UPSで電源トラブルからマシンを守る!!

〜電源トラブルの基礎知識とUPSの効果的な活用法〜

読者のみなさんは、今年は例年になく、雷や豪雨が多かったと感じただろうか? こういった自然災害により停電を経験したPCユーザーもいたことだろう。また、自然災害でなくても、身近な電源トラブルに遭遇したことがあるかもしれない。本記事では、電源トラブルに関する正しい知識を身につけ、無停電電源装置(UPS)を活用した電源トラブル対策を行う方法を解説していこう。

池田圭一
2000/10/28

忘れていませんか? 電源管理

 コンピュータ本体やネットワーク製品などに限らず、通信機器や日常の生活に欠かせない家電製品まで、オフィスやSOHOでの業務そのものが、電気に大きく依存する時代である。その最も重要な電源にトラブルが発生したとき、われわれにできることが実に少ないことに気が付く。

 特に今年の夏、東京都市部にお住まいの方は、“今年は例年になく夕立(豪雨)や雷が多かった”と感じなかっただろうか。情報関連企業が集中する東京都市部の気象は、特有のヒートアイランド現象などにより、この数年、激しさを増しているのは確かである。また中には、台風の暴風や落雷によって、数年ぶりに停電を体験したPCユーザーもいるだろう。大雨による冠水もまた、電源トラブルを引き起こす可能性がある。埋設ケーブルやデータ中継器が水に濡れ、機能を果たさなくなることもあるからだ。台風列島である日本では、特に気を付けたい。重要な作業を行っている最中に停電に遭い、メモリ内容の消失やディスクトラブルに見舞われなかっただろうか? さらに、落雷したわけでもないのに、電話機やテレビが突然不調になり修理を依頼したという経験はないだろうか?

 東京都市部の電源状況は、この十数年で大幅に改善されている。しかし、落雷や冠水など気象状況の激化に加え、一方では老朽化したビルの配線、過密化するオフィスの電子機器などにより、電源トラブルに遭遇する可能性も増加している。電源消費量の増大、情報機器の普及に伴うオフィス内/家庭内の配線の複雑化なども、電源管理の困難さに拍車をかけているといえよう。

 電源トラブルによるデータの損失は、データバックアップの慣行によってある程度は防げる。しかし、ハードウェア機器が故障してしまうと、システム回復までに時間がかかるものである。特にネットワーク関連では、ミッション・クリティカルな業務も増えており、企業の信頼性維持のために、停止することが許されないシステムが多くなっている。

 インターネットに公開しているWebサーバ。あるいは企業内/企業間での情報交換手段として欠かせないメールサーバ。重要なデータを保管するデータストレージ。ネットワークに接続された各クライアントPC。そして、ネットワーク・インフラを担うルータやハブ。ネットワーク機器のすべてにおいて、適切な電源管理を心がけたい。

電源トラブルの代表例

 電源関連でのトラブルには、主に次のようなものが考えられる。

  1. 給電設備のトラブル:
      設備の老朽化や過剰な使用電力が原因となる出力電圧の低下
      瞬間的な過負荷によるブレーカー遮断(停電)
      配線部での電流漏洩(リーク)による精密電子機器の破壊
      大型機器や電気器具の起動時大電流による電圧変動、ノイズ発生

  2. 直接落雷によるトラブル:
      送電設備の破壊による比較的長時間の停電
      送電設備の安全処置が引き起こす瞬間的な電力低下・停電

  3. 間接落雷によるトラブル:
      配線部での誘導電流発生による電力の乱高下
      短いが衝撃的な高電圧・大電流(サージ)
      雷による強大な電磁波ノイズ

  4. 人為的トラブル:
      故意あるいは過失による電源の停止(スイッチ操作の誤り)
      配線事故など(ケーブルに足を引っ掛けて抜いてしまう)
      工事や検査などのための予告された商用電源の停止

 いずれも、コンピュータの電源ユニットに悪影響を与え、ユニットの寿命を縮めたり、破壊したりする。また、電源ユニットの安全装置が働いて、強制的にシステムを停止させることもある(その場合、作業中のメモリ内容の消失やファイル破壊・損失だけでなく、ひどい場合はディスク破壊をも引き起こす)。また、サージはコンピュータの電源ケーブルだけではなく、外部に接続されている電話回線やテレビのアンテナ線を伝わってシステムに進入し、通信機器の破壊を招く。さらに、電磁波ノイズは、精密な半導体素子に影響を与え、コンピュータでの計算結果の信頼性を損なわせることにもなる。

 中でも、特に恐れられているのが、サージである。電源線/信号線に関係なく進入するため被害経路の断定が難しく(図1)、また、あまりに瞬間的に起こるために自動切り替えなどの安全装置が間に合わない。システムに与える影響も見えにくいため、被害に遭ったのかどうか確かめる方法が少なく、障害発生を見過ごしてしまう可能性が大きいからである。なお、サージという呼び方は、一般的には過電圧(定格以上の電圧)のことを示す。その持続時間によっては、スパイク(ナノ秒〜マイクロ秒)、サージ(あるいはサグ、マイクロ秒〜ミリ秒)などと呼ぶ。

図1 サージの発生とシステムへの進入経路

 ちなみに、落雷による機器の故障は、たとえ保証期間内であったとしても有償修理が前提となっている場合が多く、機器のマニュアルや説明書などにも、下記のような注意書きが見られることがある。

【注意】

・雷が鳴っているときには、直接落雷していない送電線や電話線に「誘導雷」という異常電圧が発生することがあります。この「誘導雷」がAC電源経由や電話線経由で伝わり、パソコン機器を壊してしまうことがあります。

・火災・地震・落雷・風水害・そのほか天変地異・公害・塩害・異常電圧などで故障および損傷した場合、有償修理になります。

・また、感電の原因になるので、雷が鳴り出しているときはテレフォンコードや電源プラグに触れないようにお願いします。


【落雷センサー】
落雷による被害を減らすために、電力会社では雷の発生をいち早く感知し、自動記録するシステムを導入している(雷発生の放電時に特有の電磁波を複数の個所で観測し、三角測量の要領で発生地点を算出する)。東京電力のデータはインターネットでも公開されているので、天候が不順なこの季節、電源管理に気を使う管理者ならば一見の価値はある。現在、TTNetのWebサイト(http://www.thunder.ttcn.ne.jp/)で公開中である(下記画面参照)。
TTnetと東京電力が共同で運営するサービス。今のところ無料で利用できる(画面をクリックすると拡大表示します


【コラム】標準電圧
 一般家庭や標準的なオフィスに引き込まれている「標準電圧」(100V)というのは100V±6V、冷暖房機器や工場などで使われる「標準電圧200V」というのは、202V±20Vの範囲の電圧を意味する。落雷や、何らかの事故で、一時的に(あるいは瞬間的に)電圧がこの範囲より低くなった場合を「瞬時電圧低下」(通称、瞬低)と呼ぶ。瞬低と、電力そのものが停止する停電を混同しがちだが、電圧が落ちただけで瞬低となる。

 瞬停の主な発生原因は、電力会社の送電線の切り替えなどである。東京電力によると、年平均4回ほど発生するという。この現象が起きると、ほとんどのコンピュータはCPUの処理が中断し、強制的にリブートが起こる可能性がある。また、配線状況などによってごくまれに、一時的に許容範囲より高い電圧が供給されることもあり、この場合は、電気機器から煙が立ち上るなどのトラブルが発生することになる。なお、電気の利用環境によっては、「しゅんてい」というと、瞬間的な停電のことを示す場合もあるようだ。本記事では、瞬間的な電圧低下を「瞬低」(しゅんてい)、同じく、瞬間的な停電を、電力遮断の意味から「瞬断」(しゅんだん)と呼び、区別することにする。


標準周波数

 電源の周波数は東日本では50Hz、 西日本では60Hzである。この周波数は非常に厳密に制御されていて、その変動幅はせいぜい±0.1Hzぐらいだ。この周波数の精度は、 実際には発電機の回転数の精度と同義であり、例えば、火力発電所のタービンは、(50Hz地域では)通常毎分3000回転となっている。電力需要が多くなって負荷が重くなると、タービンの回転数も少しずつ下がってしまい、逆に負荷が軽くなると、タービンの回転数も少しずつ高くなる。ときには、電力供給側の事情で、(50Hzの場合には)48Hzでの運転(1分間程度)や、48.5Hzでの運転(10分間程度)も可能であるという。ただし、周波数は供給経路でも厳密に制御されているので、オフィスや家庭内にまで伝達するような変動はないという。また、ほとんどの電子機器では、交流を直接利用するのではなく、内部電源ユニットによって直流に変換しているので、たとえ周波数変動があったとしても、機器に与える影響は少ないという。

Index
UPSで電源トラブルからマシンを守る!!
忘れていませんか? 電源管理
-電源トラブルの代表例
-標準周波数
【コラム】標準電圧
  電源トラブルへの対策〜UPSの基礎知識
-UPSの3つの電源供給方式
-規模に応じたUPS選び
【コラム】電源保護だけでなく、通信回線も保護するUPS
  UPS制御ツールで電源管理
-OS標準機能によるUPS制御
-専用ユーティリティによる電源管理
-ネットワークによるUPS制御
  UPS製品紹介
「BK500」
「Smart-UPS 700J」
「BM1000-10FNX」
-UPS運用時に気を付けたいこと
 


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