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  Palmで利用するエンタープライズシステムの開発(1)
PDA対応の企業システムを開発するポイント

株式会社テクノアート
大田黒和臣
2001/10/24


今回のおもな内容
PDAを利用したエンタープライズシステムとは
サーバとのデータ連携
UIの設計について

  PDAをビジネスツールとして、さらには企業内システムの一部として使用する動きが盛んになってきている。ビジネスツールとしての利用はPIMおよびグループウェア連携で簡単に実現可能となってきたが、企業内システムで利用するためにはまだ簡単とはいえない。なぜならば、RDBとの連携およびアプリケーション開発が必要となるためである。PDAなどのモバイル機器とRDBとの連携には、サーバ同期型のミドルウェア(モバイルデータベースと呼ばれることもある)を利用する(詳細は、柳下氏の「PalmとPC間のデータ同期技術を知る・企業システムに合ったサーバ同期」を参照)。

 中でも、「Palmハンドヘルド」(以降Palm)で動作する「IBM DB2 Everyplace」(以降DB2e)は、同期サーバ側のプラットフォームとしてWindows 2000/NT、Linux、AIX、Solarisに対応し、同期可能なRDBMSとして、DB2 UDBだけではなく、JDBC(Java Database Connectivity)を利用することでOracle、Sybase、Microsoft SQL Serverに対応している。

 ここでは、接続性の良いDB2eとPalmを例に、設計、開発、応用の注意点を述べながら、Palmから利用できるエンタープライズシステム構築の概要を数回にわたって解説していく。

§ PDAを利用したエンタープライズシステムとは

 最近普及がめざましいPDAを、PIM以外の企業内システムの一部として利用できないかということは、誰しもが考えることである。限られた業務への使用であれば、明らかにノートパソコンなどに比べ価格が安く、携帯性に優れているからである。

 しかし、現実には次に挙げるようないくつかの問題を乗り越えていかなければならない。

  1. データ量、通信インフラ
  2. 基幹システムとの連携方法
  3. 新たなOSでのプログラム開発

 ノートパソコンを利用する方が現実的な場合もあることを、システム提案・設計する立場の方は注意すべきである。

 最近のPDAは、搭載メモリの増加および拡張記憶領域が使用できるようになるなどデータの保管能力が向上しつつある。しかし、データ通信の時間、PDA上のデータ検索にかかる時間を考慮し、いかに必要なデータのみを効率よく通信および保管するかは大きな課題となってくる。

 課題の解決には、データの差分交換が有効であるが、これはPDAに搭載されているOSだけでの実現は難しい。データの差分交換を行うには、先にも述べたミドルウェアの導入が現実的である。

 また、Palmアプリケーションの開発者も国内ではまだ少なく、開発者の確保も最大の課題となっている。

Palmアプリケーションの開発環境

  これからPalmアプリケーションの開発を始める技術者にとっては、OSおよびAPIの壁もあるが、開発環境が最大のネックといえる。Windowsの開発環境と比べるとかなり効率が悪いのだ。現状では、VisualBasic(VB)ライクの開発ツールとC言語系開発ツールに分かれる。

 VBライクな開発ツールは直感的であり、特別な知識もなくお手軽であるが、細かな作りこみができず、システム利用するには限界がある。これに対して、C言語系開発ツールは処理パフォーマンスも高く、細かな作りこみも可能であるが、MicrosoftのVisual Studioなどと比べると2倍ほど効率が悪い。

 現在、PalmでもJavaで開発したアプリケーションは動作するが、非常に制限が多くパフォーマンスも実用レベルに達していない状態である。また、Palmではデータの保存にPalmの標準データベースを使用する必要があり、特有のアクセス方法を理解しなければならない。これが、OracleやDB2 UDBなどのRDBMSを使用してきた開発者にとっては一番の障害となるだろう。

Palm上でのデータの扱い

 Palmでの標準データベースはレコード単位での管理データベースであり、構造体でのデータ操作や検索ロジックまで自己開発しなければならない。この問題を解決するために出てきたのがPalm上で動作するRDBMSである。

データへのアクセスは使い慣れたSQL文が使用でき、さらにサーバとの連携用ミドルウェアを使用することにより、データベース間でのレプリケーションを実現してくれるのである。

 

図1 Palm標準データベースとRDBMS

 

§ サーバとのデータ連携

 Palmでサーバとのデータ連携を行うには、次に挙げるいくつかの方法がある。

  1. コンジットの利用
  2. ネットワークを介したデータ交換
  3. オンライン処理
図2 データ連携方法の選択肢

 それぞれの方法がどのような場合に向いているのかを図示したのが、図2である。それでは、それぞれどのような特徴があるのか見ていこう。

コンジットの利用

 コンジットとは、「Palm Desktop」とPalm上のPIMでのデータ交換、アプリケーションのインストールおよびバックアップなどを行う個々のプログラムであり、Palmを接続するパソコンの「HotSync マネージャー」から呼び出され実行されるものである。例としては、ロータスのNotes/Dominoの情報をPalm上のPIMとデータ交換を行う「EasySync」が挙げられる。

図3 「Easy Sync」の仕組み

 同様にオリジナルのコンジット開発を行い、サーバとのデータ連携を行うことも可能だが、コンジット特有の処理を理解する必要があり、開発は容易ではない。特にデータ差分交換の処理を作り込むことは、コンジット開発に限らず大変な工数を必要とする。コンジットを容易に開発するツールも存在するが、運用管理面でのデメリットが残ってしまう。

 データ交換部分はサーバ上のデータに合わせ開発することになるため、サーバ上のデータ構成が変わってしまうと、このコンジットの再開発および各パソコンへのインストールが発生してしまい、管理コストに影響するからである。また、コンジットは各個人のパソコンにクレードルを接続して利用するHotSyncが前提となるため、基本的にPalm台数分のパソコンも必要となり、新規導入の場合は大変なコストがかかってしまう。

ネットワークを介したデータ交換

Portsmith社のEtherクレードル

 コンジットを使わないデータ交換の方法として考えられるのが、Palmから直接サーバなどにネットワーク経由で接続し、Palm上のデータ交換アプリケーションにて行う方法である。こうすれば、コンジットを動作させるためのパソコンも必須ではなく、無線LANや携帯電話、PHSなど柔軟性の高い構成が簡単に実現できる。PalmにはRASサーバ内蔵のネットワーク直結型クレードル(Etherクレードル)が存在する。データ連携を行うミドルウェアはこの方式をとっており、Palm上のRDBMSとサーバ上のRDBMSの間でレプリケーションを実現するのである。Palmデバイスまたはユーザ/グループ単位などで交換を行うデータの絞込みや制限、差分交換の制御を行ってくれため、データ量を最適に保ちセキュリティの確保も行うことができるのである。また、データ構造が変化した場合も自動的にPalm上のRDBMSに適応してくれるというメリットやPalmアプリケーションの自動配布機能を併せ持っており、運用管理コストも大幅に削減することが可能である。

図4 「DB2 Everyplace SyncServer」レプリケーションの仕組み

オンライン処理

 利用するデータが非常に多い場合や、即応性を有するシステムの場合はオンライン処理を行いたいものである。最初にイメージするのはブラウザによるシステムであるが、Palm上のブラウザにはまだ制限が多く、パソコン用などに設計した画面はそのままでは使用できず、結局Palm専用画面の開発などコストがかかってしまう問題を有している。

 先に述べたミドルウェアの「DB2 Everyplace SyncServer」では、Palm上のRDBMSとレプリケーションを行う使い方以外に、オンライン処理にも対応している。これは、RDBMSのリモート・プロシージャ・コールを活用することで実現されている。

図5 「DB2 Everyplace SyncServer」オンライン処理の仕組み)

 

§ UIの設計について

 Palmを業務で使用する場合は、ユーザーインターフェイスに工夫が必要である。個人ユースの場合はパソコンなどを使い慣れた方が多く、パネルをスタイラスでタップすることは苦でもなく、むしろ簡単に思えるかも知れないが、業務利用となるとそれすら嫌がられる傾向にある。そのため、UIの設計は指でもタップできる大きいボタンや大きい文字、ハードウェアボタンに対応するなどの工夫が必要となってくる。

 例として、「TAPS-inventory」のUIを説明する。

  • ボタンは指でも押せる大きさ
  • 画面下部の小さいボタンをハードウェアキーに割り付ける
  • 数字や文字入力はGrafittiや標準のソフトウェアキーボードを使用せず、大きめに配置したオリジナルキーボードを用意して入力する
図6 「TAPS-inventory」のメニューと数値キーボード

 今回は、PDAを企業内システムの一部として利用する際の全体的な概要と考慮すべき項目を紹介した。次回は、「DB2 Everyplace」の概要を説明し、実際にインストールおよび動作テストを行ってみる。



 


 
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