標準化の完了した最新イーサネット規格
特集:10ギガビット・イーサネット大解剖

近藤卓司
ノーテルネットワークス
2002/7/17

Part.2 10ギガビット・イーサネットと従来技術との違い

10ギガビット・イーサネットと従来規格との共通点/違い

 最初に、10ギガビット・イーサネットと従来のイーサネットに共通する部分を見てみる。まず、同じデータリンク副層 MAC(Media Access Control)を用いることだ。フレーム・フォーマットも同じだ。具体的には、6bytesの送信先MACアドレス、6bytesの送信元MACアドレス、2bytesのイーサネット・タイプに46〜1500bytesのデータ、4bytesのFCS(Frame Check Sequence)が付く。よって、最小フレーム・サイズが64bytes、最大フレーム・サイズが1518bytesとなる。10ギガビット・イーサネットでは、既存の技術から使えるものはなるべく流用し、開発コストと開発期間を抑えることを基本的なコンセプトとしている。

 続いて、10ギガビット・イーサネットと従来のイーサネットで異なる部分を見てみる。まずは速度の違いだが、10ギガビット・イーサネットは従来のギガビット・イーサネットの1Gbpsに比べ10倍の10Gbpsを実現している。これは、LAN向けの仕様で「LAN PHY」と呼ばれている。10ギガビット・イーサネットにはもう1つ、これまでにはなかったWAN向けの「WAN PHY」と呼ばれる仕様もある。WAN PHYのデータ速度については、9.2942Gbpsとなっている。

 また、10ギガビット・イーサネットの伝送モードは全二重のみだ。よって、半二重モードの制御に必要なイーサネット技術の基礎である「CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)」がMACから省かれている。伝送媒体としても、10ギガビット・イーサネットはマルチ・モード・ファイバ(MMF)あるいはシングル・モード・ファイバ(SMF)の光ファイバしか用いることができない。

CSMA/CDとは?
 イーサネットの正式な規格名称は「IEEE 802.3 Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection (CSMA/CD) アクセス方法と物理レイヤ仕様」といい、本来はCSMA/CDを用いたネットワーク通信を研究するワーキング・グループが発端となっている。つまり、イーサネットにとってCSMA/CDは、基本中の基本となる技術なのである。

  CSMA/CDとは、帯域共有型の半二重モードのイーサネットにおいて、データの送信権を確保し、もしデータの衝突が発生した場合にそれを検出する方法のことだ。衝突が発生しない全二重モードのイーサネットでは必要ない。ギガビット・イーサネットでも、実質的には全二重モードのみしか使われておらず、CSMA/CDは実装レベルでは無視されている。10ギガビット・イーサネットは全二重モードのみの規格のため、正式にCSMA/CDが省かれている。これは、常に最新の技術を柔軟に取り入れてきたイーサネットの進化の結果といえるだろう。


10ギガビット・イーサネットの7種類の規格

 10ギガビット・イーサネットでは、7種類の規格が標準化されている。以降の項目で、10GBASE-SR/LR/ER/SW/LW/EW/LX4と呼ばれる、7種類の規格のそれぞれの違いを解説していく(図2・3)。

規格名称
(10GBASE-)
LX4
SR
LR
ER
SW
LW
EW
PHY種別
LAN PHY
WAN PHY
データ速度
10Gbps
9.2942Gbps
PCS種別
8B/10B
64B/66B
64B/66B+WIS
伝送速度
3.125Gbps
×4
10.3124Gbps
9.95328Gbps
PMD種別
1310nm
WWDM
850nm
1310nm
1550nm
850nm
1310nm
1550nm
光ファイバ種別
MMF
/SMF
MMF
SMF
MMF
SMF
伝送距離
300m
/10km
300m
10km
40km
300m
10km
40km
図2 10ギガビット・イーサネット規格の比較

図3 10ギガビット・イーサネット規格の構成

 これらの規格は、PHY(PHYsical sublayer)と呼ばれる物理層が異なる。まず、10ギガビット・イーサネットのPHYは、大きく「LAN PHY」「WAN PHY」の2種類に分けられる。LAN PHYは使用できるデータ速度が10Gbps、WAN PHYは9.2942Gbpsである。LAN PHYは、既存のギガビット・イーサネットを単純に10倍速したものになる。WAN PHYは、通信事業者のバックボーンで普及している10GbpsのSONET OC-192のフレームを流用することで、非常に安いコストでイーサネットをWANに適用することができる新しい技術だ。例えば北米では、インターネット・トラフィックの75%以上が通信事業者のSONET OC-192バックボーンを経由しているといわれる。WAN PHYでないとWANで使えない、という意味ではなく、「既存のWANのバックボーンにそのまま接続できる仕様」という意味だ。

LAN向けの仕様「LAN PHY」

 LAN PHYからさらに詳細を見てみる。PHYは、PCS(Physical Coding Sublayer)と呼ぶデータを符号化する部分と、PMD(Physical Medium Dependent)と呼ぶ物理媒体に接続する部分から構成される。PCSとPMDはPMA (Physical Medium Attachment) により接続され、PMAではデータのシリアル化を行う。LAN PHYは、PCSにより10Gbpsのデータを64B/66Bと呼ぶ方法で符号化を行う10GBASE-Rと、10Gbpsのデータを2.5Gbps×4に分割し、それぞれを8B/10Bと呼ぶ方法で符号化を行う10GBASE-Xとに分けられる。符号化はデータ中の同一符号の連続を防ぐ方法で、64B/66Bで符号化すると、64ビットの情報が66ビットに変換される。よって、10GBASE-Rは10Gbpsのデータが64/66Bにより符号化され、実際の伝送速度は10.3125Gbpsとなる。同様に、8B/10Bを用いる10GBASE-Xは、8ビットの情報が10ビットに変換されるので、2.5Gbps×4が3.125Gbps×4となる。

 10GBASE-Rでは、3種類のPMDを用いることができる。使用する3種類の光波長はそれぞれ、850/1310/1550nmとなっている。10GBASE-RのPCSとPMDとを併せた規格を、それぞれ10GBASE-SR/LR/ERと呼んでいる。Sは短距離(Short)、Lは長距離(Long)、Eは超長距離(Extended)を意味する。10GBASE-SRはマルチ・モード・ファイバ(MMF)を用いて最大300mまで、10GBASE-LRはシングル・モード・ファイバ(SMF)を用いて最大10kmまで、10GBASE-ERは同じくSMFを用いて最大40kmまで延ばすことができる。

 10GBASE-Xは、PMDとしてWWDM(Wide Wavelength Division Multiplexing)技術を用いる。具体的には、1310nm付近を中心とした4波長(1275.7/1300.2/1324.7/1349.2nm)を用いて、3.125Gbps×4のデータを波長の異なる4波で送信する。10GBASE-XのPMDはこの1種類のみで、PCSと併せて「10GBASE-LX4」と呼ぶ。10GBASE-LX4には、MMF/SMFのどちらも用いることができる。MMFを用いると最大300m、SMFを用いると最大10kmまで延ばすことができる。

WAN向けの仕様「WAN PHY」

 続いてWAN PHYの詳細を見てみる。WAN PHYは、10ギガビット・イーサネットで初めて登場した、WAN向けのイーサネット仕様である。WANの世界では最も普及しているSONET/SDHの仕様に合わせることで、イーサネットを簡単にWANの領域に適応することを目的としている。よって、最も単純にSONET/SDHのフレームにイーサネットのデータを載せる方法を採用している。SONET/SDHに完全に準拠しているわけではない。

 WAN PHYは、9.2942Gbpsのデータを10GBASE-Rと同様に64B/66Bで符号化する。64B/66Bを用いるので、データ量が9.2942Gbpsから9.58464Gbpsとなる。この符号化されたデータを、WIS(WAN Interface Sublayer)と呼ぶ方法で9.58464GbpsのSONET OC-192のペイロードに埋め込む。この際に、SONETのスクランブリング(連続する同一符号の発生を防ぐ方法)が行われるが、データ量は変わらない。SONET OC-192では、制御情報を運ぶ各種のオーバーヘッドが付けられるので、実際の伝送速度は9.95328Gbpsとなる。言い方を換えれば、WAN PHYはSONET OC-192のフレームにデータを埋め込むために、データ速度がLAN PHYの10Gbpsとは異なる9.2942Gbpsになっているといえる。LAN PHYとWAN PHYでは、使用できるデータ転送速度が異なることが、最も大きな違いとなる。このPCSとWISを使うWAN PHYを「10GBASE-W」と呼ぶ(図4)。

図4 WAN PHYのフレーム構造

 10GBASE-Wは、10GBASE-Rと同じ3種類のPMDを用いる。使用する光波長は850/1310/1550nmの3種類で、それぞれ10GBASE-SW/LW/EWと呼ばれる。同様に、10GBASE-SWはMMFを用いて最大300m、10GBASE-LWはSMFを用いて最大10km、10GBASE-EWはSMFを用いて最大40kmまで延ばすことができる。

 イーサネット・フレームには、先頭に7バイトのプリアンブルと1バイトSFD(Start Frame Delimiter)が付く。また、フレームは任意の間隔で並べられ、この間隔を「インターギャップ」と呼ぶ。インターギャップの最小間隔は12バイトとなる。フレームが最小間隔で続く状態がイーサネットの最大フレーム転送速度となり、この状態を「フレームがワイヤ・スピードで転送されている」と呼ぶ。先のデータ転送速度には、フレーム間のインターギャップとプリアンブル、SFDが含まれているので、実際のフレーム転送速度はさらに遅くなることに注意が必要だ。また、最大フレーム転送速度はフレーム・サイズにより異なる。

LAN PHYとWAN PHYをどのように使い分けるか

 便宜上、「LAN PHYはLAN向けの仕様」「WAN PHYはWAN向けの仕様」と表現してきたが、実際にそれぞれの規格はどの領域に適応されるのだろうか。LAN PHYの場合、LANはもちろんのこと、10GBASE-LR/LX4は10km、10GBASE-ERは40kmまでの伝送距離があるので、MANにも適応できる。標準には含まれないが、PMDを変更すればさらに距離を延ばすことが可能だ。ギガビット・イーサネットの伝送距離も標準では最大5kmだが、ベンダが独自にPMDを変更することで、伝送距離100km程度のものが現実に使われている。新規にネットワークを作る場合は、LAN PHYでWANを構成することも可能となる。

 では、WAN PHYはどこで必要なのか。最も必要となるのが、10ギガビット・イーサネットをDWDM技術によりさらに束ねる必要がある場合だ。DWDMでは、波長を入れたり出したりするために、光受動部品を多用する。これらを用いることで光損失が増え、結果的には伝送距離が延ばせなくなる。そこで、特に長距離用のDWDM光伝送装置では、距離を延ばすためにFEC(Forward Error Correction)と呼ばれる誤り訂正の技術を用いている。SONET OC-192の長距離DWDM伝送用に、FECと制御信号を併せてカプセル化を行う「デジタル・ラッパー」と呼ばれる技術が、すでに確立されている。デジタル・ラッパーは、ITU-T G.709 OTN(Optical Transport Network)の一部として標準化が進められている。もちろん最近では、MAN用のDWDM光伝送装置にもこのデジタル・ラッパーの技術が投入されている。LAN PHYとFECを組み合わせることも技術的には可能だが、実現するには非常に労力が掛かるので、この領域にはWAN PHYが適応されるだろう(図5)。

図5 10ギガビット・イーサネットの適応領域


 次章では、10ギガビット・イーサネットの可用性を高める技術を解説する。


Index
特集:10ギガビット・イーサネット大解剖
  Part.1 進化するイーサネット
・進化するイーサネットはLANからWANへ
・イーサネットの進化の歴史的経緯
Part.2 10ギガビット・イーサネットと従来技術との違い
・10ギガビット・イーサネットの7種類の規格
・LAN向けの仕様「LAN PHY」
・WAN向けの仕様「WAN PHY」
・LAN PHYとWAN PHYをどのように使い分けるか
  Part.3 10ギガビット・イーサネットの可用性を高める技術
・イーサネットの可用性とスパニング・ツリー
・レジリエント・パケット・リング(RPR)
・イーサネットの可用性を高めるもう1つのアプローチ
  Part.4 10ギガビット・イーサネットの最新動向と将来の展望
・標準化後の10ギガビット・イーサネット
・LAN分野での製品出荷が先行する
・WAN分野での展開〜EFMの標準化
 


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