連載

サハロフ秋葉原経済研究所

第1回 メモリとプロセッサの買いどきはいつ?
1. いまがメモリの買いどきなのか?

デジタルアドバンテージ/監修:サハロフ佐藤
2001/01/30

 秋葉原の片隅、古ぼけたビルの一室。オープンしたばかりの研究所で所長の外神田昌平(そとかんだ・しょうへい)と、唯一の所員の万世橋太郎(まんせいばし・たろう)の2人が、日夜、秋葉原のPCパーツの価格動向から経済の動きを研究している。

万世橋: 所長、大変です、大変です。新聞なんか読んでいる場合じゃないですよ。
所長: なんだね。価格調査に出たきりで帰って来ないと思ったら、帰って来るなり大変だとは。それに新聞を読んでいるのは、研究のためじゃぞ。だいたい万世橋君は、ちゃんと新聞を毎日読んでいるのかね。
万世橋: 新聞はとってないんで、読んでないです。だいたい、最近はWebでニュースが読めるので必要ないんですよ。
所長: 確かにWebでもニュースは読めるが、商品相場などの新聞にしか載っていない情報も多いぞ。特に経済新聞や産業新聞は、参考になる情報が多いから、万世橋君も毎日読むように心がけたまえ。
万世橋: でもいま、所長が読んでいたのはスポーツ新聞じゃないですか。スポーツ新聞にも商品相場情報とか載っているんですか?
所長: ゴホゴホ。で、何が大変なのかね?

メモリ価格は何で決まる?

万世橋: あっ、危うく忘れてしまうところでした。メモリの価格が上がり始めたんです。安くなってきたので、家のPC用にメモリを買おうと思ったんですけど、どこも先週よりも値上がりしているんですよ。
所長: 調査に行くと言いながら、キミは自分の買い物に出ていたんだな。まぁよい。調査依頼もないことだし、今回もメモリの価格動向について、少し見ていこうかな。では、万世橋君、最新のメモリの価格動向を出してくれたまえ。
 
PC用メモリの価格動向(2000年1月8日から2001年1月20日まで)
サハロフ佐藤(佐藤純一)氏調査による秋葉原のPCパーツ販売店の店頭価格をベースに、編集部で平均価格を算出したもの。平均価格は、最低価格を除き、それ以外の店頭価格から計算した。なお、価格調査の詳細については、「サハロフの秋葉原レポート」を参照のこと。

万世橋: ほら、よく見ると128MbytesのPC133-CL3の価格が上昇していますよ、所長。やっぱり先週買っておけばよかった。今週になればもう少し下がるはずだと、欲張ったのがいけなかったんです。この調子で値上がりしてしまうなら、いま買わないと損しちゃいますね。でも来週になって、また値下がりするんなら、いま買うと損しちゃうし……
所長: 万世橋君、何をグズグズと言っているんだね。だいたい、なぜメモリの価格が上昇しつつあるのか、キミは分析したのかね?
万世橋: 先月の所長の説明では、メモリは供給過剰になっているから、価格はしばらく下がり続けるはずじゃなかったんですか? この調子だと、ほかのメモリも値上がりしそうですよ。
所長: おいおい、万世橋君。ワシはそんな説明はしておらんぞ。本来なら自分で勉強してほしいところだが、今回は特別にメモリの価格がどういった要因で変動するのかを一緒に考えよう。まず、万世橋君が考える要因とは何かね。
万世橋: それはメモリ・ベンダの卸価格が変わるからじゃないのですか。
所長: では、その卸価格はどのようにして決定されるのかね?
万世橋: え〜と、製造にかかったお金や経費などに、メモリ・ベンダの利益を加えたものになるんじゃないでしょうか。
所長: まぁ、あたらずといえども遠からず、1つの要因は製造原価にある。当然ながら製造原価を割るような価格で売り続けていたのでは、そのメモリ・ベンダは倒産してしまうからな。だから、製造原価が基本的にはメモリの底値ということになる。「基本的」と言ったのは、他社の製造原価が安ければ、対抗上、製造原価を割り込んでも売らなければならないことがあるからじゃ。
万世橋: 1つの要因ということは、ほかにもあるということですか?

欲しい人がいっぱいいると値段が上がる

所長: もう、先月の話を忘れてしまったのかね。2000年7月から9月にかけてメモリの価格が高値で安定していた理由と、9月から急速に価格が下がった理由を思い出してくれたまえ。
万世橋: 高値安定となった理由は、PCの販売が順調でメモリが不足気味だったからで、9月に価格が下がったのはヨーロッパ経済が失速し始めたからでしたっけ?
所長: もう1つ理由を忘れているようだが、要するに高値に安定していたのは、需要が多くてメモリが不足していたからだし、9月に価格が下がったのは需要が減ったことに加え、メモリ・ベンダからの供給が増えたからだ。需要と供給のバランスが、メモリの価格を左右しているのが分かるね。
万世橋: なるほど、供給が需要に追いつかなければ価格が上がって、供給が需要よりも増えれば価格が下がるわけですね。そういえば、「需要と供給のバランス」って中学生のころに習いましたね。
所長: そのとおり。まさに資本主義の基本が反映されているのがメモリの相場なのだ。メモリ・ベンダはなるたけ高い価格で売りたいが、他社との競合もあるから1社だけ高い価格は付けられない。ところが、供給が需要に追いつかないと、PCベンダは多少高くても購入してくれるから、利益を十分に載せた価格で販売できる。しかし、需要に対して供給が多すぎると、PCベンダはなるべく安く買おうとするし、メモリ・ベンダは多少安い価格でも不良在庫にならないように処分しようとするから、価格が下がっていくわけだ。通常は、ある程度価格が下がってくると、PCベンダが差別化のために搭載メモリ容量を増やしたり、競争力のないメモリ・ベンダが供給をやめたりするので、価格が安定し始めることになる。ただ、値崩れが激しくなると、最終的には製造原価に近い価格で売られることになる。それでも供給が多いような状態だと、一部のメモリ・ベンダは製造原価を割って処分することにもなってしまうんだな。
万世橋: 所長、では何でいま、値上がりしそうなんですか。これまでの説明だと最近はメモリが供給過剰の状態で、価格は下がるばかりということになりませんか?
所長: 1ついえるのは、現在のメモリ価格は製造原価に近い水準まで落ちているということだ。歩留まりなどがさらに向上して製造原価が下がらなければ、しばらくはこれ以上の値下がりは望めないほどのレベルだ。基本的に現在の価格が、メモリの当面の底値と考えていいな。

円安の影響があるのは海外旅行だけではないのだ

万世橋: では、値上がり始まっているということは、また需要が増えてきたということですか?
所長: 確かにメモリの価格が劇的に下がったことで、メモリの売れ行きはよくなったようだし、需要が増えたというのも1つの要因だろうな。
万世橋: 所長、じらさないで教えてください。
所長: 万世橋君は短気じゃのう。メモリの価格を決める要因として、もう1つあるのは、為替相場じゃ。ここ2カ月のメモリ価格の動向をグラフにしてくれたまえ。
 
ここ2カ月のメモリの価格動向(2000年11月から2001年1月20日まで)
64Mbytesと128MbytesのPC100-CL2メモリは若干ながら価格が下がっているが、128MbytesのPC133-CL3メモリの価格は上昇に転じていることが分かる。これは一時的な現象なのか、それともメモリ価格が上昇する前触れなのか。
 
万世橋: 確かにこのところ円安みたいですけど、メモリの価格と何か関係があるんですか? グラフを見ても、円安とメモリ価格の関係が分からないんですけど。
所長: 現在、PC用メモリの市場シェアの上位はすべて海外ベンダになっている。ひところ日本のメモリ・ベンダが独占状態だったのがウソのようだが。まぁ、そんなわけでメモリの取引は、ドルで決済されるのが一般的だ。ドルに対して円が安くなれば、ドル価格が同じでも円での価格が上がることになる。ここ数カ月で円はドルに対して、10%以上の値下がりをしているわけだから、メモリの価格は10%以上上がってもいいわけだ。でもグラフには、その価格上昇が反映されているように見えないという、万世橋君の意見は正しいのだよ。
万世橋: 何か禅問答みたいですけど、為替相場とメモリの価格には関係があるのに、為替相場の影響がない、というのはどういったわけですか?
所長: 「影響がない」とは言っておらんぞ。グラフに円安が反映されていないということだ。まぁ、PC133-CL3の価格が若干上がり始めているのは、円安の影響ともいえるかもしれないがな。あまりじらすと短気の万世橋君が怒りだしそうだから説明するが、円安になったからといっても、すぐにはメモリの価格に反映されることはない。いま、売られているメモリというのは、円安になる前に購入したものだからだ。つまり、円安になる前に購入したメモリの在庫が切れてくれば、PC販売店も必然的に価格を上げざるを得なくなる。円安の進行よりもメモリ価格の下落の方が進めば、それでも価格は下がるはずだが、さっきも説明したように、すでにメモリ価格は底値に近い。ということで、現在のメモリ価格は円安の影響を受けやすいということだ。
万世橋: ということは、今後はメモリの価格は上がるんですか?
所長: もうしばらく市場を観察しないとならないが、短期的に見れば、このところの急激な円安の影響を受けて値は上がることになるだろうな。もちろん長期的に見れば、歩留まりのさらなる向上などから、メモリの製造原価が下がって、価格が下がる可能性もあるがね。
万世橋: ということは、やっぱりいまが買い時なのですね。所長、またちょっと市場調査に行ってきます!

  関連リンク
サハロフ佐藤氏の精力的な調査による秋葉原PCパーツの最新価格情報

  更新履歴
【2001/01/30】 図「PC用メモリの価格動向(2000年1月8日から2001年1月20日まで)」の図中右下にある円安の記述にて、「1ドル199円90銭の円安に」とありましたが、「1ドル119円90銭の円安に」の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。
 

 INDEX

[連載]サハロフ秋葉原経済研究所
  第1回 メモリとプロセッサの買いどきはいつ?
  1.いまがメモリの買いどきなのか?
    2.プロセッサの買いどきは2カ月ごとにやってくる?

「連載:サハロフ秋葉原経済研究所」


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