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Mobile Insider

第3回 Palm系PDAはこう見分ける

塩田紳二
2000/10/21

 
Handspringが米国で発表したカラー対応VISOR
2000年10月16日にHandspringが米国で発表したカラー対応版のVISOR Prism。CPUの高速化やメモリの増強などが行われている。米国での価格は449ドルと、Handspringとしては高めの設定。

 Palm OSを搭載するPDA、いわゆるPalm系PDAは、いくつかのメーカーが日本国内で販売を開始し、製品が出揃ってきた。また、米国ではHandspringがカラー対応版を発表するなど、新しい機種が続々と登場してきている。そのため、これまで販売されてきたものも含め、さまざまなタイプが存在し、ちょっとした混乱があるのも事実だ。ここでは、日本国内で販売されてきたPalm系PDAについてまとめてみた。それぞれの特徴を知ることで、購入の目安にすることができるはずだ。

 Palm系のPDAには、旧3Com(現Palm社。日本国内ではパームコンピューティング)が出荷したハードウェア以外にも、WorkPad(IBM)やVISOR(Handspring)やTRG Pro(TRG)など、他社から出荷されている製品もある。これらを総称して、最近では「Palm OS platform devices」あるいは「Palm OS platform」などと呼ぶことが多いようだ。かつては、総称としてPalm Computing Platformといった呼び方もあったようだが、最近では、Palm社がPalm OSをライセンスし、ハードウェアは他社で製造した製品が増えてきたため、Palm OSレベルでの互換性という意味で、このような呼び方になったのだと思われる。

 このPalm OS Platform(以下、POSPと略す)に対応するハードウェアを出荷しているメーカーには、

メーカー名 製品シリーズ
IBM WorkPadシリーズ
ソニー CLIEシリーズ
Handspring VISORシリーズ
Symbol Technology Symbol SPTシリーズ
TRG TRGproシリーズ
QUALCOMM pdQ smartphoneシリーズ
主なPOSPベンダ

などがある。これらのうち、ソニー以外の製品については、Palm社のWebサイトに比較表がある。

各社のPOSPの特徴

 さて、これらの製品のうちSymbol社とQUALCOMM社の製品以外は、日本語版が国内でも入手可能だ。Symbolは業務向けが中心だし、QUALCOMMの製品は携帯電話と一体になっており、米国外では利用できないので、主だった機種は日本でも購入できるようになったと思ってよい(QUALCOMMの携帯電話事業は、京セラが買収している。また、京セラはPalmと提携した模様なので、日本国内でも京セラから販売される可能性がある)。

 IBMの製品は、基本的にPalm社のOEMで、名称や本体色が黒になっている以外はほとんど同じだ。ただし、Palm社の日本進出以前から日本語版の販売を続けており、企業向けに力を入れるとの話もある。もちろん、コンシューマ向けの販売を打ち切ったわけではないので、量販店でも購入できる。今後どうなるのかは不明な部分もあるが、しばらくは、個人購入でも選択肢に入ることになるだろう。

 Handspring社は、Palmシリーズの開発者が3Comを退職して作った会社だ。同社のVISORは、SpringBoardという拡張機能を備え、主にコンシューマ向けの展開を行っている。最近では、企業向けにも力を入れ始めており、カラー・モデルを追加するなど、積極的な展開を行っている。

 ソニーはこの中では最後発になるが、コンシューマ向けに独自サービスと組み合わせた展開を行っており、この動きが他社にどのような影響を与えるか興味深い。ただ、オリジナルのソフトウェアやジョグダイヤルを装備するなどの差別化を行っていることもあり、若干、他社のPOSPと比較すると価格が高めだ。

互換性に注目した製品の特徴

 これらの製品には、さまざまなバラエティがあるが、互換性に注目すると以下のようなポイントで区別される。

  1. Palm OSのバージョン
  2. シリアル・コネクタの形状
  3. 拡張コネクタの種類
  4. LCDの種類(カラー、モノクロ)

 まず、Palm OSのバージョンは、アプリケーションの動作に多少影響がある。一部のアプリケーションは、最近のOSにのみ対応しており、古いバージョンのOSでは動作しないことがある(逆もある)。これは、Palm OSが進化していく過程で、プログラム用に割り当てられるメモリ上の作業領域のサイズ(Dynamic Heapエリア)が拡大されたり、OSの機能追加などが行われたりしたからである。ただし、機種によってPalm OSを格納しているROMに書き換え可能なフラッシュ・メモリを使っているため、OSを最新のものに変更することで、互換性の問題を回避できる場合がある。

 POSPは、PCと接続するためのシリアル・コネクタを持っており、この部分の形状と信号線にはいくつかのバリエーションがある。また、一部機種(ソニーのCLIEとHandspringのVISOR)では、USB接続に対応している。この部分は、一部の周辺装置の接続に使われるため、互換性という点では大きな違いとなる。ポピュラーなのは、Palm III系列に使われているものと、Palm V系列に使われているものだ。ただし、シリアル・コネクタとは別に拡張コネクタを持つ機種では、必ずしもシリアル・コネクタを使って周辺機器を接続する必要がない(あるいは推奨していない)機種もある。

 拡張コネクタには、HandspringのSpringBoard、TRGのコンパクトフラッシュ、ソニーのメモリースティックなどがある。またPalm社は、SDカードを標準として採用する予定だという。このうち、独自規格は、HandspringのSpringBoardのみだ。他は、すでに他の分野で使われている標準的なものを持ち込んだにすぎない。

 SpringBoardは、プラグ・アンド・プレイやホットスワップ機能を持ち、さまざまな周辺機器に対応可能だが、独自規格であるため周辺装置が少ないのが難点だ。Handspringがアナウンスしているもののうち、現在入手可能なものは数種類程度に限られる(国内では、Hanspring純正のモジュール3つのほか、デジタル・カメラ・モジュールとモデムぐらい)。

 これに対して、TRGのコンパクトフラッシュは、すでにPC用として多くの製品が販売されていることから、これらの流用が可能だ。とはいえドライバの関係から、ハードウェア的には接続が可能なものの、現在のところ利用可能なのは、フラッシュ・メモリなどのストレージ系とシリアル・デバイス系に限られてしまう。それでも、IBMのマイクロドライブや、デジタル・カメラ用として安価になってきたフラッシュ・メモリ、NTTドコモのP-inComp@ctなども利用可能だ。

 ソニーのメモリースティックやPalmが採用予定のSDカードは、I/Oカード(モデムやネットワーク、シリアルなどのI/O機能をサポートするカード)の計画はあるものの、現状はフラッシュ・メモリのみしか入手できない。そのため実際には、ストレージ・デバイスとしての活用になる。ただ、どちらもソニー、松下という大企業が推進している規格なので、長期的にみれば、さまざまな発展や価格的なメリットがあるかもしれない。

 もう1つのポイントは、カラー液晶を使った機種である。POSPの多くの機種は、ハードウェア的には、モノクロの階調表示が可能であるものの、ほとんどのアプリケーションはモノクロ2値表示を使用する。Palm OSは、Ver.3.5からカラーの扱いが可能になっているが、それ以前のものでは隠し機能としてモノクロ階調表示が可能だった。これは、CPUであるDragonBall EZが内蔵するLCDコントローラが、モノクロ階調表示の機能を持っていたからだ。また、カラー対応は、APIのレベルで色を指定して描画を行う必要があるため、Palm OS上で動くアプリケーションは、機種判定を行ったうえで、カラー対応機種かどうかを判別して色を使う必要がある。そうでないと、非カラー機種で表示が見えなくなる可能性があるからだ。一応、カラー対応機種に内蔵されている標準アプリケーションは、タイトル部分やメニューに色が付くなどのカラー化が行われているが、たとえば予定をダブル・ブッキングしたときに、表示が赤くなるような作りにはなっていない。

ユーザー・レベルで気になるPOSPの仕様

 このほか、ソフトウェアや周辺の互換性には大きく影響しないが、ユーザー・レベルで気になる項目としては、

  1. CPUの種類(およびクロック周波数)
  2. メイン・メモリの容量
  3. ROMの種類(フラッシュROMとマスクROMの2種類がある)
  4. バッテリの種類

などがある。ただし、日本国内向けに販売されているPOSPは、すべてMotorola社製のDragonBall EZと呼ばれる68000系のCPUを使っており、違いはクロック周波数だけだ。メイン・メモリの容量は、標準で2Mbytes〜12Mbytes程度と幅があり、辞書ソフトウェアなど大きめのアプリケーションを多用する場合は、機種選びの際の重要なポイントとなる。ROMには、OSのアップグレードが可能なフラッシュ・メモリを採用したものが多いが、Palmのm100およびHandspringのVISORは、書き替えられないマスクROMを採用している。またバッテリは、最新機種だと充電池を搭載していることが多いが、乾電池のみに対応している機種もある。これらの違いを表にまとめてみた。

メーカー 名称 RAM ROM CPU クロック周波数 OSバージョン
Palm Palm IIIc 8Mbytes 4Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 20MHz 3.5
Palm Palm Vx 8Mbytes 4Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 20MHz 3.5
Palm m100 2Mbytes 4Mbytesマスク DragonBall EZ 16MHz 3.5.1
Hanspring VISOR 8Mbytes 4Mbytesマスク DragonBall EZ 16MHz 3.1
日本IBM WorkPad(8602-30J) 4Mbytes 2Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 16MHz 3.1
日本IBM WorkPad c3(8602-40J) 2Mbytes 2Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 16MHz 3.1
日本IBM WorkPad c3(8602-50J) 8Mbytes 4Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 20MHz 3.5
ソニー Clie(PCG-S500) 8Mbytes 4Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 20MHz 3.5
ソニー Clie(PCG-S300) 8Mbytes 4Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 20MHz 3.5
TRG TRG Pro 8Mbytes 4Mbytesフラッシュ DragonBall EZ 16MHz 3.5
主なPOSPの仕様(1)
 
メーカー 名称 シリアル 拡張手段 液晶ディスプレイ 電池 そのほか
Palm Palm IIIc IIIcタイプ なし カラー256色 リチウムイオン充電池
Palm Palm Vx Vタイプ なし モノクロ リチウムイオン充電池
Palm m100 m100タイプ なし モノクロ 単四×2
Hanspring VISOR VISORタイプ SpringBoard モノクロ 単四×2
日本IBM WorkPad(8602-30J) IIIタイプ なし*1 モノクロ 単四×2
日本IBM WorkPad c3(8602-40J) Vタイプ なし モノクロ リチウムイオン充電池
日本IBM WorkPad c3(8602-50J) Vタイプ なし モノクロ リチウムイオン充電池
ソニー CLIE(PCG-S500) PCGタイプ メモリースティック カラー256色 リチウムイオン充電池 ジョグダイヤル
ソニー CLIE(PCG-S300) PCGタイプ メモリースティック モノクロ リチウムイオン充電池 ジョグダイヤル
TRG TRG Pro IIIタイプ コンパクトフラッシュ モノクロ 単四×2
主なPOSPの仕様(2)
*1 WorkPadには内部拡張用コネクタが装備されており、サードパーティ製の拡張メモリが実装可能。ただし、IBMは正式にはサポートしていないようだ。

拡張性を考えるならシリアル・コネクタの仕様が大事

 日本向けに販売された製品のうち、手元にあるいくつかのデバイスのシリアル・インターフェイス部分の写真を掲載した。シリアル部分には、現在では、大きく分けて以下の7種類がある。ただし、Pilot系のハードウェアはすでに販売されていないため、現状使われているのは6種類となる。また、Pilot系のシリアル・コネクタまわりは、ほとんどIIIタイプと同じで、古いタイプの周辺機器では、両方使えるようになっていることが多い。

タイプ 概要 写真
IIIタイプ Palm III、WorkPadなど。
IIIcタイプ Palm IIIcで採用。 Palm III系と同じだが、充電用の信号線が異なる。IIIタイプ用周辺機器が利用可能。  
Vタイプ Palm Vx,WorkPad c3など。 変換コネクタでIIIタイプの周辺機器が利用可能なことがある。
m100タイプ Palm m100で採用。 IIIタイプと同じ信号線だが、コネクタまわりの形状が異なる。
VISORタイプ VISORが採用。 USB用信号線、キーボード用信号線などが含まれている。専用のオプションのみ利用可能。
PCGタイプ ソニーのCLIE(クリエ)で採用。 信号線、形状ともに独自。専用オプションのみ利用可能。  
Pilotタイプ Palm III以前のPilot 1000/1500やPalm Pilotなどが採用。 周辺機器を固定するケース形状がIIIタイプと若干異なる。
主なPOSPのシリアル・インターフェイス

 PSOPの機能拡張は、拡張スロットを使う方向に動いている。たとえばCLIEはメモリースティックを、またTRGproはコンパクトフラッシュのカードをそれぞれ利用できる。Palm社自身もSDカードの採用を表明している。しかし、現状を見ると、前述のようにほとんどの拡張スロットでは、ストレージ系のデバイスや通信系のデバイスはサポートされているものの、それ以外についてはこれからという感じだ。このため、しばらくはシリアル・コネクタを使った周辺機器も使い続けられることになるだろう。そうなると、今のところはPalm IIIやPalm Vタイプのコネクタを持ったPSOPが多少有利ということになる。シリアル部分に接続される主要な周辺装置としては、モデムやキーボードなどがある。日本国内では、IIIタイプ、Vタイプ向けにアナログ・モデムや、アイ・オー・データ機器からは携帯/PHS接続アダプタ「SnapConnectシリーズ」などが販売されている。また、キーボードとしては、Palm社のポータブル・キーボードや、GoType(LandWare社)などがある。また、VISORタイプ向けには、鞄などで有名なターガス社が日本国内でターガス・ストアウェイ・ポータブル・キーボードを出荷している。

 さて、次回は、こうした周辺機器について触れることにしたい。記事の終わり

関連リンク
Palm社 Palm OS採用製品の比較表
Handspring VISOR Prismの発表リリース
パームコンピューティング Palm社のポータブル・キーボード
LandWare社 GoTypeの製品情報
ターガス社 VISOR用キーボードの製品情報

「連載:Mobile Insider」


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