連載:IEEE無線規格を整理する(10)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

オールIP化の最大の難関、認証の解決方法は?
〜EAPと認証方式〜

千葉大学大学院  阪田史郎
2006/5/30


IEEE無線企画を整理してきた本連載もいよいよ最終回を迎える。「もうすぐ実現、ケータイ&無線LANのオールIP化」「ケータイと無線LANオールIP化への6ステップ」では、3.5世代携帯電話網とネットワーク間連携にフォーカスしてきたが、今回はその最大の難関、携帯電話用の拡張可能認証プロトコル(EAP)と認証方式について解説する

 携帯電話用の拡張可能認証プロトコル(EAP)と
 認証方式

 現在IEEE 802.1xとIETFを中心に検討されている、無線LANを対象とした拡張可能認証プロトコルEAPには、本連載「第4回 高速化とメッシュ化へ進展する無線LAN」で述べた、

  • パスワード交換方式によるEAP-MD5、EAP-FAST、EAP-SKE(Shared Key Exchange: 特にローミングを目的とし、双方向認証が可能)、EAP-SRP(Secure Remote Password: ハッシュ化されたパスワードを格納しておき、認証に利用)など
  • PKIを利用したEAP-TLS(IETF RFC 2716)、EAP-TTLS、EAP-PEAP、EAP-MAKE(Mutual Authentication protocol: 公開暗号のアルゴリズムとしてDiffie-Hellman方式を利用)などのほかに、表1に示すような2G/2.5GのGSM(Global System for Mobile communications)ベース携帯電話を対象としたEAP-SIM、ITU(International Telecommunications Union)でいう3G のUMTS(Universal Mobile Telecommunications System)を対象としたEAP-AKAがある。
種類 概要
EAP-AKA

・3GのUMTS AKA認証と鍵配布方式を使う
・AKAは対称鍵を利用し、UMTS SIMカード内で動作し、AKAはGSM認証と下位互換性がある。UMTS AKAが利用できればGSMとUMTSの認証も可能

EAP-SIM SIMカード(2G/2.5G対応)を使った認証とセッション鍵配布方式
表1 携帯電話(2GのGSM〜3GのUMTS)を対象とした無線LAN対応拡張認証プロトコル EAP
AKA:Authentication and Key Agreement、SIM:GSM Subscriber Identification Module

 図1に3G向けのEAP-AKAにおける認証手順の概要、図2に2G(GSM)/2.5G(GPRS)向けのEAP-SIMのプロトコルに関連する処理の詳細について、いずれも正常に認証された場合の例を示す。

図1 正常に認証された場合のEAP-AKA(3G)における手順
図2 正常に認証された場合のEAP-AKA(2/2.5G)における手順

 図3に、3GPPで検討中のIMT-2000と無線LANとの連携(シナリオ2以降)で想定される認証方式の例を示す。

図3 シナリオ3における無線LANと携帯電話、サーバの役割

・SIM を使って無線LANの認証を行うには、コンピューティング機器にSIMリーダを接続する必要がある

   これによって認証ソフトウェアがSIMに格納された情報を利用できるようになる
   EAP-SIMクライアントとSIMの通信は、SIMリーダを経由して行う

・EAP-SIMでは、いくつものRAND(128ビットの乱数)チャレンジを使用して複数の64ビット暗号化鍵(Kc)を生成し、これらを1つに組み合わせることによってより長いセッション・キーを作る

・EAP-SIMはRANDチャレンジに加え、相互認証のためのメッセージ認証コードを採用しているため、基本的なGSM認証メカニズムをさらに強化したものになっている

・このシナリオでは、ホーム・ロケーション・レジスタ(HLR)など、GSMのバックボーン・ネットワーク・コンポーネントとAAAサーバ間の接続にセキュリティが確保されていることが前提である

 なお、携帯電話網と無線LAN、Bluetooth等の無線ネットワークとの連携に関しては、以下のような動きがあり、今後の展開が注目される。

(1)NTTドコモが提供する第3世代携帯電話網と無線LANのデジュアルモード端末パッセージ・デュプレ、M1000:パッセージ・デュプレについては、企業向けソリューションとして、オフィスの中では無線LANを経由して固定網につながり、外出先ではFOMAとして移動通信網につながるサービスが、2004年末より提供されている。

(2)英国におけるBT Fusion(旧Bluephone):FMC(Fixed-Mobile Convergence:固定通信と移動通信の融合)の一環として、BT(British Telecom)とボーダフォンが協力して推進するサービス。携帯電話とBluetoothまたは無線LANの両方のインターフェイスを持つデュアルモード端末をユーザーに提供し、屋内での通話をBluetoothや無線LANを通して固定網に無線で接続できるようにする。2005年に一部のサービスが開始されている。

目次:IEEEを整理する(10)
<page1> 携帯電話用の拡張可能認証プロトコル(EAP)と認証方式
  <page2> 今後の展望



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