IP-VPN、次世代広域イーサネットを構成する基盤技術
特集:MPLS技術とその最新動向を知る

近年、「IP-VPN」や「広域イーサネット」という、離れた拠点を高速で安価にネットワーク接続するサービスが話題を集めている。その大きな特徴の1つが、つなげばすぐ使えるという「手軽さ」だ。キャリア系業者が用意するバックボーン・ネットワークこそ全ユーザーで共有するものの、ユーザーごとにVPNという形で帯域が提供され、あたかも独自のネットワーク(プライベート・ネットワーク)であるかのように手軽に利用できるのだ。これらを実現する基盤技術として近年注目を浴びているのが「MPLS(Multi Protocol Label Switching)」と呼ばれるものだ。本企画では、このMPLSの仕組みと、現在も進化を続けるその最新動向について、まとめて紹介していくことにしよう

近藤卓司
ノーテルネットワークス
2002/4/18

Part.1 MPLSとは何か?

 MPLS(Multi Protocol Label Switching)とは何かを説明する前に、まずは従来のルータの基本的な動作を見てみよう。ルータは「RIP」「OSPF」などのIGPや「BGP」などのEGPにより、どのIPアドレスがどのネクスト・ホップの先にあるかの情報やルーティング・テーブルを事前に学習する。ここで、ある「あて先IPアドレス」を持ったパケットが入ってくると、ルータはあて先IPアドレスと自分のルーティング・テーブルを参照し、見付けたネクスト・ホップへパケットをフォワーディングする。このフォワーディング動作を各ルータで繰り返すことにより、パケットは最終的な目的地までたどり着く(図1)。

図1 ルータの基本的な動作。ルータにパケットが到着するたび、ルーティング・プロトコルにより学習したルーティング・テーブルとあて先IPアドレスを参照して、ネクスト・ホップへパケットをフォワーディングする


MPLSと従来のルーティングとの違い

 MPLSでは、従来のルータの動作とは異なり、あて先IPアドレスを見る代わりに、「ラベル」と呼ばれるパケットに付けられた目印のみを見てフォワーディングを行う。それと同時に、どのIPアドレスがどのラベルを使うかの情報を配布する。各ルータはルーティング・テーブルと共にラベル・テーブルを学習する。つまりMPLSでは、従来のルータの動作に加え、新たにこのラベル情報を配布し学習する動作が加わったのだ。

 ルータに入ってきたパケットには、まず最初にあて先IPアドレスとラベル・テーブルを参照してラベルが付けられ、後はラベルのみを見てフォワーディングが繰り返され、目的地まで到着したらラベルが外される。結果的に、MPLSによりフォワーディングされるラベル・パケットの道筋を、1本のパス(道)のように扱うことができるわけだ(図2)。

図2 MPLSにおけるフォワーディング動作。MPLSでは、パケットのあて先IPアドレスを参照する代わりに、「ラベル」と呼ばれる目印を参照してフォワーディングを行う


MPLSの役割とは?

 当初のMPLSは、ラベルを用いてフォワーディング動作を簡略化することにより、従来のルータの高速化を目指す技術であった。現在では、レイヤ3スイッチと呼ばれる製品を見れば分るように、ハードウェアの進化によるIPパケットの高速なフォワーディング技術が実現され、MPLSがこの役割を果たすことは重要でなくなった。

●トラフィック・エンジニアリング
 では、現在MPLSはどのような目的で使われているのだろうか? その1つが、IPネットワークにトラフィック・エンジニアリングと呼ばれる機能を提供することだ。代表的な使い方として、IPネットワークに明示的なルートを提供する機能が挙げられる。通常、RIPやOSPFなどのIGPを用いた場合、あて先IPアドレスへの経路はルータのホップ数、各リンクのコスト(帯域幅に基づいて計算)を足して、一番少ない経路が最短経路として選ばれる。ところが、選択された経路があるリンクに片寄ることで帯域幅の使用効率が悪くなり、最短経路を選んでしまっては不都合な場合がある(図3)。

図3 RIPやOSPFなどのIGPを用いた場合、ホップ数やコスト値の最も少ない経路が利用されるため、経路の偏りによる帯域不足が発生することがある

 このような場合、片寄りを回避する目的で明示的な経路を指定して迂回する機能が求められる。MPLSにより、従来のルータでは難しかったパケットの道筋の操作を簡単に実現し、さらにリンクの使用効率も高めることができる(図4)。

図4 MPLSでは明示的に経路を指定することが容易だ


●VPNサービスの提供

 もう1つの目的が、IP-VPNに代表されるVPNサービスの提供だ。キャリア内に共有型のIP/MPLS網を構築して、ユーザーごとに論理的に分割されたVPN網を提供する。ユーザー側は、MPLSを意識することなく従来のルータをそのまま使用することができ、さらには異なるユーザーで同一のIPアドレスを重複して使うことができる(図5)。

図5 IP-VPNに代表されるVPNサービスでは、MPLSによって構築されたネットワーク網が利用されるケースが多い


 そのほかにも、MPLSを用いてさまざまな機能を実現することができる。次章では、より詳しくMPLSの通信の仕組みを解説する。


  「MPLS通信の仕組み」へ


Index
特集:MPLS技術とその最新動向を知る
Part.1 MPLSとは何か?
・MPLSと従来のルーティングとの違い
・MPLSの役割とは?
  Part.2 MPLS通信の仕組み
・MPLSの基本用語
・ラベル情報の配布
・経路の決定と帯域幅の確保
  Part.3 MPLSの応用「IP-VPN」
・最もポピュラーなIP-VPN「BGP/MPLS VPN」
・BGP/MPLS VPN以外のVPN実現方式
  Part.4 広域LANサービスを実現するMPLS
・レイヤ2VPNの基本「Martini」
・レイヤ2VPN機能を実現する「Kompella」
  Part.5 これからのMPLS
・MPLSにおけるQoS/信頼性の実現
・MPLSによるネットワーク統合/さらなる応用
 


「Master of IP Network総合インデックス」



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