特別企画 無線LAN徹底活用術

オフィスのワークスタイルを変える無線LAN
基礎知識から導入・運用までを徹底解説

池田圭一
2000/05/31


 無線LANの基礎知識


いろいろある無線LANの種類

 無線LANとは、電気信号をケーブルレスで伝送するネットワークシステムの総称である。LANと呼ばれるだけあり、既存の代表的なLocal Area Network(LAN)との互換性を持ち、現在主流となっているEthernet(10BASE-T/100BASE-TX)とシームレスな接続が可能な製品が多い。まずは、その伝送方式から整理してみよう

●電波と光〜電磁波としての特性

 一般的に、無線LANの伝送媒体として多く用いられているのは、空気中をケーブルを使うことなく伝播することのできる電磁波、すなわち電波と光である。

 電波を用いた無線通信の身近には、携帯電話やPHSなどの移動体通信、いわゆる無線機、トランシーバーなどがある。一般的に電波は、発信元を中心として球状に広がっていくという無指向性を持ち、出力に応じて通信距離が決定される。また、パラボラアンテナなどを使い指向性を持たせることで低出力・遠距離通信も可能になる(ビル間の通信や電話回線の中継、テレビなどの映像信号の中継などに使われている)。

 一方、光を用いた身近な無線通信としては、ノートパソコンなどで利用されている赤外線通信(IrDA)がある。光の場合、指向性が高く直進性に優れているという特性があるため出力が弱くても比較的長距離の伝送が可能であり、また、情報密度を高めることができるために、短時間で大量の信号を送れるという特性がある。テレビやAV機器などのリモコンなども、一種の光通信システムであるといえるだろう。

 これらの媒体をLANシステムの伝送手段として利用するわけだ。なお、無線LANでは、LANシステムの物理層で電波や光を使うことになる。

●電波と光〜無線LANに利用する場合

 電波と光には、前出のように、減衰効率や直進性(指向性)、出力と信号強度、S/N比などの特性の違いがある。特に、LANシステムとして利用される場合、それぞれの特性の違いが製品の長所・短所となって現れてくる。ここでは、最近の無線LAN製品の代表的な機器から、両者の違いを表1に簡単にまとめてみた。

  電波(2.4GHz帯) 光(赤外線)
通信速度 1.6Mbps〜11Mbps 10Mbps前後
通信距離 10m〜100m 数10m〜数100m
障害物の影響 壁や天井を越えた通信が可能 経路上に遮蔽物があると通信できない
通信体の移動 無指向性なので容易 指向性なので半固定
敷設コスト 安価 高額
表1 無線LANの媒体による特性

 表1で、特に注目したいのは通信速度である。電波も光も、現在の製品では、最高が10Mbps前後となっている。これは、この数年、新技術の開発や規格の標準化によって電波方式の無線LANが著しく発展した結果である。

 昨年の夏頃までは、電波方式の最高通信速度は2Mbps程度。そのため、通信速度を重視する現場では、通信体の移動に制限があっても、また、コストが少々かかったとしても赤外線タイプの無線LANを導入せざるを得なかった。電波と光を使う無線LANは、この時点ではソリューションにおいて住み分けができていたのである。

●電波方式が優位に! 昨年秋の変革

 先ほどの表1を見る限り、現状、光を用いる無線LANのメリットは通信距離しかない。通信速度では、もはや電波タイプの方が高速なのである(ただし、カタログスペック上の差異であり、実効レートではないことに注意)。

 この電波方式の圧倒的な優位を生んだのが、1999年11月にIEEEによって標準化された、2.4GHzのマイクロ波(電波)を用いる無線LANの規格「IEEE802.11b」である(詳しくは後述)。

図1 ISM(Industry, Science, and Medical)バンドの周波数帯と、「小電力データ通信システム規格」(ARIB STD-T66、RCR STD-33)が利用できる周波数帯。従来ISMバンドは、医療用のメスや電子レンジなどに利用されてきた

 日本国内においても、無線LANの優位性を高めた変革があった。郵政省が「小電力データ通信システムの高度化」を推進するために、1999年10月より、従来、産業業科学医療用に利用されてきた周波数2.4GHz帯(Industry, Science, and Medical:ISMバンドと称される)の利用条件を緩和し、電気通信に使えるようになったのである(図1)。

 このような流れを受けて、今年初頭から、次々に新しい電波方式の無線LANシステムが開発・発売されてきた。そのいずれもが、2.4GHz帯、通信速度11Mbps、最低システム構築コスト:10万円以下という注目すべきキーワードを持っている。


2.4GHz帯の電波を用いる無線LAN

 現在、最も注目されているのは、2.4GHz帯の電波を使った無線LANシステムであるのは間違いない。ただし、同じ周波数帯域の電波を用いる無線LANであっても、複数の伝送方式が存在し、通信速度が異なっていたり、相互接続性の有無に違いがあったりする。

 それでは、無線LANの基本となっている「IEEE802.11」規格についてみてみよう。

●無線LANの基本となったIEEE802.11

 無線LANの伝送に用いられる電波方式は、1992年ごろから規格化が進み、2.4GHz帯および19GHz帯においては各社独自の規格で製品化が進んできた。その後、1997年6月になって「IEEE802.11-1997」 に規格が統一され、それに準拠した製品(最高伝送速度2Mbps、通常伝送速度1.6Mbps)が多く出回った。 また、従来2Mbpsだった最高伝送速度を11Mbpsに高めた「IEEE802.22b規格が、1999年11月に規格化された(図2)。

図2 IEEE802.11ベースの無線LANプロトコルとOSI参照モデル 無線LANのIEEE802.11では、物理層とMAC層を定義しており、それ以上の層は、有線LAN(10BASEのEthernet)と共通となる


●MAC層の仕様

 無線LANのMAC層にはCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access With Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス/衝突回避)という方式が採用されている。これは、有線LANであるEthernet(IEEE802.3 CSMA/CD)によく似たものである。しかし、無線LANでは信号衝突の検出ができないため、まず送信の前に別のノードが送信していないかを調べ(Carrier Sense)、さらに自分宛のデータが送信されていないかを調べる(Multiple Access)。その結果、衝突の心配がないと判断したらデータを送信するようになっている。

 このとき、ほかに通信中のノードがあった場合には、送信待機(Collision Avoidance)となり、ランダムに割り当てられた時間を待ってから再送が試みられる。また、同時に2つ以上のノードが送信を始めて信号が衝突した場合は、エラー回復が行なわれないため、上位層が再送を決定するようになっている。

【コラム】電波の変調方式

電波の波としての特性を変化させて、信号を電波に乗せることを変調という。たとえば、AMラジオでは電波の振幅変調によって、FMラジオは周波数変調によって音声信号を電波に乗せている。一般的にデジタル信号を変調させるには、振幅変調(ASK:Amplitude Shift Keying)、周波数変調(FSK:Frequency Shift keying)、位相変調(PSK:Phase Shift Keying)の3通りの方法がある。IEEE802.11やIEEE802.11bでは、PSKを基本とした次のような変調が用いられている。

  • DBPSK(Differential Binary PSK)
    1Mbps伝送モードで利用
  • DQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)
    2Mbps伝送モードで利用
  • CCK(Complementary Code Keying)
    5.5M/11Mbps伝送モードで利用


●物理層の仕様

 一方、最下層の物理層には、電波を用いるタイプと赤外線を用いるタイプが定義されている。電波を用いるタイプの伝送方式について詳細を見てみよう。ちなみに、IEEE801.11準拠の赤外線を用いる無線LANシステム(伝送速度2Mbps)は、国内ではほとんど製品化されていない。

 無線LANの伝送方式は、もともと軍事用の通信技術として開発された「スペクトル拡散(Spread Spectrum:SS)方式」が採用されており、先に説明したISMバンド(2.4GHz帯)の電波を利用している。

 SS方式は、広い幅の周波数を同時に使って通信を行うものである。一般的にノイズに強く、また、広い幅の周波数信号を作るのに特殊な符号(ESS-ID)を利用する。この符号を知らないとデータ信号を正しく受信できないため、ESS-IDを知らない相手には通信を傍受されることがほとんどないという特徴がある。

 さらに、無線LANでは、このSS方式を、「直接拡散・スペクトラム拡散方式(DS-SS:Direct Sequence-Spread Spectrum)」と、「周波数ホッピング・スペクトラム拡散方式(Frequency Hopping-Spread Spectrum:FH-SS)」の2方式に細分化している(図3)。それぞれの特徴を見てみよう。

図3  DS-SS/FH-SS方式の模式図と各方式の特徴


 まず、DS-SS方式だが、広い帯域を固定的に利用できるため通信速度の高速化が可能である。最近になって登場した伝送速度11Mbpsの無線LAN製品は、すべてDS-SS方式となっている。ただし、DS-SS方式の11Mbpsというのはあくまで上限であり、アクセスが集中したり電波状態が劣化したりすると、1Mbps/2Mbps/5.5Mbpsなどの低速の伝送モードに自動的に切り替わる。

 一方のFH-SS方式は、チャンネル変更のオーバーヘッドなどのために高速化が困難で、約2Mbpsが上限となっている。しかし、周波数を移動しながら通信を行なうために傍受がされにくい、また、ノイズ混入にも比較的対応しやすく通信エラーが少ないなどのメリットもある。さらに、複数のチャンネルを同時に使うことで、伝送速度を向上させることも可能だ。

●無線LANシステムの将来

 無線LANの規格に関しては、IEEE801.11bよりも高速(24Mbps)での伝送が可能なIEEE802.11aもすでに策定済みである。ただし、IEEE802.11aでは、国内での利用が認可されていない5.2GHzの帯域を用いるため、当面の普及状況においては不明である(郵政省の認可は2000年春〜夏に予定されている)。

 また、KDDなどでは、複数のチャンネルに同時に信号を送る(FS-SS方式の2Mbpsを、ホッピングさせないで9回線として同時に利用する)ことで。伝送速度を18Mbpsにまで高める「マルチチャネル高速無線技術」を発表している。

 さらに、無線LANと同じISMバンド(2.4GHz帯)を利用し、伝送速度1Mbps(実質通信速度721kbps)、通信距離10メートルの無線システム「Bluetooth」の開発も進められている。これは、マスターPCと周辺機器(スレーブPC、携帯電話、プリンタなど)との間を電波で通信しようとする規格であり、現在、バージョン1.0が存在。エリクソン、IBM、インテル、ノキア、東芝などが中心となって、Bluetooth仕様書策定が促進されている。ただし、無線LANシステムとBluetoothは、同じISMバンド(2.4GHz帯)の電波を利用しながらも互換性はない。また、一部では、Bluetoothと無線LANシステムが干渉を起こすことを心配する向きもある(Bluetooth準拠の製品は2000年夏に出荷が予定されている)。

Contents

 無線LANの基礎知識
  • いろいろある無線LANの種類
  • 2.4GHz帯の電波を用いる無線LAN
    【コラム】電波の変調方式

 無線LANを運用する!

  • 無線LANのソリューション
  • 無線LAN運用ノウハウ
    【コラム】電子レンジとの干渉実験
  • いろいろな状況に利用できる無線LAN

 製品紹介

  • メルコ/コンパック/プラネックスコミュニケーションズ

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