技術解説 次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像

1.DDR SDRAM DIMMの特徴

デジタルアドバンテージ
2000/12/21

 PCを利用するエンド・ユーザーがDDR SDRAMを目にするとき、それは複数のメモリ・チップを搭載した小さな基板、すなわちメモリ・モジュール(DIMM)になる。SDRAMと同様に、DDR SDRAMもDIMMでPCに装着する形式をとる。このDDR SDRAM DIMMについても、すでに規格*1が決まっており、その外観は以下の写真のとおりだ。

*1 DDR SDRAMもそのDIMMも、JEDECと呼ばれるメモリ・チップの規格化団体が最終的に仕様を決めて規格化している。もちろん、仕様策定には複数のDRAMベンダやチップセット・ベンダなどがかかわっている。
 

184ピンUnbufferedタイプのDIMM

これは主にデスクトップPC向けのDDR SDRAM DIMMである。コストは低いが、1枚当たりのチップ数は少なく、大容量メモリの実装には向かない。
 

184ピンRegisteredタイプのDIMM

これはサーバ/ワークステーション向けのDDR SDRAM DIMMである(デスクトップPCでも利用される場合はある)。1枚当たりのチップ数や1つのシステムに搭載可能なDIMM枚数はUnbufferedより多いが、価格は高い。
 

200ピンUnbufferedタイプのSO-DIMM

これはノートPCや省スペースPC向けに小型化を狙ったメモリ・モジュールだ。規格ではECCもサポートされる。

 いずれもサイズは、現行のSDRAM DIMMとほとんど変わらない。

将来の仕様変更への対応は?

 上の写真で、DIMMの端子部分には切り欠きが入っているのが分かる。これはDIMMの表裏(向き)を間違えて装着するのを防ぐ役割もあるが、メモリ・バスの信号レベルを判別するのにも利用される。DDR SDRAMの規格では、信号の電圧レベルが複数決まっており、この切り欠きの位置によって信号の電圧レベルを区別するのだ。最初に登場するのは、2.5V*2に対応したDIMMである(下の写真)。

*2 この2.5Vという値は、正確にはメモリ・バス信号を駆動するバス・インターフェイス回路の電源電圧を指す。
 

DDR SDRAM DIMMの誤装着防止用切り欠き

金色の信号端子の間に切り欠きが「左寄り」に配置されているのが分かる。これは信号レベルが2.5Vであることを示している。切り欠きが「真ん中」なら1.8V、「右寄り」ならさらに低い電圧を示す。

 DIMMとソケットがそれぞれカバーする電圧レベルが異なる場合、切り欠きの位置が合わないので、物理的に装着できない。これにより、電圧レベルの違いによる電気的な破壊を未然に防ぐことができる。

 このように複数の電圧レベルをサポートしているのは、将来DDR SDRAMの製造ルールが微細化するにつれ、信号や電源の電圧が下がることがすでに想定されているからだ。

 こうした仕様の変化に対して柔軟に対応する仕組みは、ほかにもある。下の写真にあるシリアルEEP-ROMはSPD(Serial Presence Detect)と呼ばれ、DIMMに関する各種のパラメータが保存されている。

SPD(Serial Presence Detect)

これはシリアル・バスでデータを読み出せるROMの一種だ。電源投入直後、チップセットはこのSPDからDIMMのパラメータを読み出し、適切に信号タイミングを設定する。

 チップセット側は、DIMMとのインターフェイスを初期化する際、このSPDからDIMMのパラメータを読み出すことで、そのDIMMに最適な信号タイミングを知ることができる。例えば、データの読み出しに2.5クロックかかる、とSPDに記録されていたら、メモリ・バスの信号タイミングを調整し、そのとおりに合わせることが可能だ。

SDRAMとは、DIMMそのものの互換性は「ない」

 現行のSDRAM DIMMをよく知っている人なら、以上の特徴がSDRAM DIMMと似通っていることに気付くだろう。プラットフォーム以外の速度や冗長性などについても、以下のようにDDR SDRAM DIMMのバリエーションは、SDRAM DIMMのそれをほぼ踏襲している。

  DDR SDRAM DIMM SDRAM DIMM
データ・バス幅 64bits(+ECC) 64bits(+ECC)
転送速度による区分 PC1600/PC2100 PC100/PC133
レイテンシによる区分 CL*3=2/2.5 CL=2/3
冗長メモリ 1bitの修正可能なECC 1bitの修正可能なECC
フォームファクタ デスクトップPC 184ピン Unbuffered DIMM 168ピン Unbuffered DIMM
ノートPC 200ピン SO-DIMM 144ピン SO-DIMM
サーバ 184ピン Registered DIMM 168ピン Registered DIMM
DDR SDRAMとSDRAMそれぞれのDIMMの種類と仕様
DDR SDRAM DIMMの種類は、明らかにSDRAM DIMMを手本にしていることが分かる。
*3 CLとはCAS Latencyの略で、アドレスを指定してからデータが読み出し可能になるまでの時間を表すパラメータの1つ。値が小さいほど高速なメモリである。

 このようにDIMMのバリエーションが似通っているのは、やはりDDR SDRAMがSDRAMをベースに改良したメモリ・チップであり、ベンダ側もSDRAMとの差を小さくすることに注力した結果だ。

 ただし、似通ってはいても、DDR SDRAM DIMMとSDRAM DIMMの間に互換性は「ない」。両者は、メモリ・バスの電気的/プロトコル的な仕様だけではなく、物理的なソケットの仕様まで異なるので、装着することさえもできない。従って、

  • 余ったSDRAM DIMMを新しいDDR SDRAM搭載PCに流用する
  • 古いSDRAM対応PCに、DDR SDRAM DIMMを組み込んで高速化する

などということは不可能である*4

*4 チップセットによっては、SDRAMとDDR SDRAMの両方に対応し、同一マザーボードにSDRAM DIMMとDDR SDRAM DIMMの両ソケットを実装できる、としている製品もある。ただし、両者を同時に併用することはできないし、両ソケットの実装は技術的に難しく、DDR SDRAM使用時の性能や機能に悪影響を及ぼすという話も聞く。あまり有効なソリューションではないようだ。

最大メモリ実装容量について

 DDR SDRAM DIMMによる最大メモリ実装容量は、原則として以下のようになる。

  184ピンUnbuffered DIMM 184ピンRegistered DIMM 200ピンUnbuffered SO-DIMM
実装可能なソケット数 2〜3 4 2
DIMM1枚当たりの最大メモリ・チップ数*5 16 32 8
DIMM1枚当たりの最大容量(512Mbitsチップ使用時) 1Gbytes 2Gbytes 512Mbytes
1本のメモリ・バス当たりの最大容量 2G〜3Gbytes 8Gbytes 1Gbytes
DDR SDRAM DIMMの実装可能なソケット数や最大メモリ容量
*5 ECCメモリの場合、これにECCの分を記憶するためのメモリ・チップの分が追加される。

 「原則として」と記したのは、この表の内容はチップセット(正確にはメモリ・コントローラ)の仕様やマザーボードの設計などによって大きく左右されるからだ。例えば184ピンUnbuffered DIMMの場合、チップセットによってソケット数は最大2本に限定されている場合がある*6。Registered DIMMについても、1枚当たり1Gbytesまでしかサポートしないチップセットが存在する。

*6 Unbuffered DIMM×3枚は、信号のタイミングなどが厳しくなるようだ。チップセットによっては、メモリ・チップ数の多いDIMMは2枚までしか搭載できない、といった制限が生じるかもしれない。

 また「実装可能なソケット数」は、1本のメモリ・バスに限られる。クライアントPC向けチップセットはたいてい1本だが、サーバ向けチップセットでは、複数のメモリ・バスをサポートする製品も登場するだろう。その場合、最大メモリ容量は表の値より大きくなる。

 注意すべきは、184ピンUnbuffered DIMMと184ピンRegistered DIMMの扱いである。これらは同一のソケットに装着可能であり、チップセット側も両者をサポートしていることが多い。そのため、DDR SDRAM搭載PCでは、UnbufferedとRegisteredの両方をサポートする製品が現れるだろう。しかし、そのPCがたとえDIMMソケットを4本実装していても、おそらくUnbuffered DIMMは最大3本までしか装着できない。4本までDIMMを装備するには、Unbuffered DIMMより高価なRegistered DIMMが必要になることは覚えておこう。


 INDEX
  [技術解説]次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像
  1.DDR SDRAM DIMMの特徴
    2.倍速化と省電力のテクノロジー
    3.DDR SDRAMに死角はないのか?
 
「PC Insiderの技術解説」


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