障害事例:ネットワークの理(2)

トラフィックの通らなかった道(下)

塩田紳二 (協力:NECフィールディング
2003/11/26

 【前回起きた障害の状況】
松島らが構築した客先(SIer)のネットワークは、万一の場合に備えてバックボーンを2重化してあった。レイヤ3スイッチを2つ使い、片方が普段はバックボーンとして動作。片方がダメな場合でも、もう1つあるので何とかなるはずだった……。が、それがうまくいかなかった。
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 連載2回目の登場人物です。主人公は“師匠”に会いに行き、問題の解決に努めます。
  読者の皆さんも登場人物とともに、問題の原因を考えてみてください。
    主人公:松島

主人公の先輩: 師匠
 師匠に会いに行く

 いくら考えても分からないとき、僕は師匠に会いに行く。実はいつも師匠に助けてもらっている。師匠というのは、同じ会社の先輩だった人で、いまは家業を継いで都内で古書店をやっている。

 コンピュータ関係に限らず、この人ほど、いろいろなことに詳しい人を僕は知らない。何だか、百科事典が丸ごと頭の中に入っているような人である。

 僕がトラブル担当でいられるのもこの人のおかげといっていい。何せ、聞けば必ず答えが返ってくるのだから。
 師匠はいつ行っても家にいる。古書店とはいえ、仕入れなどは必要ないのだろうかといつも心配になる。まさか、すべてAmazonで買っているわけでもないと思うが。

松島:「また、困ったことがありまして……」
師匠:「君は困ったことがあるといつでもすぐに来るねぇ。たまには自分で何とかしたらどう?」

 師匠は口が悪い。こちらの立場が弱いこともあって、ますます口が悪くなる。もっとも、だからといって追い返したりはしない。いつでも、ちゃんと問題を解決してくれる。

師匠:「で、今回は何が動かないの?」
松島:「冗長構成にしたネットワークが完全に落ちちゃったんです」
師匠:「冗長構成なら落ちることはないでしょう。落ちちゃったのなら、冗長ではなかったということです」
松島:「冗長に作ったつもりなんですが……」
師匠:「悠長に作ったんじゃない? ま、とにかく資料でも見せてよ」
松島:「はいはい、いまお見せします」

 僕は、あらかじめ資料をすべてCD-Rに焼いて持ってきた。紙の資料を見せようものなら、突き返される。何でも、本以外の紙は見たくないのだとか。それは表向きの理由で、師匠は物を片付けることができない性分で、かつ物を捨てるということをしない人なのである。それで、紙の資料なんかをもらうと、いまでさえ、乱雑な部屋がますます乱雑になってしまうというわけなのである。もっとも、乱雑だが資料などは時間がかかってもちゃんと出てくる。どうも本人には、何がどこにあるのかは分かっているようなのである。

師匠:「うーん、もともとの設計はどうなってたの」
松島:「その資料は持ち出しできなかったので……」
師匠:「それがなきゃ分かんないよ」
松島:「すみません、ネットワークでつなぎますから、このパソコンで見てもらえます?」
師匠:「うちのトラフィックを使おうってわけ? 今度はプロバイダでもやるかなぁ」

 取りあえず、ネットワークにパソコンをつないで会社にVPNで接続することにした。VPNで接続すれば、会社のファイルサーバにアクセスできる。

 また開かない……

松島:「あれ?」

 またである。この前と同じで、ファイルサーバとはネットワーク的に接続できているのにフォルダが開けない。なのにファイルサーバにpingを打ってみたら、ちゃんと応答が返ってくる。

師匠:「どうした?」
松島:「いや、ネットワークドライブが開けなくて……。ネットワーク パスが見つかりませんってエラーが出ちゃうんです」
師匠:「ああそう」

 師匠は、自分のマシンで作業しながらこちらを見ない。

松島:「フォルダ開けなきゃ資料も出せませんよ」
師匠:「オフラインフォルダ使ってるだろう」

 相変わらずこちらを見ない。

松島:「ええ、でもどうしてそんなこと分かるんですか?」
師匠:「君ねぇ、会社にネットワーク環境があって、Windows XPのノートパソコン使っていたら十中八九、オフラインフォルダ使っているよ」
松島:「そりゃそうですね。」

 こういういやに論理的というか、鋭いというか、そういうところが師匠である。

松島:「使っているのが何か?」
師匠:「君ねぇ、物事に関するドキュメントが1カ所にまとまっているとは限らないんだよ」
松島:「何の話でしょう?」

 関連に気付いていないだけな重要情報って

 師匠の話は、いやに回りくどい。というか、「外堀を埋める」ような論理展開である。結論への道筋が、グルグルと渦を巻いていて、何か非常に遠いところから始まるのである。だが、本人は、一瞬で結論に到達している。ストレートに結論をいわずにかなり遠いところから結論までの道筋を人にたどらせるのである。もっとも、僕なんかはいきなり結論いわれても理由がさっぱり分からないだろう。まあ、師匠なりの親切心なのかもしれない。

前と同じで、ファイルサーバとはネットワーク的に接続できているのにフォルダが開けない。(松島)

師匠:「オフラインフォルダを使うことはどうやって思い付いた?」
松島:「いや、Windows 2000にもあったし、マイクロソフトも宣伝してますよ」
師匠:「では、どうやって使い方を知ったのだね?」
松島:「うーん、オンラインヘルプとか、雑誌やWebの記事でしょうか?」
師匠:「それが、オフラインフォルダについてのすべてかね?」
松島:「じゃないんですか?」
師匠:「ダメだねぇ。もう1つ重要な情報源を忘れてるよ?」
松島:「えっ? パッケージにはマニュアルは付いてなかったし、ああ、リソースキットですか?」
師匠:「それも1つだが、まだあるよ。大きなのが」
松島:「ええ? そんなものあるかなぁ」
師匠:「君は、その一部をすでに見ているはずだよ」
松島:「Microsoft System Journalでしょうか?」
師匠:「違うよ」
松島:「何ですか、教えてくださいよ」
師匠:「君はすでに知っているものだっていってるだろ。関連に気が付かないだけだよ」
松島:「うーん、降参です。教えてくださいよ」
師匠:Knowledge Baseだよ」
松島:「ああ、技術情報ってやつですね。確かに、あそこにはマニュアルに載ってない話がありますね」
師匠:「だろう。そういうわけだよ」
松島:「何がそういうわけなんです」
師匠:「探せば出てくるってことだよ」
松島:「教えてくださいよ」
師匠:「オフラインフォルダってキーワード入れて、Windows XPについて検索するだけだよ」
松島:「知っているなら教えてくれてもいいじゃないですか」
師匠:「君は、手間を惜しむタイプだねぇ。そのとおりのキーワードで検索できるんだからこんなに簡単なものはないよ」
松島:「だって、もう、どうすればいいか知っているんでしょ? だったら何すればいいか教えてくださいよ」
師匠:「オフラインフォルダで、ファイルサーバの別のフォルダをキャッシュしているでしょ。そのフォルダを開いてみてから、ネットワークドライブを開いてみたら?」
松島:「ええ、どうして……」
師匠:「いいからやってみなさいって。教えてっていったのは君だよ」

 オフラインフォルダを開いてからつなげてみると……

 教えてもらったとおりにすると確かにちゃんと開ける。前回、トラブルが自然に解決したのはこれが理由だったのだ。あちこち触っている間にオフラインフォルダを開いたのである。

君はすでに知っているものだって言ってるだろ。関連に気が付かないだけだよ。(師匠)

松島:「でも、どうして?」
師匠:「だから、検索しろっていったんだよ。ちゃんと理由も書いてあるから」
松島:「はあ、でも、どうしてマシンを触りもしないで、分かったんです?」
師匠:「いつも僕のところに助けを求めてくるけれども、君は一応SE、設定を間違うってことはまずないだろう」
松島:「はぁ」
師匠:「だとすると、何か君の知らない仕様かバグが原因だ」
松島:「そうなります」
師匠:「だが、ネットワーク パスが見つからないってエラーに関するKnowledge Baseの項目はタイトルで検索すると4つぐらいしかない。そのマシンは見るからに新しいから、恐らくWindows XPだろう。まさかWindows NTが入っているはずはない」
松島:「ええ」
師匠:「だとしたら、該当するKnowledge Baseは1つしかないんだよ」
松島:「ですが、論理的にはそれ以外の原因も考えられるのでは?」
師匠:「だとしたら、僕でも、いやビル・ゲイツにも無理だろう。まだ、マイクロソフトも気が付いていないバグになる。しかしね。サービスパック1が登場している現在、そんなに簡単に出せるバグが残っているとは思えない。オフラインフォルダを使うやつなんか山のようにいる。だとしたら、そういうバグの可能性は少ない。それに、僕のところに助けを借りにくるぐらいだ。君が誰も思い付かないような特殊な使い方をしているとは到底考えられない」

 真実は隠れてるのではなく、検索が困難なだけ?

松島:「でも、師匠、Knowledge Base全部記憶しているんですか?」
師匠:「まさか、いま検索したんだよ」
松島:「はあ、それで出たんですが、資料……」
師匠:「もう、見るまでもないと思うが、一応見ておくか」
松島:「どうして、さっきは見たいっていったじゃないですか」
師匠:「君の持ってきた資料だけで分かったんだよ」
松島:「原因は何でしょう?」
師匠:「同じだよ」
松島:「何とです?」
師匠:「だから、いまのやつさ」
松島:「オフラインフォルダですか?」
師匠:「じゃなくて、ドキュメントさ」
松島:「はぁ?」
師匠:「いつもいってるでしょ。人はミスをするって」
松島:「師匠はしないんですか?」
師匠:「君は、人を師匠呼ばわりして持ち上げているつもりなんだろうけど、結構イヤミに聞こえるよ。答えはもちろん『する』だよ」
松島:「どんな?」
師匠:「君のような人に親切にすることだよ」
松島:「はいはい、で、また技術情報見ればいいんですか?」
師匠:「またぁ。いつもいってるでしょ。真実は隠れているんじゃなくて検索が困難なだけだって」
松島:「検索してもダメですか?」
師匠:「普通にはね」

 写真に答えが

師匠:「君は、この写真から何を思い付く?」

 師匠が見せたのは、僕が撮ってきた現場の写真である。そこには、問題があったクライアントマシンが並んでいる。

松島:「普通の会社の風景ですけど」
師匠:「そこには何がある?」
松島:「机とか書類棚とか……」
師匠:「問題になっているのは何なんだ?」
松島:「ネットワークですか?」
師匠:「違うよ。コンピュータだろ?」
松島:「はあ、パソコンなら机の上にあるのが写ってますが」
師匠:「そのパソコンを見て何が分かる?」
松島:「うーんと、デスクトップ型で、メーカー製、フロッピーが付いてる、モニタはCRT……」
師匠:「機種は分かるか?」
松島:「ええ、××社の○○でしょう?」
師匠:「だったら、分かるだろう?」
松島:「何が……」
師匠:「ええぃ、鈍いやつだなぁ。このマシンはいつ出たんだ?」
松島:「うーんと、1996年ぐらいですか……」
師匠:「そうだ。だったら、OSは何だ?」
松島:「うーんと、アップグレードしてたら分からないですよ」
師匠:「じゃ、これでWindows XPが軽快に動作するか?」
松島:「いや、そういうことはないでしょうねぇ」
師匠:「だったら、アップグレードしても高が知れているじゃないか。それにこんなところにLinuxユーザーがいるとも思えない」
松島:「そうですねぇ。最初のままだと多分Windows 95、アップグレードしてもWindows 98あたりでしょうか」
師匠:「そうだよ。だからだよ」
松島:「何がです」
師匠:「原因だよ」

 紛れ込んだクライアントの入れたマシン

松島:「Windowsが原因なんですか? そりゃ、突き詰めりゃ、どんな原因もWindowsなのかもしれないんですが……」
師匠:「君は、マイクロソフトが、ネットワークカードを2枚差している状態を何ていうか知ってるか?」
松島:「2枚差しですか?」
師匠:「そんな用語があるはずないだろう」
松島:「分かった、マルチホームですね」
師匠:「そうだ、どうせ君は検索しないから先に結論を教えてやる。Windows 95や98はマルチホームは可能だが、デフォルトルートは1つしか有効じゃないんだ。後でマルチホームでKnowledge Baseを検索しときなさい」
松島:「ええっ、とういことは……」
師匠:「そうだ、冗長構成片方のネットワークが落ちたら、もう通信できない。ネットワーク図を見るに、2つのネットワークを作っているからね」
松島:「でも、どうして……、設計段階で気が付くと思うんですが……」
師匠:「その答えを君は知っているはずだよ。このCD-Rに書いてあった」
松島:「ああ、そうか、このマシンは、クライアントが入れたんだ」
師匠:「そうだよ。多分、設計のときには全部新規のマシンで設計したろう? この規模じゃ、パソコン販売なしのネットワーク設置だけってのは商売に成りにくいからね」
松島:「ええ、ほんとは新規導入ってことだったんです。それで、設計を進めていたんですが、交渉の間に、何台かは先方がいま使っているマシンを流用することになったんです」
師匠:「いつも、買いたたかれるんだからあの会社は」
松島:「そうなんですよ」
師匠:「それで、デフォルトルートが1つしか設定できないマシンが紛れ込んだのさ。どうせテストは、自分たちが入れるマシンだけでやったんだろ」
松島:「おっしゃるとおりです」
師匠:「ということだ」

トラブルその1、無事解決。次のトラブルに続く

イラスト:土井ラブ平

本連載に登場する人物や団体すべてフィクションですが、障害事象については、NECフィールディング株式会社にご協力いただき、実際に発生した内容を参考にしています。


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