第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」

コラム:インテル・ソリューション・サービスで合併を乗り切ったカブドットコム証券

デジタルアドバンテージ
2001/07/24

 インテル・ソリューション・センタの事例として最も分かりやすいのは、「カブドットコム証券」だろう。カブドットコム証券は、2001年4月1日にイー・ウイング証券と日本オンライン証券が合併してできた会社だ。この合併に伴うシステムの移行・検証作業などをインテル・ソリューション・センタが請け負っている。

 イー・ウイング証券と日本オンライン証券の合併が発表されたのは、2000年11月15日のこと(合併に関するニュースリリース)。2001年1月17日には、合併を4月1日に行うこと、またシステム・インフラについては、日本オンライン証券のものを踏襲することを発表している(合併新会社に関するニュースリリース)。すでに、この間もインテル・ソリューション・センタにおいて、新しいシステムへの移行について検討を開始している。

 カブドットコム証券は、その名前が示すとおり、インターネットを使ったオンライン・トレードを中心とした証券会社であり、コンピュータ・システムの信頼性と性能が取引に大きな影響を与える。もし、コンピュータ・システムがダウンしてしまうと、取引が行えなくなり、顧客に大きな損害を与えてしまうことにもなりかねない。そのため、可用性の高いシステム構築が求められることになる。

 4月1日のイー・ウイング証券と日本オンライン証券の合併に際して問題となったのが、口座数が急激に増えるため、システム負荷の大幅な上昇が予想されたことだ。システム・インフラについては、日本オンライン証券のものを踏襲する予定であったが、そのときの日本オンライン証券は3万口座を抱えていた。合併後は、両社合わせて5万口座以上に増えると見積もられた。つまり、合併後はこれまでの2倍の処理に対応できないと、顧客に対するレスポンスが悪くなったり、最悪の場合はシステム・ダウンを招いてしまったりすることが予想できたわけだ。

 さらにカブドットコム証券では、この合併を機にこれまでのWindows NT Advanced Serverで運用していたシステムをWindows 2000 Advanced Serverへ移行し、同時にマイクロソフトが開発中の「Application Center 2000」*1を導入して負荷分散を行うことも予定していた。つまり、合併までの約4カ月間で、2倍近い負荷に耐えられるコンピュータ・システムを構築し、OSをWindows NT Advanced ServerからWindows 2000 Advanced Serverへ移行、Application Center 2000のポーティングを行うという、大きく分けて3つの課題を解決する必要に迫られていた。

*1 マイクロソフトが提供するWebアプリケーションの負荷分散や管理などを行うツール(マイクロソフトの「Application Center 2000の製品情報ページ」)。コンテンツや設定などを1台のサーバからほかのサーバへ自動的に展開することや、COM+コンポーネントごとに実行負荷を複数のサーバに分散することなどが行える。

合併までの5カ月間でシステムを移行

カブドットコム証券のプロトタイプ
インテル・ソリューション・サービスでカブドットコム証券のシステム検証を行うにあたり、3階層のサーバ・モデルを約20台のサーバで構築したプロトタイプを使用した。

 当然ながら、運用中のシステムを使って、これらの問題を解決するのは難しい。負荷テストを運用中のシステムで行えないのはもちろん、OSを移行する前にアプリケーションが確実に動作するかどうかを確かめる必要もある。そこで、インテル・ソリューション・センタで、これらの課題を解決したプロトタイプ・システムを構築し、実際の運用システムに移行できる環境を整えることにしたわけだ。

 まず、日本オンライン証券が採用していたのと同様のシステムをインテル・ソリューション・センタ内に構築し、Windows NT Advanced ServerからWindows 2000 Advanced Serverへの移行作業を行った。カブドットコム証券のシステムでは、フロントエンド・サーバ、ミッドティア・サーバ(アプリケーション・サーバ)、バックエンド・サーバの3階層モデルを採用している。今回、インテル・ソリューション・センタが検証作業などを行ったのは、主にアプリケーション・サーバに関してである。

 インテル・ソリューション・センタでは、アプリケーションのテストなどを含め、2000年11月中旬から2001年1月中旬までにWindows NT Advanced ServerからWindows 2000 Advanced Serverへの移行作業を完了している。フロントエンド・サーバのOSはスムーズに移行できたものの、アプリケーション・サーバではWindows NT Advanced Serverで動作していたモジュールが、Windows 2000 Advanced Serverで動作しないといった問題もあったという。こうして発見された問題のあるモジュールの修正と検証を行い、無事OSの移行を完了している。なお、このときApplication Center 2000のポーティング、ならびにテストを行う予定であったが、Application Center 2000の製品出荷が4月に延びることが判明したため、ポーティング可能な状態を確認するにとどめることになったという。

カブドットコム証券のホームページ
カブドットコム証券では、画面のようにWebサーバのトラフィックなどを随時公開している。また、現在運用中のシステムなどについても詳しく紹介している。

 次に1月中旬からは、Windows 2000 Advanced Serverに移行したシステムの負荷テスト(スケーリング・サービス)を開始している。負荷テストでは、実際のクライアントからのアクセスをシミュレーションできるストレス・ツールを用い、順次アクセス数を増やすことで、どの程度の負荷に耐えられるかを検証した。また、パフォーマンス上のボトルネックについても調べ、その解消を行った。さらに、負荷の増大に対するシステムの拡張をどのように行っていくのがよいのか、といったシステム拡張に関するプランニングも同時にしている。このとき負荷テストを通じ、ユーザー数が増えていった場合に処理しなければならないトランザクション数を見積もり、要求されるシステムがどのようなものなのかを検証したわけだ。

 さらに2月中旬からは、こうして作り上げたプロトタイプ・システムを、実際に運用するシステムへと移し、さらに検証テストを行った。このような作業により、4月1日には新しいシステムで無事に運用開始となった。記事の終わり

  関連リンク 
カブドットコム証券のシステム概要
カブドットコム証券のオンライン取引システム拡張を支援に関するニュースリリース
イー・ウイング証券と日本オンライン証券との合併に関するニュースリリース
合併新会社に関するニュースリリース
Application Center 2000の製品情報ページ
 

 INDEX
  [連載特集]第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」
    第1回 Intelがサーバ環境を変えていく
    第2回 インテルのソリューション・サービスは顧客志向で
   コラム:インテル・ソリューション・サービスで合併を乗り切ったカブドットコム証券
    第3回 戦略を大きく転換したアプライアンス・サーバ事業

「PC Insiderのインタビュー」


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