IT Market Trend

第2回 拡大するラックマウント型サーバ市場

日本ガートナー・グループ株式会社
データクエスト・アナリスト部門サーバ・システム担当アナリスト

亦賀忠明
2000/12/12


ラックマウント型サーバは、主にANSI/EIA310-D規格で規定されたラック・キャビネット*1に収納可能となるよう設計されたサーバである。2000年に入り、このラックマウント型サーバの出荷が急速に伸びている。IA(インテル・アーキテクチャ)系サーバでは、ここへきて各ベンダから1U(高さ44.4mm)サイズの2ウェイ(デュアル・プロセッサ)のサーバが出揃うなど、新たな市場をめぐって製品競争が一層激しくなってきている。この背景には、ISPASPやインターネット・データセンターといった、大量のサーバを抱えるユーザーの存在が大きい。ここでは、その現状について解説する。

*1 一般的には19インチ・ラックなどと呼ばれる

拡大するラックマウント型サーバ市場

 2000年に入り、ラックマウント型サーバ、特に薄型サーバの出荷が好調である。日本ガートナー・グループのデータによると、2000年上半期にはPCサーバとUNIXサーバの合計の出荷台数は対前年比32.1%増。一方、この中におけるラックマウント型サーバの伸び率は、276.2%と急速な勢いで増加している。この結果、国内PCサーバとUNIXサーバの出荷台数の合計に占めるラックマウント型サーバの割合は、1999年の4.4%から2000年上半期には15.1%にまで達している。

国内オープン系サーバにおけるラックマウントタイプ、タワータイプ出荷台数推移(出展:ガートナー データクエスト(2000年12月))

 ラックマウント型サーバは、設置面積の観点や、ばらばらに設置されたサーバ・システムを一個所に集約化したいというニーズから、企業内システムでも需要が増えつつある。

ラックマウント型サーバ普及の背景

(1) 高密度実装への要求

 ISP/ASPやインターネット・データセンターでは、数百〜数千といった大量のサーバを所有している。こうしたサービス事業者は、熾烈なサービス料金競争を展開しており、サービス提供コストの削減は競争に打ち勝つために欠くことのできない課題となっている。コストのなかでも、フロア・コスト(設置面積にかかるコスト)は直接サービス料金に連動するため、冗長なシステムの配置はこれら事業者にとって致命的である。なるべく狭い面積に多くのサーバが設置できることが望ましいわけだ。

 もともと、ラック・キャビネット内へ収納できるサーバ、いわゆるラックマウント型サーバは、数年前から存在していたが、昨今のインターネット・システム向けサーバ需要の急増に伴い、よりよいコスト・パフォーマンスを狙ったラックマウント型サーバが登場した。サーバを大量導入するユーザーにとって、特にフロア・コストを削減するための有効な解となっている。

(2) サーバの大量導入・運用管理

 大量のサーバを導入する際には、サーバをいかにスムーズに導入するか、いかに効率的に運用するか、障害をいかに検知して速やかに復旧させるかといった運用管理が重要となる。

 タワー型サーバでは、ケーブルの配線やパーツの交換などが煩雑になってしまい、特に大量のサーバを運用する際の管理が難しくなってしまう。その点、ラックマウント型サーバでは、このような導入・運用管理コストの軽減を狙うべく、各種の工夫を施したものが多い。例えば、ディスク・ドライブの着脱は前部から行えるうえ、ほとんどがホット・スワップ可能であるため、障害発生時でも迅速な交換が行える。また、集中管理を容易にするための工夫として、ラック状態のリモート監視や、各サーバの電源/障害報告LEDをサーバの前後両面に配置するなどの機能を有するものもある。大量にサーバを設置した場合も、すべての配線がラックの裏側だけで行えるのも、運用管理の手間を省くことに貢献する。

 このようにラックマウント型サーバは、大量導入を前提とした設計が行われているため、運用管理が容易であるという特徴を持っている。そのため、ISP/ASP/インターネット・データセンターに限らず、比較的サーバの台数が多い企業でも、ラックマウント型サーバを積極的に導入するケースが増えている。

製品の動向

 事実上のサーバ・ラック標準であるANSI/EIA310-D規格では、ユニット・シャーシの横幅は19インチ(48.2cm)、高さは1U=1.75インチ(4.4cm)の倍数と定められている。このことから各サーバ・ベンダは、最も薄型のものとして1Uのモデルを競って投入しており、約4cmという薄さが市場の注目を集めている。

デルコンピュータの1Uサーバ「PowerEdge 1550」
同じケースを採用したアプライアンス・サーバもラインアップする。1Uながらデュアル・プロセッサをサポートし、3台のハードディスクが内蔵可能である(詳細は「プロダクト・レビュー:スケーラビリティの高い1Uサーバ『PowerEdge 1550』」を参照していただきたい)。

 この厚さが具体的にどういう意味を持つかというと、例えばキャビネット・サイズが40U(177.8cm)のラックに1Uのサーバを導入すると、1つのキャビネットで40台のサーバを収納することができる。すべてのサーバを2プロセッサ構成とすると、合計80プロセッサのサーバ・システムを構築できることになる。8プロセッサのタワー型サーバ10台に匹敵するプロセッサ・パワーを持つ構成を、1台のケースでまかなうことができるわけだ。このような高密度のラック構成は、大量のトランザクションが想定されるWebサーバの負荷分散構成などのフロントエンド・サーバ・システムに欠かせないシステム構成である。

FC-PGAタイプのPentium III
Pentium III Xeonなどのスロット型パッケージと比較して薄型であるため、高密度実装が求められる1UサーバではこのFC-PGAタイプが使われる。

 そのため各サーバ・ベンダは、PCサーバおよびUNIXサーバの一部としてラックマウント型サーバをラインアップしている。PCサーバでは、ちょうど1U 2ウェイの製品が出揃った段階である(この執筆中にもデルコンピュータが同社で初めての1U 2ウェイ製品を発表している)。OSとしては、Windows NT 4.0、Windows 2000に加え、すべての大手ベンダがLinuxをサポートしている。プロセッサにPentium IIIで最上位の1GHz版を搭載した製品も増えてきている。

 その一方、UNIX(RISC系UNIX)サーバでは1Uの製品が少ない。Sun MicrosystemsのNetra t1は、1Uサイズではあるがシングル・プロセッサである。総じてマルチプロセッサは2Uサイズ以上のフォーム・ファクタとなっている。そのうえ、Sunや日本IBMの製品は1999年9月に出荷が開始されたものであり、PCサーバに比べて製品サイクルが長く、激しい製品競争が見られない。価格についても全体的にPCサーバに比べて高めとなっている。

 このように一見スペックで不利に見えるラックマウント型のUNIXサーバであるが、PCサーバと同様に出荷は好調だ。なぜPCサーバへのシフトが起こらないのか。その理由として、以下のようなことが考えられる。

  1. UNIXサーバ全体が、特に信頼性の観点でe-Business向けサーバとして再評価されつつある
  2. 通信関連などの信頼性・可用性を最も重視するユーザーから、RISC系UNIXサーバは、その実績やベンダのビジョンといった点が評価され、このようなユーザーを中心に導入が進んでいる(NTTドコモなど)
  3. バックエンドをUNIXサーバにする場合、フロントエンド・サーバもUNIXサーバで統一するケースがある

 すなわち、現時点においては、価格や表面上のスペック以外の要因が、UNIXラックマウント型サーバの好調な出荷を支えているものと考えられる。しかしながら、日々強化され続けているIA系ラックマウント型サーバに将来的に対抗するためには、今後UNIXサーバもさらなる製品強化が必要であろう。ちなみに、Sunはこの2000年9月にラックマウント型アプライアンス・サーバの市場参入を加速するために米Cobalt Networksの買収を発表した。

そのほかのラックマウント型サーバ

 ラックマウント型サーバは、サーバ・ベンダからサーバ・ブランドで提供される製品が一般的であるが、製品はこれ以外にアプライアンス・サーバ製品、産業用コンピュータ製品がある。

広義のラックマウント型サーバ市場と参入ベンダ(出展:ガートナー データクエスト(2000年12月))

 アプライアンス・サーバ製品については、数年前からシン・サーバ(Thin Server、「軽量サーバ」ともいう)の名前で呼ばれる各種の特定用途向け(単機能)サーバが考案されたが、現在は、Webサーバとキャッシュ・サーバがほとんどとなっている。名前も現在シン・サーバと呼ぶことはほとんどなく、「アプライアンス・サーバ」、「サーバ機器」、「単機能サーバ」などと呼ばれることが多い。現在、アプライアンス・サーバには、デルコンピュータやコンパックなどのサーバ・ベンダ製品とCobaltやCacheFlow、Network Enginesなどのアプライアンス・サーバ・ベンダ製品がある。当初、この市場は新興のアプライアンス・サーバが主導していたが、市場機会を狙って大手のコンピュータ・ベンダもほとんどがこの市場に参入している。この市場は、さらにNAS(Network Attached Storage)製品も絡んで、複雑化の様相を呈している。アプライアンス・サーバは、Webやキャッシュ・サーバといった単機能を持つ製品であり、汎用のサーバ・ブランド製品(Windows NTやLinux搭載製品)にWebサーバ機能をインストールしたものと完全に競合する。しかし、ISPなどではフロントエンド・システムに大量のWebサーバを搭載する必要性があることから、その機能の範囲であれば完成度の観点からアプライアンス・サーバを選ぶユーザーも増えつつあるようだ。

 産業用コンピュータは、もともと通信、制御、医療、軍需といった特定産業用のコンピュータであるが、そのベース・テクノロジにはコンピュータ業界標準が多く取り入れられている。具体的には、米PICMG(PCI Industrial Computers Manufactures Group)が策定したCompact PCIを中心に高密度設計方式のバス/ボードの開発が進むなど、この仕様に準拠した各種産業用ボードが広く普及しつつある。プロセッサはインテル系、Ultra SPARCといった既製品を用いることがほとんどであり、メモリ、ディスクなどもPCのテクノロジが多く使われている。通信向けなどに高密度設計をどうするか、また工場などの劣悪な環境で耐えられるものにするか、という実装上の問題が検討されてきた点においては、むしろ昨今の高密度サーバ製品を一歩リードしてきたといえる。

今後の市場展開

(1) 新たな需要と市場の拡大および変容

 現在、ISP/ASP/インターネット・データセンターを中心に展開しているラックマウント型サーバ市場は、今後新たな需要を伴いさらに拡大するだろう。これらの新たな需要としては、

  • 企業内システム統合
  • 各種センター機能(教育など)
  • 科学技術計算
  • 次世代ネットワーク対応サーバ・システム

などが考えられる。

 ラックマウント型サーバ市場の今後を考えるにあたっては、サーバ・ブランド製品、アプライアンス・サーバ製品、産業用コンピュータ製品それぞれの市場の動向に注意する必要がある。

 サーバ・ブランド製品とアプライアンス・サーバ製品は今後も継続的に競合関係にある。両者が製品競争を繰り広げることで、さらに高密度な完成度の高いラックマウント型サーバ製品が登場するだろう。

 通信機器市場との関係では、これまで通信機器市場と市場サーバ市場はそれぞれベースとなる技術は同じであっても、対象とする市場が異なっていたため、扱う製品もそれぞれの市場を意識したものとなっていた。ところがインターネットの進化に伴い、その境界が次第に薄れつつある。通信産業向けコンピュータ市場は、通信事業者がISP/ASP/インターネット・データセンター事業に参入することで、新たな市場機会を狙っている。電話交換機など既存ネットワーク・インフラのIP化の進行に伴い、通信業界で使用される機器とサーバ機器との境界も、これまで以上に縮まってくる。この結果、現在のサーバ製品に競合する通信機器も増えてくるだろう。逆に現在のサーバ・ブランドのラックマウント型サーバも現在の姿から次世代ネットワーク対応機器を強く意識したものに変化する可能性もある。

ラックマウント型サーバを取り巻く市場(出展:ガートナー データクエスト(2000年12月))

(2) 製品の進化

 現在はクラスタや負荷分散用途が中心のラックマウント型サーバであるが、I/Oの高速化に伴いNUMA(Non-Uniform Memory Access:非均等メモリ・アクセス)を前提とした製品の開発も進むだろう(日本IBMのNUMAの解説ページ)。この場合、1つのサーバ・ラック・システムを1台の大型NUMAサーバとして使用できるようになる。一方、バックエンド・サーバでは現在SMP(UMA:メイン・メモリ共有型のマルチプロセッサ・システム)が主流であるが、プロセッサ数を増やした際のリニアな性能向上が限界に達していることから、こちらもベース・テクノロジはNUMAへと向かいつつある。

 こうなるとフロントエンドはラックマウント中心、バックエンドは大型のタワー型中心といった現在の区別は難しくなる。将来的には、負荷分散、SMPクラスタもしくはメモリ共有のNUMA構成をとるかをユーザーが柔軟に変更できるようなサーバが登場することだろう。

 現在のラックマウント型サーバは将来へ向けての過渡期の製品に過ぎない。今後ラックマウント型サーバ市場は主にインターネット・フロントエンド・サーバとして、ISP/ASP/データセンター市場を中心に拡大するだろう。スケーラビリティの観点からみても、今後ラックマウント型サーバが大規模構成のサーバの主流となる可能性は高い。

 さらなる変化と拡大が予想されるラックマウント型サーバ製品およびその市場動向について、今後とも注目すべきであろう。記事の終わり

  関連記事(PC Insider内)
資料
1Uラックマウント型IAサーバ
大量導入向け低価格1Uサーバ「コンパック ProLiant DL320」
スケーラビリティの高い1Uサーバ「PowerEdge 1550」
 
  関連リンク
Compact PCIの規格概要
NUMAの解説ページ
 
 

「連載:IT Market Trend」


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