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Bluetoothで広がるPalmの世界

柳下剛利
パームコンピューティング株式会社
2002/3/29



おもな内容
Bluetoothとは何か?
Bluetooth技術をPalmで利用する
Bluetooth対応アプリケーションの開発

 最近のPDA業界では、Bluetooth対応がホットな話題になっている※1。ワイヤレス通信というと、Wi-Fi(IEEE 802.11b)やPHSが注目されがちだが、Bluetoothはそれらと異なり、PDAを次なるステージに引き上げる力を持っている。

※1:編集部注
パームコンピューティング、SDIOに対応した「Palm Bluetooth Card」を4月上旬に発売(2/20)
ソニー、クリエ専用Bluetoothモジュール「PEGA-MSB1」を発表(3/11)
富士通、Xscaleを搭載し、Bluetooth内蔵のPocket PC「Pocket LOOX」を発表(3/12)
コンパック、Bluetooth内蔵のPocket PC「iPAQ Pocket PC H3800シリーズ」を発表(3/13)
PalmとSony Ericsson、PDA向けのBluetoothソリューションについてマーケティングアライアンスを締結(3/19)

 近年のPDAは、「マルチメディア対応、ワイヤレス通信対応」といった多機能化と、「いつでも、どこでも、簡単に使える」といった本来の機能とのバランスを取ることに苦慮している。本稿では、「ワイヤレス通信」「赤外線通信・無線LANに代わるワイヤレス通信インターフェイス」としての「Bluetooth」に注目し、解説する。

 Bluetoothとは何か?

 これまで、PDA向けのワイヤレス通信手段としては、赤外線通信(IrDA)やWi-Fiに代表される無線LANといったものが利用されてきた。

 赤外線通信は、PDAだけでなくPCや携帯電話、赤外線LANアダプタとさまざまな機器でサポートされている半面、

  • 低速
  • 通信する機器の間に遮へい物があってはいけない
  • 赤外線ポートの通信範囲が狭い

といった課題を抱えている。これに対して無線LANでは、高速(IEEE 802.11bでは最大11Mbps)ではあるものの、

  • 比較的安価で構築できるが、消費電力が大きい
    (例えば、CFタイプのIEEE 802.11b対応の無線LANカードの最大消費電力は、約700mWとPHSにおける64kbps通信時の約2倍)
  • 無線LANルータ/ホットスポットが必要
  • 限りある資源(無線帯域)を共有するために複数のデバイスが1つのアクセスポイントに集中すると実効速度が落ちる

といった課題を抱えている。

 Bluetoothでは、赤外線通信や無線LANの長所を取り入れながら、これらの課題を以下のように解決している。

  • 低消費電力
     Bluetoothの最大消費電力は100mW程度であり、無線LANやPHSのそれと比較しても十分少ない
  • そこそこ高速
     Bluetoothは、最大実効速度723kbpsとPHSのそれと比べても10倍ほど高速である。また、無線技術のため半径10m程度であれば、遮へい物があっても通信可能
  • 1対多の接続
     Bluetoothのネットワークでは、マスター/スレーブといった関係を持つことができ、1つのマスターから最大7台のスレーブと同時通信が可能
  • データ通信だけでなく音声通信にも対応
     将来、ヘッドセットからの音声入力でコマンド実行やデータ入力ができるようになる

 このようにBluetoothは、単なるIPネットワーク(インターネット)へのワイヤレス接続手段を持つだけではない。「PCと周辺機器とのケーブルレス接続」のみでなく、「PC/PDAと家電とのケーブルレス接続」というようにさまざまな機器とのPeer to Peerなワイヤレス接続手段を提供している点が無線LANと異なっている。最近、「無線LAN vs. Bluetooth」といった図式で比較されることが多いが、競合するものではなく、ミカンとリンゴを比較しているようなもので、意味がないことがお分かりいただけるであろう。

※2:編集部注
 Bluetoothは、1994年にEricsonによって基礎技術の開発が始められ、1998年に、IBM、Intel、Ericson、東芝、Nokiaの5社で「Bluetooth SIG」を設立し、その規格が発表された。Bluetoothという名称は、デンマークとノルウェーの無血統合を果たしたデンマーク王の名前「Harald Blaatand "Bluetooth" II」 にちなんで付けられた。

BluetoothがIEEEで標準化
 IEEE(米電子通信学会)の標準化組織であるIEEE-SAが米国時間3月21日、Bluetooth 1.1と互換性のある無線通信規格「IEEE 802.15.1」を承認した(ニュースリリース)。802.15.1は、Bluetooth SIGよりライセンスを受けて規格を策定しているので、Bluetooth 1.1との完全な互換性を確保している。この標準化により、Bluetoothの普及にさらに拍車がかかることになるだろう。

 Bluetooth技術をPalmで利用する

 BluetoothのPDAでの実際の活用については、次のように整理することができる。

  1. ワイヤレスインターネットアクセス
  2. ケーブルレスなシリアル接続による周辺機器との通信(HotSync)
  3. Bluetoothを介在したアプリケーション(データ交換)

●Palm Bluetooth Cardの導入

国内では4月上旬に発売される「Palm Bluetooth Card」。価格は未定

 これらについて、4月に出荷が予定されている「Palm Bluetooth Card(以下、PBC)」を例に紹介する(すでに米国では出荷が開始されている)。PBCは、Bluetooth 1.1ならびにSDIOに準拠している。PBCに同梱のCD-ROMからドライバソフトやサンプルアプリケーションを導入し、PBCをSDカードスロットに挿入するだけのカンタン操作で利用できる。

 最初に「環境設定」アプリケーションを実行すると、「Bluetooth」というメニューが追加されていることに気付く。ここではPBCが固有に持つアドレスに対して、ユニークなデバイス(ホスト)名を登録し、「信頼関係にあるデバイスのリスト管理」を行う(図1図6)。このデバイス名は、通常HotSyncで利用するユーザー情報になる。

図1 「環境設定」アプリケーション→「Bluetooth」項目の画面。この機器のデバイス名は「DECKARD」だと分かる 図2 図1の左下の「Trusted Device」ボタンを押すとBluetooth機器を探し始める 図3 「HOLDEN」という機器を発見

図4 互いの機器で、共通するパスワードを入力する 図5 パスワードによる認証を行い、初めて通信が可能となる 図6 接続した「HOLDEN」という機器のプロファイルを表示させることもできる

 それでは、この「信頼関係」とは何だろうか? すべてのBluetoothデバイスは相互接続性を確保するために、プロファイルというサービスプロトコルを複数実装している(プロファイルの内容とPBCの実装については表1を参考にしてほしい)。

 例として、PDAからBluetooth経由で携帯電話に接続し、ダイヤルアップ接続でインターネットアクセスするケースを考えてみる。この接続は、最初に「PDA〜携帯電話間の論理的な接続」を確立したうえで「一般的なダイヤルアップ接続」を行うという2段階で構成されている。「論理的な接続」は、ダイヤルアップ接続が可能な機器を検索した後に、接続先とのパスキーの交換によるセキュリティ確保を行うことで確立される。ダイヤルアップの都度、これらの作業を行うことは、時間のムダだけでなく操作の煩雑さにつながるため、あらかじめ登録しておこうというのが「信頼関係のリスト管理」の主旨だ。Hostsファイルに直接IPアドレスを登録して接続するかのように、接続先のBluetooth情報を登録しておくということなのである。

プロファイル名 内容
ジェネリック・アクセス Bluetoothの基本プロトコルスタック。すべてのBluetoothデバイスでサポートされている
サービス・ディスカバリ・アプリケーション Bluetoothデバイスがサポートしているサービスを検索するためのプロトコル、ならびに手順が規定されている。また、自分が通信可能な相手を見つけ出すことに利用する
シリアル・ポート Bluetoothデバイスを仮想シリアルポートにするためのプロトコル、ならびに手順が規定されている。また、Virtual Serial Driverを経由で通信プログラムをサポートする
ダイアルアップ・ネットワーク Bluetoothデバイスを使ってインターネットアクセスするためのプロトコル、ならびに手順が規定されている。前述のシリアル・ポートと両方を使うことで、Bluetooth内蔵の携帯電話/PHS経由でインターネットアクセスができる
LANアクセス PPP経由でインターネットアクセスするためのプロトコル、ならびに手順が規定されている。前述のダイアルアップ・ネットワークと異なり、BluetoothアクセスポイントやPCを経由してアクセスする場合に利用する
ジェネリック・オブジェクト・エクスチェンジ Bluetoothデバイス同士でデータ交換するためのプロトコル、ならびに手順が規定されている。PBCに同梱のソフトウェアは、これを利用してデータ交換をしている
オブジェクト・プッシュ 名刺データの送信のようにプッシュ型でデータを送信するためのプロトコル、ならびに手順が規定されている
表1 PBCがサポートしているBluetoothプロファイル

●PBCを利用したワイヤレスインターネット接続

 では、PalmデバイスとPBCを使って、実際にインターネットに接続してみよう。最初に表示される「初期化中」では「論理的な接続の確立」を行っている(図9)。その後、通常のダイヤリングとPPP接続が行われる。接続されたら、Webブラウジングやメールチェックができるようになる。

 これはシリアル接続をケーブルレスで実現するもののため、母艦(PC/Mac)側の環境が整っていればHotSyncも問題がない。

図7 「環境設定」アプリケーション→「Connection」項目の画面。Bluetooth経由でPHSを使うように設定 図8 ダイヤルアップでBluetoothを使う設定。図7での設定が必要となる 図9 Bluetooth経由でダイヤルアップを実行。この段階では論理的な接続の確立のみ

   
図10 実際にダイヤリングを行う。この後PPPの接続が行われる

●Bluetoothに対応した2つのアプリケーション

 次に、Bluetooth対応したアプリケーションの例として、「BlueChat」と「BlueBoard」を紹介する。

 表1にあるように、PBCは「オブジェクト交換」と「オブジェクトのプッシュ」をサポートしている。これは、Palmの代表的な機能である赤外線を使ったアプリケーションや名刺データの送信を行うためのプロトコル「OBEX(Object Exchange Protocol)」をBluetoothにも適用したものである。OBEXの仕様IrDAが公開している。OBEXは、モバイル機器向けデータ同期仕様のSyncMLで採用されたり、Open OBEXプロジェクトでオープンソースのOBEX実装が開発されたりしている。

 さて、アプリケーションの話に戻ろう。BlueChatは、1対1で実施するインスタントメッセージングアプリケーションであり、Bluetoothネットワークの範囲内のPalmハンドヘルド同士でチャットができるものである。よく使うフレーズを登録して利用したり、スマイリー(顔マーク)を送信したりと、PCのインスタントメッセージングアプリケーションとほぼ変わらない機能を有している(図12)。

 
図11 Bluechatによるチャットの要求画面 図12 BlueChatの画面。スマイリーを利用したり、フォントサイズを変更できる

 BlueBoardは、「ホワイトボード共有」アプリケーションだ。Bluetoothは、1台の親機(発呼側の端末)から最大7台の子機(着呼側の端末)と同時に通信(ブロードキャスト)できるようになっている。BlueBoardでは最大3台の子機とホワイトボード共有ができるようになっている(図1314)。

 
図13 Blueboardでは最大3台の子機とホワイトボード共有ができる 図14 BlueBoardの画面。線の太さや色を変更できる

 これらのアプリケーションは、カナダのColligo Networks社のコラボレーション技術がベースになっている。インスタントメッセージやホワイトボード共有といったコラボレーション技術は、Peer to Peer技術とともに注目をあびており、PDAの新しい使い方として目を離すことができない。

 「オブジェクトのプッシュ」というと、「キオスク端末からのアプリケーションやコンテンツ」の配信が例として考えられる。今年もPalmSource Japan Forum 2002(2002年3月28日〜29日開催)では赤外線を使ったコンテンツ配信を予定しているが、展示会やイベントでの会場案内、駅に代表される公共の場でのニュース情報や広告などの提供というように、さまざまなシーンでの利用が考えられる。米BlueFish Wireless社の「BlueFish」プラットフォームのように、赤外線/Bluetoothをサポートする環境がホットスポットサービスと同様に普及することは想像に難くない。

 Bluetooth対応アプリケーションの開発

 これまで書いてきたことで、Bluetoothが単なるケーブルレスなシリアル接続の技術ではなく、PDAを次なるステージに引き上げる技術であることがご理解いただけただろうか。ここからは、Bluetoothの特性を生かしたアプリケーションを紹介しながら、それらを開発するためにパームコンピューティングが用意しているものを紹介していく。

●音声入力による第3の入力環境

 PDAの入力環境といえば、「手書き文字認識」「ハード/ソフトキーボード」が代表的なものである。しかし、PCのそれと異なり、大量の文字入力には向かないともいわれている。音声認識技術がさらに進化することにより、Bluetoothに対応したヘッドセットを通して文字を入力したり、コマンド/アプリケーションを実行することができるようになる。あたかも、昔見たSF映画や子ども向けTV番組のようにだ。

●携帯電話機能との融合

 現時点での携帯電話との連携といえば、アドレス帳の交換とかシリアル接続によるデータ通信になる。片や携帯電話機能を内蔵したPDAも出現しつつある。先の音声入力も含めれば、ヘッドセットを使って携帯電話内蔵のPDAから、指定した相手に電話をかけ、スケジュールの調整をしたり、メール/Webのチェックができるようになる。

●ホームセキュリティや情報家電のコントローラとして

 すでにPDAでは、赤外線を使ってテレビやビデオのコントローラとして使える。これがさらに進化して、ホームセキュリティシステムと連携することで、屋外から電気・ガス・家電を制御するだけでなく、介護ビジネスのインターフェイスとして使えるようになるだろう。

 これまで挙げてきたものは、いままでSF映画やIT産業のイメージビデオにあったものばかりだが、Bluetoothを使うことで(ときには無線LAN技術を併用することで)これらが現実的なものになる。

 パームコンピューティングでは、Bluetooth対応のアプリケーションを開発するためにPalm Bluetooth SDKを用意し、無償ダウンロードできるようにしている。現時点ではケーブルレスシリアル接続に対応するためのVirtual Serial Driver、OBEXに対応したアプリケーション開発のためのExchange Managerが用意されている。これらは従来のアプリケーション開発環境にアドインして使うようになっている。次世代のコラボレーションツール、アプリケーションの開発に、ぜひともチャレンジしてほしい。



 


 
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