ニュース解説

エンタープライズ重視のIntelを示したIDF Spring 2002 

3. ナゾのまま終ったクライアントPC向けプロセッサ

元麻布春男
2002/03/12

秘密の多い次世代Pentium 4

 さて、その次世代Pentium 4となるPrescottだが、これについては3日目のクライアント・デイのトップを飾るデスクトップ・プラットフォーム事業本部長のルイス・バーンズ(Louis Burns)副社長のキーノートで触れられた。Northwoodの後継になるPrescottは、90nmプロセスで量産されるIA-32プロセッサとなる。もちろんクライアントPC向けで、2003年後半に投入される予定だ。NetBurstマイクロアーキテクチャに準拠するものの、いくつかの改良が加えられる予定で、現時点で明らかにされているのはHyper-Threadingテクノロジの導入である(当然ながら、Yamhillについては一切触れられていない)。

 だが、Hyper-Threadingテクノロジ自体は、すでにNorthwoodやWillametteコアに内蔵されており、ソフトウェアを含めた環境が整うのを待っている、というのが一般的な見方だ。バレット CEOのキーノートでも、動作クロック3GHzで動作するHyper-Threadingテクノロジを有効にしたPentium 4でデモが行われたことでも、Northwoodにも実装されていることは想像に難くない。そういう意味では、Hyper-Threadingテクノロジの導入はそれほど目新しい話題ではなく、そのほかのPrescottの新しい機能については謎のまま、というのが正直なところだ。

 ほかにバーンズ副社長のキーノートで触れられたのは、3GIOの進捗状況と、3GIOの導入によりPCのフォームファクタが劇的に変わる可能性があることである(3GIOについては「技術解説:PCの内部はすべて「シリアル」でつながる」を参照)。劇的にフォームファクタが変化したPCの例として、「ビック・ウォーター(Big Water)」と呼ばれるコンセプトPCが披露されたが、現時点では完全なモックアップであり、もうしばらく様子を見る必要がありそうだ。

モバイルPCはすべてBaniasを搭載する

 バーンズ副社長についで、キーノート・スピーチを行ったのは、モバイル・プラットフォーム事業本部長のチャンドラシーカ副社長。IDFの直後にモバイルPentium 4-Mの発表を控えているものの、すでに述べたようにまだ発表できない状態のため、どうしても迫力に欠けるのはやむを得ないところか。モバイルPentium 4-Mについては、デモも行われなかったほどだ。

 代わりに今回初めて披露されたのは、2003年の前半に登場する次世代のモバイルPC向けプロセッサ「Banias(開発コード名:バニアス)」に対応したチップセット「Odem(開発コード名:オーデム)」。Banias自体は、まだ実際に動作するチップがないため、NorthwoodでBaniasのシミュレーションをさせて動作させている、とのことであった。動作するチップセットを見せることで、Baniasの開発が順調であるとのメッセージを送ったのだろうが、Baniasに関する新しい情報はほとんどなく、肩透かしとなった格好だ。前回のIDFではμOPs Fusion(マイクロ命令フュージョン)*2と呼ばれる、Baniasが採用する技術についてアナウンスされたものの、今回のIDFではこの技術についてのフォローは一切なかった。

*2 x86命令を分解した実行単位であるμOPを複数まとめて実行するという技術。
 
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写真3 Baniasに対応するチップセット「Odem」
Northwood(冷却ファンが付けられたチップ)の左側のチップがOdem。その下側には「CooperSpur」という表記が見える。プロセッサ(Northwood)が取り付けられた変換基板の構造が簡単なものであることからして、BaniasのFSBはPentium 4にかなり近いのではと思われる。

 唯一、注目されるのは、キーノートにおいて図7のようなロードマップが示されたことだ。これによると、2世代目以降において、Baniasがファミリ化されること、モビリティ・ベクタ(性能、バッテリ駆動時間、フォームファクタなどを総合したモバイルPC向けプロセッサの指標)がグンとあがることが示唆されている。チャンドラシーカ副社長によると、A4サイズの2スピンドル(ハードディスクとCD-ROMドライブなどの光ドライブの合計2ドライブを搭載)以上である性能重視のセグメントをモバイルPentium 4-M、B5サイズ以下のバッテリ駆動時間重視のセグメントをBaniasという形で、モバイルPentium 4-MとBaniasは当面の間、棲み分けることになるようだ。しかし、2005年にはモバイルPCのすべてのセグメントがBaniasファミリで占められるようになる。

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図7 モバイル・プロセッサのロードマップ
2世代目以降においてBaniasがファミリ化されること、モビリティ・ベクタ(性能、バッテリ駆動時間、フォームファクタなどを総合したモバイルPC向けプロセッサの指標)がグンとあがることを示唆している。

 デスクトップPC向けのPentium 4プロセッサにせよ、モバイルPC向けのプロセッサにせよ、Intelの屋台骨を支える製品であることは間違いないのだが、新しい話題が比較的少なかったような気がする。やはり、今回のIDFではエンタープライズ・コンピューティングが優先されていたように思う。

  関連記事
PCの内部はすべて「シリアル」でつながる

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 INDEX
  [ ニュース解説 ]エンタープライズ重視のIntelを示したIDF Spring 2002
    1.キーノート・スピーチで感じるIntelのエンタープライズ指向
    2.サーバ向けプロセッサの動向
  3.ナゾのまま終ったクライアントPC向けプロセッサ
    4.ギガビット・イーサネットとシリアルATAの動向
 
「PC Insiderのニュース解説」


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