元麻布春男の視点
AMDがHyperTransportを公開した理由


元麻布春男
2001/02/23

 2月14日のバレンタインデー、AMDはそれまでLightning Data Transport(LDT)というコード名で呼ばれていたインターコネクト技術について、正式名称を「HyperTransport(ハイパー・トランスポート)」とすること、HyperTransportに対応した製品の開発と採用を促すため100社以上の企業と協力中であることを明らかにした(AMDのHyperTransportに関するニュースリリース)。

HyperTransportとは何か

 HyperTransportというのは、原則的にはボード上に実装されるチップ間のインターフェイス技術だ。つまり、SCSIファイバー・チャネル(Fibre Channel)のようなケーブルを使って、ケース外部の機器との接続に用いる外部インターフェイスではないし、PCIのように拡張カードを接続するためのインターフェイスでもない。これは、例えばチップセットノースブリッジサウスブリッジ、あるいはノースブリッジにサウスブリッジ以外の追加デバイスを接続するためのインターフェイスと考えればよい。

HyperTransportの接続例
図のように、HyperTransportではデイジー・チェーン方式でInfiniBandやPCIのコントローラなどを接続することが可能だ。

 基本的にHyperTransportは、向きの異なる片方向のリンクを2本束ねることで、チップ間のポイント・ツー・ポイント(point to point)の接続を行うインターフェイスで、1方向のリンクのデータ幅は、2bits幅から32bits幅まで設定できる。ただし、デイジー・チェーンをサポートしているため、複数デバイスの接続も可能だ。1ピン・ペア当たりのデータ転送速度は、SMPシステムのようなプロセッサとプロセッサを結合するような用途では1.6Gbits/s、デイジー・チェーンを行うI/Oデバイスの接続では800Mbits/sと想定している。最小構成の2bits(2ピン・ペア)のI/Oデバイス接続用途で、1方向当たり200Mbytes/s(双方向で400Mbytes/s)、SMP用の32bits構成で1方向当たり6.4Gbytes/s(双方向で12.8Gbytes/s)というのが、HyperTransportの最大バンド幅ということになる。HyperTransportは200Mbytes/sから6.4Gbytes/sまでのスケーラブルなインターフェイスということになるわけだが、プロセッサ間接続用途については16bits構成あるいは32bits構成、I/O用途については2bits構成、4bits構成、8bits構成が想定されているようだ。

HyperTransportの特徴

 HyperTransportのもう1つの特徴として、インターフェイスに必要なピン数が少ないことが挙げられる。発表されている資料では、2bits構成で24ピン(うち信号線は16本)、32bits構成で197ピン(同148本)とされている。最大データ転送速度が133Mbytes/sのPCIバス(32bits/33MHz)が信号線だけで49〜62本を必要とすることを考えると、40本の信号線で構成される8bits構成のHyperTransportは、信号線数が少ないにもかかわらず6倍(データ転送速度が800Mbits/s時)あるいは12倍(同1.6Gbits/s時)の帯域を提供できることになる。また、HyperTransportは既存のプラグ&プレイ(PnP)標準に準拠しているため、OSからはPCIバスと同様に見える。つまり、新しいバス・クラスのデバイス・ドライバを必要としない点も特徴に挙げられるだろう。

データ幅 2bits 4bits 8bits 16bits 32bits
全データ・ピン数 8 16 32 64 128
クロック・ピン数 4 4 4 8 16
制御ピン数 4 4 4 4 4
小計 16 24 40 76 148
電源(VHT) 2 2 3 6 10
グラウンド(0V) 4 6 10 19 37
Power OK 1 1 1 1 1
Reset HyperTransport Device 1 1 1 1 1
合計 24 34 55 103 197
HyperTransportのピン数

 以上のような特徴を持つことを考えれば、HyperTransportをIntelのHub Linkと直接比較してもあまり意味のないことが分かる。確かに両者には、バス幅を狭めてクロックを上げることで高いデータ転送速度を実現する、という共通のアイデアがあるものの、これはHyperTransportやHub Linkに限らず、USBIEEE 1394も含めた、現在のデジタル・インターフェイス全般に共通することだ。これを除外すると、HyperTransportとHub Linkで共通するのは、ノースブリッジとサウスブリッジの接続に用いる、という1点だけにしぼられる。

HyperTransportとHub Linkに見るAMDとIntelの考え方

 むしろ、HyperTransportとHub Linkから見えるのは、AMDとIntel両社の考え方の違いだ。AMDは、HyperTransportという1つのテクノロジを、SMPやI/Oなどに幅広く使い、なおかつその技術を他社にも公開する、というポリシーである。現在PCには、PCIバス、プロセッサのホスト・バス(FSB)、メモリ・バス、X-busとしてのISAあるいはLPC(Low Pin Count:スーパーI/OやシステムBIOSなどを接続するインターフェイス)、グラフィックス用のAGP、オーディオやモデムのAC'97リンク、ストレージ用のATAなど、さまざまなインターフェイスが存在する。これらを極力HyperTransportで一本化したい、ということがAMDにはあるものと思われる。

 また、HyperTransportを他社に公開することで、事実上PCIバスの後継を目指しているのかもしれない。上述のとおり、HyperTransportではカードによる拡張はできず、マザーボードの製造時オプションにとどまるが、それでもオン・ボードにサードパーティのチップを混載するチャンスは増える。

 これに対してIntelは、グラフィックスならAGP、ストレージはシリアルATA、ノースブリッジとサウスブリッジの接続にはHub Linkというように、それぞれの局面に最適なインターフェイスをそれぞれ定義していく、ということが基本路線だ。そして、こうしたインターフェイスは、用途などに応じて、他社に公開するものと、他社に公開しないものに分けられる。例えばAGPは、PCIバスのように外部組織に標準化をゆだねるのではなく、あくまでもIntelが規格の策定権を握るIntelの規格だが、その仕様は広く公開されている。これに対し、Hub LinkはIntelの規格であり、外部に仕様を公開していない。つまり、AGPではサードパーティ製のグラフィックス・チップの接続を認めるのに対し、Intel製ノースブリッジ・チップにサードパーティ製サウスブリッジを接続することは認めない、ということだ。その決定権を持つのは、あくまでもIntelなのである。

Intel 850のダイアグラム
Pentium 4用チップセット「Intel 850」では、ノースブリッジとサウスブリッジの間の接続に「Intel Hub Architecture」と呼ぶHub Linkを採用している。

 従って、規格が公開されるHyperTransportと、公開されないHub Linkを比べても仕方がない。実際、HyperTransportと比べられる際に、最大データ転送速度が266Mbytes/sであるとされているHub Linkだが、それはあくまでもIntel 820、Intel 815、Intel 850といったデスクトップPC向けチップセットに対するインプリメントの例にすぎない。ワークステーション向けのチップセットであるIntel 840のHub Linkには、266Mbytes/sのHub Interface Aに加えて、533Mbytes/sのHub Interface Bが実装されている。前者が8bits幅でクロック66MHzであるのに対し、後者はクロックはそのままに16bits幅に拡張することで、2倍の帯域を実現している。仕様が公開されていない以上、Hub Linkにはさらに32bits幅に拡張したり、クロック周波数を高めたり、クロックはそのままでデータ転送速度だけを上げたり(Pentium 4のバスのように)、といった機能があるのかもしれないし、ないのかもしれない。いずれにしても、それを知っているのはIntelだけだ(帯域だけを広げても性能が向上しないのは、AGP、メモリ、ATAなどでもう分かっていることではあるが)。

自社で何でもやるIntelと他社との協調を重視するAMD

 IntelがHub Linkを公開しないのは、PCに必要なI/Oは、すべて自社で提供するという自負に加え、もはやPCではコスト的にサウスブリッジ以外のチップをマザーボードにベタベタ張り付けることは現実的ではないという判断があるからではないかと思われる。また、AGP、PCIバス、シリアルATA、USB 2.0でカバーできない拡張用途は、現時点でPCに存在しない、という判断もあるのかもしれない。

 AMDも、一般的なPCで、ぞろぞろ何チップも張り付けることが現実的でないことは知っているに違いない。それでも、何か必要があったとき、デバイスを追加できるインターフェイスがあるのはよいことだ。例えば、サウスブリッジに統合されたシリアルATAのチャンネル数が不足するような場合(現在はやっているIDE RAIDなど)、HyperTransportなら性能を犠牲にしないでチャンネルを追加することができる(もちろん、サーバやワークステーションでは、HyperTransportの重要性はより高いハズだ)。

 Hub LinkとHyperTransportの違いは、必要なI/O機能があった場合、自らの責任でサウスブリッジなどに機能を統合していくというIntelと、必要性が分かった時点で取りあえずサードパーティ製のチップを追加すればよい(サードパーティとの協調を重視する)というAMDの、ポリシーの違いだと考えられる。規模が大きく、自社でソフトウェア・サポートまで含めて、すべて提供可能なIntelと、ソフトウェア・サポート力にやや難点があり、サードパーティの協力が不可欠なAMD、と言い換えることもできるかもしれない。記事の終わり

 

  関連リンク
HyperTransportに関するニュースリリース

「元麻布春男の視点」

 



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