書評

入門から実践まで
次世代の基礎インフラ「IPv6」を学ぶ5冊

鈴木淳也
アットマーク・アイティ 編集局
2001/9/18

今回紹介する5冊
IPv6ちょ〜入門
IPv6〜次世代インターネット・プロトコル
IPv6入門
IPv6プロトコル徹底解説
IPv6ネットワーク実践構築技法

 現行のIPv4でのIPアドレス枯渇が叫ばれたのが1990年代前半。その問題に対処すべく登場したIPv6は、すでにドラフトという段階を終え、ISPによる商用サービスも開始されつつある。単純にアドレス空間の拡張というだけでなく、IPv4で懸案とされた問題を解決すべく、通信品質制御や暗号化通信、効率的なルーティングなどの拡張機能も考慮に入れられているため、ややもすればIPv6は複雑極まりないだと捉らえられるかもしれない。そのため、ユーザーにとってみれば、IPv4に対してIPv6のメリットを見いだせない限り、現実問題としてのIPv6を理解しようという気持ちはなかなか起きるものではない。

 だが、IPv6がIPv4の後継プロトコルとして登場した以上、「移行」という関門は避けられない。どのくらいの年月を必要とするかは分からないが、誰もが通過する道になるだろう。その前にまず、IPv6とは何か、きちんとした知識を身に付けておく必要があるはずだ。

 ここでは、企業のネットワーク管理者やネットワーク技術者はもちろんのこと、これからTCP/IPやIPv6の正しい知識を学ぼうと考えるネットワーク入門者の方々にもお勧めの、IPv6理解の助けとなる書籍5冊を紹介していく。

IPv6の初めの一歩はこれから

IPv6ちょ〜入門

栗林誠也著
広文社 2001年
ISBN4-87778-065-3
2200円(税別)


 その軽いタイトルに、本屋で手にとるのをためらう人もいるかもしれないが、分かりやすさという点では、今回紹介する書籍の中でもピカイチだ。図版やコラムが適度に配置され、要点をすっぱりと書いた構成は、電車などでのちょっとした移動時間を利用して勉強するような人にとっても読みやすい。

 本書の構成は、IPv4などのIPネットワークの基礎知識から、現状の問題点とそれを解決するために登場したIPv6の仕組み、そしてIPv6で実現されるネットワークの世界……といった解説書としては順当な流れとなっている。IP通信の仕組みにまつわる難しい概念については、極力補足説明がなされているため、TCP/IP入門者であっても最後まで読み進めることができるだろう。128ビットで表現されるIPアドレスの構造や、ユニキャスト/エニイキャスト、TLA/SLAといったIPv6の基本用語、そしてパケットの優先度/暗号化といった概念などはひととおり網羅されているため、この1冊を読むことでIPv6の基本はほぼマスターできる。

 もし、ネットワークエンジニアやネットワークアプリケーションのプログラマなどを目指す人で、さらに深い知識を身に付けたいというのであれば、以下に紹介するような書籍へとステップアップしていけばいいだろう。初めの1冊にふさわしい本だといえる。

読み進めるほどに味が出るIPv6解説書

IPv6〜次世代インターネット・プロトコル

クリスチャン・ウイテマ著/WIDEプロジェクトIPv6分科会監訳/松島栄樹訳
ピアソン・エデュケーション 1997年
ISBN4-89471-229-6
2136円(税別)


 本書の冒頭にある監訳者のまえがきで「IPv6の入門書として……」というくだりがあるが、正直入門書としてお勧めできるものではない。本書が想定する読者レベルは「IPv4について深い知識があり、インターネット技術に関わる仕事に従事している技術者」だといえる。実際、ICMPの動作やルーティングプロトコルのBGPの話がいきなり出てくるなど、TCP/IPテクノロジーに精通していない入門者には少々つらい。つまり、IPv6入門とは言っても、“TCP/IP入門者が対象ではない”と考えていいだろう。

 構成自体はオーソドックスなものだ。IPv6の登場経緯からその仕様、拡張機能と、「IPv6ちょ〜入門」の内容をさらに詳細に記したものに加え、IPv4のネットワークからいかにIPv6に移行するのかの方法論が書かれている。図版などの要素が少なめで、本文がぎっちり詰められており、見出しから目的の内容を参照するリファレンス的な使い方が難しい面はあるが、「頭から順番に読んで勉強していく」ようなIPv6の教科書だととらえれば問題ない。

 このような解説だと、単純に「とても難しい本なのでは?」という印象だけを与えてしまうが、本書のすごいところは、「なぜIPv6にこの機能が実装され、このような仕組みになっているのか」を逐一丁寧に解説していることだ。特に、各章の最後に「論点」というセクションがあり、読者が疑問に思うようなポイントをとりあげている。これは、IPv6の仕様策定に関わったIABの委員である著者ならではのものだろう。ちなみに、私は最初この本の内容が理解できず途中で投げ出していたが、しばらくしてIPv6の知識をある程度身に付け再度読み進めたところ、本書の面白さが理解できた。

より理解を深めるためのIPv6入門書

IPv6入門

Mark A.Miller著/トップスタジオ訳/宇夫陽次朗監修
翔泳社 1999年
ISBN4-88135-728-X
4300円(税別)


 これまで紹介してきた書籍は、どちらかといえばIPv6の概要を紹介することが話題の中心だったが、本書ではより詳細にIPv6の実装や動作原理に踏み込んで解説している。TCP/IP(IPv4)について知識があり、「入門書はパスしてもいい」と考えている方のファーストステップとしては、むしろ本書からIPv6の世界に入るのがお勧めかもしれない。もちろん、前述の「IPv6ちょ〜入門」のような入門書中の入門書からの次のステップとして本書を考えるのもいいだろう。

 本書の読みどころの1つは、章の最後に「事例研究」として、実際に市販の機器を用いた動作例が紹介されていることだろう。ICMPによるメッセージ通知やルーティングプロトコルによる経路制御など、IPv6での実装について紹介した後、実験ネットワークを用いて実際にやりとりされるパケットやメッセージの一覧が示されている。具体例を示すことは、動作原理に対してより深い理解を得るための常套手段であり、その意味で、本書が分かりやすい解説を目指していることがうかがえる。また、IPv6には常につきまとう問題である「IPv4ネットワークからの移行方法」についても解説がなされている。だが全体に対してのボリュームはわずかであり、本書のメインは「IPv6の動作原理を理解する」ことにあるといえる。

 IPv6の特徴である近隣探索やルーティングなどの機能についてまんべんなく触れており、メッセージ/パケット構成などの、後々リファレンスとして参照可能な情報も満載である。最初は入門書として読み進め、次からは参考書として逐一参照するなど、長い付き合いができる1冊として手元に置いておくのにお勧めだ。

IPv6移行を考えるネットワーク管理者のための参考書

IPv6プロトコル
徹底解説


Marcus Goncalves/Kitty Niles著
生田りえ子/勝本道哲/重野寛 訳
日経BP 2001年
ISBN4-8222-8082-9
3800円(税別)


 より詳細なIPv6の機能解説ということで、内容的には前項の「IPv6入門」に近い。だが本書ならではの大きな特徴として、「IPv4からIPv6への移行」をテーマにした詳しい技術解説が比較的ボリュームをとっており、現実問題としてIPv6移行を考えている方には、こちらのほうがより多くの情報を入手できるだろう。「IPv6入門」がIPv6への理解を深めるための1冊だとするならば、本書はIPv6をいかにネットワークに組み込んでいくかを知るための1冊だといえる。

 本書の構成は、IPv6の概要と仕組み、拡張機能の解説と、章立て自体はほかの書籍と同じくオーソドックスなものだが、解説の端々に「IPv4/IPv6混在環境での動作」「IPv6移行のための〜」といった要素が盛り込まれている。特に、IPアドレス(IPパケット)、ルーティングについては、移行期のIPv4/IPv6混在環境ではかなり注意すべきポイントであるため、それぞれ15章、16章として独立した章立てで詳しい解説がなされている。部分的にかいつまんで読むのもいいが、IPv6移行への問題意識を持ちつつ、本書の先頭から現状のネットワークと比較して移行のためのポイントを洗い出すようにすると、より多くの情報を引き出すことができるだろう。

 TCP/IP入門者にとっての難易度はやや高めだが、逆にIPv4についてある程度理解のある人には得られる情報も多く、勉強になる。ぜひ参考にしていただきたい。

実験ネットワーク構築を通してIPv6を学ぶ

IPv6ネットワーク
実践構築技法


松平直樹監修
オーム社 2001年
ISBN4-274-06433-6
4400円(税別)


 本書は、今回紹介する書籍の中でも最も刊行日が新しい。それゆえか、IPv6入門という粋からさらに踏み込んで、「IPv6でいかにネットワークを構築するか」というテーマが中心となっている。ページの大部分が、IPv4とIPv6をいかに混在させ、OSやネットワーク機器をIPv6対応にするためにどのような設定を行うのか、といった解説で埋められている。機器やソフトウェアのIPv6対応の実際や、ネットワーク構築法に興味があった方々にとっては、まさにお待ちかねの1冊というところだろう。

 全13章中、1章から2章までがIPv6の概要と仕様の解説、3章がIPv6移行のための技術解説で、4章以降が実験ネットワークを構築してのIPv6ネットワーク設計技法の解説となっている。実験ネットワークは、FreeBSD、Linux、SolarisといったOSの動作するサーバをはじめ、シスコのIOS、富士通や日立などネットワーク機器ベンダー各社のルータ製品で構成されており、IPv6の普及していない現在においては、かなり本格的なネットワークだといえるだろう。4章以降のすべてのページを使って、実験ネットワークにおけるIPv6関連の設定や動作確認方法についての解説が行われている。

 これまで、こういった具体的に実際の製品を使った構築技法についての解説書は少なく、IPv6移行を視野に入れているネットワーク管理者には興味深い内容が網羅されているといえる。だが、今回紹介されているのは、サーバOSやルータといった、ネットワークを構成する要素でも比較的IPv6対応が進んでいるものであるため、さまざまなOSやアプリケーションを載せたクライアントPCの散在する実際の企業ネットワークへのIPv6導入は、より困難な課題になると思われる。まずは本書の内容をスタートとして、ネットワーク管理者の方々はIPv6移行のための情報収集に努めてほしい。


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