムを使わない方が適していることもある。最新のデータベースなど必要ないことだってある。究極の答えとして、「コンピュータを使わない」ということも考えられる。

 こうした技術先行の状況には、最新技術を最大限に盛り込んだ製品を次から次に出荷するソフトウェア市場にも問題はある。リスクの少ない、枯れた技術だけで作られた製品は少なく、逆に淘汰されていってしまうからだ。それだけに、技術者は常にリスクに付きまとわれ、最新の技術に追従し続けなくてはならない。

 実際問題として、顧客側の環境が枯れた技術での構築を受け入れないこともあれば、トレンド追従型の顧客によるリクエストということもあるだろう。それが良いか悪いかは別としても、事実は事実としてとらえる必要がある。

 いずれにしても、技術者は最新の技術を取得し、実績を作ることに意識が向いてしまう。その結果、時として興味本位になってしまう。これは紛れもない事実だといえる。

目的の達成のために業務改革は欠かせない

 こうした技術の問題とは別に、システムの導入による効果やその目的を見失うという問題もある。実のところ、導入するだけで利益が拡大するシステムというのは存在しない。そんなシステムが存在したら、だれもが飛び付いて導入するはずだ。もし万が一、そういったシステムが存在したとしても、それはたまたまラッキーだっただけなのである。

 目的を見失わないように、システムを構築する以前の本質に立ち返らなければならない。目的と目標を設定し、そのために必要なプロセスを分析することが必要だ。そこには、必ず現状の分析(問題の洗い出し)と、目的達成後の状態が含まれる。あまり行われていないが、システム導入後にはその効果を測定する機会があってしかるべきなのである。それも行わないのでは、成功したかどうかも分からない。

 そこに至るまでには、業務改革(時には意識改革)が欠かせないはずである。それもなしにシステムを導入しても、ただシステムを使うようになっただけで、それ以上の効果は望みにくいだろう。ミスが少なくなり、多少スピードが上がり、何となく効率よくなった気がする。極端にいえばそれだけである。

 人件費が削減できるわけでも、在庫が圧縮できるわけでも、顧客満足度と売り上げが増大するわけでもない。たとえできたとしても、それは自然にできるレベルの業務改革、必然的にできてしまった業務改革によるものなのだ。

 ある業務に人手が掛かりすぎているから減らしたい。2年後に人員を半分にしたい。在庫を削減し欠品率を下げたい。1年後に在庫を半分にし、欠品率を3分の1にしたい。顧客満足度を引き上げたい。3年後に顧客満足度を20%引き上げ、リピーターを増やし、客単価を増加させたい。それによって売り上げも20%増を目指したい。

 こうした目的や目標の達成が、システムの導入だけでは実現不可能なのは容易に理解できるだろう。実際には、ここまで分かりやすくはないとしても、ほとんどの場合は同じように定義できるはずなのだ。そして、それには適切な業務改革が欠かせない。唯一例外を挙げるとすれば、システム管理費用圧縮のためのシステム刷新だけである。この場合だけは、業務改革よりも技術が先行する可能性がある。

 われわれの業界において、「業務改革はコンサルタントの仕事」と位置付けられている。とはいえ、中立的に会社全体を見渡し、現状を分析してくれるコンサルタントをだれもが雇い入れられるわけではない。そんなことができる企業の方が少ないのが現実だろう。もちろん、われわれの顧客となる企業は、それぞれに自社の状況を分析しているはずだ。その結果として、SIerやソフトハウスに対し、自社に用いる業務システムの構築を依頼する。または、SCMやCRMなど、特定のソリューション導入を依頼する。

ご用聞きSEですか? それともコンサルですか?

 業務改革というものは、システムの作成より何より難しい。しかし、それに取り組み、システムを組み合わせることで、本来の目的が達成される。目的と目標を設定し、その実現のためにシステムを利用する。目的と目標の達成のために、何が必要かを分析していけば、システムの構築などほんの一部のタスクになるはずなのだ。まして、その構築のための技術的問題の解決となれば、ごくごくわずかな問題のはずである。

 こういえば、多くの方が賛同していただけるのだが、実際にはそうなっていないことも多い。システムを導入することが先に立ち、そのためにどういった技術を使うのか、その技術を使うための問題をどう解決するのか。そんなことにばかり目が行くことが多い。

 結果的に、SEはコンサルティング能力を発揮することなく、顧客から聞き出すべきを聞き出せなくなっている。単に顧客の要求するとおりにシステムを作ろうとし、そのために技術力だけを発揮し、問題の本質を見いだせずにいる。「それがSEなのだ」といえばそれまでだが、それではあまりに寂しい。

 何はともあれ、顧客のいいなりになってシステムを構築する、そんなご用聞きSEにはなりたくない。いつもながら自戒を込めて書いているが、このように思ってやまない、今日このごろの筆者である。

筆者紹介
一志達也

1974年に三重県で生まれ、三重県で育つ。1度は地元で就職を果たしクライアント/サーバシステムの構築に携わるも、Oracleを極めたくて転職。名古屋のOracle代理店にてOracle公認インストラクターやサポートを経験。その後、大規模システムの開発を夢見て再び転職。都会嫌いのはずが、いつの間にやら都会の喧騒にもまれる毎日。TIS株式会社に在職中。Linux Squareでの連載をはじめ、月刊Database Magazineでもライターとして執筆するほか、Oracle-Master.orgアドバイザリー・ボードメンバー隊長など、さまざまな顔を持っている。無類の犬好きで、趣味は車に乗ること。

連載 一志達也のSE、魂の叫び


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