連載:IEEE無線規格を整理する(2)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

標準化が進むRFIDと日本発ucode


千葉大学大学院  阪田史郎
2005/9/15

IEEE無線企画を整理する連載第1回目「無線ネットワークの規格、IEEE 802の全貌」では、拡大するIEEE 802規格の全貌をふかんした。続く第2回は、実用化が始まったRFIDの属する「短距離無線」について、Zigbee出現以前のセンサネットワークとしてまとめたい。

 短距離無線(または近接無線)には、古くからトランシーバや業務用のバーコード、商品タグの管理用に使われてきたものから、近年非接触ICカード、非接触センサ、あるいは車の走行と連動して利用されるものまで、多様な形態が出現している。前者では特定小電力無線、微弱無線が代表的であり、後者ではJR東日本のSuicaやJR西日本のICOCAなどで用いられているNFC(Near Field Communication)、RFID(Radio Frequency Identification、ICタグなどとも呼ばれる)、ITS(Intelligent Transport System、高度道路交通システム)における自動料金徴収用のETC(Electronic Toll Collection system)で用いられるDSRC(Dedicated Short Range Communication、専用狭域通信)が代表的である。

 いまやセンサネットワークの代表となった無線PANのZigBeeが出現する2005年以前は、センサ群を接続するネットワークとして、特定小電力無線と微弱無線がよく用いられてきた。

 1. 特定小電力無線


 特定小電力無線は、1992年の旧微弱無線の規格の廃止に伴って登場した。当時スキーブームなどがあり、スキー場での友達同士の連絡などに利用されるなど、レジャー用途的な側面が目立ったが、最近は業務用途の方が圧倒的に多くなっている。ARIB(Association of Radio Industries and Businesses、電波産業会)のARIB-STD-T67として規定されている。基本的には、微弱無線よりも大きな空中線電力10mW(一部のシステムでは1mW以下)まで使用できる。

 特定小電力無線の特徴は、

・ 免許・資格や通信費・電波利用料金が不要
・ 通話チャネルを自由に切り替えられるだけでなく、トーン信号やデジタルコード・スケール値などで細かくグループ分けができる
・ 送信出力は最大0.01W(10mW)でアンテナ交換は不可
・ 充電池と併用で単3乾電池の使用が可能
・ 水に強い(雨中でも利用可)

で、トランシーバ方式(単信方式・シンプレックス)、同時通話方式(複信方式・デュプレックス)、中継方式、基地方式がある。表1にトランシーバ方式と同時通信方式の比較を示す。

方式

通話距離
(見通し)

中継機 最大チャネル数
トランシーバ方式
(単信方式・シンプレックス)
100〜200m 使用可能 20チャネル
同時通話方式
(複信方式・デュプレックス)
約100m 使用不可 27チャネル
表1 特定小電力無線におけるトランシーバ方式と同時通話方式の比較

 特定小電力無線の応用分野としては、工場、道路誘導警備、スーパー、学校行事など幅広い分野における、無線電話、音声アシスト用無線電話、無線呼び出し、リモコン、ワイヤレスマイク、補聴援助用ワイヤレスマイク、構内ページャ、インターホン、テレメータ、医療用テレメータ、移動体識別、移動体検知センサ、ミリ波レーダ、ミリ波画像伝送、データ伝送、プリンタバッファ、データ通信用モデムなどの短距離無線として利用されている。

 2. 微弱無線

 周波数変調無線方式で耐雑音性に優れ、送信回路のみの一方向通信による無線技術である。特徴として下記が挙げられる。

・ 周波数、変調方式、電波形式、利用目的などを問わず、機器の設計が自由で、工夫次第で効率的、経済的な通信が可能(特定小電力無線よりも自由度が高い)
・ 電波が弱いためサービスエリアが狭い
・ 主に超短波帯(VHF)が利用される。短波帯はアンテナが高くなり、UHF帯は電界強度の許容度が低くなるため、もっぱらVHF帯の300〜320MHzが利用される
・ 電波が建造物などにより減衰したり反射したりするため、市街地では飛距離が短くなる

 322MHz以下の周波数では、送信機から3m離れた地点の電界強度が500μV/mという比較的強い電界強度の範囲で無線設備が利用できるため、アンテナを小型にしたいというニーズから、315MHz近辺を用いた製品が多い。微弱無線は、狭いエリアでの無線伝達、例えば微弱型コードレス電話、ワイヤレスマイク、非常警報送信機、自動ドア送信機、リモコンなどに広く利用されている。表2に特定小電力無線と微弱無線の主要な諸元の比較を示す。

方式

特定小電力無線

微弱無線

トランシーバ方式
(単信方式・シンプレックス)
100〜200m 使用可能
同時通話方式
(複信方式・デュプレックス)
約100m 使用不可
規格 独自 独自
伝送速度 2.4kbps 2kbps
利用周波数帯域 429MHz 307.74MHz   316.74MHz
伝送距離 30〜300m 30〜50m(市街地)〜200m(見通しのよい原野)
消費電力
(通信/待機)
59mW/0.3mW 66mW/3.3mW
表2 特定小電力無線と微弱無線の主な諸元


目次:IEEEを整理する(2)
1. 特定小電力無線/2. 微弱無線
  3. DSRC(専用狭域通信)/4. NFC(近距離通信)/5.RFID/(1)RFIDの特徴
  (2)RFIDの仕様概要/(3)IDとその標準化動向(EPCグローバルとユビキタスIDセンタの比較)



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