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Mobile Insider

第2回 PC EXPO 2000モバイル機器レポート

塩田紳二
2000/07/17

 ここでは、6月27日から29日まで、米国ニューヨークで開催されたPC EXPOの出展内容から、モバイル関係のものをレポートする。

 今回のPC EXPOは、「PDA&ワイヤレス」とか「モバイル」といったキーワードでくくることができるイベントであった。大きな話題としては、

  1. ソニーのPalm OS機
  2. TransmetaのCrusoe搭載ノートPC

の2つである。TransmetaのCrusoe搭載ノートPCについては、別途レポートするのでそちらを参照していただきたい(近日公開予定)。

ソニーのPalm OS搭載PDA「PEG-S500C」
2000年7月13日に日本で発表となったソニーのPalm OS搭載のPDA。写真のカラー モデル以外にモノクロ モデルの「PEG-S300」がラインアップされている。メモリースティック対応とジョグダイヤルの装備が特徴。

 ソニーのPalm機の詳細は、日本国内で発表されたニュースリリースを参照していただくことにし、ここではPC EXPOの展示内容を簡単にレポートしておこう。PC EXPOで展示されたのは、PEG-S500Cという機種だ。カラー液晶で、USBにてPCと接続を行う。最大の特徴は、ジョグダイヤルとメモリースティック スロットを装備していること。どちらもオリジナルのPalmやほかのライセンシのマシン(VisorTRGPro)には装備されていないものだ。特にユーザー インターフェイス用のジョグダイヤルのために、内蔵アプリケーションはカスタマイズされたものが組み込まれている。Palm OSは、デフォルトではジョグダイヤルなどの入力インターフェイスに対応していないため、ジョグダイヤルの「決定」動作を行わせるためには、アプリケーション側が対応している必要がある。

 メモリースティックも、PCP(Palm Computing Platform)では初めての採用だが、すでにVisorがSpringBoardを、TRGProがコンパクト フラッシュ(CF)を外部拡張/記憶メディアとして採用している。Palm OSには、こうしたメモリカードを扱う仕組みはあるのだが、いままでPalm自身がメモリ カードを扱う機種を出していないため、メモリ カードの使い方(特に、データは本体側のメモリに置くべきか、メモリ カード側に置くべきかといったこと)に関する指針が明らかになっていない。このため、メモリースティックとメイン メモリ間でデータやプログラムのコピーといった操作を行うことはできるが、データをメモリースティック側に置いた場合に、アプリケーションからアクセスするための統一的なAPIがないといった問題がある。そのため、当面は、メモリースティックとのデータのやりとりを行うAPIなどをソニーが独自に定義して、これにアプリケーションが対応する必要がある。

 ソニーでは、こうしたジョグシャトルやメモリースティックの扱いについて、SDKなどを提供し、開発者をサポートしていく予定だという。開発者向けの専用のホームページも開設したということだ。

■サードパーティが充実したPalm陣営

 Visorの発売元であるHandSpring社のブースには、多数のSpringBoardメーカーが集まり、さまざまなSpringBoardが展示されていた。GPSモジュールや、モデム、無線モデム、バーコードリーダー、デジタル カメラ モジュール、MP3プレーヤーなどである。

 Handspringのホームページには、今までいろいろとサードパーティのSpringBoardのアナウンスが行われてはいたのだが、実際には開発のアナウンスのみで、簡単に手に入るのは、Handspring製のメモリ カードやバックアップ カードなどであり、SpringBoardが充実しているとは言い難い印象があった。しかし、実際に多くのメーカーが実物を展示しており、今後はかなり期待ができそうだ。中には無線モデムなど、日本国内では利用できそうもないものも含まれてはいるが、デジタル カメラやバーコード リーダーなどはすぐにでも導入が可能だろう。

 これに対して、Palm社は、ソフトウェア ベンダも含めたさまざまなサードパーティを出展させていた。細かいアクセサリなどを含めれば、まだまだ、Palmシリーズのほうがサードパーティが多いように感じる。

■若干差をつけられたPocket PC陣営

 このPalmに対抗する勢力の1つが、旧Windows CEのPalm-size PC、つまり現在のPocket PCである。米国では、CASIO、Compaq、Hewlett-Packardの3社が発表を行っている。Microsoftも自社ブース内に最新のPocketPCを展示し、実機に触れながら講習を行うセミナー ブースなども設置していた。また、会場で無料で配る袋(スポンサーはMicrosoft)には、この3社のPocket PCがカラー写真で刷り込まれており、力を入れていることが伺えた。

 Microsoftの意気込みは分かるが、全体的にはPalm系のほうが展示が多く、特にサードパーティの数で差をつけられている感じがした。CASIOは、5色のカラー バリエーションを持ち、SDカードスロットを持つスリム デザインのEM500や、業務用でリチウム ポリマー電池を採用し、防沫、対ショック仕様のEG-800などを自社ブースで展示しており、CE機の中では目立った存在だった。

ワイヤレス サービス

 米国では、携帯電話のデジタル化が進んでおらず、また、まだページャー(日本でいうポケット ベル)がかなり利用されている。1つには、このページャーが双方向で、データ転送速度が19200bits/s程度あるため、メールやテキストベースのWebアクセス程度であれば十分利用できるからでもある。

 こうしたサービスは、BellSouthのBSWD(Mobitex)やMotinetのARDIS、NovtelのCDPD(Minstrel)などのキャリアがインフラを整備してネットワーク サービスを行っているが、この上で、インターネット接続サービスを行うGo AmericaOmniSkyなどのプロバイダなども存在する。たとえば、Palm VIIのワイヤレス サービスも、BellSouthのインフラが利用されている。

 双方向ページャーは、小さなキーを持ち、簡単なメッセージが送れるものが主流で、Research In Motion社RIM850/950などが主流だ。最近では、大きな液晶を持ち、PDA機能を持つRIM957も登場している。

 このほか、Palm用のアダプタやVisor用のSpringBoard、PCカード型などの無線モデムがあり、これらを使ったワイヤレス インターネット サービスが普及しつつあるという。たとえば、Go Americaでは、59.95ドルで1カ月の無制限のアクセスが可能であり、またMinstrelでは同様に月額49.95ドルと価格的に個人でも手が届く範囲になっている。全米をくまなくカバーとはいわないが、主要都市の近辺では利用可能である。

Bluetooth

 今回、Bluetoothはもう少し出展があるかと思ったが、あまり出展が見られなかった。展示としては、東芝のデモやIBMとEPSONのデモなどがあった程度だ。もっとも、各社とも将来的にBluetoothに対応することは明言しているので、デバイス開発の遅れが解消すれば、もう少し状況は明るくなるのではないだろうか。記事の終わり

ソニーのPalm Computing Platformマシン「PEG-S500C」。下の銀色の部分はクレイドル(PCとの接続アダプタ)。 PEG-S500Cのメモリースティック スロット付近。本体上部にスロットがある。手前の黒い部分は、赤外線ポート。本体側面にジョグダイヤルが見える。
ソニーは、メモリースティックにI/Oを搭載する「Memory Stick Media Applications」のモックアップを展示した。デジタル カメラやGPS、Bluetooth(Infostick)などのアダプタが見える。 GeoDiscovery社のGPSモジュール「Geode」。今年の夏発売予定。
Remote Solution社の無線モデムモジュール「InfoMitt Access」。 Innogear社のMP3モジュール「MinJam」。内蔵メモリは32Mbytesと64Mbytesの2種類。MMCカードで拡張が可能。
Franklin社の電子ブック モジュール。辞書や聖書などが収録されている。 Blocks Productsのデジタル カメラ モジュール「eyemodule」。カラーで最大320X240ドットの撮影が可能。
Card Access社の薄型モデム「Thincom」。ブラウザとメール ソフトが組み込まれているらしい。 Nexian社のGPSモジュール「HandyGPS」。
PSC社のバーコード リーダー。バーコード リーダー モジュールは、Symbol社からも出展されていた。 Singapore Shinei Sangyo社の最大8分の録音が可能なボイス レコーダー モジュール「my-Vox HS-1」。
衛星ラジオ受信モジュール。CUE社の「CUE Redio」。FMステレオ放送の受信のほか、交通やニュース、天気などのデータ放送や電子メールの着信通知などのサービスがある。 Palm社のブースには、多くのサードパーティ ブースが参加。これはPalm用の周辺装置。中央に見える黄色いものは、De LormeのGPS「Earthmate」。
Palmブース。こちらはRand McNally社のGPSアタプタ。Palm V用もある。 Palm III用のワイヤレス モデム。Novatel社の「Minstrel III」。
指紋を照合するPalm用アダプタ。Mytec社の「MPAD」。 Hewlett-Packard社のPocket PC(Windows CEマシン)である「Jornada 545」。
CASIOの業務向けPocket PC「EG-800」。リチウム ポリマー バッテリを採用しており、最大13時間の動作が可能。 MMCスロットを持つCASIOのPocket PC「EM-500」。カラーバリエーションで全部で5色ある。MMC採用のためコンパクトになっている。
Compaqの「AERO 1550」。モノクロ スクリーンを採用したため薄型。 Compaqの「ipaq H3600」。カラー液晶を採用する、かなり金属的なデザインのPocket PC。
電子ブック再生ソフトウェアであるMicrosoft Readerを装備したFlanklinの「e-Bookman」。200X240ドットの液晶を持ち、USBでパソコンから電子ブック データを転送する。
東芝のブースで行われていたBluetoothのデモ。PC左側のカード スロットに装着されているのがBluetoothカードで、写真左のモデムと無線で接続している。
BluetoothによるEPSONのプリンタとの接続デモ。プリンタは、Bluetoothインターフェイスを内蔵している。プリンタは試作機のようで、背面からはアンテナ回路が飛び出していた。 Reserch In Motion社の「RIM957」。BlackBerryという愛称を持つ。PDA機能を内蔵しているのが特徴だ。
Reserch In Motion社の「RIM950」。アイコンベースの操作が本体右側のダイヤル可能。 128kbits/sで接続が可能なMetricom社の「ricochet無線モデム」。
Novatel Wireless社の無線モデムとVisorの接続例。Novatel社は、前出のPalm用だけでなく、SpringBoardも開発中。   
PC EXPO 2000で展示されたPDA関連製品


関連リンク
ソニー Palm OS採用でメモリースティック対応のカラー液晶携帯端末を発表
ハンドスプリング Visorの製品情報ページ
MDS TRG Proの製品情報ページ
アスク TRG Proの製品情報ページ
BellSouth Mobitexに関する情報ページ
Motinet Motinetのホームページ
Novatel Wireless Novtelのホームページ
GoAmerica Communications Go Americaのホームページ
OmniSky OmniSkyのホームページ
Research In Motion社 RIM850/950の製品情報ページ

「連載:Mobile Insider」


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