連載:IEEE無線規格を整理する(9)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

ケータイと無線LANオールIP化への6ステップ
〜第3世代の広域携帯電話網と無線LANの相互接続〜


千葉大学大学院  阪田史郎
2006/5/23


ケータイと無線LANオールIP化が実現に向けて6つのステップをクリアしていく必要があるという。課金、認証、パケット交換サービスなど、その段階を見ていこう。

 携帯電話網と無線LANとの相互連携のための
 6つの段階的シナリオ

 第3世代の広域携帯電話網と無線LANの相互接続のイメージを図1に示す。ユーザーに対して、個別のネットワークのサービスを、異種ネットワークの存在をできるだけ意識させずに提供するための相互連携については、3GPPを中心として2002年に検討が開始され、I-WLAN(Interworking Wireless LAN)と名付けられている。

図1 3Gと無線LANの連携イメージ

 3GPPを中心とした検討は携帯電話網がいかに無線LANを収容するかに主眼が置かれ、2005年に発足したIEEE 802.11uに提出されている。逆に無線LANから携帯電話網を収容する方式については、Wi-Fi Allianceにおいて、WCC(Wi-Fi Cellular Convergence)の名で2004年から検討が進められているが、まだ具体的な方式の議論にはいたっていない。

 携帯電話網と無線LANとの相互連携は、今後ますます重要となるFMC(Fixed Mobile Convergence:固定網−移動網融合)の中で重要な位置を占め、FMCの視点からはヨーロッパのETSI TISPAN(European Standard Telecommunications Institute - Telecommunication and Internet converged Services and Protocols for Advanced Networking)や通信キャリアを中心に2005年に結成されたFMCA(FMC Alliance)においても検討されている。FMCを実現する初期の製品としては、米国のKineto社が開発したUMA(Unlicensed Mobile Access)がある。今回は、最も早くから検討され、ある程度詳細な仕様を策定したI-WLANについて解説する。

 I-WLANでは、2003年末までに、図2表1に示すような6つの段階的なシナリオが検討されている。

図2 3GPPで検討中の3Gと無線LANの相互連携
1 ・3Gと無線LANのセキュリティレベルは独立
・3Gの仕様に新たな要求はなし
2

・3GシステムがAAAを提供。3Gサーバでユーザーを認証するときにEAP(例えば、GPRS/USIM対応のEAP-AKA、GSM/SIM対応のEAP-SIM)を使用
・3Gのオペレータとユーザーのため、3Gのアクセス制御と課金制御(HSS/HLRなど)を用いる

3 ・オペレータは、無線LANを通した3G PS ベースのサービスへのアクセスを許可
・3Gと無線LAN間のサービス継続は要求しない
・サービス例:IMS(IP Multimedia Subsystem)、IM(Instant messaging)、位置情報、プレゼンス情報サービスなど
4 ・特定サービスに対するハンドオーバ
・3Gと無線LAN間を移動したときのサービス品質の変化は許容
・3Gと無線LANとの間、無線LAN同士間ではサービス継続
5 ・シームレスなサービス継続とハンドオーバ
・非リアルタイムサービス:Mobile IP
・リアルタイムサービス:Fast Mobile IP、コンテキスト転送プロトコル、アクセスルータ、発見方式など
6 ・CSベースの無線LANアクセスを通した3G CSベースのサービスへのアクセスを許可
表1 3G - WLAN連携シナリオ

 すなわち、表5に示すように、順に実現される機能が包含されていく関係にある。具体的なインターフェイスの仕様化については、シナリオ3までが行われている。シナリオ4以降の仕様化については、シナリオ3までの評価を踏まえる必要があり、具体的なメドは立っていない。

機能 シナリオ1
(課金明細のみ連携)
シナリオ2
(認証、課金の連携)
シナリオ3
(PSドメインサービスの連携)
シナリオ4
(移動時のサービスの継続、瞬断は許容)
シナリオ5
(シームレスハンドオーバ)
シナリオ6
( CSドメインサービスの共有)
共通課金

共通ユーザーケア
3GPP アクセス制御  
3GPPアクセス課金  
WLANから3GPP PSベースサービスへのアクセス    
サービス継続      
シームレスなサービス
継続
       
シームレスモビリティを持った3GPP CSベースサービスへのアクセス          
表2 3G-WLAN連携の6つのシナリオと提供機能の関係

 この6つのシナリオに関する設定基準の優先順は、認証・課金、サービスの継続性保証、サービスの品質保証(動画や音声の高速ハンドオーバ)である。シナリオ2からシナリオ4までが、2006〜2008年に実現されることが目標とされている。以下に、各シナリオの概要を述べる。

目次:IEEEを整理する(9)ケータイと無線LANオールIP化への6ステップ
<page1> 携帯電話網と無線LANとの相互連携のための6つの段階的シナリオ
  <page2>
(1)シナリオ1: 課金明細のみ連携
(2)シナリオ2: 認証、課金の連携
(3) シナリオ3: PSドメインサービスの連携
(4) シナリオ4: 移動時のサービス継続を保証、瞬断は許容
(5) シナリオ5: シームレスハンドオーバ
(6) シナリオ6: CSドメインサービスの共有



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