特集:総務省が公表するWiMAX規格のチェックどころ(後編)
2007年、いよいよWiMAX始動か?!



2007/1/23
原 孝成
ノーテルネットワークス


 無線LANとの比較

 WiMAXに高速無線データ通信が求められており、最高通信速度、周波数利用効率という点では3Gより優れていると述べた。高速無線データ通信という点では無線LANもあり、最高通信速度では3Gよりもはるかに速い。また無線LANを利用したワイヤレスメッシュネットワーク技術により、カバレッジも拡大し、その利用範囲も多様化してきた。BWAシステム委員会の報告書では特にWiMAXと無線LANとの比較については述べられてはいないが、ここでは、もう少し詳細にモバイルWiMAXの無線LANに対する優位性について見ていこう。

 まず、WiMAXと無線LANとの基本的な比較については次の記事を参照いただきたい。

2. IEEE 802.16-2004とIEEE 802.16e

 また、両方式の基礎となるOFDM方式については下記の記事を参照いただきたい。

塩田紳二のモバイル基礎講座 OFDMとは何か?1
塩田紳二のモバイル基礎講座 OFDMとは何か?2

 Mobile WiMAXは最大帯域幅に20MHzが予定されており、802.11a/gも使用帯域幅は20MHzである。だが、サブキャリアの数がモバイルWiMAXの方が圧倒的に多い。モバイルWiMAXでは、10MHz帯域幅で1024本、20MHz帯域幅で2048本となる。802.11a/gでは52本となる。まず、サブキャリアの数が多いことにより搬送できるデータ量を多くすることができる。

 また、電波は建物への反射などによりマルチパス化され、各パスは受信地点に到達するまでの時間が異なることになり、これらのパスを合成すると細かい強弱、揺れが発生してしまう。この現象をフェージングというが、サブキャリア1波当たりの帯域幅を狭くすることにより、影響を受けないサブキャリアを増やすことができるだけでなく、影響を受けたサブキャリアも復元しやすくなる。つまりより細かいサブキャリアを持つWiMAXの方が伝送エラーを起こしにくい。つまり、見かけ上のデータ伝送速度を上げることができる。

図2 電波は建物への反射などのフェーシングの影響

 さらに、よりたくさんのサブキャリアを持つことにより、搬送データを長いシンボル長に拡散して長いガードインターバルを付けることもできる。マルチパスの各パスから来るデータは前述したようにやや時間差があるが、長いガードインターバルがあれば各パスから来たガードインターバルが重なる格率も高くなり、各パスの合成時の補正がしやすくなる。これはより遠くに電波を飛ばしてマルチバスの各パス間で時間差が大きくなってしまうときに有効である。つまり、より広いカバレッジを取ることができる。

図3 ガードインターバルにより時間差が少なくなる

 次に多重化方式とアクセス制御方式だが、モバイルWiMAXは多重化方式にOFDMA、アクセス制御方式にRequest/Grantを採用している。それに対して無線LANは多重化方式、アクセス制御方式にCSMA/CAを採用している。

 CSMA/CAは衝突回避機能付き搬送波感知多重アクセス方式と呼ばれるが、一般に無線LANアクセスポイントに複数の端末がアクセスするとき、ほかの端末からのデータ送信との衝突を防ぐため、回線が一定時間以上空いているかを確認したうえで通信を開始する方式である。

 それに対しモバイルWiMAXはRequest/Grant方式により、自分が使いたいリソースをリクエストして、Grant(与えられる)、つまり自分用のリソースを予約して確保することができる。リソースが確保できるというのは音声やビデオストリーミングのようなリアルタイム性が強いアプリケーションには重要である。

 またモバイルWiMAXはOFDMAにより、時間軸のチャネルだけでなく、サブキャリア全体の中の一部だけを1端末に割り当てることができるため、より柔軟にリソース管理できる。802.11a/gのOFDMでは時間軸チャネルを丸ごと1端末に割り当てるため、その端末のトラフィック量が少ない場合はりソースの無駄遣いになってしまう。

 このように、モバイルWiMAXはさまざまな点において無線LANと比較して優れた性能を持っている。

 WiMAXシステムの構成要素

 WiMAXはIEEEにおいて標準化が進められているが、3GPP/3GPP2のように、ネットワーク参照モデルによりネットワークに必要なコンポーネントやそれに必要な機能、またコンポーネント同士を結び付けるインターフェイスなどが定義されている。

 一般に、移動体通信網は移動体と無線局側のネットワークを無線アクセスネットワーク、無線アクセスネットワークからの通信データを集め、交換機能を提供する側をコアネットワークと呼ぶ。3Gシステムではコアネットワークがさらに音声交換網とパケット交換網に分かれ、移動管理には位置登録制御装置を使う。

 3Gシステムはもともと固定電話交換網のラストワンマイル(加入者端末までの最後の接続回線部分)を無線化したものであり、3Gシステムでは通信がデジタル化され、この電話交換機能にさらにパケット交換機能が加わったものである。 こういった背景から、これらの交換機能や制御機能は主に共通線信号方式をベースとしており、これが3Gシステムの信頼性を高めると同時に、システム全体を非常に高価なものにしてしまう原因となっていた。

 モバイルWiMAXは固定無線データ通信を起源としているため、3Gシステムよりもシンプルな構成になっている。3Gネットワークにある、基地局制御装置、音声交換網といったものがない。認証やモビリティには、認証サーバやモバイルIP(参照:モバイルIP技術詳解)など、すでにIP網で実績のある技術が利用される。

 3Gネットワークのパケット交換機能はアクセスサービスゲートウェイ(ASN-GW)にあり、基地局制御装置の機能は基地局(BS)とアクセスサービスゲートウェイに分散している。このようなシンプルな構成と既存のIP機能を活用することにより、WiMAXネットワークのインフラコストが下がり、周波数利用効率が高いことと併せて、低額のデータ通信サービスが期待されている。

 下記にIEEEで規定されているWiMAXのネットワーク参照モデルを示す。

図3 WiMAXネットワーク参照モデル Network Reference Model(NRM)
ASN:アクセスサービスネットワーク、CSN:コネクティビティサービスネットワーク

 ここでは各ネットワークコンポーネントについて解説する。アクセスサービスネットワーク(ASN)は基地局とアクセスサービスネットワーク・ゲートウェイ(ASN-GW)からなり、主にWiMAXの低レイヤの機能を提供する。BSは無線接続機能を提供し、ASN-GWは認証補助機能、無線リソース管理、伝送リソース管理、ハンドオーバー機能、ロケーションアップデート機能、認証管理、課金情報機能などを提供する。コネクティビティサービスネットワーク(CSN)は高レイヤの機能や外部網への接続機能を提供する。ここには認証サーバの認証機能、モバイルIPのホームエージェント機能、課金情報管理機能、DHCP、DNS、外部網への関門機能などが含まれる。



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目次:2007年、いよいよWiMAX始動か?!
  <page1> どうなった事業者向けヒヤリング/難産だった?! 技術条件
  <page2> BWAに対する要求条件/BWAシステムのライセンスはいくつ出るか?/3Gシステムとの比較
<page3> 無線LANとの比較/WiMAXシステムの構成要素
  <page4> WiMAXでのMVNO/WiMAXに募る今後の期待/WiMAXの機能拡張 〜802.16j、802.16m〜

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