特集:総務省が公表するWiMAX規格のチェックどころ(後編)
2007年、いよいよWiMAX始動か?!



2007/1/23
原 孝成
ノーテルネットワークス


 BWAに対する要求条件

 ガードバンドに関する議論には紆余曲折があった。せっかく95MHzの帯域が割り当てられても、大きなガードバンドが必要になると実際にBWAサービスとして使える帯域が狭くなってしまう。

 無線装置は、指定周波数以外の電波を全く出さないようにするのが困難であるだけでなく、隣接するバンド間では電波干渉が発生し、互いのパフォーマンス(カバレッジの広さやデータスループットなどのサービス性能や品質など)に影響が出てしまうのだ。特にN-Starやモバイル放送はすでに商用化されているサービスであり、これらの既存サービスへの影響を最小限にしなくてはならない。

 そのため、指定された周波数以外で出てしまう電波を衰弱させるフィルタを挿入して互いの電波が干渉しないようにしたり、互いに影響し合わないようにサービスエリアを限定したりするなど運用でカバーすることが提案されている。

 結果としては、上記のようにN-Star側10MHzを追加運用を必要とする制限バンドとしたうえで、N-Star側で10MHz、モバイル放送側に5MHzのガードバンドを設定することが適切であるとされた。これにより、BWAシステムとしては実質80MHz幅(N-Star側制限バンド10MHzを含む)を使えることになる。

 BWAシステムバンド内での各システム間での干渉を防ぐためのガードバンドについては、さまざまなシミュレーションモデルが検討され、システム間で同期が確保される場合は1MHz、同期が確保されない場合はBWA基地局間に適当な間隔を置くなどのサイトエンジニアリングを条件として5MHzで共存が可能であるとされた。

 検討された状況については以下の記事を参照いただきたい。

総務省 : 情報通信審議会 情報通信技術分科会 広帯域移動無線アクセスシステム委員会

 BWAシステムのライセンスはいくつ出るか?

 これらの検討結果から、それでは何社・何団体に対してライセンスが付与されるのであろうか。今回調査検討の条件としては10MHzの帯域幅が前提となっているが、各社加入者容量を考慮して10MHzを2バンド、または今後の各BWA技術の標準化動向から20MHz幅への対応も考慮して20MHzが要望されている。

 前述した公聴会において、KDDIは2バンドの保持、さらにその片方の20MHzへの対応も考慮して30MHzを希望している。無線事業者の認可は一度交付されると長期にわたって使われ続ける。また、BWAシステムは既存3GやWiFiとの差別化が重要であるため、事業者としてはより大きな帯域幅を使ってデータサービスをより高速化したい。

 さらに、1.7GHz帯の免許が出るときにも以下のような似たような議論があった。これらのさまざまなケースを今後想定していかなければならない。

  • 競争環境として事業者の数をいくつにすべきか
  • 実績のある既存事業者を選ぶか
  • 新規事業者にチャンスを与えるか
  • 全国サービスを義務付けるか
  • 地域ごとにライセンスを出すか
  • 事業開始の時期制限を付けるか
  • 地区ごとの最低レベルの人口カバー率を義務付けるか
  • MVNOの可能性
  • 公共バンドを確保するか
  • いまの時点で80MHzを使い切らず、将来の分を確保するか

 総務省は公聴会で各社・各団体を交えて議論した内容も含めて、総合的に判断したうえで年明けに免許方針案を提示することになる。有限である無線資源が有効に活用されることにより、ブロードバンドとしての通信事業の競争環境が促進されるだけでなく、関連するISP産業やコンテンツ産業にも大きな影響がある。

 音楽、本、映画などのメディアの電子化は最近特に進んでいるし、ライブカメラやITSのようなリッチな情報をやりとりするサービスも増えていくであろう。ユーザーの利便性が向上し、関連市場が活性化していくような方針案が出てくることに期待したい。

速度よりもサービス − 無線BBの急先鋒、WiMAXがもたらすもの(2/3)国内の事業者選定はどうなる?
・総務省 : 1.7GHz帯又は2GHz帯の周波数を使用する特定基地局の開設に関する指針案等に係る意見募集の結果及び電波監理審議会答申
・総務省 : 1.7GHz 帯又は2GHz 帯の周波数を使用する特定基地局の開設に関する指針案の概要

 3Gシステムとの比較

 さて、前述した広帯域移動無線アクセスシステム委員会の報告書にはいくつかWiMAXと3G/3.5Gとの比較ポイントが記述されている。まず、第3章の始めにおいて、BWAシステムの要求条件として調査されるべき事項として、最高通信速度と周波数利用効率(1セクター、1Hz、1秒当たりで何ビットの情報通信ができるか)、モビリティの能力の3点が示されている。

 最高通信速度に関しては、1.3節に「3.5Gの最高通信速度は、HSDPA/HSUPAの場合、下り14.4Mbps/上り5.7Mbpsであることから、その次に登場するBWAシステムに対しては、下り20〜30Mbps程度/上り10Mbps程度以上の最高通信速度が求められる」とある。

 3.1.1節では、WiMAXの最大伝送速度は専有周波数帯域10MHz、サブキャリア数1024、TDDなので下りと上りに割り当てるタイムスロットの比率を32:15として、最大伝送速度は下り20.74Mbps、上り11.52Mbpsになるとしており、要求条件を満たしている。3.5Gと比較して、WiMAXは下りで1.4倍、上りで2倍の最高通信速度を持つことになる。WiMAXが帯域幅10MHzではなく20MHzでサービスされれば、さらに高い最高通信速度が期待できる。

 また、周波数利用効率に関しては、1.3節に「3G以降に適用されている周波数利用効率の代表的な数値」として3.5G(HSDPA)で0.6〜0.8(情報通信審議会報告)とあり、「BWAに求める周波数利用効率としては、現行3.5Gを上回る0.8以上に設定する必要がある。」とある。これに対し、3.1.2節でWiMAXの周波数利用効率は、シミュレーションの結果、下りで1.2であるため、これも十分要求条件を満たしている(HSDPAは下りの方式であるため、下りだけで比較している)。

 ちなみに、3.5GはFDD、つまり周波数分割複信方式で、下りと上りの周波数帯が分かれており、HSDPA/HSUPA方式で5MHzずつ使うため、両方で10MHz使うことになる。これは、WiMAXも10MHzとすると、同じ10MHzを使うとしても、WiMAXは下りと上りに割り当てるタイムスロットの比率を変えることができるものの、一般的にはWiMAXの方が早い通信速度を出すことが可能といえる。

 最後にモビリティだが、3Gシステムは高速移動をサポートしており、WiMAXにもモビリティ機能が必要だとされている。報告書では、3.1.3節において、ハンドオーバー機能について標準化が進んでいる点と国内事業者による実績を示し、中速程度のモビリティがあることを示した。

 W-CDMA、HSDPAとCDMA2000 EV-DO Rev.Aの諸元については下記記事を参照いただきたい。

・塩田紳二のモバイル基礎講座 W-CDMAとは何か?
・もうすぐ実現、ケータイ&無線LANのオールIP化 〜3.5世代携帯電話網とIPネットワーク間連携〜




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目次:2007年、いよいよWiMAX始動か?!
  <page1> どうなった事業者向けヒヤリング/難産だった?! 技術条件
<page2> BWAに対する要求条件/BWAシステムのライセンスはいくつ出るか?/3Gシステムとの比較
  <page3> 無線LANとの比較/WiMAXシステムの構成要素
  <page4> WiMAXでのMVNO/WiMAXに募る今後の期待/WiMAXの機能拡張 〜802.16j、802.16m〜

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