【トレンド解説】WAFS(Wide Area File Services)

企業WANのストレージ・システム構築に新しい風

 

鈴木淳也(Junya Suzuki)
2004/12/25

本社にあるファイル・サーバに対して、支店などのリモート拠点からあたかもローカルのファイル・サーバのようにアクセスを可能にさせるファイル・サーバ製品が米シスコ・システムズから発表された。同社が狙う、次世代の企業WANのストレージ・システムの仕組みを解説する。

 米シスコシステムズ(以下、シスコ)が12月14日(現地時間)、非常に興味深い技術を搭載した初の製品を発表した(発表資料)。新製品のCisco File Engine Seriesは、WAFS(Wide Area File Services)と呼ばれるリモート拠点間を結んでの快適なファイル・アクセスを実現する技術を搭載した製品だ。同技術は、シスコが今年2004年7月に買収したActona Technologiesの技術がベースとなっている。WAFSの面白いところは、例えば本社にあるファイル・サーバに対して、支店などのリモート拠点からあたかもローカルのファイル・サーバのように、高いパフォーマンスや使い勝手を維持したままアクセスが可能な点である。

WAFS登場の背景

 Cisco File Engineを例に、WAFSの動作形態を見ていこう。Cisco File Engine Seriesは、次の役割を持つ3製品から構成されている。

  • Cisco Edge File Engine ―― リモート拠点に配置される機器
  • Cisco Core File Engine ―― 本社NASサーバ等のゲートウェイ部分に設置される機器
  • Cisco WAFS Central Manager ―― WAFSネットワークを管理する機器

 これら3つの機器を組み合わせると図1のようになる。本社側のデータセンター内にあるファイル・サーバ群の手前にCore File Engine(FE)を配置し、さらにそこに隣接する形でWAFS Central Managerを配置する。さらにWANを経由した各支店のLAN上にEdge FEを配置すればOKだ。特に新しいネットワークを敷設することなく、既存のインフラ上にWAFSネットワークを展開できるのが特徴である。

図1 Cisco File EngineによるWAFSネットワーク構築例(画像をクリックすると拡大表示します)

 さて、ここからが本題だ。一般に、企業システムではファイル・サーバへのアクセスにWindowsのファイル・システム「CIFS(Common Internet File System)」やUNIXのファイル・システム「NFS(Network File System)」を用いていることが多いだろう。LAN内のファイル・サーバに対してこれらファイル・システムを用いてアクセスすることはまったく問題ない。ところが、途中の経路にWANのような低速なネットワークが挟まると、ファイル・アクセスにおいて遅延が問題となるほか、帯域が逼迫することでほかの重要な通信(例えば音声通話やネットワーク管理のための通信など)に悪影響を与えてしまう可能性がある。この問題の解決策として、大きく次の2つが考えられる。

 (1) WAN回線を極力高速にして、ファイル・アクセス分の負担を吸収する
 (2) 拠点のLANごとにファイル・サーバを設置し、WANになるべく負担を掛けない

 ストレージをシステムの中心とした場合のアプローチが(1)である。(1)のメリットは、データを1カ所に集約できることだ。中央にファイル・サーバを配置するだけで、すべてのユーザーが一律にデータにアクセス可能なため、重要なデータが分散せず、ファイルの整合性を保ったり、管理を行うことが容易となる。半面、大容量のファイル転送により、一時的にネットワーク帯域を大量に消費する可能性があるため、ほかの通信に影響を与えず、かつ快適な通信を維持するために、WAN回線にかなりの帯域が必要とされてしまう。

 そこで登場するのが(2)のアプローチだ。これは、ネットワークを中心とした考え方である。重要なファイルを各拠点LAN上のファイル・サーバに分散させ、必要に応じて中央のサーバと同期を取ることで整合性を維持する。これにより、ネットワークに掛ける負担を極限まで減らすことが可能となる。ユーザーはローカルのファイル・サーバにアクセスすることになるため、スピード的にも問題ない。この方式の難点は、ファイルが拠点ごとに分散してしまい、拠点間でのファイルの整合性の維持、重要なデータの漏えい保護、システム管理の複雑性が大きな問題となってくることだ。

WAFSを構成する技術とは?

 そこで登場するのがWAFSだ。WAFSでは、基本的には(2)のアプローチを取りつつ、すべてのファイルは基本的に中央のサーバに集約することで、(1)のメリットである管理の容易性を実現している。これにより、ある程度以上のWANインフラさえあれば、管理の容易な中央集中型のストレージ・システムでありながら、ユーザーはあたかもローカルのファイル・サーバにアクセスする感覚でファイルの読み書きが可能になる。

 WAFSの技術の要は、TCP/IP通信の最適化によるWAN通信の高速化と、キャッシュ技術の2点にある。この拠点間を流れるデータは、VPNなどの単純なIPパケットのカプセリングとは異なり、Edge FEとCore FEの間での通信に必要な最低限度のものであり、専用通信となっている。VPNではカプセリングのオーバーヘッドによるパフォーマンスがしばしば問題となるが、まずその点が解決される。

 次にTCP/IPプロトコルの最適化に通信データの圧縮機能を加えることで、WAN通信部分の最適化を維持している。これに加えQoSも実現することで、各種管理用のメッセージを優先して流せるようになるため、データのストリームが重要な通信を圧迫することが避けられるよう設計されている。ファイルへの快適なアクセスを実現するもう1つの秘密がキャッシュ技術で、中央のサーバからの読み出しキャッシュのほか、変更内容をキャッシングして書き戻す技術もサポートしており、リモート側のユーザーが違和感なくファイルにアクセスできるようになっている。

 WAN通信で最大の問題となる遅延(レイテンシ)を、どう解決するかがWAFSの主眼でもある。例えばデータだけでなく、管理情報のやり取り1つ取ってもクライアントとサーバ間でWANを1往復する必要が出てくる。LAN内であれば1ms以内に完了する処理が、WANを経由することで100ms以上かかることも珍しくない。そこでデータの消去情報など、あらかじめ必要な情報をやり取りしてしまったり、先読み処理を駆使することで、リアルタイム処理での遅延を減らす工夫が図られている。こうした細かいアルゴリズムの最適化が、製品の使いやすさを大きく左右する。

ユーザーにとってのメリットとは?

 従来までの考え方であれば、CIFSやNFSなどのファイル・システムにアクセスするプロトコルをWANをまたいで実装することはあまりなかった。なぜなら、これらプロトコルはLANを前提とした設計が行われており、低速回線を経由した場合はオーバーヘッドが大きいからだ。そのため、ファイル・サーバやNAS(Network Attached Storage)を拠点ごとに配置して、これらプロトコルがWANを経由しないような分散ストレージを構築するのが一般的な解決方法である。ただしこの手法だと、分散拠点ごとにバックアップを取る必要があるし、何より本社やほかの拠点とのデータの整合性をどう取るかが問題となってくる。

 シスコが自身のリリースでもうたっているが、Cisco File Engine+WAFSのメリットは導入のしやすさである。データセンター内のNAS(Network Attached Storage)にCIFSやNFSでアクセスするような既存システムがあった場合、Cisco File Engineを導入してWAFSネットワークを構築するだけで、すぐにWANを介した大規模なファイル・システムが構築できてしまう。拠点ごとにファイル・サーバ(もしくはNAS)とバックアップ装置を設置していた企業などは、それら機器の維持/管理コストを削減することが可能になるだろう。さらにデータを1カ所に集約できるため、重要データの管理やバックアップも容易になる。

 一方、SAN(Storage Area Network)については、また少し事情が異なる。現在SANでは、ディザスタ・リカバリ(災害復旧)に見られるように、分散環境向けのソリューションが充実しつつある。だが、今回のWAFSがカバーしようとしている支店レベルのネットワークに導入するにはいささか大げさだ。SAN自身は基本的にファイル・システムの仕組みを持たない。ファイル・システムを提供するのは、SANに接続され、イーサネットなどのLAN接続のゲートウェイになっているサーバである。つまり、ストレージ―SAN(スイッチ)―サーバの3点セットが拠点ごとに必要となるため、ネットワーク・トポロジ的にはNASと大差なく、むしろコストが掛かる結果となる。SANが最も得意とするのは1拠点内でのストレージ/サーバ統合と、大規模拠点間を高信頼性で接続することだ。マトリクスで表現すると、表1の関係となる。

 ほかにも、IPネットワーク上でSANを構築するiFCPやFCIP、iSCSIなどの技術も存在するが、こちらは内部のデータ・ストリームはSCSIベースのものとなっており、WAFSのようなファイル・アクセス・プロトコルとは異なる。さらに、拠点間接続を高速化する仕組みは提供されないため、必要十分なパフォーマンスを出すだけの拠点間接続が必要となる。これらSANを構築するIP技術は、基本的にはIP-VPNや広域イーサネットなどと組み合わせることが前提となるだろう。

 SANを本格的に活用しているようなハイエンド・システムほど大きくはないが、WANを使ってシステムの全国展開を行っていることからローエンドというよりはミッドレンジ。WAFSは、そんな企業の悩みを解決する選択肢の1つとなるだろう。

  SAN NAS WAFS
規模 大規模 中小規模 大〜中規模
導入コスト 高い 安い 中くらい
導入用途 LAN、大規模拠点間接続 LAN LAN〜WAN
導入の容易さ 難しい やさしい やさしい
拠点間のデータ同期 やさしい(要高速回線) やや困難 やさしい
ファイル・システム 非依存 CIFS、NFS等 CIFS、NFS
表1 SAN、NAS、WAFSの比較図

ストレージ業界での覇権を狙うシスコ

 シスコが最近注目しているのがストレージの分野だ。同社は2002年8月、ファイバ・チャネル・スイッチのメーカーである米Andiamo Systemsの買収で、この分野へと参入している。同社は1年半をかけて急速に勢力を拡大し、現在では同分野でシェア第3位のランクに位置している。米シスコシステムズCEOのジョン・チェンバース(John Chambers)氏は、12月初旬に開かれたアナリスト向けの年次ミーティングの席において「シスコはストレージ以外のすべての分野でNo.1の地位を得ている。ストレージ分野は現状で3位だが、かつてセキュリティ分野で参入後に大きく躍進したように、ライバルらに大きく肉迫することが可能だと考えている」と述べている。

 同社に立ちはだかるライバルとは、米マクデータと米ブロケード コミュニケーションズ システムズの2社のことだ。両社は、ファイバ・チャネル・スイッチの市場で2大シェアを築いている企業である。両社は非常に強力なライバルであり、筆者の意見ではシスコが大きく躍進するためには買収も視野に入れる必要があると考えていたが、チェンバース氏によれば「シスコは1年半でこれだけ躍進できた、ライバルらに十分に追い付くことが可能だ」と、自身の力だけで十分に攻略できると考えているようだ。

 その自信の一端を、この製品で垣間見たような気がする。ライバルら2社は、あくまでストレージ業界の会社である。一方で、シスコはネットワーク業界の会社であり、そのスタンスはネットワークを中心に考えている。今回の製品はまさに、ネットワーク・インテグレータの視点から誕生したものだといえるからだ。



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