書評

もう避けて通らない!
「常識」TCP/IPを身につけ使いこなす5冊

福永勇二
インタラクティブリサーチ
2000/5/22

この5冊
図解・標準 TCP/IPハンドブック
マスタリングTCP/IP 入門編 第2版
TCP/IP解析とソケットプログラミング
TCP/IPネットワーク管理 第2版
ポイント図解式 インターネットRFC事典

 ネットワークに関わるエンジニアにとって、もはやTCP/IPの知識は不可欠である。多くのベンダーは、OSネイティブのネットワークプロトコルから、TCP/IPに軸足をシフトさせようとしている。TCP/IPをネイティブプロトコルに持つLinuxの成長も相変わらず急激だ。そして何よりもインターネットのコアをなすプロトコルは……言うまでもなくTCP/IPである。

 伝統的なインターネットエンジニアの志向を表す言葉に「ラフコンセンサス アンド ランニングコード」なるものがある。細かい厳密さは求めず、現在のコードを大切にする、といった意味だ。この方針で作られる限り、自ずと仕組みはシンプルになり、プログラム化しやすい合理的なものになってゆく。これはTCP/IPにも当てはまる。

 ややもすると、柔軟性に富んだTCP/IPはパラメータが多く、複雑怪奇なものに見えてしまうかもしれない。だが、エッセンシャルな部分では非常にシンプルかつ合理的だ。適切な説明があれば誰にでも理解できるはずである。それと同時に、ある部分には信頼性や効率を上げるため高度な英知と工夫も組み込まれている。こちらが醸し出すのはTCP/IPの奥の深さである。これら両面を持つTCP/IPは、初心者にとっても経験者にとっても、格好の知的探求の対象となるに違いない。

 誕生からの時間が長いぶん、TCP/IP関連の書籍は豊富で良著も多い。また新しい書籍も次々と出版されている。それらの中から各レベルに応じて役立ちそうな5冊の書籍をピックアップして紹介する。

豊富なチャートでプロトコルを理解

図解・標準
TCP/IPハンドブック


若林宏著
秀和システム 1999年
ISBN4-87966-850-8
2400円

 プロトコルの実像をすばやく理解するのに、メッセージチャートは有効な手段だ。本書は、そのメッセージチャートを積極的に使用して、初心者でも通信プロトコルが理解しやすいような配慮がなされている。また、イラストが豊富で、説明には例示を多用しているので、ネットワーク初心者も抵抗なく読めるだろう。

 オススメなのは3章と4章だ。3章ではIPプロトコルでの到達性を確保するために必要な要素、ルーティング、ARPによるアドレスマッピング、ICMPでのネットワークコントロールを説明する。また4章では、TCPの特徴的な要素でありながら初心者には理解しにくい、パケット到達確認、スライディングウィンドウ、再送、フローコントロール、コネクション管理などを平易に解説している。メッセージチャートやイラストが多用されていて、それぞれの仕組みはもちろん、その機能が必要な根拠もわかりやすい。プロトコル定義に対する厳密性や網羅性をきっぱりと捨てたおかげで、インタラクションのエッセンスが直接的に現れ、誰にでも理解しやすい表現となっており好感が持てる。

グッドバランスの正統派入門書

マスタリングTCP/IP
入門編 第2版


竹下隆史ほか著
オーム社 1998年
ISBN4-274-06257-0
2200円

※改訂により、本書は絶版となりました。改訂版は下記欄で注文できます
マスタリングTCP/IP 入門編 第3版
2002年2月、2200円
ISBN4-274-06453-0

 本書のターゲット読者は前書とほぼ同じである。だが内容を見るとその雰囲気はだいぶ違う。TCP/IPを理解するのに必要な情報を十分網羅して、それぞれに均等かつ適切な解説が加えられている。このバランスのよさは良質な教科書に通じるものがある。

 まず、1章ではネットワークの基礎知識として、プロトコルの意味、OSI参照モデル、ネットワーク構成要素などを解説する。2章はおもにTCP/IPの基礎知識で、誕生の背景やインターネットとの関わりに触れる。3章では、Ethernet、FDDI、ATMといったネットワーク媒体の特徴が語られる。コアとなるIP、ARP、RARP、ICMP等のプロトコルは次の4章で登場する。DHCPやIPマルチキャストの記述もある。5章はTCPとUDPを解説だ。シーケンス番号の初期値はどうやって決めるのか等、「次に知りたくなる」情報があちらこちらに散りばめてある。6章ではRIP、OSPF、BGPなどルーティングプロトコル、7章ではDNS、WWW、メール、telnet、ftp、nfs、snmpなどアプリケーションプロトコルを取り上げる。また、最後の8章では主要な公衆通信サービスについても触れている。

 構成からもわかるとおり、TCP/IPを学ぶ第一歩にふさわしい。正確な知識をまんべんなく身に付けておくきたい人向けの正統派入門書だ。

「見て作る」実践的プログラミング指南

TCP/IP解析とソケットプログラミング

澤川渡/綱島明浩 共著
オーム社 2000年
ISBN4-274-06353-4
5600円


 ネットワークアプリケーションを書くプログラマにとって、LANを流れるパケットをモニタしてプログラムの挙動を確認する機会は多い。その実際を紙面で見ることができるのが本書の特徴だ。対象となっているのは、telnetとftpでやりとりされたパケット。パケットモニタの画面を時系列に並べ、パケット単位でポイントの解説が加えられている。ある程度TCP/IPの知識があれば、画面を追いかけてゆくことで、これらサービスの挙動が読み取れる。付属のCD-ROMには、利用しているパケットモニタの体験版が入っているので、本を読みながら自分の手でパケット解析をしてゆく楽しみもある。

 後半は、ソケットプログラミングがテーマとなっている。ソケットプログラミング本のお約束でUnixソケットにも触れてはいるが、大部分はWindows Socketと「メインフレーム」のTCP/IP環境にページが割かれている。著者にメインフレーム系の経験がありこのような構成になったようだ。だが、メインフレームのTCP/IP環境に縁のある人は多くない。解析とプログラミングがドッキングしたユニークな本だけに、TCP/IP解析の実例や、Windows Socketプログラミングに、もっとページを割いてもらいたかった。

 それはともかく、パケットモニタの実践例とソケットプログラミングの基礎がコンパクトにまとまり、モニタリングツールやソースがCD-ROMで付属しているので、これからネットワークプログラムに挑戦する人にはいい書籍だろう。メインフレーム系のTCP/IPプログラミングの貴重な情報源にもなりそうだ。ただし5600円という値段はちょっと高いかも。

ネットワーク管理の標準書

TCP/IPネットワーク管理 第2版

Craig Hunt 著/村井純
監訳/安藤進 訳
オライリー・ジャパン 1998年
ISBN4-900900-68-0
5800円


 「ネットワーク管理者になるべし」と宣告を受けた後、最初に手にする本はその人の性格により2つに分類できる(と思う)。プロトコルの定義に始まり、パケット構造、応用例と知識を積み重ねてゆく本、もうひとつは、明日からの作業を乗り切るためのHow To満載の本だ。本書はどちらかといえば後者だが、技術的ポイントの説明は大変詳細で、そのアプローチは正統派だ。いかにもオライリーらしい。

 前半にはTCP/IPの基礎とDNSやSMTPなどのアプリケーションプロトコルを解説する。後半はネットワーク設計、OS、ネームサーバー、NFS、Sendmailなどの設定、またTCP/IPネットワークでのトラブルシューティングやセキュリティ対策について、Unixでのオペレーションを含めて、具体的な説明が展開されてゆく。網羅する範囲が広い分、各項目の突っ込み度はさほど深くないが、全般的な基礎知識と標準的なアプローチが1冊の本で得られるメリットは大きい。Unixについての基礎知識さえあれば、身近で優れた情報源として新人ネットワーク管理者にも薦められる。

ネットワーク関係者必携!

ポイント図解式
インターネットRFC事典


笠野英松 監修/マルチメディア通信研究会 編
アスキー 1998年
ISBN4-7561-1888-7
9500円


 サーバーアプリケーションの設計・開発、プロトコル性能の評価などを行うためには、TCP/IP関連プロトコルの正確な定義が欠かせない。そんな場面では、一般書籍から子引きや孫引きするより、原典であるRFC(Request For Comment)に当たるのが合理的だ。RFCそのものはインターネット上のあちらこちらで公開されているので簡単に入手できる。だが、その内容は比較的硬い調子の英語で書かれ、読みやすいものではない。実装に向けては、MUST、MUST NOT、SHOULD、SHOULD NOT、MAYなどの助動詞を、全て正確に理解することも求められ、大部分の人にとって骨が折れる。

 そんなRFCを読みこなす必要のある人には、英文翻訳に終わらず、記述内容の解説や、RFC全般との関連にまで触れる本書が強い味方になるだろう。1061ページもの分厚い装丁、1998年9月末現在に存在する2428のRFCをほぼ網羅するという姿勢は、まさに事典という名前に相応しい。RFCに定めるプロトコルの解説はもちろん、ITFTを中心とした標準化委員会の役割や、RFCの読み書きの方法についても説明が加えられている。またコラムはRFCに絡む技術的話題がコンパクトに語ってあり、これはこれでとても興味深い。ネットワークエンジニアから研究者まで、幅広い層の人に貴重な情報源となるだろう。価格はかなり高いがネットワーク分野に携わる人は一冊持っておいて損はない。

 なお、執筆時期が1998年9月のため仕方ないのだが、RFC2429から先の新しいRFCは本書には含まれていない。継続的な改訂が期待される。

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