ニュース解説

Gateway、日本市場などから撤退
―米国に資源を集中する再建策を発表―

小林章彦
2001/08/30

 米国時間2001年8月28日、米Gatewayは、日本法人を含むマレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドの事業閉鎖を発表した(Gatewayの「事業再建策に関するニュースリリース」)。また、ヨーロッパの事業撤退については、30日以内に改めて発表を行うとしている。なお、8月29日付けで日本法人の営業およびマーケティング活動は終了している。製品のサービス/サポートについては継続して行われることが、問い合わせ先とともに同社のホームページに掲載されている。

営業活動終了を発表した日本ゲートウェイのホームページ
営業およびマーケティング活動の終了のお知らせが、トップページに掲載され、製品の受注などが行えなくなってしまった。サポート体制などは、追って発表されることになるようだ。

 もう少し詳しく再建策の内容を見ていこう。

  • ハードウェア、通信、アプリケーション、ラーニング(学習)、金融、サービスの6つの事業に再編し、2001年第4四半期から新組織での営業を開始する
  • 各所にあるコール・センターのうち、バージニア州ハンプトン、サウスダコタ州バーミルトン、ユタ州ソルトレイク、カリフォルニア州レイクフォレストにあるものを閉鎖し、サウスダコタ州スーフォールズとノーススーシティ、ミズーリ州カンザスシティ、ニューメキシコ州リオランチョ、コロラド州コロラドスプリングに集約する
  • 製品ラインを集約するとともに、ユタ州ソルトレイクの工場を閉鎖し、バージニア州ハンプトンとサウスダコタ州ノーススーシティの工場の効率化を図る
  • 米国市場を東部、中部、西部の3地域に分け、それぞれを20の営業エリアに分割。それぞれの営業エリアに8〜26の小売拠点を設置する
  • 米国内で15%、全世界(ヨーロッパを含む)で25%の人員削減を実施

といった内容となっている。こうした施策の実施にともない、4億7500万ドルの経費を計上するが、これにより3億ドルのコスト削減が可能になるとしている。

Gateway不振の理由を考える

 日本ゲートウェイ2000(その後、日本ゲートウェイに社名変更)が設立され、本格的に日本国内での営業を開始したのは、1995年のことだ(それまで日商岩井が販売を担当していた)。Windows 95とともに、高性能のPCが低価格で購入できるということで、特にハイエンドのコンシューマ・ユーザーを中心に販売実績を伸ばしてきた。日本ゲートウェイ2000が進出する2年前(1993年)にデルコンピュータが日本での販売活動を開始しており、Gatewayの日本進出により、DellとGatewayの米国での価格競争が日本にも持ち込まれることになった。それまで高価だった日本のPCも、Compaqの進出(「コンパック・ショック」と言われた)に続き、デルコンピュータと日本ゲートウェイ2000が激しい価格競争を繰り広げることによって、PCの価格は米国に近いレベルにまで下がった。

 こうした功績を持つ日本ゲートウェイが閉鎖に追い込まれてしまったのは寂しい限りだが、確かにここ1〜2年、全世界的にGatewayは元気がなかった。同じ「通信販売」という販売手法を採用しながら、シェアを確実に伸ばしているDell ComputerとGatewayでは何が違ったのだろうか。

 今回のGatewayの事業縮小は、米国の景気後退による売り上げの減少が原因として挙げられている。しかし、それよりも経営戦略の大きなミスがあったように思える。

 最大のミスは、多角化の失敗だろう。Gatewayは、創業以来、どちらかというとコンシューマに強かった(Dell Computerは中小企業に強かった)。それにもかかわらず、1996年にDell Computerが「PowerEdge」シリーズを投入し、サーバ市場に参入し成功しつつあるのを見ると、Advanced Logic Research(ALR)を1997年に買収してサーバ市場への参入を試みた。しかし結局のところ、営業体制などが整わず、サーバ市場への参入は事実上の失敗に終ってしまった。同様に、1997年に買収したAmiga(Commodoreが開発した32bitパソコン)に関する権利も、どのように活用するのか不明なまま、同社の事業に役立つことはなかった。こうした買収による多角化の失敗が、本業であるコンシューマ向けPCの販売に悪影響を与えたのは否定できないだろう。

 さらに、DVDの普及を促進するため、全モデルでDVD-ROMドライブの標準装備を図るなど、積極的な展開を行ったものの、DVD-ROMタイトルが普及していない現状もあり、結局のところPCの販売促進にはつながらなかった。むしろ、こうした施策により、Gatewayが強かったコンシューマ市場でユーザーの気持ちが離れてしまった可能性もある。

AOL向けに開発を行っていたインターネット・アプライアンス「Gateway Connected Touch Pad」
Crusoeを採用し、AOL向けに開発を行っていたインターネット・アプライアンス。残念ながら、実際に出荷には至っていないようだ。

 AMD Athlonの採用も、話題にはなったものの、実際の売り上げにはあまり貢献しなかったようだ。むしろ、製品ラインアップの拡大が在庫負担を増大させ、Intelとの関係悪化を招いたことで製品戦略にマイナスの影響を与えたような気がする。

 ほかにもTransmetaのCrusoeを採用したAOL向けのインターネット・アプライアンスを開発し、販売を計画するなど、製品ラインアップの拡大や多角化を試みたものの、すべてにおいて業績に目立った貢献はしなかった。

 こうした数々のミスに加え、インターネットの普及がGateway不振の遠因になっているのではないかと想像している。インターネットの普及により、日本のみならず、米国でもハイエンド向けのPC雑誌が軒並み休刊している(ハイエンド・ユーザーの情報源がインターネットに移ったことで、PC雑誌の読者層が激変したため)。どちらかというと、Gatewayはこうしたハイエンド向けPC雑誌の記事での評価が高く、読者の人気も高かった。そのため、こうしたPC雑誌が休刊したり、大幅な部数減に見まわれたりしたことで、極端にユーザーへの露出が減り、知名度が低下したことが推測できる。Gatewayが強いコンシューマ市場は、こうした知名度や評判に敏感であり、露出の低下が売り上げに影響を与えたと思われる。

 さらに、各PCベンダのPCがみんな似通ってきており、これまでの「高性能な部品を使いながら、低価格を実現したPC」というGatewayならではの製品作りが難しくなっている点も、コンシューマのGateway離れの原因になっているのだろう(こうした差別化が難しくなったPC市場が、PC雑誌の衰退を招いた原因でもある)。つまり、Gatewayが復活するには、「Gatewayらしい製品作り」によるブランドの回復と、それにともなうハイエンド・ユーザーへの露出が重要なことが分かる。事業を縮小して、コンシューマ市場へ集中するという今回の再建策だけでは、ブランド力を回復することは難しいのではないだろうか。記事の終わり

  関連リンク
事業再建策に関するニュースリリース
 
「PC Insiderのニュース解説」


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