第10回 読者調査結果

〜VoIP導入で生まれるチャンスとリスクとは?〜

小柴 豊
アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2003/9/25


 年々新しいトレンドが生まれるIPネットワーク分野の中で、2003年もっともホットなテクノロジーといえば、VoIP(Voice over IP)ではないだろうか? 7月に開催された“NetWorld+Interop 2003 Tokyo”展示会でも、VoIP専門のコーナーが設けられ、多くのベンダが市場喚起に努めていた。今まで別々に管理されていた音声/データ網を統合することで、TCOを削減すると同時に、ネットワーク・コンピューティングの新たな可能性を開くといわれるVoIP。その導入は、どの程度現実的なものとなっているのだろうか? Master of IP Networkフォーラムが実施した第10回読者調査から、ネットワーク業務に携わるエキスパートの意見を聞いてみよう。

VoIPの導入状況は?

 まずはじめに、読者がかかわるネットワークのVoIP導入状況がどうなっているのか、その現状を確認しておこう。図1の通り、VoIPを「すでに導入している」のは全体の1割に満たないものの、「現在導入を進めている」「今年度内に導入開始を予定している」までを合計すると、2003年度中に回答者のおよそ4人に1人が、VoIP導入にかかわることになる。それ以外にも「次年度以降の導入を検討している」または「現在情報を収集している」との回答が計46%に達しており、ネットワーク業務関係者の大半が、VoIP導入に向けて動き出していることが分かる。

図1 VoIPの導入状況(全体 N=245)

VoIPで利用するネットワーク回線は?

 ここから先は、図1でVoIPを導入済み〜情報収集中と回答した“VoIP関与者”を対象に、予定される導入環境などを見ていくことにしよう。

 まず読者がかかわるネットワークで、VoIPに利用する(予定の)ネットワーク回線を聞いた結果が、図2だ。ここでは「インターネット」および「IP-VPN」の利用意向が、ほぼ同率でトップに挙げられた。IP-VPNは専用線に替わるWANサービスとして導入が進んでおり、xDSLやFTTHによるインターネット回線の広帯域化は、遠隔事業所などのVPN環境構築を身近なものにしている。これら新世代WANやブロードバンドの普及が、VoIP導入の強力な追い風となっていることは間違いないようだ。

図2 VoIPに利用するネットワーク回線(複数回答 n=172)

VoIP用の音声端末は?

 次にVoIP通話用の音声端末について、読者の利用予定をたずねたところ、「既存の電話機」および「IP電話機(IP Phone)」の利用意向が、共に6割に達した(図3)。音声網をフルIP化するためには、IP電話機の導入が必要だ。しかし端末購入コストやVoIPの段階的導入を考えると、既存電話機から一気に移行することは、現実的でないようだ。当面は、IP電話機と既存の電話機(+IPゲートウェイ)が並存する時期が続くものと思われる。

図3 VoIPに利用する音声端末(複数回答 n=172)

VoIP導入で既存PBXの行方は?

 VoIP導入にあたって、音声端末以上にその動向が注目されているのが、既存PBXの扱いだ。マイライン契約によって電話料金が低下した今日、通話料だけを見ると、VoIPを導入しても大きなコストダウンは望めないといわれている。そんな中、企業内PBX設備を撤廃することで、その導入/保守コストを削減する“IPセントレックス”サービスが、さまざまなキャリア/SIerから提供され始めた。

 そこで読者に、VoIP導入時の既存PBXの処置方法を聞いた結果、「社内PBXを撤廃し、外部プロバイダのPBXサービス(IPセントレックス)を利用する」との回答は9%にとどまったものの、「既存PBXは当面使用するが、リース切れなどのタイミングで順次廃止する」“漸次移行派”と合わせると、全体の38%がPBX廃止を指向しており、「既存PBXを使いつづける」読者を大きく上回ることが分かった(図4)。ただし全体の4割が「わからない」と答えているように、VoIP検討者の間でも、まだPBXの扱いを決めかねているケースが多いと思われる。企業内PBXの行方は、IPセントレックス・サービスの成否とあわせて、今後ますますネットワーク関係者の注目を集めていきそうだ。

図4 VoIP導入時のPBX機能利用予定(n=172)

VoIPアプリケーションの開発/導入予定は?

 VoIPの導入メリットについては、そのコスト削減効果が強調されがちだが、IPネットワーク上で動作するさまざまなアプリケーション上で、音声データが利用可能となる面も見逃せない。そこで読者に、今後開発・導入が検討されているVoIP応用アプリケーションをたずねたところ、「音声/電子メール/Faxなどのメッセージ統合」および「テレビ会議」に高い関心が集まっていることが分かった(図5)。

 メッセージ統合(ユニファイド・メッセージング)は、メッセージング手段が多様化したここ数年、業務効率を向上するソリューションとして話題にはなってきたものの、国内でボイスメール文化が定着していないなどの要因から、なかなか普及に至らなかった。今後VoIP/IP電話機の導入が進むにつれ、日本でもメッセージ統合市場が確立される可能性が高まりそうだ。

図5 VoIPアプリケーションの開発/導入予定(複数回答 n=172)

VoIPに関する情報ニーズは?

 最後に、VoIP導入に取り組む読者が、今どのような情報を必要としているのかたずねたところ、「ネットワーク障害時の通話確保方法」「利用回線による通話品質」「情報漏洩/盗聴などのセキュリティ対策」といった内容が上位に挙げられた(図6)。音声/データ統合時のリスクとして、ネットワークに障害が発生した際の通話への影響が考えられる。電話は緊急時のライフラインとして重要な役割を持つだけに、ネットワークの道連れでダウンすることが許されない場面も多いだろう。VoIPが普及する前提には、コストダウン効果の追求と同時に、信頼性/セキュリティ対策の確立が必須となりそうだ。

図6 VoIP導入に関する情報ニーズ(複数回答 n=172)

調査概要

  • 調査方法:Master of IP Networkフォーラムからリンクした Webアンケート
  • 調査期間:2003年7月7日〜8月1日
  • 有効回答数:245件

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