【トレンド解説】


10GBASE-Tと40ギガビット・イーサネット
〜 40ギガビットはいつやってくるのか〜


鈴木淳也
2004/4/6

10ギガビット・イーサネットが標準化されて2年近くがたち、エンタープライズ、キャリア向けともに機器が出揃い、導入が進みつつあるが、その間にも少しずつ技術は進歩しつつあるようだ。

従来インフラで10ギガビット・イーサネットを利用可能にする10GBASE-T

 10ギガビット・イーサネットでは、従来のギガビット・イーサネットの10倍の速度を実現すると同時に、ネットワーク・キャリアが自社のバックボ−ンを構築するためのインフラとして使えるような設計が行われている。例えば、10ギガビット・イーサネットには40km超での接続が可能な規格が含まれている。また10ギガビット・イーサネットでは、LAN PHY(LAN PHYsical sublayer)とWAN PHY(LAN PHYsical sublayer)という2つの物理層が定義されており、LAN PHYが従来のイーサネット技術の上位互換に当たるのに対し、WAN PHYはキャリアが電話網構築のために用いているSONET/SDHという規格のうちのOC-192(約10Gbps(Gbits/s))と互換性を持っており、より安価なイーサネットでのインフラ構築が可能となっている。さらにSONET/SDHクラスの高い信頼性を実現するために、Resilient Packet Ring(IEEE 802.17)と呼ばれるリング型トポロジにおける障害時のネットワーク経路の迂回を行う規格もサポートした。

 だが高速化と長距離化を実現する一方で、光ファイバの使用を前提とした規格となるなど、特にエンタープライズ・システムやデータセンターなどにおいては、従来のツイストペア・ケーブルで構築されたインフラをそのまま流用するのが難しいものでもあった。光ファイバは取り回しが難しいうえ、すでに広く利用されているインフラをリプレイスするのは効率的ではない。そこで、従来のツイストペア・ケーブル上でそのまま10ギガビット・イーサネットが利用できる「10GBASE-T」の登場が待たれていた。

 現在、IEEE P802.3として2006年完了を目標に標準化が行われている10GBASE-Tでは、カテゴリ7のケーブルで100m、カテゴリ6で55〜100mの距離をカバーするとみられている。恐らく最も企業ネットワークに普及しているカテゴリ5(5e)の仕様も検討されているが、カテゴリ6よりもさらに距離制限が厳しくなることが予想される。

 もともと、ギガビット・イーサネット向けに定義されたカテゴリ5eだが、10ギガビット・イーサネットではさらに上のクラスの性能が要求されることになる。もしこれからインフラの追加やリプレイスを検討されている方がいるようなら、ぜひカテゴリ7以上のツイストペア・ケーブルの利用をお勧めしたい。

次世代イーサネット、40ギガビット・イーサネット

 10ギガビット・イーサネットが広く利用されていく中で、次世代のイーサネット技術の研究も進んでいる。ベンチャー企業を中心に現在開発が進んでいるのが、従来の4倍の通信帯域を実現する40ギガビット・イーサネットである。10ギガビット・イーサネットの規格であるIEEE 802.3aeをベースに速度を向上させたものであり、上位互換性を持つ。

 だが40ギガビット・イーサネットは現在のところ、まだIEEE 802.3ワーキンググループでの検討も進んでおらず、標準化はまだまだ先なのが現状だ。もし仮に早くに登場したとしても、ルータ側の処理速度の限界から、その用途は限定的なものになるのではないかと思われる。例えば、10ギガビット・イーサネットがキャリアのバックボーン構築用途を想定していたように、40ギガビット・イーサネットも当初はWAN PHYベースでの利用を想定することになるだろう。

 その証拠として、10ギガビット・イーサネットから40ギガビット・イーサネットの速度向上ペースが、従来の10倍単位でなく4倍単位となったことが挙げられる。10ギガビット・イーサネットのWAN PHYは、SONET/SDHのOC-192(約10Gbps)と互換性を持っており、キャリアのバックボーンを安価なイーサネットで置き換えることが想定されている。SONET/SDHは4倍単位で速度向上が行われており、OC-192の次に来る規格としてOC-768(約40Gbps)の利用が進み始めている。つまり、40ギガビット・イーサネットのWAN PHYはOC-768との互換性が考慮されているというわけだ。

 IEEE 802.3ワーキンググループでの標準化作業は、だいたい2〜3年のスパンを必要としており、2004年に標準化がスタートしたとしても、だいたい完了に2006〜2007年まで掛かることが予想される。これまでの例に倣えば、標準化が完了する直前に各メーカーからフライングの形で製品がリリースされ、変更部分は後のファームの変更で対応することになるだろう。それでも、後2年以上は現行の10ギガビット・イーサネットが最高速技術の位置に立つことになりそうだ。

イーサネット技術とその周辺

 40ギガビット・イーサネットの次に来るのは、100ギガビット・イーサネットか、それとも160ギガビット・イーサネットなのか。いずれにせよ、2010年に近づくまでどのような姿になるのかは想像できない。だが、ネットワークに求められる通信速度の要求は年々厳しくなっており、実際の開発ペースを追い越そうとしている。例えば、インターネット黎明期には「ギガビット超クラスの通信技術なんて、誰が使う?」という風潮さえあったが、いまでは個人ベースのLANでもギガビット・イーサネットを利用することができるようになり、FTTHのおかげでインターネットへのリンク速度が100Mbps(Mbit/s)というのも当たり前のこととなっている。

 近年問題となりつつあるのは、バックボーンの通信速度はもちろんのこと、バックボーン・ルータの処理速度やサーバのレスポンス・タイムである。特にブレイクスルーを要求されているのがバックボーン・ルータであり、一時期騒がれたテラビット級ルータの登場が急務になるかもしれない。この技術の詳細はいずれ紹介するつもりだが、ベンチャー企業からシスコまで、さまざまなネットワーク機器メーカーが登場して、しのぎを削っているところだ。ある意味、いま一番注目の分野なのかもしれない。

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