【Event Report】
「IP Network Technology & Solution Meeting」


ワークショップB-1
「広域LANサービスによる基幹業務システムの再構築とその技術」


松岡美樹
RBB TODAY 編集部
(取材協力:アットマーク・アイティ 編集局)
2002/4/16
講師:MCIワールドコム・ジャパン 小澤 剛氏


 広域LANは、従来の専用線やフレーム・リレーに代わる新しい企業ネットワークのあり方として登場してきたサービスだ。そのため、現状、企業が自社ネットワークをリフォームする際にチョイスする選択肢の1つとして、IP-VPNなどと並び「お品書き」に上がることも多い。

 そこで今回は、2002年1月31日に開催された「IP Network Technology & Solution Meeting」(主催:インターネット総合研究所RBB TODAY/アットマーク・アイティ)のイベント・レポート第5弾として、ワークショップB-1「広域LANサービスによる基幹業務システムの再構築とその技術」(講師:MCIワールドコム・ジャパン マーケティング部 小澤剛氏)で語られた内容を要約し、広域LANが台頭してきた背景や導入することによるメリット、またそれによって基幹業務がどう変わるのかを軸にお送りしよう。


広域LANが登場した時代的背景とは?

 講演の中で小澤氏はまず「広域LAN登場以前」の企業ネットワークの形態と、その問題点に触れ、コスト削減などのマーケット・ニーズに応える形で広域LANが台頭してきた時代的背景について述べた。

「従来の企業ネットワークは、フレーム・リレーや専用線でのネットワーク構成が一般的でした。つまり基本的にはOne-to-One接続の延長になります。そして、これをできるだけAny-to-Any接続に近い構成にしたいときには、それだけパスやPVC(Permanent Virtual Circuit)の数も増え、どんどんコストがかさんでいく。また距離が伸びるに従い、料金も高くなる。ですから、例えば帯域をアップグレードしたい、あるいは接続拠点を増やしたいという場合には、どんどんコストがかさむ構造になっていました。これらのことから、特に拠点数を多く持つ企業やこれから拠点を増やしていきたい企業を中心に、『品質はこれほど高くなくていいから、もっとコスト的に見合うソリューションはないのか?』との声が出てきました」

 そしてターニング・ポイントになったのが「1999年」だと小澤氏は分析する。この1999年とは、広域LANサービスの老舗であるクロスウェイブ・コミュニケーションズ(CWC)がサービスをスタートさせた年である。また当時は、企業間の受発注や見積もりなどの企業間取引をデジタル化し、ネットワークでやりとりするEDI(Electric Data Interchange:電子データ交換)の必要性から、特に企業間接続にスポットライトが当たっていた時期でもある(図1)。

 エクストラネットの台頭
  企業内イントラネットだけでなく、企業間接続も重要に
WebベースERPなどのパッケージ・ソフトの増加
ASPや、アウトソースといった概念の一般化
 IP-VPNが代替ソリューションとして急浮上
  企MPLSベースで、閉域網内でのAny-to-Any接続が容易に。ゲートウェイを通してインターネット接続も
回線のアップグレード、追加、構成変更が容易に
いたずらにフレーム・リレー網を拡張していくのに見切りをつけた企業からリプレースを検討
図1 1999年:ターニングポイントとなった年

「フレーム・リレーの市場がピークを迎えたのは、1995年から1998年にかけてでした。その次にきた1999年には、エクストラネットが台頭してきた。その背景には、特にEDIなどの関係で企業間接続が非常に重要になってきたことがあります。またASPやアウトソースという概念や言葉が出始めたのが1999年で、このあたりから徐々に転換期を迎えたといえます」

 そしてもう1つエポック・メイキングな出来事だったのは、1999年以降にIP-VPNがフレーム・リレーの代替ソリューションとして台頭してきたことだ。IP-VPNは伝送プロトコルをIPに限定し拠点間をつなぐ、レイヤ3のWANサービスである。遠い拠点とはルータを介在させてLAN接続し、各地の拠点をメッシュ型のネットワーク構成で結べる。

MPLS(Multi Protocol Label Switching)をベースにしたIP-VPNは閉域網内でAny-to-Any接続ができ、それに伴いアップグレードなども既存の網にくらべて容易です。ほかにも距離に料金が依存しない点や運用管理が非常に簡単なことから、このままいたずらにフレーム・リレー網を拡張していくよりも、IP-VPNなら帯域も増やせてコスト的にも安く抑えられるんじゃないか? という期待が生まれた。こうしてIP-VPNというソリューションが出てきたわけです」

 では実際のところ、IP-VPNに移行してみてどうだったのか? ネットワークはスリム化できたし、運用管理面でも期待以上の効果があった。またパフォーマンスに関しても、IP-VPNはフレーム・リレーに優るとも劣らないできだった。だが大きな期待を集めていた「コスト面」では、IP-VPNは必ずしも市場のニーズに応えるものではなかったと小澤氏は指摘する。

「コスト面に関しては意外に安く上がらない、あるいはむしろ割高になるケースもありました。確かにIP-VPNは、アーキテクチャ自体は割安にできるように設計されています。ただ当時の時代背景として、デジタル専用線やATM(非同期転送モード)ベースの回線を使わなければならず、ここでコストに差が出てしまった。例えば距離的に短いような構成なら、フレーム・リレーのほうが安いケースもあります」

 となるとマーケット・ニーズとしては、「もっと広帯域のアクセスを、安価に提供してくれるようなものはないのか?」となる。さらなる代替ソリューションが求められたわけだ。そこで広域LANに注目が集まったわけである。

広域LANサービスはTCOの削減につながる

 IP-VPNでは、高速ルータの導入やルーティングの設定など、システムの移行時に一定のコストがかかる。一方、広域LANはサービスを提供する事業者のバックボーンへつながるアクセス・ポイントにユーザー企業からのアクセス・ラインを接続するだけで、すべての拠点と通信できるシステムである。ユーザー企業の各拠点においては、LANスイッチをイーサネット終端装置に接続するだけでいい。またレイヤ2ベースであるため、この終端装置にはルータやハブ、スイッチなどを自由に選んでつなぐことができる。つまり、WAN接続するためのルータは「必然」ではなく、運用管理まで含めたTCO(Total Cost of Ownership)の削減につながるわけだ。一言でいえば、既存のサービスと比べ、安価に広帯域化を実現できるソリューションといえる。

 さらに広域LANは、IP-VPNと同じく遅延の少ないメッシュ型トポロジーを実現しており、拠点の増設や帯域の増速にもフレキシブルに対応できる。またTDM(時分割多重化)など階層型で組んだネットワークと比べ、どこかで障害が起きてもネットワーク全体には影響しない。

 イーサネット対応であれば、ネットワークを流れるプロトコルに制約がないマルチプロトコル対応なのも、大きな魅力である。このため、IPXなどIP以外のプロトコルでの通信が可能であり、ユーザー企業から見れば社内LANで動いているアプリケーションをそのままWANへと運び込める。またルーティング・プロトコルに関しても、企業の内部で使っている任意のプロトコルを利用できる。

 こんなふうにメリットが多い広域LANサービスだが、「使い方」しだいでは弊害も出る。「イーサネットは簡単だ」といわれるが、それでもLANの知識は必要なのだ。では広域LANを生かすためのノウハウとは何だろうか?(図2

 基本1: レイヤ3スイッチを推奨
  最低限のL3機能を持ち、100Mbpsのワイヤ・スピードで通信を確保するのは、L3スイッチのみ
 基本2: ルータは勧めない
  理論的には、2ポートの100Mbpsイーサネット・ポートを持つルータであればつながるが、100Mpsの実効速度を求めると、Cisco 7204のクラスになってしまう。Cisco 2600/3600では無理
 基本3: いわゆるダム・ハブ/スイッチング・ハブは禁止!
  本来外に出ていく必要のないトラフィックがすべて出ていくので、帯域の無駄使い。プリンタ印刷やNT共有フォルダのファイル・コピーまで、インターネットのトラフィックを圧迫してしまう
MACアドレスがすべて外に転送される。スイッチのキャパシティを超えた数のPCが接続されると、サービスが落ちる
図2 差せばつながる、は間違い

 まず基本の第1点として小澤氏は、「広域LANにつなぐのであれば、L3のスイッチでつないだほうがいい」とする。広域LANは“ルータ・レス”だといわれるが、ルータという機器そのものがなくなっても、ゲートウェイとしてのルータの概念はなくならない。「いずれにしろそこにつなぎ込むには、ゲートウェイは必要」なのだ。

「基本の第2点としては、広域LANの接続にはルータはおすすめできないということです。2ポートの100Mbpsベースであれば基本的にはいいのですが、ワイヤ・スピードという面で考えれば、やはりCisco 7204クラスのルータでなければむずかしい。Cisco 2600/3600クラスではちょっと無理です。最後に基本の第3点として、いわゆるダム・ハブ/スイッチング・ハブでつないではいけないということです。なぜなら、ダム・ハブではカスケードの制限のような旧来からの問題も出てきますし、スイッチでも過度に多段接続してしまうと、当然パフォーマンスが落ちるからです」


広域LANサービスの導入によって何が変わるのか?

 さて、ここまで広域LANサービスとはどういうものかを見てきた。では、それを使えば肝心の基幹部分はどう変わるのだろうか? この点について小澤氏は、アクセスが高速化することで、システムをアウトソースする余地が生まれることを強調する(図3)。

 アクセスの高速化、VLAN、IP-VPN
  帯域的にも、構成的にもシームレスに統合され、WANとLANの境目がなくなりつつある
 もはやシステムを保有する時代ではない
  企業のTCO削減(陳腐化する機器を資産化する必要性?)
アウトソースのさらなる恩恵(セキュリティ、ディザスタ・リカバリ、そのほかの付加サービス)
 システムの運用管理もアウトソーシング
  SLAベースでの運用管理の効率化
ITリソースの効率化、さらなる有効活用が可能に
図3 広域LANサービスが基幹にもたらすもの

 広域LANサービスは、アクセスの高速化を基幹にもたらす。帯域的にも構成的にも統合され、WANとLANの区切りがなくなる。そうなると、自社にシステムを保有していようが外に持っていようが、帯域的には変わりない。つまり、必ずしも自社にシステムを保有しておくのがベストとはいえなくなってくるわけだ。その理由の1つに、TCOの削減がある。いまは半年から1年で機器が陳腐化するといわれるご時世である。持っている機器を償却するまでのタイム・ラグまで含めて考えれば、アウトソースすることのメリットは明らかだ。

「またアウトソースすることで、自社では構築できないようなさらなる恩恵を受けることも可能です。例えばセキュリティ面でのアウトソーシングや、あるいはディザスタ・リカバリ(災害復旧)のようなサービスが非常に簡単に手に入ります。またシステムそのものだけではなく、その運用管理の部分までアウトソーシングできるという利点もあります。例えば、サーバ・ベースのSLA(Service Level Agreement)などを使うことで、運用管理面でも、ある程度の品質レベルのものをアウトソースすることができます」

 つまりアウトソースすることにより、自社に保有しているITリソースをよりプロダクティブな方向に向けることができるわけだ。また企業にとっては、セキュリティも非常に頭の痛い問題である。セキュリティ・パッチをどのくらいの頻度で当てるのか? そのためにはどれくらいのリソースを投入しておけばいいのか? これは難問だ。そしてこういう問題を自社内でどう解決するのか、あるいはアウトソースしたほうが賢明なのか、という判断にも迫られる。

 このように、アウトソーシングにはメリットが多いが、システムをすべてアウトソースするのは現実的ではない。外に出しやすいものとそうでないものとをきちんと切り分け、何を外に出すのか、また何を自社内に置いておくのかという判断をしなければならない(図4)。

 システムすべてのアウトソースは非現実的
 外に出しやすい要素とそうでないもの
  アウトソース必須: BRS/DRSなど
アウトソースしやすい: メール、Web、ファイアウォール、EDI/EAI、ストレージなど
アウトソースが難しい; メインフレーム系
 誰に/どこにアウトソースすればよいのか?
  信頼できるインフラを持つiDC事業者
システムそのものをアウトソース可能な事業者
システム運用/構築の経験をもつ技術者を自前、もしくはパートナー定形で保有する事業者
図4 持つと持たざると:アウトソースの決断

 小澤氏によれば、まず「アウトソースが必須」のものとしては、昨今、非常に注目されているBRS(Business Recovery System)あるいはDRS(Disaster Recovery System)、つまりビジネス・リカバリ、あるいはディザスタ・リカバリのシステムがある。この部分は自社のビルがダウンしたり災害に見舞われたりしたときに、いかにスムーズにビジネスを復旧できるかにかかわってくる。これは基本的に自社内に持っていても意味がないから、アウトソースするべきだとする。

 次に「比較的アウトソースしやすいもの」としては、メールやWebのように付加的なインターフェイスの部分、さらにはファイアウォールの部分を挙げる。こうしたセキュリティの維持には大きなコストや負荷がかかるからだ。また既出のEDIや、会計システムと受発注システムを連携させるような場合に使うEAI(Enterprise Application Integration)などは外に出しにくいと思われがちだが、実は「アウトソースしやすいもの」だという。

「一方、アウトソースが難しいのは、既存のメイン・フレーム系です。この部分に関しては、例えばメイン・フレームにシミュレータを使ったり、強い体力が必要な移行計画を立てながら徐々にアウトソースするしかありません」

 またアウトソースするにあたっての事業者選びのポイントを1点だけ挙げておこう。システムそのものをアウトソース可能な事業者、という点でいうならば、システムの運用・構築の経験を持つ技術者を、自前もしくはパートナーとの提携で持っている事業者を選ぶことが大切である。

どんな広域LANサービスを選べばいいのか?

 では最後に、ユーザー企業はどんな広域LANサービスを選べばいいのか? 事業者やサービスを選択する場合の留意点について見てみよう。

「基本的には、すべてをイーサネットで構築して、音声通信品質のATM、あるいはSONET(光同期伝送ネットワーク)クラスの信頼性を実現するのは無理でしょう。一から線を引き、初めからフルメッシュで作るというなら別ですが、なかなかそういうところはありません。あとはどんなアクセス回線を利用するかです。基本的に、広域LANの利用にはアクセス回線が必要ですから、よりよいアクセス回線を選ぶためには、インフラの部分が安定していることが前提条件です」

 また小澤氏は、ワールドコムとしての立場から推奨する広域LANサービスとして、特にイーサネットのアクセス回線の部分は信頼できる事業者を、また中継網には基本的にはSONETベースのものを選ぶのが「安全」だとする(図5)。

 イーサネットのアクセス回線は信頼できる事業者を!
 中継網は、SONET(or ATM)ベースのアーキテクチャを推奨
  SONETは枯れたアーキテクチャで、安定フェイズ
イーサネット・ベースのサービスに比べて、事業者ごとの設計品質のバラつきが少ない
コスト面でも、必ずしも高くはならないし、何よりパフォーマンスの安定性が段違い
 ルータ・レスの概念について
  機器としてのルータを設置する必要性は薄くなっているが、ゲートウェイとしての概念では必要
図5 ワールドコムの推奨する広域LANサービスは?

「まずアクセス回線の部分に関してですが、イーサネットは当然安いですし、信頼できる事業者を選ぶ限りにおいては問題ありません。逆に価格だけで選んでしまうと失敗することもあり得ます。一方、中継網としてイーサネットを使った広域LANサービスもありますが、やはりSONETのほうが枯れていて安定しています。また、イーサネット・ベースのサービスと比べ、SONETなら規格が厳密に決められていますから、事業者ごとの設計品質のばらつきが少なく安心です。SONETは高いというイメージがありますが、実はコスト面でも必ずしも高いとは限らない、という要素も見逃せません」

 広域LANがいかにすぐれたサービスであっても、数ある事業者の中から自社に適したものを選ぶのは「人間」だし、またそれを運用するのも人間だ。

 以上、広域LANサービスの特徴や技術、また事業者選びのポイントを見てきたが、これがユーザーのベストチョイスにつながれば幸いである。


関連リンク
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Index
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