連載:IEEE無線規格を整理する(1)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

無線ネットワークの規格、IEEE 802の全貌


千葉大学大学院  阪田史郎
2005/8/20

 IEEE 802と米国の動き

(1)IEEE 802とは
 802は、委員会の発足時期すなわち1980年2月に由来し、IEEE 802委員会は、LAN(当初は有線のLANのみを対象)標準化のためにIEEEに設置された。IEEE 802では、世界各国からの参加により検討を進めているが、米国の委員会である。LANの通信範囲については、有線LANでは数百m(1セグメント)、無線LANでは百数十mである。表2に現在のIEEE 802委員会の構成と活動の概要を示す。

WG(分科会)名称 概要 活動状況
IEEE 802.1 HILI 高位層のインターフェイス、具体的にはスパンニングツリー、ネットワーク管理、優先順位、VLAN等
IEEE 802.2 LLC 論理リンク制御
IEEE 802.3 CSMA/CD
(Ethernet)
媒体アクセス制御(MAC)、Ethernet/100mEthernet/GbitEthernet
IEEE 802.4 Token Bus トークンバス方式、ブロードバンド方式、キャリアバンド方式、MAPなど
IEEE 802.5 Token Ring トークンリング方式、ソースルーティングなど
IEEE 802.6 MAN 都市域ネットワーク、DS1/DS3/OC-12など
終了
IEEE 802.7 Broadband TAG LAN広域化の技術支援
終了
IEEE 802.8 Fiber Optic TAG 光ファイバ技術支援
終了
IEEE 802.9 IS LAN サービス統合型LAN
IEEE 802.10 SILS LAN/MANのセキュリティ
IEEE 802.11 Wireless LAN 無線LAN、一部赤外線通信
IEEE 802.12 Demand Priority デマンド優先方式
IEEE 802.13 欠番
IEEE 802.14 Cable Modem CATV用ケーブルモデム
終了
IEEE 802.15 Wireless PAN パーソナルエリア無線ネットワーク、Bluetooth/UWB/ZigBee
IEEE 802.16 Wireless MAN (BWA) 無線都市域ネットワーク(FWA)
IEEE 802.17 Resilient Packet Ring(RPR) 超高速リング型ネットワーク
IEEE 802.18 Radio Regulatory TAG 無線通信の制度に関する技術支援
IEEE 802.19 Coexistence TAG 規格共存に関する技術支援
IEEE 802.20 高速移動対応 Wireless MAN (MBWA) 高速モバイル環境のブロードバンド通信
IEEE 802.21 Handoff 異なる無線ネットワーク間のハンドオーバ
IEEE 802.22 Wireless RAN 2005年2Qに検討開始
表2 IEEE 802委員会(1980年〜)の構成
ピンク地:無線を対象 活動状況→◎:活動中 ▼:休止中

 1980年当時は有線のLANしか存在せず、有線のLANについて、802.3のCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access)を採用するEthernet、802.4のToken Passing Bus、802.5のToken Passing Ringの3種類が標準化された。しかし、1990年度以降実際に利用される有線のLANは、ほぼEthernetに一本化されている。

 無線LANについては、有線LANの標準化が開始された1980年のちょうど10年後の1990年にIEEE 802.11が発足し、標準化が進展した1990年代末以降はその検討範囲を無線LAN以外の無線PAN、無線MANにも拡大した。IEEE 802委員会における標準化の対象は、ISO(International Organization for Standardization)において規定された7つの層から構成されるOSI(Open Systems Interconnection)基本参照モデルにおける、第1層の物理層と第2層のデータリンク制御層である。上記のように、第3層のネットワーク層以上はIETFで標準化される。LANにおける第2層は、下位に位置付けられるLAN特有のMAC(Media Access Control)層と、下位レイヤの相違を吸収するために設けられたMAC層の上位に位置付けられるLLC(Logical Link Control)層から構成される。Ethernetで使用されるCSMA/CDも、無線LANで使用されるCSMA/CA(Collision Avoidance)もMAC層に位置付けられる。

(2)米国の動き
 1990年代末に無線LANの世界標準がIEEE 802.11b(その後、11a、11g)に一本化されたことに伴い、その勢いもあって、特に2002年以降、IEEE 802委員会における無線PAN、無線MANの標準化は米国を中心に強力に推進されている。これらの動きは、第2世代携帯電話網(2G)と第3世代携帯電話網(3G)でともに日欧に先行を許した米国の失地回復の狙いもあると思われる。

  • 米軍のレーダ技術を起源とするUWBを2002年2月に民間に開放
  • 旧AT&Tベル研の研究者によるFlashOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)の開発発表後に直ちにIEEE 802.20の標準化に着手
  • 1990年代半ばに米国で開発、試行実験がなされたLMDS(Local Multipoint Distribution System)技術に起源を持つ無線MAN(IEEE 802.16)の標準化を積極的に推進
  • ZigBeeをセンサネットワークとして実用化するために急速に標準化を推進し、UWBをインフラとする高速センサネットワークの検討にも早期に着手

などは、米国の狙いの表れといえる。次回は、注目を集める無線PAN技術について解説したい。

以下に、本連載を通した主な関連文献を示す。
(1) 間瀬、小牧、松江、守倉: 「無線LANとユビキタスネットワーク 無線技術」丸善、2004.2
(2) 阪田編著: 「ユビキタス技術 無線LAN」オーム社、2004.6
(3) 阪田編著: 「ワイヤレス・ユビキタス 高速無線LAN/UWB/3.5G携帯電話」秀和システム、2004.7
(4) 阪田、田村: 「ユビキタスセンサネットワーク」インプレス、2004.10
(5) 阪田編著: 「SIP/UPnP −情報家電プロトコル −」秀和システム、2005.2
(6) 安藤、戸辺、田村、南: 「センサネットワーク技術―ユビキタス情報環境の構築に向けて」東京電機大学出版局、2005.5
(7) 阪田: 「ユビキタスシステムの中核となるワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望」Wireless Japan講演資料、2005.7
(8) 阪田編著: 「ZigBeeセンサネットワーク」秀和システム、2005.7
(9) 阪田編著: 「ワイヤレスUSB/UWB」インプレス、2005.9
(10) 阪田編著: 「IEEE802無線ネットワーク」リックテレコム、2005.10
(11) 阪田編著: 「無線通信技術大全」リックテレコム、2005.10

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目次:IEEEを整理する(1)
  無線ネットワークの分類
  無線ネットワークの全体動向
IEEE 802と米国の動き



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